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1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】

過ちを正す《Ⅱ》

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  純度の高い魔力、純粋な戦闘技術の高さ。それらを無駄なく扱う抜群の戦闘センス――
  黒やメリアナ、ウォンやエレメナ、ユーナやルシウスのような。生まれ持った天才の部類――

  そう言えば、お前ヘルツもそっち側だったな――……。




  思わず、ハートの口角が上がる。
  不敵な笑みを目の当たりにして、ヘルツが眉を潜める。
  が、ハートの突如として勢いを急激に増加させた魔力ボルテージに、反応が遅れる。
  背後へと瞬時に回ったハートの打拳を背面へと飛び上がって避ける。
  身を翻して、背中を向けたままその場から走る。走って逃げて、ハートから距離を取る。

  「いい判断だ。こんな狭い所じゃ、俺の攻撃は避け切れない――だろ?」
  「……ッ!! クソッッッ!!」

  焦るヘルツが、壁を蹴って三角飛びで真っ直ぐ拳を叩き込みに来たハートの頭上を跳び越える。
  跳び越え、ハートの頭部へと刀を振り下ろす。当たるとは思ってはいない。
  当たる以前に、使える力の量が異なる。ここで、大きく魔力を使用すれば残る黒との戦いで圧倒的な不利な状況となる。
  故に、これ以上の魔力は行使する事は自分の首を締め付ける事に繋がる。
  悔しさを噛み締めながら、刀を振るう。
  目にも止まらぬ速さで振るわれた刀が、ハートのすぐ脇を通り抜ける。
  魔力で強化したハートと限られた魔力で勝負するしか無いヘルツとでは、動きに差が生まれるのは必然であった。

  「最初の威勢が、無くなったな……」
  「うるさい……黙ってろ!!」

  焦り、怒り、様々な感情が混ざり合ってヘルツの腕から長年の研鑽で積み上げられた鋭さと、冷静さが失われる。
  そして、鋭さが失われたヘルツの攻撃をアッサリと防いだハートが、ヘルツを睨む――
  右足で、ヘルツの握る刀の刀身を受ける。だが、魔力を纏った靴底は切れる事はなかった。
  ただ、その事に1番衝撃を受けたのは――彼女自身であった。

  「おい、ふざけてるのか……俺は、刀を靴で受けてんだぞ? 昔のお前なら……足は綺麗に切れてる筈だが?」
  「……っぅ……!!」

  ハートから一歩退いて、体勢立て直す事に専念する。
  呼吸を整えて、眼前のハートに目線を合わせる。頭を掻いて、何かを考えた後にハートは攻撃へと転じる。
  ヘルツへと肉薄し、両腕をクロスさせて攻撃を防ごうとしたヘルツの防御を真っ向から打ち崩す。
  斜めに打撃を当てて、床にヘルツを叩き付ける。
  床が凹み、亀裂が生じる。
  あまりの衝撃、一瞬硬直する。そんなヘルツに再びハートの拳が垂直に振り下ろされる。

  ドッッン――!!

  床が陥没し、下の階層へと落ちる。
  真下には晩餐会のホールと同じ巨大な宴会所となっており、人気は既に無いがつい先程まで人がいた痕跡がある。
  暖かな料理や飲み物が残ったグラスの数々が乗ったテーブルへと、ヘルツは落下する。
  そのままテーブルを薙ぎ倒して、落下の衝撃を消した。

  別のテーブルへとハートは着地し、倒れた料理の中から汚れた皿と隣のテーブルからグラスを手に取ってヘルツを見た。
  砂や小さな瓦礫の破片が混入したグラスの中身を捨てて、両手の2つを投げる。
  勢い良く飛来する皿とグラスをハートを視界に入れたままヘルツは避け、ハートの投擲と同時に走り出した。
  肉薄し、ハートの懐へと侵入した。そして、懐へと叩き込んだ一撃が漆黒の稲妻を放つ。

  天井に突き刺さって炸裂した稲妻が、雷鳴を響かせる。

  パラパラと小さな破片が天井から降り注ぎ、稲妻を片腕に受けた事で生じた火傷をハートは横目にヘルツと距離を取る。

  未だ、本調子ではない――それが、ハートの見解であった。

  本調子ではない理由は、2つと推測された。

  1つ、黒との戦いを想定しての魔力の温存――

  2つ、本気を出せない何かしらの理由――

  後者の可能性も高いが、それ以上に前者の線が濃厚であった。
  本気を出す相手の事を見誤ると、手堅い痛手を負う事がある。
  彼女もそんな事は理解している。だが、彼女の魔力は高くもないが、決して低くもない。
  全力戦闘をこの場でしても、黒との戦いには影響は少ないと思われる。
  それに、この国にはティンバーや田村のような王の世代が在籍している。

  この場でヘルツが勝てなくとも、力を温存する必要性は極めて低い。
  仮に、ルシウスや未来の居るビフトロへの侵攻に3人が加わっていても、こちら本国側に保険としてある程度の戦力を残しておく筈だ。否、残さない訳がない・・・・・・・・

  万が一、ウォーロックと言う老人がどうしようないバカであれば、当然この話は大きく違ってくる。
  だが、バカであれば――4人もの王の世代を弱者雑魚が従えれる筈がない。
  4人を掌で転がせるだけの何かしらの弱みを握ることが可能で、それを扱うだけの知性が無ければ不可能である。
  そして、それがあるから――ハートと黒をこのイシュルワに、連れて来た。

  「――弱味でも、握られてるのか?」
  「――!?」

  ――動きが止まった。

  そんなヘルツの反応を見て、ハートが目の色を変える。
  油断ではない。ただ、雰囲気が変わった・・・・・・・・からである――
  肌がピリつき、大気中の微小な魔力残滓が呼応して――震える。


  ……アウレティク――


  確かに聞こえた名に気付いて、ハートが全身に魔力を巡らせる。
  鎧のように魔力を纏って、迫り来る攻撃に対処する。

  ガラリと変わった空気に、ハートの危機感知能力が警鐘を幾度と鳴らす。
  喧しいほどに、その警鐘は鳴り響き続ける。

  ――肌を刺した。

  刺々しいほどに、鋭利な刃物の魔力がハートを威嚇する様に全身を刺激する。

  雰囲気が一変し、ようやくハートがヘルツの本気を確信する。

  「……やっとか、ヘルツ・アウター・ヴァイン――ッ!!」

  ハートの目前で、刀身に纏わせた魔力が漆黒の稲妻を帯電させ、剣先が僅かに触れた瓦礫を一瞬で消し飛ばす。

  ヘルツの内側から溢れる魔力の渦の中から、その力が顔を出した。



  「天地、しずめ。――《アウレティク  》」



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