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「ねぇ、牧くん。起きてよ~」



少女の声がした。

続いて身体に重量がかけられて、俺は目を覚ました。



胸の上に乗っているのは俺の相棒のラムだった。



「おっ、起きた! おはよう。今日はどこ行く?」



キャラメル色の髪がふわふわと朝日を透かして目に眩しい。

顔を顰めながら、俺は上半身を起こした。



「うおっと!」



転がり落ちてくるラムの小さな身体を片手で受け止めながら、ぼんやりと辺りを見渡す。

ガラスドームの中は一定の気温と湿度が保たれておりとても快適だ。



「もう、レディは丁寧に扱ってよね!」



ぶつぶつと文句を言うラムを放置して、俺は気持ちの良い目覚めに伸びをした。



「ふぁぁぁ。植物園こそ、やっぱ最強よ」



「でも、ラムここ飽きた~! 早く次のとこ行きたい!」

「うーん、滅多に人間も来ないし、快適だし、環境は今までで一番だぞ? 警備隊に追われる心配も少ないし」



でもでも、と俯きながらラムはもじもじワンピースの裾を弄っている。



「ここ、高いじゃん。変なキノコの上だし。ラム、高いところ嫌い!」



ぷくっと頬を膨らませた彼女を見て、俺はまぁそうだよな、と頷く。



警備隊に追われる心配がないというのはつまり、人間が到底来られない場所――ここの植物園最大級の巨大キノコの一番てっぺんに俺たちは座しているのだから。



「でもなぁ。しょうがないだろう? 所詮、逃げ出したアンドロイドの行き先なんてこの世界にどこにもありゃしないんだから」

「ラムは逃げてないもん! 牧くんがラムを作ったんだもん! ラムは何にも悪くないもん! 逃げる必要もないんだもん‼」



ぷんすか腹の上で怒るラムの、柔らかな髪を撫でて宥めすかした。



「でもいいのか? 捕まったら離れ離れにされるぞ。アンドロイドが生み出したアンドロイドだって言われて、研究されちゃうぞ。バラバラになって、もうさよならかもしれないぞ」



少し脅すとラムの瞳が潤む。



涙こそ出せないが瞳が大きく揺れて、次の瞬間には小動物に変形した。

トイプードルと子熊を足して割ったような見た目をしたラムの出来上がりだ。



「牧くんのばかぁ! そんな意地悪言わなくたっていいじゃん‼」



ラムは丸っこいお腹を見せて、寝そべり、じたばたと駄々を捏ねた。

その柔らかなお腹をとんとんと規則的に優しく叩くと、彼女はすうっと眠りに入る。



「アンドロイドにも高所恐怖症ってあるんだな」



昨晩はよく眠れなかったのだろう。

隈の出来た目の下を指で撫でてやる。



俺は自分の研究ノートをナップサックから取り出し、新たに判明した事実を書き込んだ。



『ラムは高所恐怖症――――やはり、居住は移動式であるべきか?』



二人の楽園計画がまた一歩進んだ。

それが俺とラムにとっての希望だった。
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