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皇女アルミラの楽しい世界征服
エピローグ その1
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「ふふ…では、帝国と王国の繋がりを密にせねばな」
アルミラがいつもの口調に戻り、挑発的…いや、むしろ蠱惑的な笑顔で口元を歪める。
なんとも、イヤな予感がする…。
「殿下?」
俺の横のアークストルフも、アルミラの不穏な空気を感じたのだろう、彼の不安が眉間の深いシワに表れる。
「いや、すまんな。
ところでハヤト様、此度の貴殿の働きに対し、帝国として、また我個人としても報いたく思うが…」
「いえ、先ほどアークストルフ様も申された通り、俺は魔物を倒し、世界を救うために召喚されたのです。
そのようなお気遣いは無用です」
恐らく、フラジミルとの仕合の賞品、つまり俺のアルミラへの婿入りの話を蒸し返すつもりだろう。
そうはさせない、俺は頭を下げ、アルミラの言う【報酬】を固辞する。
「ハヤト殿は誠に無欲な方ですね、同じ武人として、私もかくありたいものですね」
アルミラの横に侍るフラジミルが感嘆の声を上げる。
「いや、そんな事は…」
「しかし、ハヤト殿は礼節はご存知ないと見える」
「え?あ、す、すいません!」
フラジミルがあの鋭い目で睨みつけてくる。
何か粗相をしたのだろうか、どうもヤツの不興を買ったようだ。
うぅ、畏まった場はやっぱり苦手だ!
「清廉も結構ですが、殿下のお気持ちを無碍にするは失礼とは思いませんか?」
「そ、それは…」
なるほど、そういう事か。
確かに、相手の謝意をすべて断るのも失礼か?
『さて、どうしたもんか…?』
俺が言葉に詰まっていると、
「ハヤト様、そのように身構えられると、女子として我も傷付く。
我はただ、貴方への謝意を形で表したいだけなのだ」
アルミラの悲しげな笑みに俺はハッとする。
『そうだ、皇女という事を意識しすぎて、彼女がまだ少女だってのを忘れてたよ』
「申し訳ございませんでした、殿下。
殿下のお心遣い、ありがとうございます。」
俺は頭を軽く下げ、自分の態度を詫びる。
「そうか、では我の謝意を受け取ってくれるな?」
「はい、ありがたく頂戴いたします」
ーガタンッツ!ー
俺の返事を聞くや否や、アルミラは玉座から跳ね降りて俺の手を取ると、
「ではっ、我をハヤト様の正室へ受け入れてくれるのだなっ!」
「ダメですわっ!」
ーパシィンッッ!ー
アルミラに間髪入れず、アルフリーヌが俺とアルミラの間に割って入り、俺の手を払い飛ばす。
「痛ぇ?!」
「あぁっ!ワタクシったら、つい…っ!大丈夫ですかっ?!」
慌てて俺に謝るアルフリーヌ、余程慌てていたのだろう。
皇女殿下の手を直接払ったワケではないが、これはマズいだろう。
「無礼なっ!」
俺達の後ろに控えていたミーナが腰の剣に手がかかる。
『マズイっ!』
俺は反射的に、アルフリーヌとミーナの間に体を割り入れる。
「殿下に対して無礼ですっ!」
鞘から覗く白刃がキラリと光る!
「待てっ!」
鞘から剣身を抜こうかというミーナを、アルミラが一喝して制する。
「ミーナ、良いのじゃ。剣を収めよ」
「…はっ」
アルミラの命に、ミーナはしぶしぶ剣を収める。
「第二幕といった所かのぉ、アルフリーヌ嬢よ」
「…輿入れの話はハヤト様がそちらのフラジミル様勝たれた事で無くなったと思いますが?」
「うむ、お主の言う通り、残念じゃがその話は御破算じゃな」
「では、何故この話をまた持ち出されるのですか?」
「フラジミルとの仕合と魔物を退け、我の命を救った謝礼はとは別。
帝国を救った英雄に対し我が身を捧げると、改めて申しておる」
「そんな一方的な!」
アルミラの超理論に、アルフリーヌは耳を疑う。
「恐れながら殿下」
二人の口論を黙って聞いていたアークストルフが口を開いた。
「申し訳ありませんが、このお話は看過できません」
「アークストルフ殿、それは王国臣下としての事か?」
「勿論、それもありますが…父親としても、娘の恋路を妨げられるのを黙って見ている事は出来ません」
「ふん、なんとも甘い、子煩悩な事よ」
「お恥ずかしい限り。ですが、父親としては娘に白い目で見られる事、頼りにならないと落胆される事は耐えがたいのです」
アークストルフはおどけた仕種で自嘲気味に笑うが、彼の生き様が、それとも娘への愛ゆえだろうか?
