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皇女アルミラの楽しい世界征服

帝国皇宮 翡翠宮 その2

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「素晴らしい…」
帝国皇宮翡翠宮に入った俺達は、一旦控えの間に通された。
そこでもアークストルフの興奮は治まらず、むしろより近くに感じる翡翠宮の荘厳さにやられっぱなしだ。

「大丈夫なのか、卿は?」
アークストルフのあまりの惚けっぷりに心配になった俺は、こっそりアルフリーヌに耳打ちする。
「御心配には及びません、今は気の置けない人しかいないので“こう”ですが、
他に人がいれば大丈夫ですわ。」
「そうか…」
確かに、この控えの間に通されるまでの廊下では普通だったしな、大丈夫なんだろう。
しかし、部屋の調度品や壁に架けられた絵画をブツブツ呟きながら鑑賞し続ける彼の姿は少し異常で、また近寄り難くなっていた。
せっかく俺の屋敷で随分打ち解けたと思っていたのだが…。

「オスル王国の皆様、お待せして申し訳ございませんでした。」
俺達は控えの間に通されて10分程で玉座の間へ呼ばれた。
アークストルフが少し名残惜しそうな顔をしていて、俺は軽く引いた。

部屋を出ると兵士が二人。
ミーナとヘインズと名乗った兵士に先導され、俺達は長い廊下を進む。
先を歩くアークストルフは、ヘインズに壁の調度品なんかの説明を受けながら、
楽しそうに歩いている。

後ろを歩く俺とアルフリーヌは、ミーナと名乗った女兵士の後ろに続きながら、
「もっと待たされるかと思ったが…」
「帝国がそれほど王国を大事に考えているのですわ」
「だとイイんだが…」

二人でコソコソ話をしながら歩いていると、
「失礼、オスル王国の勇者様は…」
突然、先導してくれていたミーナが背中越しに話し掛けて来た。
その口調には少し、怒気をはらんでいるような?
「俺だけど…なんだ、こんな所で話し掛けてくるなんて、随分不躾だな」
「失礼致しました。只の兵卒が話し掛けられる機会は今しかない、と…」
「なるほどな。で、要件は?恨み言位なら聞いてやるぞ?」
「貴方に恨みがない帝国軍人はいませんからね。ですが、そんな事ではございません。」
やはり俺は帝国では悪者のようだ。
しかしまぁ、背中越しなので彼女の表情は見えないが、一体どんな顔してこんな話してるんだ、コイツは?

「じゃあなんだよ?」
俺は少し苛立ちを隠せなくなってきて、つい乱暴な物言いになってしまう。
それがおかしかったのか、狙い通りだったのか、笑いを堪えるように彼女の肩が小さく震える。
そして、
「私の上官と仕会ってはいただけませんか?」
「え?」
余りに突飛な要求に俺は面食らってしまった。
だが、問題なのはアルフリーヌの方だった。

「失礼なっ!弔問に訪れた客に対して仕会えなんて、無礼にも程がありますわっ」
「オチビちゃんは黙ってて。私は勇者様と話しているの」
「なっ?!」
俺に代わって激昂したアルフリーヌがあっさりいなされる。
可愛い弟子を侮辱されては俺も黙っていられない。
だが、これがコイツの策だとしたら…?

「他国の弔問客をオチビちゃん扱いとはな。それで俺が逆上して仕会いを飲む…なんて考えてんのか?」
「貴方は好戦的な人だと思ってたんですが…思ったより理知的なのですね」
「いつも一方的に攻めて来るお前らが言うのかよ?」
「…そうですね、申し訳ありません」
図星を突かれたのが効いたのか、ミーナは黙ってしまった。

廊下を黙ったまま歩く俺達。その沈黙に耐えきれなくなった俺は、
「…で、誰が俺と仕会いたいんだよ?」
「ハ、ハヤト様っ?!」
俺から話し掛けた事にアルフリーヌが驚く。

「大声を出すな、卿に聞こえる」
「あっ…で、でもっ」
アルフリーヌは前方を少し離れて歩くアークストルフの方を慌てて確認するが、
彼は案内役との会話に夢中でこちらには気付いてないようだ。

「それは、仕会っていただける、という事でしょうか?」
「取り敢えず聞いただけだよ。で、誰なんだよ?
アンタも強そうだが…俺とヤれるレベルじゃないだろ」
「そうですね、私であったなら…」
彼女の手が少し動きー。

「…すみませんでした。」
「わかればイイよ、もういいぞ、アルフリーヌ」
「はいですわ、ハヤト様」
ミーナの脇腹に突きつけられた貫手をアルフリーヌが収める。

「オチビちゃんなどと侮辱した事、お詫び申し上げます」
「いえ、相手に侮られた私の不徳ですわ」
「王国では貴族の令嬢が近衛騎士団に入団し鍛えられる、と聞いた事がありますが…」
「ああ、彼女は団員で俺の弟子でもある。嘗めてると痛い目見るぞ?」
「ご忠告、感謝いたします。」

「ハヤト殿、どうかしたのかね?」
後方の俺達の不穏な空気を感じたのか、前にいたアークストルフが振り返って尋ねる。
「いえ、何も。私達もこの宮殿の事を彼女に教えてもらってたんですよ、なあアルフリーヌ?」
「…ええ、そうですわ。」
「ならいいが…もう少しで玉座の間だ。気を引き締めて、失礼のないようにな」
「「はい」」

「いやすまなかった、案内を続けてくれ」
アークストルフは前に向き直り、先導の兵士に声を掛ける。
俺達はそんなアークストルフの背中に向かって頭を下げる。
が、俺は見落とさなかった。彼の口元がうっすら笑っていたのを。
『あのオヤジ、コッチが揉めてたの気付いてたな!』
彼は助け舟を出したつもりだったのだろう、だが、
『もう少し早目に出してくれよ!』
俺は心の中でアークストルフへの不満を叫んだー。

つづく
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