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第1篇 ヒッチハイクの攻防(仮)
【書きかけ公開】ヒッチハイクがしたいリンさん
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「ヒッチハイク?」
「そうです。こうやって手を伸ばして、車に止まってもらってそれに乗るってやつです」
「知らない人の車に乗るなんて、俺はおすすめしないよ」
知らない人に限った話でない。親戚の同僚とはいえ、リンは初対面の自分のことも信用しすぎじゃないのかとも思っていたくらいだった。
「でも、知らない人の車じゃないと。知っている人の車に乗ったって、それはヒッチハイクじゃなくてただの『お迎え』です」
リンはそう、真面目な様子で言った。知っている人の車に乗るのはただの『お迎』えだ、なんていう名言を聞いたエリオットは、思わず吹き出さずにはいられなかった。しかも、こういう時に限ってリンとあの真面目な巡査部長が何故かそっくりに見えてしまい、それが余計に笑いを誘った。
「え? 今の面白かったですか? そんなに?」
リンは楽しくなったのか、ニコニコと笑い出した。エリオットはつられてさらに笑いそうになっってしまったが、グッと堪えて努めて冷静さを取り戻した。
「ダメだよ。君を安全に家まで帰さないといけないんだから」
「じゃあ、エリオットさんも一緒に来てください」
「え?」
「エリオットさんが付き合ってくれないなら、私は一人で行きますからねっ。だって、そうするしかないでしょう?」
「それはリンちゃん、やめといた方がいい。ヒッチハイクで行方不明になったっていう事件を俺は何度も聞いた事がある。ヒッチハイクは、意外と危険なんだよ」
エリオットは、若手ながらも経験豊富な刑事らしく堂々と言って聞かせたつもりだったが、リンには効かなかったようで、斜め上の答えを返してきた。
「大丈夫ですよ。私は今までの人生で、何十回も飛行機に乗っていますけど、墜落したことなんて一度もないんです」
「……だから?」
「だからつまり、私は地上でも車の『上』でも安全だってことです!」
自信満々のリンは、珍しくも(恐らく、エリオットと出会ってから初めて)文法を間違えていた。純粋なミスなのか、それとも言葉のあやであえてそのような言い回しにしたのか、エリオットには分からなかった。だが、今はいちいちそんなことを気にしている場合ではなかった。
「それは……、飛躍しすぎじゃないかな?」
「大丈夫ですよ! だってエリオットさん、今の感じだと、付いて来てくれるんですよね?」
「いや、まだ何とも言ってないけど」
「でも、付いて来てくれますよねっ?」
距離が近いし、押しが強い。ハルヒコのようにシャイな子なのかと思っていたら、薄々わかってはいたが、そうでもないらしい。リンは案外、積極的なタイプだった。
エリオットは腕を組んで熟考した。正確には、熟考するフリをした。正直、もう答えは決まっていた。と言うのも、このままおとなしく一人で『暇』になるのは恐ろしいと、どこか感じてしまっていたからだ。リンのヒッチハイクに『付き合ってあげる』というていで、自室に帰った後のあの恐ろしい静寂から逃れられるなら、それでもいいと思ってしまった。そうと決まれば自動的に、どうすれば二人で安全にヒッチハイクができそうか、そのための方法を考えていた。そしてついに、結論を述べた。
「わかった。付き合ってあげるよ。だけど、安全そうな運転手じゃないと乗っちゃダメだからね。どの車に乗るかは、俺が選ぶ」
「はい! それでいいです。ありがとうございます!」
例え車が止まってくれたとしても、人相が悪そうな運転手、殊に犯罪の匂いがするとエリオットが判断したような運転手の場合は乗らずにパスするという条件で二人は合意した。
「そうです。こうやって手を伸ばして、車に止まってもらってそれに乗るってやつです」
「知らない人の車に乗るなんて、俺はおすすめしないよ」
知らない人に限った話でない。親戚の同僚とはいえ、リンは初対面の自分のことも信用しすぎじゃないのかとも思っていたくらいだった。
「でも、知らない人の車じゃないと。知っている人の車に乗ったって、それはヒッチハイクじゃなくてただの『お迎え』です」
リンはそう、真面目な様子で言った。知っている人の車に乗るのはただの『お迎』えだ、なんていう名言を聞いたエリオットは、思わず吹き出さずにはいられなかった。しかも、こういう時に限ってリンとあの真面目な巡査部長が何故かそっくりに見えてしまい、それが余計に笑いを誘った。
「え? 今の面白かったですか? そんなに?」
リンは楽しくなったのか、ニコニコと笑い出した。エリオットはつられてさらに笑いそうになっってしまったが、グッと堪えて努めて冷静さを取り戻した。
「ダメだよ。君を安全に家まで帰さないといけないんだから」
「じゃあ、エリオットさんも一緒に来てください」
「え?」
「エリオットさんが付き合ってくれないなら、私は一人で行きますからねっ。だって、そうするしかないでしょう?」
「それはリンちゃん、やめといた方がいい。ヒッチハイクで行方不明になったっていう事件を俺は何度も聞いた事がある。ヒッチハイクは、意外と危険なんだよ」
エリオットは、若手ながらも経験豊富な刑事らしく堂々と言って聞かせたつもりだったが、リンには効かなかったようで、斜め上の答えを返してきた。
「大丈夫ですよ。私は今までの人生で、何十回も飛行機に乗っていますけど、墜落したことなんて一度もないんです」
「……だから?」
「だからつまり、私は地上でも車の『上』でも安全だってことです!」
自信満々のリンは、珍しくも(恐らく、エリオットと出会ってから初めて)文法を間違えていた。純粋なミスなのか、それとも言葉のあやであえてそのような言い回しにしたのか、エリオットには分からなかった。だが、今はいちいちそんなことを気にしている場合ではなかった。
「それは……、飛躍しすぎじゃないかな?」
「大丈夫ですよ! だってエリオットさん、今の感じだと、付いて来てくれるんですよね?」
「いや、まだ何とも言ってないけど」
「でも、付いて来てくれますよねっ?」
距離が近いし、押しが強い。ハルヒコのようにシャイな子なのかと思っていたら、薄々わかってはいたが、そうでもないらしい。リンは案外、積極的なタイプだった。
エリオットは腕を組んで熟考した。正確には、熟考するフリをした。正直、もう答えは決まっていた。と言うのも、このままおとなしく一人で『暇』になるのは恐ろしいと、どこか感じてしまっていたからだ。リンのヒッチハイクに『付き合ってあげる』というていで、自室に帰った後のあの恐ろしい静寂から逃れられるなら、それでもいいと思ってしまった。そうと決まれば自動的に、どうすれば二人で安全にヒッチハイクができそうか、そのための方法を考えていた。そしてついに、結論を述べた。
「わかった。付き合ってあげるよ。だけど、安全そうな運転手じゃないと乗っちゃダメだからね。どの車に乗るかは、俺が選ぶ」
「はい! それでいいです。ありがとうございます!」
例え車が止まってくれたとしても、人相が悪そうな運転手、殊に犯罪の匂いがするとエリオットが判断したような運転手の場合は乗らずにパスするという条件で二人は合意した。
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