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終わる世界《Ⅱ》
しおりを挟む黒を回収した場所から遠く離れた場所で、トレファは黒を地面に投げる。
微かに息はある。が、気を失っていて、目覚めた所で背中の傷でもはや立てない。
立てない様に、傷を与えたのだから当然ではある。
これから起こるであろう絶望を前に、トレファの顔は昂揚感で歪む。
しかし、油断は許されない。これ以上の計画の遅延は許されない。
何度も何度も邪魔をされ、皇帝クラスの騎士に邪魔をされ続けた。
だが、もう邪魔する相手はいない。居たとしても、事前にクラトが排除している。
「さて、始めようか……直ぐに会いたいぞ。戦乙女!!」
八雲の魔力を利用して、黒の力を無理矢理引き出す。そして、黒と別次元の力を強引に繋げる。
魔物側がどれほど抵抗しようとも、八雲の魔力を介して黒と魔物の魔力パスは繋がってしまう。
暴れるように抵抗する魔物との魔力パスの接続をその手で感じ取り、魔法を発動する。
全神経を注ぎ、集中する。その為、周囲の感知は完全に途絶えている。
だから、気付かない。森の方面から走って近寄る2人分の魔力に――
「「――兄さんを返せッ!!」」
黒の妹、碧と茜の接近に気付かない。だが、予想は容易にできていた。
故に、潜ませた《特異型異形種》が2人の前に立ちはだかる。
木々に潜んでいた特異型の個体数は、合計4体――。2人の実力では、苦戦は当然であった。
――急接近する4体を2人で捌く。猛攻に続く猛攻で、徐々に押され始める。
それを横目に、クラトは計画を実行する。黒の肉体がゆっくりと巨大な別空間へと引きずり込まれる。
妹達の叫び虚しく、黒は異空間へと消える。
そして、その代わりに――未来が異空間からこちら側へと連れて来られた。
突然の事で、未来は当然の様に碧、茜は動きを止めた。
別次元に潜んでいた未来が黒と変わって、こちら側へと引き込まれる。
「やはり、アナタでしたか。黒竜の魔力を持っていたのは……」
「まさか、黒ちゃんと私を――入れ替えた!?」
不気味な笑みを浮かべ、トレファは拍手する。
黒の魔力を持っている人物と黒の肉体、この2つを八雲から流れる魔力で無理矢理入れ換えさせる。
それによって、黒という邪魔者は実質的に排除される。そして、狙いの魔力は――虫けらの中に宿っている。
「直ぐに奪っては、芸が無い。少し、楽しんでから……頂きましょうか」
「碧ちゃん! 茜ちゃん! ふせて――ッ!!」
未来の真っ白なワンピースが風に靡き、背中から純白の両翼が出現する。
姿勢を低くした碧と茜の頭上を純白の翼が通り過ぎ、大気中の魔力と共に一撃で周囲を薙ぎ払う。
トレファの油断を利用して、周囲の特異型諸ともトレファを翼で吹き飛ばす。
薙ぎ払われ、地面を転がるトレファが舌打ちと共に八雲の魔力を斬撃に乗せて四方へと放つ。
木々を両断し、地面を切り裂く。海面に見える異形など構わずに視界に映る全てを切り捨てる。
碧、茜の手を取って、未来が両翼を羽ばたかせて斬撃の雨の中を飛翔する。
無傷で避けた未来達とは異なり、斬撃の餌食になったトリスメギスが体の構築が難しくなり、宿主であるローグの元へと消える。
――それは、世界の終わりを決定付ける。
トレファの指が鳴り、再び開かれた空間から異形が今まで以上に出現する。
騎士、聖騎士がその姿を確認する。そして、何人かは手に持った武器を落とした。
その数は、100や200ではない。もっと多く――1000は下らない数であった。
「クソッ――クソクソッ……クソが――ッ!!」
負傷者と共に倭の守護を担っていたガゼルが魔物の力で、巨大な防壁を倭全域に展開する。
そして、近くに駆け寄ったトゥーリへ自分は守りに専念すると告げる。
ガゼルの能力は、戦闘ではなく。防衛向きだというのは、トゥーリも理解している。
しかし、現状で戦闘を担う人物が抜ける事のリスクは計り知れない。
それでも、ガゼルは守りに回るしか無い。
結界術式などの防衛に通じる者達が、全力で防壁や結界を展開する。
ナドレ、ロルト、トゥーリ達大勢の騎士や聖騎士が小型、中型、大型の相手に奮闘する。
数でこちらが劣っている。その上、戦力である皇帝の1人がもはや戦線復帰は厳しい状態。
そして、もう1人は未来と変わるように、異空間へと消える。
メリアナは、クラトの相手で前線に近づく事が叶わない。
ガゼルの展開した防壁を背にして、未来、碧、茜が絶体絶命のピンチを迎える。
――だが、ここは倭である。そして、碧と茜はある人物の魔力を感じ取る。
遥上空から、群がる大型をその膨大な魔力で押し潰す。海面に上がる巨大な水飛沫は、遠い倭の地からでも確認される。
「おい、お前か? 俺の娘達を怖がらせたのは?」
真っ黒な髪色は、兄である黒と同じ。片耳に揺れる紫色の耳飾りは少し女性っぽさがある。
黒と紫色を貴重とした漢服に似た一族の正装を纏って、藍色の長い帯を揺らしながらその人物は目の前の敵性存在を睨む。
凄まじい魔力の揺らぎに反応して、小型や特異型が動く。
しかし、彼の進む道を妨げる事は出来ない。否、してはならない。
その手から放たれる。紫電の一撃を以てして、邪魔な存在は消し炭と消える。
碧が扱う雷よりも高出力で、高濃度な魔力を全身から滾らせる。
大気中の魔力残滓に反応して、その男を取り囲む様に紫色の稲妻が次第に増して行く。
「「――お父さん!」」
碧、茜が思わず声を上げる。その者の正体を簡単に現す言葉で、手短に周囲の同胞へと教える。
――父親、碧と茜の父親という事であれば必然的に周囲の者達の脳内にある一言が浮かぶ。
――かの《黒竜帝》の父親――
それは、倭ではほとんど知られていない事であった。が、この場で世界に知れ渡る。
皇帝の父親、その者が相当な実力者であれば。その実力は、皇帝に匹敵するのか、否か――
大型を数体まとめて粉々に潰し、小型と特異型を難なく蹴散らす。その実力は、皇帝と呼ばれても過言はない。
しかし、それは少なくとも――倭の者達の勝手な認識の押し付けである。
この男は、もはや皇帝などのレベルではない。もう既に、帝国所属の将軍クラスの戦士であった。
「行くぞ。――《カナン》」
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