灰燼の少年

櫻庭雪夏

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本編【『兄』のロイと『妹』のアリス】

【書きかけ】【構成迷子中】堕天使(仮)

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 ・書きかけ
 ・シーンのつぎはぎ
 ・シーンがあちこち飛ぶ
 ・文章ざっと書き
 ・本エピソードを全体のどこに配置するのかを決めていないので、とりあえずここに置いています

 です


 ***************
 
 「『裏』とか『表』とか、使い分ける方がめんどいのに。どうしてわざわざそういうことするかなぁ」
 「技術みたいなものだろうね。それができる人間と、できない人間がいる」
 ロイはこの時、わざとらしくアリスに視線を向けるも、アリスは興味も示さず、「ふ~ん」とあしらうだけだった。
 彼女の関心は、今やマス目状に配置された数字の空欄を埋めるパズルに注がれている。

 パズルはずっと空白のままだが、アリスの頭の中では次々と解かれているということをロイも承知していた。


 「あっち側帝国の外交官の奥さんを寝取っちゃったりしたら、それこそ戦争ものじゃん! ああ、たいへ~ん!!」
 アリスは可笑しそうにゲラゲラと腹を抱えて笑い出した。
 「そういう縁起の悪いことは、心で思っていても口に出すことじゃないでしょう。
 あと、『寝取る』なんて言い方はやめてくれないかな? いつも向こうが興味を持って近寄ってくるだけなんだ。それで僕が少し優しくしてあげたって、別に悪いことじゃないでしょう」
 アリスは小さく舌打ちして応じた。
 「はい、はい。でもさあ、アンタより一回りも二回りも年上の女でしょう? おばさんじゃん。アンタみたいな若いヤツに興味ないと思うけど」
 「それは僕も想定しているよ。だから、もっと深く懐に入り込まないといけない」
 「何それ? 『僕、王国のスパイなんです~! あなたと同郷だから、仲良くしてください』とか言うつもり?」
 「そういう意味じゃない。夫人の心を揺さぶるには、もっと良い方法がある」
 アリスは、皆目見当がつかない様子で眉を顰めた。

 当然だ。この子はパズルは解けても、人の心は分からないのだから。

 相変わらず空白のパズルに目をやりながら、ロイはそう思った。
 「パズルが終わったら、それ返してくれる?」
 「わかってるよ」
 一番左上のマスから、右へ。最上部の行の右端まで辿り着いたら、次の行の一番左マスへ。アリスは、きっちり漏れなく、順々に数字を書き込んでいく。
 ものの十数秒で、全てのマスが埋められた。
 「飽きないんだね。そのやり方」
 「これに飽きることになったら、あたしは死んだも同然なんだよ」
 アリスはそれを、恍惚そうに眺めて言った。

 **********

「失礼を承知でお訊きしますが、貴女は大使との婚約時にこの国に帰化していますね」
 「ええ。それが何でしょうか」
 夫人の顔に緊張が走ったのを確かめると、ロイは柔和な口調で言った。
 「実を言うと、僕もなんです」
 「え?」
 夫人は耳を疑った。目の前の少年が、エストリエの言語を流暢に話し出したからだ。
 「僕も、昔は貴女と同じ王国人でした。戦争中に色々あって、運良く心ある人に引き取られて、つまり今の父のことですが、その父の戸籍に入るのと同時に、国籍も変えたんです」
 「ああ……なんてこと。そうだったの……?」
 ロイはやや大袈裟に辺りを警戒するそぶりを見せ、声を顰めて言った。
 「はい。今時人前でこういう話をすると、敵国の人間だと思われたり、白い目で見られたりしてしまう気がして……なかなか言い出せませんでした」
 夫人は微かに涙ぐんでいる。
 「このことは黙っておいて頂けませんか? 政府から認定を受けずに国籍を改竄するのは違法なんです。このことが知られたら、僕は不法入国者として強制送還されてしまうかもしれません。今の家族と離れたくないんです」
 ロイはわざと、神妙な表情を作ってみせた。
 夫人は素直に「うん、うん」と頷いた。
 「ええ、はい。もちろん、もちろんです」
 「ありがとうございます」

