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皇女アルミラの楽しい世界征服
帝国皇宮 翡翠宮 その4
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「其方が王国が異世界より召喚した勇者か。なるほど、これは強そうじゃ」
「滅相もございません」
玉座に座る少女、第一皇女アルミラの値踏みするような視線にさらされながら、俺は深々と頭を下げる。
「ふん、謙遜するでないわ。
其方に我ら帝国がどれ程煮え湯を飲まされた事か…。
数度の侵攻は全てこちらからのだったとは言え、我らの兵を皆殺しにするとは異常であろう。
あの者らにも親や妻、子もおったであろうに、無慈悲にも程があるのじゃ。
此度の父上の崩御も、先だってのミュール侵攻の失敗による心労によるモノなのじゃ。
これは間接的に其方がー…」
「殿下!」
「…ふん」
横に侍る大男の一声で、なんとかアルミラの嫌味は終わったが、これはなんとも針の筵だ。
俺はキレそうになるのを必死に堪えた。
今までの俺と帝国との関係を考えれば当然と言えば当然なのだが、
呼ばれたから遠路はるばる、わざわざ弔問に来てやったというのに、会って早々嫌味を言われるとは。
女王から対魔王のために、帝国との和平を進めたい、という意向を聞いてる以上、俺がもめ事を起こすワケにはいかないが、いつまでもガマン出来る気もしない。
これはさっさと退散すべきか…そんな事を考えていると、
「ふむ、思ったよりは理性的ではないか、フラジミル」
「陛下…」
フラジミルと呼ばれた大男が、やれやれと言った顔を肩をすくめる。
「ハヤト殿、申し訳なかった。
こちらとしては貴殿が如何様な人物かわからなかったので、少々試させてもらった。
気を悪くされたであろう、許されよ」
フラジミルがアルミラに代わって俺に謝意を述べ、頭を下げる。
当のアルミラはと言えば、少しだけ申し訳なさそうな、それでいて悪戯っ子のような顔で俺を見下ろしている。
どうやら、二人による小芝居だったようだ。
『危ね…キレないでよかった…』
俺は平静を装い、胸を撫で下ろしながら、
「いえ、私と帝国とのこれまでの事を思えば、殿下の御言葉は当然でしょう」
先方の謝意を受け入れ、頭を下げる。
「報告では其方の為人、『悪逆無道で思慮浅く短気、尊大にして色を好む』とあったのでな。
我の嫌味にすぐに激昂する愚か者かを試させてもろうたのじゃ」
玉座に座る悪戯っ子は悪びれる様子もないが、隣の大男フラジミルは最初より少し小さくなった気がする。
この大男、見た目より良いヤツなのかもしれない。
さっき俺を睨み付けてたのは、アルミラの暴言で逆上した俺が彼女に襲い掛からないよう気を張っていただけかもしれないな。
しかし誰だ、そんなデタラメな報告をしたヤツは!一個も合ってないじゃないか。
そんな無能なヤツ、解任した方がいいんじゃないか?
「我が国では異世界からの召喚をしておらぬ故、異世界勇者と呼ばれる者がどの様な人物か気になってな。
此度の大葬に合わせて其方を呼び立てたのじゃ、遠路はるばる大儀であったの」
「勿体ない御言葉」
俺は改めて頭を下げる。どうやら皇女殿下による人格試験は合格のようだ。
「しかしなんとも、よい面構えよのう、フラジミル」
「はっ、当代一の勇者の呼び名は誇張ではございませぬ」
「ふむ、お前がそこまで褒めるとはのぉ…」
アルミラは少し視線を宙に漂わせると、何か思いついたようで口元が緩む。
「ハヤト殿」
「はい、殿下」
「我の横に侍るこの大男、名はフラジミルというのじゃが、我が帝国の軍務は全てこの男に任せておる。
百戦錬磨の武人でな、言うなれば帝国の勇者、といった所じゃ」
「はい、その様にお見受けします」
俺は『帝国の勇者』の名に、心から賛同した。この男の持つオーラは勇者の名に相応しい。
「崩御した父上もフラジミルを大層気に入っておってな。
余りにも贔屓にするものじゃから、我の兄などは帝位をフラジミルに譲るのではと疑心暗鬼になったほどじゃ」
「それはそれは…」
一体この姫様は何の話をしているのだろう?
