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私を水の都へ連れてって
水の大聖堂と水の精霊帝 その5
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ウンディーヌは大きなため息をひとつ…。
「本来精霊とは一途な存在…。
アスカよ、其方の一途さ、実に気に入った。
そこで、其方が望むのであれば…我と契約せぬか?」
「えっ?契約ですかっ?」
突然のウンディーヌからの申し出に、道祖は驚く。
「どうだろうか?それとも、我とでは…。」
「とんでもないっ!あ、ありがとうごー…っ。」
「なんでっ?!」
黙ってウンディーヌと道祖のやり取りを聞いていたエイクが叫ぶ。
「何でですかウンディーヌ様っ!
私達はもう、15年の付き合いにはなるのにっ!
未だに私とは契約してくださらないのにっ!
今日初めて会った異世界人とは契約なさるなんてっ!
貴女も他の精霊帝と何も変わらないっ!
そうやって、異世界に行ってしまうんだっ!!」
興奮してつい言ってしまったのだろう、すぐに自分が言った事を後悔する。
「あっ、いやっ!すいませんっ!これは、そのっ?!」
ーぎゅっー
ウンディーヌは、しどろもどろに弁明するエイクを優しく抱き締める。
泣き喚く赤子をあやす母のように。
「…我は契約に、人と親しくするのに、少し怯えておったようだ…。
だが、気が変わった、お前とも契約を結ぼう。
待たせてすまなんだな、エイク。」
「っウンディーヌ様っ!」
抱き締められたエイクは、あまりの嬉しさに、泣き出してしまう。
「はは、大きい赤子よのぉ。」
ウンディーヌはいとおしそうにエイクの頭を撫でている。
「あの~。」
そこへカシネが恐る恐る声をかける。
「何か?」
ウンディーヌがエイクを撫でる手を止め、カシネに向き直す。
「ボク、ハヤト様のメイドで、カシネと言います。
えっと、ウンディーヌ様!
ボクとも契約してくれませんかっ!?」
「ほぉ…アノ男の。」
「私の名前は神前凛っ、異世界人だっ!
是非私とも契約をっ!」
カシネのウンディーヌの話に、神前が割り込む。
「ちょっとリン様っ!ボクの話が途中ー…っ!」
「すまんっ!だがもう我慢出来んっ!
私は魔法剣士になりたいんだっ!
ウンディーヌ様、どうか私と契約をっ!」
「ハヤト様のお友達だからってズルいですよっ!ボクだって魔法剣士になりたいんですっ!
ウンディーヌ様っ!ボクと契約をっ!」
カシネと神前が同時にウンディーヌに契約をせがむ。
「…どちらが契約するか、勝負するかっ?!」
「良いですよ、受けて立ちますよっ!」
「…お前とはいつぞやの死合いの決着が着いてなかったな…。」
二人は一触即発、今にも刀を抜きそうだ。
「はははは、争わずとも良い。
我は今機嫌が良い、二人とも契約しよう。」
ウンディーヌは上機嫌に二人に笑いかける。
「本当かっ!?」
「やった!」
「じゃあ俺もっ!」
「良いぞ良いぞ、皆まとめて契約しようっ!
……ん??」
ウンディーヌがカシネと神前を見ると、その横にちゃっかり並んだ俺がいる。
「なっ?!き、貴様っ!何をしれっと!貴様はダメだっ!!」
ウンディーヌが慌てて契約の件をなかった事にしようとしたので、
「あれぇ~、誇り高き精霊帝ともあろう方が、約束を反故にされるんですかぁ?
えぇぇ、ガッカリだなぁ~。信じられないなぁ~。」
「ガ…ッ、ぐぅ…っ!ぬぅぅ~…っ!」
俺に煽られ、その美しい顔を百面相の様に変化させたウンディーヌは、
「…気が変わった。
我をたばかる痴れ者に、惚れるような輩供と契約など出来るものかっ!