 **********


 「僕が見てくるから、適当に夫人の気を引いて部屋に近づけさせないようにして」
 「ああ? なんで私が」
 「夫人と話して、お菓子でも食べておきなよ。何か焼いている匂いがする」
 アリスはハッと納得したようにすまし顔で言った。
 「じゃ、遠慮なくそーする」

 **********



 そしてこれは?
 半透明の大きな瓶に詰められた、大量の錠剤。しかも、それが二瓶も並んでいる。
 ロイはこの瓶から、強烈な違和感を覚えた。
 栄養補強剤か? 近年開発された、不足しがちな栄養素を手軽に補えると謳われている、あの錠剤型の薬なのだろうか。いいや、それにしては量が多過ぎる。夫人にこれといった健康上の問題はないことは調査済みだ。そんな夫人が、寝室にこの手の栄養剤を置いておくのだろうか。就寝前に服用するものと言えば、睡眠薬か、彼女の様子だと精神安定剤等と考えるのが自然だろう。
 ロイは試しに、瓶を一つ開けてみた。
 無味無臭。薬の種類をかぎ分けることはできない。
 だが、ロイは直感した。
(……睡眠薬?)

 睡眠薬は医師から直接処方されるか、処方箋を持って正規の薬局で購入するかでしか、一般人は入手できない。
 王国で現地調達し、『帰国』した際に持ち込んだものなのか、もしくは、何者からか譲り受けたのか。
 薬の正体を確かめるまでは断定できない
 ロイは手袋をつけたまま片手を瓶に突っ込み、白い錠剤を数粒、拝借した。
 彼女が夫も使用人も自室に立ち入らせない理由が、この粒に隠されているのではないか。
 部屋のドアに元通り鍵を掛ける細工を施しながら、ロイはそんなことを予感していた。

 ******************




「たくさん食べるのねえ」
 夫人は、にっこりと微笑んでその様子を眺めている。
 すると唐突に、アリスが切り出した。
 「あいつのこと、どう思う?」
 「え、どう、って……?」
 「あの子ね、小さい時に本当のママと別れたっきり、大人の女の人に目がないの。特に、あなたみたいに綺麗で優しくしてくれそうな人がタイプだから。でも、『長男として自分がしっかりしなきゃ』て、強がってガマンしてるみたい。こんなところで夫人と二人っきりになったら、何し出すか分かんないよ? 気をつけてね」
 「まあ……。そう……なんですか」
 「それにほら、こんなこと言いたくもないけど、あいつ、顔はキレイなほうでしょう? あたしだって、美人だけど。だからね、……夫人もうっかり好きになっちゃったりして」
 わざとらしく肩をすくめて見せた。
 
 「今はそうなってるけど、お互い養子だし、『たまたまおんなじ家に住むことになった他人』だよ。よくある「戦争孤児」ってやつ」
 「そう。じゃあ、アリスさんも……」
 「う~ん、ちょっと違うけどね。暗殺されたの。パパとママ、国の偉い人に嫌われちゃったらしいの。特にパパは優秀過ぎたから」
 「………」
 重苦しい身の上話をしているはずなのに、アリスがタルトに手を伸ばし、口に運び、頬張るという一連の動きは、一向に止まらなかった。
 それに呼応しているかのように、夫人の顔が青ざめていく。
 耐えられなくなったのか、震える手で卓上の小瓶を開け、白い粒を取り出した。
 「なに? それ」
 てっきり調味料の瓶かと思っていたアリスは、不思議そうに尋ねた。
 「ああ、これ、飲むと落ち着くんです……」
 落ち着くどころか、手の小刻みな震えは止まっていない。
 「ふ~ん」
 アリスの口はもぐもぐと動きながら、その視線はしっかりと夫人の手元に注がれていた。
 
 

