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『ダブル・イー』本編
【書きかけ公開!】新任警部『白』か『黒』か(仮)
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「ねえ、エリオット君。キミは白いチョコと黒いチョコ、どっちがお好き??」
「はい?」
「ちなみにボクは……」
「『ダンゼン白派』、でしょう? だから『黒』って答えたんです」
エリオットの滑らかな回答に、警部は感心したように微笑んだ。
「へぇ? よく覚えてるね」
「ええ。『白いチョコと黒いチョコのどちらが好きかを聞けば、その人間のことがわかる』んですよね? 正直、変な『ポリ公』……じゃなくて、すみません、警官だなと思いましたよ。だからよく覚えてます」
それを聞くなり、警部は「はっはっはっはっは」と愉快そうに笑い出した。
何がそれほど可笑しいのか、エリオットにはよくわからなかったが、この警部が昔とそれほど変わっていないのだろうということはわかった。
「今と昔と、心変わりはないのかな?」
「特にないですね。俺はそもそも、チョコレートの種類なんてどうでもいいって思ってるくらいですよ」
「どうでもいいなんて、そんなのチョコが可哀想じゃないかぁ」
「可哀想って……」
警部は至極真面目だった。それでいて、どこかしょんぼりとしょげているようにも見えた。
なぜこの人は、「元スパイだ」とか「アンドロイドだ」とか噂されるほど優秀なくせ、菓子や甘味のこととなるとこうもムキになるのだろうか。これを見ていると、そんな噂を信じるのも、耳を貸すのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
内心呆れたエリオットは、わざとらしくも丁寧に答えてみせた。
「じゃあ『白』で」
「じゃあ、『黒』あげる」
警部はそそくさと、エリオットの手のひらに包装紙に包まれたままの小さなブラックチョコレートの塊をポンと乗せた。
「え?」と思わず警部の顔を覗き込むエリオットを見て、警部はイタズラ小僧のような笑みを浮かべていた。
別にチョコレートをねだりたいわけではなかったが、「ここは素直に『白』をくれればいいじゃないか」と、思わず反論したくなっていた。
エリオットの無言の問いに、警部は自信満々に答えた。
「だってぇ、たまにはいつもとちがうことをしてみないとね」
エリオットの顔は、いよいよ怪訝な表情に変わっていた。
エリオットの過去を知っている相手だからこそ、普段は穏やかで人当たりのいい彼も、この警部の前では素直に感情を吐き出し、顔を顰めることすら厭わなくなっていたのかもしれない。
同時に彼は、今も昔も、この警部とは何だか反りが合わないということも確信した。
かつてはエリオット自身が『犯罪者』の側にいたために分かり合えないだけだったのかもしれないという可能性も感じてはいたが、自身が刑事になった今でもそれが変わらないのだとすると、二人の間には『刑事と元犯罪者』の立場に収まらないような隔たりがあることになる。
もしくは、彼にとってはこれが最も恐ろしいことではあるが、刑事の皮を被ってはいても、結局自身が根っからの『犯罪者』であることに変わりないだけで、この警部を通してその事実を見せられているにすぎないのかもしれない。
そう考えると、彼はこの警部と関わる時、素の自分、すなわち犯罪者の自分が炙り出されてしまうようのではないかという恐怖を心のどこかで感じてしまうのだった。
さっさと立ち去ろうとして無難に礼を言おうと口を開きかけたその時、警部は言った。
「『ちがう』と言えば、キミも昔とちがって、ちょっと変わったよね」
「え……? 変わった?」
予想外の言葉に、エリオットは立ち去るどころか立ち尽くした。
「ん。警察官、ってかんじがするねぇ」
警部は、自分で言って勝手に納得したように「うん、うん」と小さく頷いている。
「はあ。……そうですか」
驚くのと同時にどこか安堵したエリオットは、それ以上何も言えなかった。
そうしているうちに、警部は大好きなホワイトチョコレートの包みを開けていた。
「んじゃ、これからよろしくね。エリオットく~ん」
チョコレートを頬張りながら手をヒラヒラと振り、気まぐれなネコように去っていく後ろ姿を見届けながら、警部と出会った日から今までの長い道のりを回顧した。
警部はどこかよく分からない人だけれど、変な人だけれど、悪い人間ではない。現に自分のことを警察の仲間として認めてくれているし、どうにかやっていけるだろう。
不思議な感動と期待を覚えたエリオットは、普段は食べない、好きというわけでもないチョコレートを食べる気になって、その場で取り出し、口に入れた。
「苦ぁっ……!」
罰ゲームのような苦さに、エリオットは絶句した。
(くそっ! こんなのどこで買ったんだよ?! もしかしてあの人、最初からこれを食べさせる気だったんじゃ……?)