二度とこの大聖堂の扉、潜るでないぞっ!」
「なっ??!!」
「おまっ!何やってっ!」
「いやっ、じょ、冗談でしれっといけるかなって!」
「ハヤト様のバカぁっ!」
俺達の声は耳に入らないのか、
踵を返し俺達に背を向けたウンディーヌは、黙って奥の部屋へと向かう。
「ま、待って!お待ちくださいっ!」
俺は思わずウンディーヌの腕を掴む。
「!貴様っ!」
振返ったウンディーヌの表情が、怒りから一瞬驚きに変わり、すぐに険しい顔に戻る。
「…っ離せ、下郎がっ。」
「俺の悪ふざけは謝罪しますっ!申し訳ありませんでしたっ!
だからっ道祖達の契約だけは、お願いしますっ!」
「ほぉ…貴様はよいのか?」
「当然ですっ。ですから、他の者達はどうかっ!」
俺はウンディーヌを見つめ、懇願する。
ウンディーヌは俺の顔をしばらく黙って見ていたが、フイッと視線を外し、
「…痛い。」
「え?」
「腕が痛いっ!」
「うわっ!ご、ごめんなさいっ!」
俺は慌てて、力いっぱい握っていたウンディーヌの手を離す。
「…まったく…。」
「すいませんっ!すいませんっ!」
痛そうに腕をさするウンディーヌに、俺は平謝りだ。
うぅ、さらに心象が悪くなってしまった…。
これで道祖達の契約もホントに無くなったら…。
俺は契約出来ず泣いている皆の姿を想像する。
神前は怒って斬り掛かってきそうだが…。
道祖の、好きな娘の悲しむ顔なんて見たくないっ!
しかも俺のせいなんて、そんなの絶対イヤだっ!
「精霊帝様っ!どうか道祖達との契約はー…っ」
俺は腰が折れる程頭を下げ、ウンディーヌに再度懇願する。
「…わかった。
貴様の真剣さに免じ、そこな者達との契約を結ぼう。精霊帝に二言などあるものか。」
「よ…良かっ!ありがとうございますっ!」
俺はウンディーヌの言葉に安堵し、その場にへたり込んでしまった。
「大丈夫っ?!高御座君っ!」
「ハヤト様っ!御気を確かにっ!」
「ハヤト様ぁっ!」
皆が俺の側に駆け寄り、助け起こしてくれる。
「はは…。マジで焦ったぁ~…。
俺のせいで皆が契約出来ないかもと思ったら…。」
「お前が悪ふざけなんかするからっ!」
「ホント、面目ない。
ごめんな、みんな。俺のせいで…。」
「もおいいよ、ウンディーヌ様も許してくださったんだしっ!」
良かった…本当に良かった。
これで道祖の悲しむ顔も見ないですむ。
「おい、貴さ……ハ…ハヤト…。」
「?!はいっ!何ですかっ?!」
ウンディーヌが俺の名前をっ?!
俺だけではなく、皆も驚いている。
「…精霊帝に二言ナシと言うたであろう。
…貴様とも契約してやる。」
「え?お、俺ともですかっ?!」
信じられない俺に、ウンディーヌは黙ってうなずく。
「う~~~~~っ!
やったぁっ!ウンディーヌ様、ありがとうございますっ!」
「き、貴様は我が名を呼ぶなっ!水の精霊帝様と呼べっ!」
「えー、照れちゃってぇ。」
「きっ、貴様ぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」
水の大神殿に、ウンディーヌの怒号が響いたー。
つづく
「本来精霊とは一途な存在…。
アスカよ、其方の一途さ、実に気に入った。
そこで、其方が望むのであれば…我と契約せぬか?」
「えっ?契約ですかっ?」
突然のウンディーヌからの申し出に、道祖は驚く。
「どうだろうか?それとも、我とでは…。」
「とんでもないっ!あ、ありがとうごー…っ。」
「なんでっ?!」
黙ってウンディーヌと道祖のやり取りを聞いていたエイクが叫ぶ。
「何でですかウンディーヌ様っ!
私達はもう、15年の付き合いにはなるのにっ!
未だに私とは契約してくださらないのにっ!
今日初めて会った異世界人とは契約なさるなんてっ!
貴女も他の精霊帝と何も変わらないっ!