 *********************

 「これについて、調べていただきたいのです」
 「何だ? 薬……?」
 「恐らく睡眠薬です。夫人の寝室に大量に保管されていました。本当に睡眠薬なのか、出どころがどこなのかを知りたいのです」
 「わかった。手配する」
 二人の流れるような事務的な会話に、興奮気味のアリスが割り込んだ。
 「ちょっとまって! 成分調べるの、わたしがやりたい!」
 「僕、君に薬品と名前がつくものは渡したくないんだよね」
 「あぁ?」
 「うちに成分分析器っていう最新機材でもあればいいけど、あいにくそういう訳じゃないんでしょう?」
 「そこまでの予算が組めなくてな……」
 エリオットは、バツが悪そうに腕を組んだ。
 決して潤沢ではない管理を委任されているエリオットにとって、『最新機材』や『設備投資』という言葉は、耳が痛くなるらしい。
 「エリオットのせいではないですよ」
 そう言って、ロイは続けた。
 「まさか、アリスが目視で調べるとか、僕を使って人体実験でもするつもりのかな?」
 「それもそれで手っ取り早いかもね」
 「やめろって」
 「あ~あ! だからやっぱり、良い機材とかは研究所から盗むしかないじゃん!」
 アリスは、積年の鬱憤を爆発させたように地団駄を踏んで言った。
 「それは勘弁してくれ」
 「犯罪だよ」
 「ドロボーっすよ」
 家事の合間に一連の会話を聴いていたレオンも、つい、加勢する。
 「って、そーじゃなくて! 夫人は食事中になんか飲んでたの!」
 いきなり話題を戻したアリスの言葉に、一同は耳を疑った。
 「まんまるじゃなくて、楕円形だった。それとは別の種類の何かだよ」
 「別の薬……」
 「何の薬だろうな」
 「だから、分かんないって。わたしも見たことないもん! でも、状況的に考えて、睡眠薬じゃないな。精神安定剤とか……何か中毒になる薬物とか……。そういうやつだよ。『これを飲むと落ち着く』って言ってたの」
 子どもから科学者に変身したかのように、アリスはキリリと冷静な口調で言った。



***************


 「母に似ています……」
 「えっ?」
 「僕が幼い頃別れてしまった母親と、貴女はとてもよく似ています」
 「そんな! 私では歳をとりすぎです。当時のあなたのお母様よりずっと」
 「年齢は関係ありません。本当に似ているんです。……僕では若過ぎますか?」
 夫人は思わず後退りをした。
 「子どもは望まなかったとお聞きしました。養子もとられていないし。子どもが嫌いなのですか?」
 「いいえ。好きです。子どもが嫌いというわけではありません」
 夫人が必死に否定するも、ロイの鋭い眼光は変わらない。
 「それなら、どうして?」
 「それは……」
 「もしかして、本当はご主人のことを愛していない……とか。寝室も別々なのでは……? 違いますか?」
 「……」
 「どうして彼なのですか? 貴女ほどの人なら、もっと別の男性が相手でも良かったのでは?」

**********

 
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『女の子だからって、ふわふわ系・溺愛ものだけが好きなんじゃない!! ダーク・グロ・残酷が大好き・見たいんだ!』(もちろん男性読者でも、お好きな方いますよね?)や、『「チート能力」や「最強」よりも「愛をください」!』という思いで作り始めましたが、複雑怪奇なプロットをまとめる技術が間にあわず、難航しました。でももう吹っ切れて、「完璧な状態で発表するのは無理だぁ」と判断したため、不完全でもとりあえず書いたものを発表しようと思い至りました。・パロディ編(キャストトーク)を追加して、本編、パロディ編を同時並行で順次公開予定です!!(本編が難航したら、パロディ編で食い繋ぐ作戦です)・今後発表済みの本文のストーリー、セリフ、キャラ名、設定すらも適宜変更していく可能性が大いにあります。むしろ、それ前提で発表していきます!!(もうどうにでもなれ)webの良さを活かして、より面白そうな方に変化させていく予定です。・話数の番号はつけていません。特にネタバレに敏感ではないという方は、気になるエピソードから入っていただいて、その後で前のエピソードを遡っていただいても大丈夫です。私自身、「1話から読まなきゃいけないプレッシャー」に弱いので、この策を取りました。
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