あの警部ならやりかねない。今頃一人でクスクス笑っている顔も想像できた。
見返してやる。こんなイタズラは二度とされないためにも。
そう静かに決意したエリオットは、何事もなかったかのように平静を装い、仕事に戻った。
「はい?」
「ちなみにボクは……」
「『ダンゼン白派』、でしょう? だから『黒』って答えたんです」
エリオットの滑らかな回答に、警部は感心したように微笑んだ。
「へぇ? よく覚えてるね」
「ええ。『白いチョコと黒いチョコのどちらが好きかを聞けば、その人間のことがわかる』んですよね? 正直、変な『ポリ公』……じゃなくて、すみません、警官だなと思いましたよ。だからよく覚えてます」
それを聞くなり、警部は「はっはっはっはっは」と愉快そうに笑い出した。
何がそれほど可笑しいのか、エリオットにはよくわからなかったが、この警部が昔とそれほど変わっていないのだろうということはわかった。
「今と昔と、心変わりはないのかな?」
「特にないですね。俺はそもそも、チョコレートの種類なんてどうでもいいって思ってるくらいですよ」
「どうでもいいなんて、そんなのチョコが可哀想じゃないかぁ」
「可哀想って……」
警部は至極真面目だった。それでいて、どこかしょんぼりとしょげているようにも見えた。
なぜこの人は、「元スパイだ」とか「アンドロイドだ」とか噂されるほど優秀なくせ、菓子や甘味のこととなるとこうもムキになるのだろうか。これを見ていると、そんな噂を信じるのも、耳を貸すのも馬鹿馬鹿しくなってくる。
内心呆れたエリオットは、わざとらしくも丁寧に答えてみせた。
「じゃあ『白』で」
「じゃあ、『黒』あげる」
警部はそそくさと、エリオットの手のひらに包装紙に包まれたままの小さなブラックチョコレートの塊をポンと乗せた。
「え?」と思わず警部の顔を覗き込むエリオットを見て、警部はイタズラ小僧のような笑みを浮かべていた。
別にチョコレートをねだりたいわけではなかったが、「ここは素直に『白』をくれればいいじゃないか」と、思わず反論したくなっていた。
エリオットの無言の問いに、警部は自信満々に答えた。
「だってぇ、たまにはいつもとちがうことをしてみないとね」
エリオットの顔は、いよいよ怪訝な表情に変わっていた。
エリオットの過去を知っている相手だからこそ、普段は穏やかで人当たりのいい彼も、この警部の前では素直に感情を吐き出し、顔を顰めることすら厭わなくなっていたのかもしれない。
同時に彼は、今も昔も、この警部とは何だか反りが合わないということも確信した。
かつてはエリオット自身が『犯罪者』の側にいたために分かり合えないだけだったのかもしれないという可能性も感じてはいたが、自身が刑事になった今でもそれが変わらないのだとすると、二人の間には『刑事と元犯罪者』の立場に収まらないような隔たりがあることになる。
もしくは、彼にとってはこれが最も恐ろしいことではあるが、刑事の皮を被ってはいても、結局自身が根っからの『犯罪者』であることに変わりないだけで、この警部を通してその事実を見せられているにすぎないのかもしれない。
そう考えると、彼はこの警部と関わる時、素の自分、すなわち犯罪者の自分が炙り出されてしまうようのではないかという恐怖を心のどこかで感じてしまうのだった。
さっさと立ち去ろうとして無難に礼を言おうと口を開きかけたその時、警部は言った。
「『ちがう』と言えば、キミも昔とちがって、ちょっと変わったよね」
「え……? 変わった?」
予想外の言葉に、エリオットは立ち去るどころか立ち尽くした。
「ん。警察官、ってかんじがするねぇ」
警部は、自分で言って勝手に納得したように「うん、うん」と小さく頷いている。
「はあ。……そうですか」
驚くのと同時にどこか安堵したエリオットは、それ以上何も言えなかった。
そうしているうちに、警部は大好きなホワイトチョコレートの包みを開けていた。
「んじゃ、これからよろしくね。エリオットく~ん」
チョコレートを頬張りながら手をヒラヒラと振り、気まぐれなネコように去っていく後ろ姿を見届けながら、警部と出会った日から今までの長い道のりを回顧した。
警部はどこかよく分からない人だけれど、変な人だけれど、悪い人間ではない。現に自分のことを警察の仲間として認めてくれているし、どうにかやっていけるだろう。
不思議な感動と期待を覚えたエリオットは、普段は食べない、好きというわけでもないチョコレートを食べる気になって、その場で取り出し、口に入れた。
「苦ぁっ……!」
罰ゲームのような苦さに、エリオットは絶句した。
(くそっ! こんなのどこで買ったんだよ?! もしかしてあの人、最初からこれを食べさせる気だったんじゃ……?)
あの警部ならやりかねない。今頃一人でクスクス笑っている顔も想像できた。
見返してやる。こんなイタズラは二度とされないためにも。
そう静かに決意したエリオットは、何事もなかったかのように平静を装い、仕事に戻った。
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