その声色には有無を言わさない、強さを感じる。
「アルフリーヌ嬢、其方は良き父を持ったな」
「ありがとうございます」
「ここはアークストルフ殿の娘への愛情に免じて…と言いたい所だが、それは出来ぬ。
我もハヤト様の正室の座を譲る気はないがな」
「そんな…」
「とは言え、我ももう、無理矢理結ばれようとは思わぬ」
「え?」
アルミラは再び、俺の手を握る。
「あの時、コルドスの前で死を待つしかなかった私を助けて頂いた時、ハヤト様のお姿は正に勇者、いえ、紙の御遣いの如きお姿でした。
あの時、私の心は決まりました。」
「え?ええ??」
以前の俺を世界征服のための戦力として欲していた、打算に溢れた求愛とは違う。
少女のその真剣な眼差しに、俺は情けなくも戸惑う。
「心よりお慕いしております、ハヤト様。
どうか私を、貴方様のお側にお置きください」
つづく
アルミラがいつもの口調に戻り、挑発的…いや、むしろ蠱惑的な笑顔で口元を歪める。
なんとも、イヤな予感がする…。
「殿下?」
俺の横のアークストルフも、アルミラの不穏な空気を感じたのだろう、彼の不安が眉間の深いシワに表れる。
「いや、すまんな。
ところでハヤト様、此度の貴殿の働きに対し、帝国として、また我個人としても報いたく思うが…」
「いえ、先ほどアークストルフ様も申された通り、俺は魔物を倒し、世界を救うために召喚されたのです。
そのようなお気遣いは無用です」
恐らく、フラジミルとの仕合の賞品、つまり俺のアルミラへの婿入りの話を蒸し返すつもりだろう。
そうはさせない、俺は頭を下げ、アルミラの言う【報酬】を固辞する。
「ハヤト殿は誠に無欲な方ですね、同じ武人として、私もかくありたいものですね」
アルミラの横に侍るフラジミルが感嘆の声を上げる。
「いや、そんな事は…」
「しかし、ハヤト殿は礼節はご存知ないと見える」
「え?あ、す、すいません!」
フラジミルがあの鋭い目で睨みつけてくる。
何か粗相をしたのだろうか、どうもヤツの不興を買ったようだ。
うぅ、畏まった場はやっぱり苦手だ!
「清廉も結構ですが、殿下のお気持ちを無碍にするは失礼とは思いませんか?」
「そ、それは…」
なるほど、そういう事か。
確かに、相手の謝意をすべて断るのも失礼か?
『さて、どうしたもんか…?』
俺が言葉に詰まっていると、
「ハヤト様、そのように身構えられると、女子として我も傷付く。
我はただ、貴方への謝意を形で表したいだけなのだ」
アルミラの悲しげな笑みに俺はハッとする。
『そうだ、皇女という事を意識しすぎて、彼女がまだ少女だってのを忘れてたよ』
「申し訳ございませんでした、殿下。
殿下のお心遣い、ありがとうございます。」
俺は頭を軽く下げ、自分の態度を詫びる。
「そうか、では我の謝意を受け取ってくれるな?」
「はい、ありがたく頂戴いたします」
ーガタンッツ!ー
俺の返事を聞くや否や、アルミラは玉座から跳ね降りて俺の手を取ると、
「ではっ、我をハヤト様の正室へ受け入れてくれるのだなっ!」
「ダメですわっ!」
ーパシィンッッ!ー
アルミラに間髪入れず、アルフリーヌが俺とアルミラの間に割って入り、俺の手を払い飛ばす。
「痛ぇ?!」
「あぁっ!ワタクシったら、つい…っ!大丈夫ですかっ?!」
慌てて俺に謝るアルフリーヌ、余程慌てていたのだろう。
皇女殿下の手を直接払ったワケではないが、これはマズいだろう。
「無礼なっ!」
俺達の後ろに控えていたミーナが腰の剣に手がかかる。
『マズイっ!』
俺は反射的に、アルフリーヌとミーナの間に体を割り入れる。
「殿下に対して無礼ですっ!」
鞘から覗く白刃がキラリと光る!
「待てっ!」
鞘から剣身を抜こうかというミーナを、アルミラが一喝して制する。
「ミーナ、良いのじゃ。剣を収めよ」
「…はっ」
アルミラの命に、ミーナはしぶしぶ剣を収める。
「第二幕といった所かのぉ、アルフリーヌ嬢よ」
「…輿入れの話はハヤト様がそちらのフラジミル様勝たれた事で無くなったと思いますが?」
「うむ、お主の言う通り、残念じゃがその話は御破算じゃな」
「では、何故この話をまた持ち出されるのですか?」
「フラジミルとの仕合と魔物を退け、我の命を救った謝礼はとは別。
帝国を救った英雄に対し我が身を捧げると、改めて申しておる」
「そんな一方的な!」
アルミラの超理論に、アルフリーヌは耳を疑う。
「恐れながら殿下」
二人の口論を黙って聞いていたアークストルフが口を開いた。
「申し訳ありませんが、このお話は看過できません」
「アークストルフ殿、それは王国臣下としての事か?」
「勿論、それもありますが…父親としても、娘の恋路を妨げられるのを黙って見ている事は出来ません」
「ふん、なんとも甘い、子煩悩な事よ」
「お恥ずかしい限り。ですが、父親としては娘に白い目で見られる事、頼りにならないと落胆される事は耐えがたいのです」
アークストルフはおどけた仕種で自嘲気味に笑うが、彼の生き様が、それとも娘への愛ゆえだろうか?
その声色には有無を言わさない、強さを感じる。
「アルフリーヌ嬢、其方は良き父を持ったな」
「ありがとうございます」
「ここはアークストルフ殿の娘への愛情に免じて…と言いたい所だが、それは出来ぬ。
我もハヤト様の正室の座を譲る気はないがな」
「そんな…」
「とは言え、我ももう、無理矢理結ばれようとは思わぬ」
「え?」
アルミラは再び、俺の手を握る。
「あの時、コルドスの前で死を待つしかなかった私を助けて頂いた時、ハヤト様のお姿は正に勇者、いえ、紙の御遣いの如きお姿でした。
あの時、私の心は決まりました。」
「え?ええ??」
以前の俺を世界征服のための戦力として欲していた、打算に溢れた求愛とは違う。
少女のその真剣な眼差しに、俺は情けなくも戸惑う。
「心よりお慕いしております、ハヤト様。
どうか私を、貴方様のお側にお置きください」
つづく
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