この小さな悪戯っ子の真意を測りかねていると、
「どうじゃろう、このフラジミルと仕合ってみぬか?」
「えっ?」
あまりに想像外の言葉に俺は思わず驚きの声を…いや、想像外じゃない。
さっき予行演習に聞かされてたので驚きは少なかった。
むしろ一兵士の暴走だと思っていた事を、権力者の口から改めて聞いた事に驚いたのだ。
「そのお話は先程も伺ったのですが…」
「なんじゃ、気の早い者がおったようじゃのぉ」
アルミラはニヤニヤと笑い、フラジミルは俺の横に控えるミーナを睨み付けている。
どうやら示し合わせた事ではなく、個別でに二人からお願いされているようだ。
「いやそれは…」
そんな面倒事、まっぴらごめんだ。
俺は一旦言葉を濁、どうやって断ろうか考えていると、
「カルザスを明け渡し、その上ダール平原も割譲したのじゃ。
父を亡くし失意の底にいる我のささやかな望み、叶えてくれても良いのではないか?」
「そ、それは…っ!」
それはソッチが攻めて来て負けた結果でしょ!と、言いたいのをぐっと堪える。
しどろもどろになっている俺を見かねたのか、
「殿下、少々お戯れがすぎるのでは?」
アークストルフが口を開く。これでアルミラが引き下がってくれればいいのだが…。
「なるほど、戯れかっ!戯れであれば褒美を考えねばな!」
アークストルフの言葉にアルミラは逆に勢いづき、
「フラジミルが勝てば、ハヤト殿が我の元へ婿入りする、と言うのはどうじゃろうか?」
つづく
「滅相もございません」
玉座に座る少女、第一皇女アルミラの値踏みするような視線にさらされながら、俺は深々と頭を下げる。
「ふん、謙遜するでないわ。
其方に我ら帝国がどれ程煮え湯を飲まされた事か…。
数度の侵攻は全てこちらからのだったとは言え、我らの兵を皆殺しにするとは異常であろう。
あの者らにも親や妻、子もおったであろうに、無慈悲にも程があるのじゃ。
此度の父上の崩御も、先だってのミュール侵攻の失敗による心労によるモノなのじゃ。
これは間接的に其方がー…」
「殿下!」
「…ふん」
横に侍る大男の一声で、なんとかアルミラの嫌味は終わったが、これはなんとも針の筵だ。
俺はキレそうになるのを必死に堪えた。
今までの俺と帝国との関係を考えれば当然と言えば当然なのだが、
呼ばれたから遠路はるばる、わざわざ弔問に来てやったというのに、会って早々嫌味を言われるとは。
女王から対魔王のために、帝国との和平を進めたい、という意向を聞いてる以上、俺がもめ事を起こすワケにはいかないが、いつまでもガマン出来る気もしない。
これはさっさと退散すべきか…そんな事を考えていると、
「ふむ、思ったよりは理性的ではないか、フラジミル」
「陛下…」
フラジミルと呼ばれた大男が、やれやれと言った顔を肩をすくめる。
「ハヤト殿、申し訳なかった。
こちらとしては貴殿が如何様な人物かわからなかったので、少々試させてもらった。
気を悪くされたであろう、許されよ」
フラジミルがアルミラに代わって俺に謝意を述べ、頭を下げる。
当のアルミラはと言えば、少しだけ申し訳なさそうな、それでいて悪戯っ子のような顔で俺を見下ろしている。
どうやら、二人による小芝居だったようだ。
『危ね…キレないでよかった…』
俺は平静を装い、胸を撫で下ろしながら、
「いえ、私と帝国とのこれまでの事を思えば、殿下の御言葉は当然でしょう」
先方の謝意を受け入れ、頭を下げる。
「報告では其方の為人、『悪逆無道で思慮浅く短気、尊大にして色を好む』とあったのでな。
我の嫌味にすぐに激昂する愚か者かを試させてもろうたのじゃ」
玉座に座る悪戯っ子は悪びれる様子もないが、隣の大男フラジミルは最初より少し小さくなった気がする。
この大男、見た目より良いヤツなのかもしれない。
さっき俺を睨み付けてたのは、アルミラの暴言で逆上した俺が彼女に襲い掛からないよう気を張っていただけかもしれないな。
しかし誰だ、そんなデタラメな報告をしたヤツは!一個も合ってないじゃないか。
そんな無能なヤツ、解任した方がいいんじゃないか?
