7人目の殺人

櫻庭雪夏

文字の大きさ
上 下
1 / 5

〇〇月〇〇日

しおりを挟む
〇〇月〇〇日 夜

 パシン、と乾いた音が室内に響き渡る。
 「痛っ!」
 ピリピリ痛みを感じる方向に視線を上げると、先輩の警察官が腕を組みながらじっと見下ろしていた。怖いのはいつものことだったが、真面目で優秀な憧れの先輩だった。
 「ちょっと考え事してただけっすよ。先輩」
  若い警察官は、目の下にできたクマを擦りながら飄々と言い訳をする。
 「じゃあ、何考えてたか説明してみろ」
 「え? いや、それは……。ちょっと…」
 (言ったら絶対怒られるし)
 ためらうように視線を左右に向けていると、その様子が伝わったのか、先輩警察官がたたみかけるような勢いで叱責する。
 「やっぱり寝てたんじゃねぇか、こら!死ぬ気で起きろ!眠いのはみんな同じなんだよ!」
 これでも、学生の時は居眠りをしないという特技があった。それを、ただ居眠りしていただけのやつだとは思われたくないので、すかさず反論する。 
 「違いますよ!毎朝交番の前を通るきれいなお姉さん、今ごろ可愛い部屋着でも着て、夕飯食べてるのかなあって考えてたんです」
 思っていたことを包み隠さず誠実に話したつもりだったが、逆効果のようだった。先輩警察官の鋭く冷たい視線が、顔面を貫く。
 「正直に話したのに」と少し凹んだ。自分の取り柄といえば、誰とでも明るく話せるところと、正直なところだと思っていたから。
 「お前、もっと気を引き締めろよ」
 先輩警察官は、冷めたトーンでそう吐き捨てると、スタスタと別室に行ってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒薔薇の棺

七海美桜
ミステリー
親友を救うことが出来たのだろうか? 助けることが、正解なのだろうか? 愛情は、時として危険をはらむ。 私は、どうすればよかったのか?

一話完結 ミステリー短編集

緑川 つきあかり
ミステリー
全て一話完結です。 黒猫と白猫と?神の願い あらすじ 不変なき日常を生きる三つの存在。 白猫と黒猫と?神だけが在る空間。 其々の持つ願望が世界を変える。 岐天駅 あらすじ 人はその選択に後悔する。 駅に着けば誰であろうと有無を言わさず絶望させ、どの道を選んだとしても決して正解は無いと示した。 そう、絶対に間違いへと進むのが人間なのだから。

国立ユイナーダ学園高等部③〜どうやら僕は名探偵らしいですね【連載版】

砂月ちゃん
ミステリー
僕っ娘タークちゃんの探偵物語。 国立ユイナーダ学園に通う巷で噂の名探偵タークちゃんの探偵物語です。 家族や友達と協力しながら学園と町内で起こった事件を錬金術という名のファンタジーな化学で解決していきます。 意外と人気があるようなので、不定期更新で連載する事にしました。 殆ど書いて出しです。 1話目は短編とほぼ同じです。 新作【白犬物語】を投稿しました。 ラックに繋がるお話しです。

雨の向こう側

サツキユキオ
ミステリー
山奥の保養所で行われるヨガの断食教室に参加した亀山佑月(かめやまゆづき)。他の参加者6人と共に独自ルールに支配された中での共同生活が始まるが────。

ヘリオポリスー九柱の神々ー

soltydog369
ミステリー
古代エジプト 名君オシリスが治めるその国は長らく平和な日々が続いていた——。 しかし「ある事件」によってその均衡は突如崩れた。 突如奪われた王の命。 取り残された兄弟は父の無念を晴らすべく熾烈な争いに身を投じていく。 それぞれの思いが交錯する中、2人が選ぶ未来とは——。 バトル×ミステリー 新感覚叙事詩、2人の復讐劇が幕を開ける。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

伏線回収の夏

影山姫子
ミステリー
ある年の夏。俺は15年ぶりにT県N市にある古い屋敷を訪れた。某大学の芸術学部でクラスメイトだった岡滝利奈の招きだった。かつての同級生の不審死。消えた犯人。屋敷のアトリエにナイフで刻まれた無数のXの傷。利奈はそのなぞを、ミステリー作家であるこの俺に推理してほしいというのだ。俺、利奈、桐山優也、十文字省吾、新山亜沙美、須藤真利亜の六人は、大学時代にこの屋敷で共に芸術の創作に打ち込んだ仲間だった。グループの中に犯人はいるのか? 脳裏によみがえる青春時代の熱気、裏切り、そして別れ。懐かしくも苦い思い出をたどりながら事件の真相に近づく俺に、衝撃のラストが待ち受けていた。 《あなたはすべての伏線を回収することができますか?》

国立ユイナーダ学園高等部③〜どうやら僕は名探偵らしいですね

砂月ちゃん
ミステリー
名探偵は部屋から一歩も出ずに事件解決? 何か違うと思う…… ①の続き。 国立ユイナーダ学園高等部シリーズ③

処理中です...