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第三話 たらい
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ふわぁ、と。部室へ歩きながら欠伸を溢す。
「あらら、寝不足でしょうか。副部長」
同じ部活に所属している雨宮が、茶化すような口調で言ってくる。
だが別に、茶化している訳ではない。僕はよく知っている。
漫画の世界のお淑やかなお嬢様をそのまま現実に引っ張り出して来たのがこの雨宮美兎という奴なんだ。
「雨宮は今日は来るの?」
「ええ。今日は習い事がありませんから」
「そう」
中学の頃からの付き合いになるけど、相変わらず会話に困る相手だ。
いつも雨宮と二人になると会話が途切れてしまう。
それが居心地悪いという訳でもないんだけど。
一階の通路を渡って部室棟に渡り、そのまま廊下を真っ直ぐ行った、突き当たりの教室。我らが部室に到着する。
「もう部長居るかな」
「居ますよ、きっと」
僕は部室の扉を開ける。
雨宮より僕の方が先に扉を潜るがーー次の瞬間。
「あったっ⁉︎」
酷い衝撃を頭に喰らう。
い、いったいなんだ、敵襲か⁉︎
がらんっ! と、大きなたらいが僕の後ろで音を立てて倒れる。
成る程……大凡の検討はついた。
「あっはははっ! 引っかかってやんの。間抜けだなぁ、結希」
「大丈夫? 日野くん」
部長の高笑いと雨宮の思いやる対照的な態度。悪魔と天使にしか見えない。悪魔は当然、部長。
ああ、くそ。こんな悪戯にひっかかるなんて。最近の僕は平和ボケしているんだろう。
周囲の変化に鈍感になっては致命的だ。気を引き締めていよう。
思わず尻餅をついていた僕は立ち上がって、こんな事をした犯人であろう部長に異議を唱えることにした。
「部長」
「ふはっ、ひひっ、あははっ……ああ、何だ?」
「たらいを何度落とされた所で、僕は部長と同じ目線まで縮む事はありませんよ?」
プッチン――。
可愛らしくも確かな音が部屋に響いたのを、僕と雨宮は確かに聴いた。
「誰が、チビだーー誰がチビだこの野郎!」
憤慨する彼女を雨宮が宥める。
「莉里部長、落ち着きましょう。ね?」
「止めるな美兎! あいつはアタシを怒らせた!」
「怒らせるようなことをするからですよー」
「ええいっ! 止めるなああっ!」
「…………おチビ」
「がああああっ‼︎」
僕は更に一言。
火に油を注ぎ込むと満足して、テーブルに着き小説を開く。
雨宮が羽交い締めにしている部長の鬼の形相を尻目に、僕は小説の文字を目で追いかけ始める。あぁ、気分がいい。
「もー。日野君も悪ふざけが過ぎますよぉ」
「ふざけてないって。部長がふざけてるんだよ」
「こうなったら大変なんですからね?」
「うがあああっ‼︎」
確かに。
後で機嫌直すのが大変そうだなぁ、なんて能天気に考える。
翌日、その報復を受けることになるなんて露程ほども思っていない僕なのであった。
「あらら、寝不足でしょうか。副部長」
同じ部活に所属している雨宮が、茶化すような口調で言ってくる。
だが別に、茶化している訳ではない。僕はよく知っている。
漫画の世界のお淑やかなお嬢様をそのまま現実に引っ張り出して来たのがこの雨宮美兎という奴なんだ。
「雨宮は今日は来るの?」
「ええ。今日は習い事がありませんから」
「そう」
中学の頃からの付き合いになるけど、相変わらず会話に困る相手だ。
いつも雨宮と二人になると会話が途切れてしまう。
それが居心地悪いという訳でもないんだけど。
一階の通路を渡って部室棟に渡り、そのまま廊下を真っ直ぐ行った、突き当たりの教室。我らが部室に到着する。
「もう部長居るかな」
「居ますよ、きっと」
僕は部室の扉を開ける。
雨宮より僕の方が先に扉を潜るがーー次の瞬間。
「あったっ⁉︎」
酷い衝撃を頭に喰らう。
い、いったいなんだ、敵襲か⁉︎
がらんっ! と、大きなたらいが僕の後ろで音を立てて倒れる。
成る程……大凡の検討はついた。
「あっはははっ! 引っかかってやんの。間抜けだなぁ、結希」
「大丈夫? 日野くん」
部長の高笑いと雨宮の思いやる対照的な態度。悪魔と天使にしか見えない。悪魔は当然、部長。
ああ、くそ。こんな悪戯にひっかかるなんて。最近の僕は平和ボケしているんだろう。
周囲の変化に鈍感になっては致命的だ。気を引き締めていよう。
思わず尻餅をついていた僕は立ち上がって、こんな事をした犯人であろう部長に異議を唱えることにした。
「部長」
「ふはっ、ひひっ、あははっ……ああ、何だ?」
「たらいを何度落とされた所で、僕は部長と同じ目線まで縮む事はありませんよ?」
プッチン――。
可愛らしくも確かな音が部屋に響いたのを、僕と雨宮は確かに聴いた。
「誰が、チビだーー誰がチビだこの野郎!」
憤慨する彼女を雨宮が宥める。
「莉里部長、落ち着きましょう。ね?」
「止めるな美兎! あいつはアタシを怒らせた!」
「怒らせるようなことをするからですよー」
「ええいっ! 止めるなああっ!」
「…………おチビ」
「がああああっ‼︎」
僕は更に一言。
火に油を注ぎ込むと満足して、テーブルに着き小説を開く。
雨宮が羽交い締めにしている部長の鬼の形相を尻目に、僕は小説の文字を目で追いかけ始める。あぁ、気分がいい。
「もー。日野君も悪ふざけが過ぎますよぉ」
「ふざけてないって。部長がふざけてるんだよ」
「こうなったら大変なんですからね?」
「うがあああっ‼︎」
確かに。
後で機嫌直すのが大変そうだなぁ、なんて能天気に考える。
翌日、その報復を受けることになるなんて露程ほども思っていない僕なのであった。
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