灰燼の少年

本編【『兄』のロイと『妹』のアリス】

戦争と『ゆりかご』

　世界の覇権を握るオルニア帝国と、それに対抗するエストリエ王国。
　両者の覇権競争は、同盟国を巻き込んだ大戦へ発展し、世界を二分化させた。
　四年にわたったこの戦争は、弱き人々の生活をも蝕み、戦禍や迫害から逃れるために亡命した子ども、親を失い戦争孤児となった子ども、誘拐や人身売買で行方をくらませた子どもは、数知れない。
　戦時中のエストリエ王国では、帝国への対抗策として、ある作戦が進められていた。
　通称『ゆりかご作戦』
　身寄りのない優秀な子どもを諜報機関が引き取り、名前も経歴も話す言葉も変えさせ、現役の諜報機関員とともに『家族』として敵国オルニア帝国に潜入させるというものだった。
　優秀なスパイのもとで、優秀なスパイの卵を異国の文化に順応しやすい子どもの時から育ててしまおうという魂胆だ。
　一からスパイを育てるその過程が、赤子を育てる様子と似ているということから、『ゆりかご』という名前がつけられたのだった。
　エストリエ王国国内でも、この作戦を知る者はごく一部の上層部の人間に限られていた。