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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
無計画と計画《Ⅰ》
しおりを挟む――ご報告します。
扉をノックして入室した報告係の報告をウォーロックは聞く。
ただ黙って予想通りの結果となった事だけを確認して、頷いた後に報告係を下がらせる。
「――実に、素晴らしい。そうは、思いませんか?」
「……さぁ、どうだかな。お前の計画には、微塵も興味が無いのでな」
「そうですか、この素晴らしい瞬間を共に祝えると思ったのですが……残念です」
ウォーロックが上機嫌になりながら、杖をついてソファーへと腰を下ろす。
向かい合った席には、包帯で顔を隠したエドワードが座っている。
暇そうに足を組んで、窓の外を見詰める。
工場から伸びる煙突や排気ガスで、外の夜景は綺麗ではない。その上、この国の闇に蠢く存在はエドワードの神経を逆撫でする。
「……虫酸が走る」
「何か、言いましたか?」
「イヤ、ただの独り言だ。気にするな」
「そうですか――」
話を反らされても、ウォーロックは自分の計画や今後の流れなどを事細かに説明する。
クラトとの密約でイシュルワに尽力すると言う妄言を信じ切って、ある事ない事さらけ出す。
もはや、哀れみすら覚えるレベルでこの男は敵に手の内を晒した。
黒、ハートの不在の倭やルシウスの守護する《ビフトロ》の夜襲などの情報――
その襲撃に関する配置情報など、全ての機密事項をウォーロックはエドワードと知らないこの包帯の男に告げる。
「……ベラベラと喋っているが、俺を疑いはしないのか?」
「何を言うかと思えば、クラトから密約を交わしたのだろ? ならば、信用に値する人間だと言う事だ。何より、クラトは慎重に慎重を重ねる男だ……その人物からの信用を得たならば、信用するに値する」
「よっぽど、クラトを信用してるんだな」
「いや、信用しているのはアイツの腕だけだ。計画実行の為に働く駒だからこそ、アイツ人身は信用していない。だが、ヤツの手腕は信用できる――」
「計画の為に動く俺は、信用出来る。そういう事か……」
「あくまで、計画に従うのであれば……だがな」
ウォーロックが、クククっ――と、笑ってお茶をすする。
クラトを上手く利用しているようで、実際はクラトに利用されている。
自分だけでなく。この国という場所諸とも計画の一端に過ぎないというのだから、クラトと言う人物は非常に恐ろしい。
黒やハートのような戦闘力での恐ろしさよりも、こう言った戦局すら支配する手腕が恐ろしい。
厄介極まりないが、焦る必要はない――
こちらには、裏工作に長けた人物がいる。
性格はクソ悪いが、暁叶ほど信頼できる者はいない。
そんな男が、クラトと繋がっている。
懸念すべき点を上げるとすれば、クラトと暁の利害が一致していると言う点である。
言うなれば、暁の目的の先にクラトの目的がある。もしくは、クラトの目的の先に暁の目的がある事になる。
「アイツらの計画に、両足が浸かっている私が言えた事ではないが……黒、ハートは不運な星に生まれたな――」
エドワードがタバコの煙を吐いて、火を消してその場から立ち去る。
去り際に通り過ぎた多くの騎士や皇帝達の突き刺さる視線を受けて、自分と言う不安定な立ち位置を最大限利用する為に動く。
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