上 下
224 / 224
皇女アルミラの楽しい世界征服

エピローグ その1

しおりを挟む
「ふふ…では、帝国と王国の繋がりを密にせねばな」
アルミラがいつもの口調に戻り、挑発的…いや、むしろ蠱惑的な笑顔で口元を歪める。
なんとも、イヤな予感がする…。

「殿下?」
俺の横のアークストルフも、アルミラの不穏な空気を感じたのだろう、彼の不安が眉間の深いシワに表れる。

「いや、すまんな。
ところでハヤト様、此度の貴殿の働きに対し、帝国として、また我個人としても報いたく思うが…」
「いえ、先ほどアークストルフ様も申された通り、俺は魔物を倒し、世界を救うために召喚されたのです。
そのようなお気遣いは無用です」
恐らく、フラジミルとの仕合の賞品、つまり俺のアルミラへの婿入りの話を蒸し返すつもりだろう。
そうはさせない、俺は頭を下げ、アルミラの言う【報酬】を固辞する。

「ハヤト殿は誠に無欲な方ですね、同じ武人として、私もかくありたいものですね」
アルミラの横に侍るフラジミルが感嘆の声を上げる。

「いや、そんな事は…」
「しかし、ハヤト殿は礼節はご存知ないと見える」
「え?あ、す、すいません!」
フラジミルがあの鋭い目で睨みつけてくる。
何か粗相をしたのだろうか、どうもヤツの不興を買ったようだ。
うぅ、畏まった場はやっぱり苦手だ!

「清廉も結構ですが、殿下のお気持ちを無碍にするは失礼とは思いませんか?」
「そ、それは…」
なるほど、そういう事か。
確かに、相手の謝意をすべて断るのも失礼か?
『さて、どうしたもんか…?』

俺が言葉に詰まっていると、
「ハヤト様、そのように身構えられると、女子として我も傷付く。
我はただ、貴方への謝意を形で表したいだけなのだ」
アルミラの悲しげな笑みに俺はハッとする。
『そうだ、皇女という事を意識しすぎて、彼女がまだ少女だってのを忘れてたよ』

「申し訳ございませんでした、殿下。
殿下のお心遣い、ありがとうございます。」
俺は頭を軽く下げ、自分の態度を詫びる。
「そうか、では我の謝意を受け取ってくれるな?」
「はい、ありがたく頂戴いたします」

ーガタンッツ!ー
俺の返事を聞くや否や、アルミラは玉座から跳ね降りて俺の手を取ると、
「ではっ、我をハヤト様の正室へ受け入れてくれるのだなっ!」
「ダメですわっ!」
ーパシィンッッ!ー
アルミラに間髪入れず、アルフリーヌが俺とアルミラの間に割って入り、俺の手を払い飛ばす。

「痛ぇ?!」
「あぁっ!ワタクシったら、つい…っ!大丈夫ですかっ?!」
慌てて俺に謝るアルフリーヌ、余程慌てていたのだろう。
皇女殿下の手を直接払ったワケではないが、これはマズいだろう。

「無礼なっ!」
俺達の後ろに控えていたミーナが腰の剣に手がかかる。
『マズイっ!』
俺は反射的に、アルフリーヌとミーナの間に体を割り入れる。
「殿下に対して無礼ですっ!」
鞘から覗く白刃がキラリと光る!

「待てっ!」
鞘から剣身を抜こうかというミーナを、アルミラが一喝して制する。
「ミーナ、良いのじゃ。剣を収めよ」
「…はっ」
アルミラの命に、ミーナはしぶしぶ剣を収める。

「第二幕といった所かのぉ、アルフリーヌ嬢よ」
「…輿入れの話はハヤト様がそちらのフラジミル様勝たれた事で無くなったと思いますが?」
「うむ、お主の言う通り、残念じゃがその話は御破算じゃな」
「では、何故この話をまた持ち出されるのですか?」
「フラジミルとの仕合と魔物を退け、我の命を救った謝礼はとは別。
帝国を救った英雄に対し我が身を捧げると、改めて申しておる」
「そんな一方的な!」
アルミラの超理論に、アルフリーヌは耳を疑う。

「恐れながら殿下」
二人の口論を黙って聞いていたアークストルフが口を開いた。
「申し訳ありませんが、このお話は看過できません」
「アークストルフ殿、それは王国臣下としての事か?」
「勿論、それもありますが…父親としても、娘の恋路を妨げられるのを黙って見ている事は出来ません」
「ふん、なんとも甘い、子煩悩な事よ」
「お恥ずかしい限り。ですが、父親としては娘に白い目で見られる事、頼りにならないと落胆される事は耐えがたいのです」
アークストルフはおどけた仕種で自嘲気味に笑うが、彼の生き様が、それとも娘への愛ゆえだろうか?
その声色には有無を言わさない、強さを感じる。

「アルフリーヌ嬢、其方は良き父を持ったな」
「ありがとうございます」
「ここはアークストルフ殿の娘への愛情に免じて…と言いたい所だが、それは出来ぬ。
我もハヤト様の正室の座を譲る気はないがな」
「そんな…」
「とは言え、我ももう、無理矢理結ばれようとは思わぬ」
「え?」

アルミラは再び、俺の手を握る。
「あの時、コルドスの前で死を待つしかなかった私を助けて頂いた時、ハヤト様のお姿は正に勇者、いえ、紙の御遣いの如きお姿でした。
あの時、私の心は決まりました。」
「え?ええ??」
以前の俺を世界征服のための戦力として欲していた、打算に溢れた求愛とは違う。
少女のその真剣な眼差しに、俺は情けなくも戸惑う。

「心よりお慕いしております、ハヤト様。
どうか私を、貴方様のお側にお置きください」

つづく
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

クロック
2022.12.23 クロック

内容は読んでて非常に好みなんですけど、「w」をかなり使いすぎです。
 戦闘やムフフな場面のような緊張感のある話で「w」を使われると一気に冷めていく感じがあるので、wではなく文章にして表現した方が読者としてはありがたいと思います。

HY
2022.12.24 HY

感想ありがとうございます!
「w」に関しては以前他サイトでもご指摘いただきましたので、徐々に減らしております。
煽る時以外では最近の話にはほぼ無いと思いますので、そこまでお読みいただけると幸いです。

解除
Papy
2022.07.17 Papy

4P風のシルヴィがよくわからない
いたずらはいいのに、エッチなことはダメ?

HY
2022.07.19 HY

ご指摘ありがとうございます、間違えてました。
修正いたしましたので、ご確認ください。

再序盤をお読みいただいてるってコトはご新規様でしょうか、ありがとうございます。
これからもチョコチョコ間違えてる箇所があるかと思いますが、見捨てずお読みいただけると幸いです。

解除
mikan@23
2022.01.22 mikan@23

19,20話あたりの戦争は日本では昔話、外国では今の話、、

HY
2022.02.07 HY

戦争には色々な考え方があると思いますが、みんなが『出来るだけ避けるべき事だ』、とは思ってて欲しいと思います。

解除

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。