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暁の任務《Ⅰ》

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 赤色の髪の毛がテラスの外で風に揺れる。夕焼けを見詰めて、カエラの質問に答える。

 「知っての通り、僕は死人だ。世間から死んだとされる男が生きてちゃ……問題が生じる。そこで、カエラの出番って訳だ」
 「……具体的に、私は何をすればいいのですか?」

 暁がテラスの外で指を鳴らす。カエラと暁の2人が別空間へと飛ぶ。
 場面が変わって、着地に失敗したカエラが前のめりに倒れそうになる。
 隣の暁がカエラの手を取って、倒れないように支える。

 「ごめんね。久しぶりの転移だから、加減をミスちゃった」
 「いえ、大した事はありません。それよりも、ここは?」
 「裏世界アンダー・ワールド――。僕達は、そう呼んでる」

 宇宙へと放り出されたかのように、カエラの視界に星空が広がっている。
 上も下も見渡す限りの全てが、星空の世界であった。星空の中に一際光る光りが無数に見え、今にも手が届きそう。
 端から見れば、宇宙空間で立っている様にも見える。カエラと暁の2人が無数に光る星空の中で話を続ける。

 「この世界には、倭と大竜牙帝国を敵視している勢力が存在している」
 「はい、四大陸の他3ヶ国ですね」
 「惜しいなぁ、カエラちゃん。四大陸の勢力じゃないよ。凄く惜しい――」

 そう言うと、暁は胸の内に秘めた憤りが蒸し返すのを必死で堪えるかのように、胸を強く押さえる。
 カエラが心配そうにするが、暁が血を吐き出す。わざと肉体を傷付けて内側からその憎しみを押し殺す。
 血が星空へと消えて、作り笑みを浮かべて暁はカエラに役割を与える。

 「……今の僕達は、力が足りない。単純に数じゃなくて、魔力が足りない。だから、未来ちゃんはあの日を境にこの世界から消えた」
 「では、無事何ですね。……よかった」
 「無事では、あるよ。少なくとも……今はまだね」
 「今は、と言う事は――」
 「少なくとも、1年か半年で僕達は奴らに見付かる。そうなれば、別世界へと逃げたみんなが殺される。だから、カエラには――僕の手足になって欲しい」

 この世界では、満足に動く事が出来ない暁にとって、ある程度の事情を理解して協力できる存在はカエラぐらいである。
 カエラは暁の事を信用している。それは、暁の目からもわかる程に、だからこそ暁の手足として動くにはカエラは適任だ。
 裏切る可能性は、少しでも無い方が良いに越したことはない。
 裏切る可能性が少ない事が1つとして、カエラは――強い。
 これが、暁がカエラを適任とした理由である。暁やあの黒ですら認める程にカエラの実力は高い。
 現にエドワードと黒の戦闘に介入した。そして、一刀をもってして2人を無力化している。

 「……ごめんね。本当は、僕がするべき事だけど……今の僕じゃ足手まといにしかならない」
 「いえ、私はいつの日か暁様や未来様に報いる日を待ち望んでいました。弱かった私に勇気と力をくれた2人に、感謝しかありません」
 「ううん、強くなったのは……カエラちゃんの努力だよ」

 空間の接続が途切れ、部屋に戻された2人はまるで抱き合うかのような体勢であった。
 急いで離れたカエラが赤くなった顔を反らす。そんなカエラを見て、暁は優しく微笑んだ。
 カエラが受けた指示は、2つ――

 1つは、暁の『生存』を黒に『悟られない』事――
 2つは、黒を『無傷』で倭へと『送らせない』事――

 この2つの指示をカエラは承諾する。準備があるからと、部屋を後にするカエラを見送る暁が夕日を見詰める。
 日が完全に落ちる。エースダルに夜が訪れ、暁の深紅の髪の毛がより一層その赤さを深める。
 黒とは異なり、魔物ギフトの力を発揮すると暁の瞳は赤く発行する。
 そして、暁の影から漆黒のドレスを身に纏った白髪の少女が現れる。
 物語のお姫様のような容姿に、真っ白な肌と真っ赤な瞳が闇の中で不気味さを更に引き立てる。
 ヒールで部屋の中を歩いて、暁の前で手を後ろに組んで尋ねる。

 このままで、良かったのか――と、その質問に対して暁は釣り上げた口角と犬歯ではなく。確実に牙となった歯を光らせ、テラスから身を投げる。

 「さぁ……。ここから、鮮血の夜僕の戦いを始めよう――」


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