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踊る会議と新しい仲間

今後の方針 その1

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広い邸宅のこれまた広く豪華な部屋の中、
部屋の瀟洒さに似つかわしくない、重苦しい空気が充満している。

部屋の中央には重厚な造りの立派なソファが置かれている。
そのソファの前に、険しい顔のメイド数人を侍らせた猫耳のメイドが仁王立ちしている。
メイドの前には、ソファに座り、鍛えられた体を小さく縮こませる男が一人…。

「はあぁぁぁ~~~~ぁ。」
猫耳のメイドが、恐ろしく長く重いため息を吐く。
男の体はさらに縮こまる。

「私、ご主人様がここを発たれる前、言いましたよね?
“ロッテンには気を付けろ”って、言いましたよね?」
「…はい、聞きました。」
「じゃあなんで、こんな事になってるんですか?」
「いや、アイツが何かしたワケじゃ…。」
「あの者は知恵が回るので注意するよう、お伝えしましたよね?」
「…はい、聞きました。」
「搦め手の可能性はお考えにならなかったんですか?」
「…一応、気を付けてはいたんだけど…。」
「道祖様の事もありますし、多少は仕方ないとは思いますが…。」
マイヤーはコメカミを押さえ頭を振る。
今回の旅行は、かなりマイヤーの頭を悩ませる結果になったようだ。

「スエン。」
「は、はいぃっ!」
部屋の隅で気配を消していたスエンが飛び跳ねる。

「貴女が付いていながら…どういう事ですか?
しっかりお世話する様、申し付けたはずですよ?」
「え~それがそのぉ~…面目ございません~…。
御主人様がぁ我々の認識以上にぃ、絶倫でぇ…。」
「貴女が手に負えないほど?」
「はいぃ。あんなのぉ初めてでしたぁ~。
あ♡思い出したらぁ…♡」
スエンは思わず腰をくねらせる。

「…うらやましい。」
スエンの弁解にマイヤーは思わず呟く。

「えぇ~?何かおっしゃいましたぁ~?」
「気のせいですっ。
…致してしまった事は致し方ありません。
問題はエイク様をどうするか、です。」
気を取り直したマイヤーが、話を進める。

「あのー。別に放っておけばいいんじゃないですか?
そのつもりで部屋に入ったんでしょ?自業自得じゃないですか?
ってゆーか、羨ましいんですけどね?
ボクは部屋に来るなって言われたから行かなかったのに…っ。
言う事聞かないで、お部屋に行ってればよかったですよっ!」
「…貴女が羨ましがるのはちょっと置いておいて…。
その辺の町娘ならいざ知らず、貴族の御令嬢を好き放題しておいて、
知らぬ存ぜぬはさすがに…勇者としての外聞もあります。」
カシネは不服そうにしているが、彼女の提案はマイヤーにあっさり却下される。
いや、当然か。
しかし、カシネはこの旅でも手を出さなかったのを、
未だに怒ってるようだな…こちらも当然か。

「別に、妃として迎えればいいじゃないか。
御子でも成されれば、ハヤト様もこの世界に腰を落ち着けていただけるし、
御仕えする我らには喜ばしいことじゃないか。」
ルヴォークの発言に、横にいたマーサが大きく頷く。

「それは私共の望みであって、ハヤト様のご希望ではございません。
従者として主に自身の望みを押し付けるのは、間違いでは?」
そう言うと、チェーレがルヴォークとマーサを咎めるように睨む。

「まぁまぁ。お嬢様を放っておくワケにはいかない以上、迎えるのは確定なんだからさ。
アタシらの望みとか、ハヤト様の望みとか、ちょっと置いとこうよ。」
部屋の中、一人だけ支給のメイド服を着ていない者が…ロッテンだ。
彼女はエイクの従者として、マルクタス家から付いて来たのだ。

「貴女…誰のせいでこうなってるか、わかってるの?」
マイヤーが睨み付けるが、ロッテンは意に介さず、
「え?ハヤト様が何も考えずにヤリまくったせいでしょ?」
「…その手はやめなさい。」
マイヤーがロッテンの卑猥なハンドサインを咎める。
マイヤーとロッテンは同郷の幼馴染だ。
他のメイドと違い、ロッテンにはマイヤーの[睨み]が効かない。

「アタシ隣の部屋で覗いてたんだけど、スゴかったからね、ハヤト様っ。
お嬢様が壊されちゃうかと思ったものっ!
あ♡思い出したら…♡」
ロッテンとスエンが腰をくねらす。

「貴女がどうしてもと言うから、会議への参加は許可しましたが、
不必要な発言は控えて頂戴っ。」
「あー怖いっ。
でもまぁ、お嬢様が騎士団を退団するのはまだ先だし、
今から考えても始まらないんじゃない?」
「何を暢気なっ。」
「それじゃあ例えば、お嬢様がココへ来る前に、ハヤト様がもぉっと位の高い貴族の御令嬢と婚姻を結んで、
お嬢様を下位の妃や、愛妾として迎えるっていうのは?」
「いやいや、妃でも妾でも、迎えるのが問題で…っ。」
俺はロッテンの策を否定する。

俺の基本方針は[ここに人間を迎え入れない]だ。
これは、そもそも俺がこの世界の人間ではないからで、
公爵という地位とアルレンスという領土があるが、これらもいつかは王国へ返還するモノと思っている。
それが、この世界の人間と子供を作ってしまったり、外戚関係になったりすれば面倒になるからだ。
ロッテンの策では単に、エイクの処遇の話になっている。
俺としてはエイクをここへ迎えないで済む方法を考えてほしい。

「いえ、案外良い策かもしれません。」
「えぇっ?!」
俺は妙に納得しているマイヤーに困惑するー。

つづく
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