上 下
141 / 224
私を水の都へ連れてって

水の大聖堂と水の精霊帝 その5

しおりを挟む
ウンディーヌは大きなため息をひとつ…。
「本来精霊とは一途な存在…。
アスカよ、其方の一途さ、実に気に入った。
そこで、其方が望むのであれば…我と契約せぬか?」
「えっ?契約ですかっ?」
突然のウンディーヌからの申し出に、道祖は驚く。
「どうだろうか?それとも、我とでは…。」
「とんでもないっ!あ、ありがとうごー…っ。」
「なんでっ?!」
黙ってウンディーヌと道祖のやり取りを聞いていたエイクが叫ぶ。

「何でですかウンディーヌ様っ!
私達はもう、15年の付き合いにはなるのにっ!
未だに私とは契約してくださらないのにっ!
今日初めて会った異世界人とは契約なさるなんてっ!
貴女も他の精霊帝と何も変わらないっ!
そうやって、異世界に行ってしまうんだっ!!」
興奮してつい言ってしまったのだろう、すぐに自分が言った事を後悔する。

「あっ、いやっ!すいませんっ!これは、そのっ?!」

ーぎゅっー
ウンディーヌは、しどろもどろに弁明するエイクを優しく抱き締める。
泣き喚く赤子をあやす母のように。

「…我は契約に、人と親しくするのに、少し怯えておったようだ…。
だが、気が変わった、お前とも契約を結ぼう。
待たせてすまなんだな、エイク。」
「っウンディーヌ様っ!」
抱き締められたエイクは、あまりの嬉しさに、泣き出してしまう。

「はは、大きい赤子よのぉ。」
ウンディーヌはいとおしそうにエイクの頭を撫でている。

「あの~。」
そこへカシネが恐る恐る声をかける。
「何か?」
ウンディーヌがエイクを撫でる手を止め、カシネに向き直す。
「ボク、ハヤト様のメイドで、カシネと言います。
えっと、ウンディーヌ様!
ボクとも契約してくれませんかっ!?」
「ほぉ…アノ男の。」
「私の名前は神前凛っ、異世界人だっ!
是非私とも契約をっ!」
カシネのウンディーヌの話に、神前が割り込む。

「ちょっとリン様っ!ボクの話が途中ー…っ!」
「すまんっ!だがもう我慢出来んっ!
私は魔法剣士になりたいんだっ!
ウンディーヌ様、どうか私と契約をっ!」
「ハヤト様のお友達だからってズルいですよっ!ボクだって魔法剣士になりたいんですっ!
ウンディーヌ様っ!ボクと契約をっ!」
カシネと神前が同時にウンディーヌに契約をせがむ。

「…どちらが契約するか、勝負するかっ?!」
「良いですよ、受けて立ちますよっ!」
「…お前とはいつぞやの死合いの決着が着いてなかったな…。」
二人は一触即発、今にも刀を抜きそうだ。

「はははは、争わずとも良い。
我は今機嫌が良い、二人とも契約しよう。」
ウンディーヌは上機嫌に二人に笑いかける。
「本当かっ!?」
「やった!」
「じゃあ俺もっ!」
「良いぞ良いぞ、皆まとめて契約しようっ!
……ん??」

ウンディーヌがカシネと神前を見ると、その横にちゃっかり並んだ俺がいる。
「なっ?!き、貴様っ!何をしれっと!貴様はダメだっ!!」
ウンディーヌが慌てて契約の件をなかった事にしようとしたので、
「あれぇ~、誇り高き精霊帝ともあろう方が、約束を反故にされるんですかぁ?
えぇぇ、ガッカリだなぁ~。信じられないなぁ~。」

