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『おまんじゅうゲーム』開始

アクちゃんと『死の恐怖』

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「ナゼダ?! 貴様ハ死ヌノガ怖クナイノカ? 本当ハ恐ロシイダロウ?? 人間ニシテハ、アマリニモ短イ人生デハナイカ?! サテハ貴様、強ガッテイルナ?? オレ様ニ負ケタクナイ、トカカ? モット生キテイタイダロウ? 貴様ノ欲ガ目覚メタトコロデ、オレ様ハソレヲ責メル気ハ無イ。貴様モショセンハ、人間ナノダカラナァ」
 不安・恐怖という感情を使って人間の心を絡め取り、服従させるというのは悪魔が使う常套手段である。この時も、悪魔はセツカの「死の恐怖」や「生への欲望」というものを揺さぶろうと試みていた。
 一度満足したかと思えば次を探し、それに飽きたらまた次だ。あれが怖い、だがそれが終われば今度はあれが不安だ、だからあれが欲しい、あいつに勝ちたい、だからあれが欲しい……というように。奴らは永遠に『次』があると信じ込んでいる。だからこそ、自覚があっても無くてもオレ様と取引する人間は後をたたない。奴らは、自分一人の力でそんなお気楽な心の面倒を見ることができないのだ! そのくせ、普段は『イイヤツ』でいようと心掛け、天使や神の世界に恋焦がれ、『悪いことはダメ』、『悪魔なんていやしない』と調子をこく。そういう奴らに限って、己の『悪』の存在を恥入り、オレ様と取引したなどと一向に認めようとはしないがな。欲があるならそれを言え。オレ様がを与えてやろう。そうしてせいぜい、オレ様に永遠に飼い慣らされているがいい!!
 セツカはしばらくうつむいて、じっと何かを考え込んでいた。今までで一番、真剣な面持ちである。
 「かかったな」と、悪魔は嘲笑った。『死への恐怖』とは強力な魔力を秘めている。いくら金銭欲が無いセツカのような人間にも通ずる、普遍的な恐怖と欲望を与えることができるからだ。
 セツカは静かにおまんじゅうを一つ、悪魔の前に差し出した。
 「フンッ。ヤットオレ様ニ従ウ気ニナッタカ?」
 得意げな悪魔に対して、セツカはまたしてもニンマリと不気味に笑った。
 「ナンダ……、ソノ顔ハ?」
 「これあげるから、私と遊んで」
 「ハ……??」
 全知全能の(つもりでいる)悪魔にも、セツカの発言の意味がわからなかった。
 「お願い、聞いてくれるんだよねっ?」
 何を言っている? 寿命は? この絶好の機会に、なぜそんなくだらない要求をする? この人間は、本当の本当にバカなのかもしれない。
 「死ガ怖クナイノカッ?! 『コワイ』ッテ言エ!! 『コワイ』ッテ!! コノオレ様ガ、笑イ転ゲテヤルノダカラナァ!!」
 「確かに怖いっちゃ怖いけど、でも、アクちゃんと遊べるこのを『私を長生きさせてください』なんていうお願いに使ったらもったいないもん! それに、『死ぬ』っていうのは人生の『イベント』なの。私、死んだ瞬間の記憶とかないから、一回ほんとに死んでみたかったんだよね~。どんな感じなんだろう、って。だから私、死ぬのが楽しみなのっ」
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