さよなら苺ちゃん

高殿アカリ

文字の大きさ
上 下
1 / 3

しおりを挟む

同じ丈に揃えられたスカートを揺らして橙色に染まった廊下を駆け抜けた。

チープな香水の匂いとプチプラの化粧品で彩られたあたしたちの顔までお揃い。



かしましい声が響いて耳に痛い。

だけどそんな現実に蓋をして美味しいマカロンは半分こして食べるのだ。



所謂、女子高生とかそういう生き物でしょ?



だから、あたしたちも有り触れた親友同士だった。親友であるあたしがあの子の死ぬその瞬間を見届けるまではね。



あたしは彼女が自殺した場面を見ていた。だから法に則って関係各所へと連絡をした。なのに周りのみんなは最初ちっとも信じてくれなかった。



先生も苺のママも、クラスメイトたちもみんな同じ言葉を言うんだ。

「苺は自殺するような子じゃなかったよ」って。



それから次にあたしのことを変な目で見てくるんだ。猜疑心に満ちた目だった。



理由は分かってる。

あたしは苺みたいないい子ちゃんではないし、あたしの両親は未だに街中で問題ばかり起こしているようなクズ人間だし。苺に嫉妬するのはやめなよって散々言われてきた。



更にあたしは苺の死体の第一発見者だったから。それってつまり火サスで言うところの容疑者候補であったということでしょ?



だから厳つい顔をした刑事さんたちもあたしを一番に尋問した。事情聴取という名目ではあったけど。



古びたテーブルランプの電球を目の前に突きつけられることも無かったし、カツ丼も食べさせては貰えなかったけれど、あたしはあの日見た全てのことにきちんと答えた。



確かにあたしは優等生ではないけれど、かと言って問題児になれるほどの度胸もないのだ。



目の前に座る刑事が大人ぶった気味の悪い笑顔で問いかけ始める。



「君と野原苺さんの関係について教えてくれるかな。もちろん、言いたくないことは言わなくていいからね」

「苺とあたしは親友だった」

嘘つきな大人め。あたしが言いたくないことでも知りたいくせに。



「ありがとう。苺さんが死ぬ前、何かに悩んでいた様子はなかったかい?」

「ううん、いつもと同じ。あと言っておくけど苺は自殺したんじゃないよ」

ところで、それなりの理由がないと死んじゃダメなの?



刑事が不思議そうにこちらを見てくるのであたしは続けて答えた。



「あの子は記憶喪失になりたかったの。あたしはそれを手伝ってた。記憶喪失になる過程で死んじゃったから事故になるんじゃないの?」



「具体的にはどういったことをしてたんだい?」

「階段を転がり落ちたり、植木鉢を頭にぶつけてみたり。死にそうな場面は何度もあったよ」

この場面で「死んでもいいみたいだった」とか言うと苺は悲劇のヒロインになれるのかな。



「苺さんが記憶喪失になりたがっていたことを証明するものはある?」

「うん。ちゃんとスマホにも残ってるよ。未来の自分に向けて話すんだって言うから、あたしのスマホで動画を撮ってた」



「それ、見せてくれる?」

「うん、いいよ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

インクの影が囁くとき

takehiro_music
ミステリー
物語は、由紀の残した作品に隠された謎を解き明かすために、様々な人々が奔走する姿を描きます。彼らは、由紀の作品に触れることで、それぞれの人生を狂わせていきます。 果たして、由紀はなぜ姿を消したのか?「田中効果」とは一体何なのか?そして、彼らは由紀の残した「顔」の呪いから逃れることができるのか? 物語の結末は、読者の想像を遥かに超えたものとなるでしょう。 ぜひ、「インクの影が囁くとき」を手に取り、芸術が紡ぐ異世界を体験してください。

失った記憶が戻り、失ってからの記憶を失った私の話

本見りん
ミステリー
交通事故に遭った沙良が目を覚ますと、そこには婚約者の拓人が居た。 一年前の交通事故で沙良は記憶を失い、今は彼と結婚しているという。 しかし今の沙良にはこの一年の記憶がない。 そして、彼女が記憶を失う交通事故の前に見たものは……。 『○曜○イド劇場』風、ミステリーとサスペンスです。 最後のやり取りはお約束の断崖絶壁の海に行きたかったのですが、海の公園辺りになっています。

満月に狂う君と

川端睦月
ミステリー
【『青年小児科医』×『曲者中年刑事』が赤い瞳の怪人の謎に迫るサイエンスミステリー】 満月の夜、小児科医の糸原は、直属の上司である笹本が心肺停止状態で自身の勤める病院へ搬送された、との報を受ける。取り急ぎ病院へと向かう糸原だったが、その前に赤い瞳の人影が立ちはだかる。身構える糸原をよそに、人影は何かに気を取られるように立ち去っていった。 到着した病院で、糸原は笹本の妻と中学生の息子が行方知れずになっていること知る。そして、残されたもう一人の息子にも変化が現れ…… 事件を担当する刑事の葛西に巻き込まれる形で、糸原は真相を探り始める。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...