「ガ…ッ、ぐぅ…っ!ぬぅぅ~…っ!」
俺に煽られ、その美しい顔を百面相の様に変化させたウンディーヌは、
「…気が変わった。
我をたばかる痴れ者に、惚れるような輩供と契約など出来るものかっ!
二度とこの大聖堂の扉、潜るでないぞっ!」
「なっ??!!」
「おまっ!何やってっ!」
「いやっ、じょ、冗談でしれっといけるかなって!」
「ハヤト様のバカぁっ!」
俺達の声は耳に入らないのか、
踵を返し俺達に背を向けたウンディーヌは、黙って奥の部屋へと向かう。

「ま、待って!お待ちくださいっ!」
俺は思わずウンディーヌの腕を掴む。
「!貴様っ!」
振返ったウンディーヌの表情が、怒りから一瞬驚きに変わり、すぐに険しい顔に戻る。

「…っ離せ、下郎がっ。」
「俺の悪ふざけは謝罪しますっ!申し訳ありませんでしたっ!
だからっ道祖達の契約だけは、お願いしますっ!」
「ほぉ…貴様はよいのか?」
「当然ですっ。ですから、他の者達はどうかっ!」
俺はウンディーヌを見つめ、懇願する。

ウンディーヌは俺の顔をしばらく黙って見ていたが、フイッと視線を外し、
「…痛い。」
「え?」
「腕が痛いっ!」
「うわっ!ご、ごめんなさいっ!」
俺は慌てて、力いっぱい握っていたウンディーヌの手を離す。

「…まったく…。」
「すいませんっ!すいませんっ!」
痛そうに腕をさするウンディーヌに、俺は平謝りだ。
うぅ、さらに心象が悪くなってしまった…。
これで道祖達の契約もホントに無くなったら…。
俺は契約出来ず泣いている皆の姿を想像する。
神前は怒って斬り掛かってきそうだが…。

道祖の、好きな娘の悲しむ顔なんて見たくないっ!
しかも俺のせいなんて、そんなの絶対イヤだっ!
「精霊帝様っ!どうか道祖達との契約はー…っ」
俺は腰が折れる程頭を下げ、ウンディーヌに再度懇願する。

「…わかった。
貴様の真剣さに免じ、そこな者達との契約を結ぼう。精霊帝に二言などあるものか。」
「よ…良かっ!ありがとうございますっ!」
俺はウンディーヌの言葉に安堵し、その場にへたり込んでしまった。

「大丈夫っ?!高御座君っ!」
「ハヤト様っ!御気を確かにっ!」
「ハヤト様ぁっ!」
皆が俺の側に駆け寄り、助け起こしてくれる。

「はは…。マジで焦ったぁ~…。
俺のせいで皆が契約出来ないかもと思ったら…。」
「お前が悪ふざけなんかするからっ!」
「ホント、面目ない。
ごめんな、みんな。俺のせいで…。」
「もおいいよ、ウンディーヌ様も許してくださったんだしっ!」
良かった…本当に良かった。
これで道祖の悲しむ顔も見ないですむ。

「おい、貴さ……ハ…ハヤト…。」
「?!はいっ!何ですかっ?!」
ウンディーヌが俺の名前をっ?!
俺だけではなく、皆も驚いている。

「…精霊帝に二言ナシと言うたであろう。
…貴様とも契約してやる。」
「え?お、俺ともですかっ?!」
信じられない俺に、ウンディーヌは黙ってうなずく。

「う~~~~~っ!
やったぁっ!ウンディーヌ様、ありがとうございますっ!」
「き、貴様は我が名を呼ぶなっ!水の精霊帝様と呼べっ!」
「えー、照れちゃってぇ。」
「きっ、貴様ぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」

水の大神殿に、ウンディーヌの怒号が響いたー。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について

ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに…… しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。 NTRは始まりでしか、なかったのだ……

男女比の狂った世界で愛を振りまく

キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。 その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。 直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。 生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。 デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。 本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

【18禁】ゴブリンの凌辱子宮転生〜ママが変わる毎にクラスアップ!〜

くらげさん
ファンタジー
【18禁】あいうえおかきくけこ……考え中……考え中。 18歳未満の方は読まないでください。

【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。

飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。 ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。 そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。 しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。 自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。 アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!

処理中です...