「我が国では異世界からの召喚をしておらぬ故、異世界勇者と呼ばれる者がどの様な人物か気になってな。
此度の大葬に合わせて其方を呼び立てたのじゃ、遠路はるばる大儀であったの」
「勿体ない御言葉」
俺は改めて頭を下げる。どうやら皇女殿下による人格試験は合格のようだ。
「しかしなんとも、よい面構えよのう、フラジミル」
「はっ、当代一の勇者の呼び名は誇張ではございませぬ」
「ふむ、お前がそこまで褒めるとはのぉ…」
アルミラは少し視線を宙に漂わせると、何か思いついたようで口元が緩む。
「ハヤト殿」
「はい、殿下」
「我の横に侍るこの大男、名はフラジミルというのじゃが、我が帝国の軍務は全てこの男に任せておる。
百戦錬磨の武人でな、言うなれば帝国の勇者、といった所じゃ」
「はい、その様にお見受けします」
俺は『帝国の勇者』の名に、心から賛同した。この男の持つオーラは勇者の名に相応しい。
「崩御した父上もフラジミルを大層気に入っておってな。
余りにも贔屓にするものじゃから、我の兄などは帝位をフラジミルに譲るのではと疑心暗鬼になったほどじゃ」
「それはそれは…」
一体この姫様は何の話をしているのだろう?
この小さな悪戯っ子の真意を測りかねていると、
「どうじゃろう、このフラジミルと仕合ってみぬか?」
「えっ?」
あまりに想像外の言葉に俺は思わず驚きの声を…いや、想像外じゃない。
さっき予行演習に聞かされてたので驚きは少なかった。
むしろ一兵士の暴走だと思っていた事を、権力者の口から改めて聞いた事に驚いたのだ。
「そのお話は先程も伺ったのですが…」
「なんじゃ、気の早い者がおったようじゃのぉ」
アルミラはニヤニヤと笑い、フラジミルは俺の横に控えるミーナを睨み付けている。
どうやら示し合わせた事ではなく、個別でに二人からお願いされているようだ。
「いやそれは…」
そんな面倒事、まっぴらごめんだ。
俺は一旦言葉を濁、どうやって断ろうか考えていると、
「カルザスを明け渡し、その上ダール平原も割譲したのじゃ。
父を亡くし失意の底にいる我のささやかな望み、叶えてくれても良いのではないか?」
「そ、それは…っ!」
それはソッチが攻めて来て負けた結果でしょ!と、言いたいのをぐっと堪える。
しどろもどろになっている俺を見かねたのか、
「殿下、少々お戯れがすぎるのでは?」
アークストルフが口を開く。これでアルミラが引き下がってくれればいいのだが…。
「なるほど、戯れかっ!戯れであれば褒美を考えねばな!」
アークストルフの言葉にアルミラは逆に勢いづき、
「フラジミルが勝てば、ハヤト殿が我の元へ婿入りする、と言うのはどうじゃろうか?」
つづく
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