そうやって、異世界に行ってしまうんだっ!!」
興奮してつい言ってしまったのだろう、すぐに自分が言った事を後悔する。
「あっ、いやっ!すいませんっ!これは、そのっ?!」
ーぎゅっー
ウンディーヌは、しどろもどろに弁明するエイクを優しく抱き締める。
泣き喚く赤子をあやす母のように。
「…我は契約に、人と親しくするのに、少し怯えておったようだ…。
だが、気が変わった、お前とも契約を結ぼう。
待たせてすまなんだな、エイク。」
「っウンディーヌ様っ!」
抱き締められたエイクは、あまりの嬉しさに、泣き出してしまう。
「はは、大きい赤子よのぉ。」
ウンディーヌはいとおしそうにエイクの頭を撫でている。
「あの~。」
そこへカシネが恐る恐る声をかける。
「何か?」
ウンディーヌがエイクを撫でる手を止め、カシネに向き直す。
「ボク、ハヤト様のメイドで、カシネと言います。
えっと、ウンディーヌ様!
ボクとも契約してくれませんかっ!?」
「ほぉ…アノ男の。」
「私の名前は神前凛っ、異世界人だっ!
是非私とも契約をっ!」
カシネのウンディーヌの話に、神前が割り込む。
「ちょっとリン様っ!ボクの話が途中ー…っ!」
「すまんっ!だがもう我慢出来んっ!
私は魔法剣士になりたいんだっ!
ウンディーヌ様、どうか私と契約をっ!」
「ハヤト様のお友達だからってズルいですよっ!ボクだって魔法剣士になりたいんですっ!
ウンディーヌ様っ!ボクと契約をっ!」
カシネと神前が同時にウンディーヌに契約をせがむ。
「…どちらが契約するか、勝負するかっ?!」
「良いですよ、受けて立ちますよっ!」
「…お前とはいつぞやの死合いの決着が着いてなかったな…。」
二人は一触即発、今にも刀を抜きそうだ。
「はははは、争わずとも良い。
我は今機嫌が良い、二人とも契約しよう。」
ウンディーヌは上機嫌に二人に笑いかける。
「本当かっ!?」
「やった!」
「じゃあ俺もっ!」
「良いぞ良いぞ、皆まとめて契約しようっ!
……ん??」
ウンディーヌがカシネと神前を見ると、その横にちゃっかり並んだ俺がいる。
「なっ?!き、貴様っ!何をしれっと!貴様はダメだっ!!」
ウンディーヌが慌てて契約の件をなかった事にしようとしたので、
「あれぇ~、誇り高き精霊帝ともあろう方が、約束を反故にされるんですかぁ?
えぇぇ、ガッカリだなぁ~。信じられないなぁ~。」
「ガ…ッ、ぐぅ…っ!ぬぅぅ~…っ!」
俺に煽られ、その美しい顔を百面相の様に変化させたウンディーヌは、
「…気が変わった。
我をたばかる痴れ者に、惚れるような輩供と契約など出来るものかっ!
二度とこの大聖堂の扉、潜るでないぞっ!」
「なっ??!!」
「おまっ!何やってっ!」
「いやっ、じょ、冗談でしれっといけるかなって!」
「ハヤト様のバカぁっ!」
俺達の声は耳に入らないのか、
踵を返し俺達に背を向けたウンディーヌは、黙って奥の部屋へと向かう。
「ま、待って!お待ちくださいっ!」
俺は思わずウンディーヌの腕を掴む。
「!貴様っ!」
振返ったウンディーヌの表情が、怒りから一瞬驚きに変わり、すぐに険しい顔に戻る。
「…っ離せ、下郎がっ。」
「俺の悪ふざけは謝罪しますっ!申し訳ありませんでしたっ!
だからっ道祖達の契約だけは、お願いしますっ!」
「ほぉ…貴様はよいのか?」
「当然ですっ。ですから、他の者達はどうかっ!」
俺はウンディーヌを見つめ、懇願する。
ウンディーヌは俺の顔をしばらく黙って見ていたが、フイッと視線を外し、
「…痛い。」
「え?」
「腕が痛いっ!」
「うわっ!ご、ごめんなさいっ!」
俺は慌てて、力いっぱい握っていたウンディーヌの手を離す。
「…まったく…。」
「すいませんっ!すいませんっ!」
痛そうに腕をさするウンディーヌに、俺は平謝りだ。
うぅ、さらに心象が悪くなってしまった…。
これで道祖達の契約もホントに無くなったら…。
俺は契約出来ず泣いている皆の姿を想像する。
神前は怒って斬り掛かってきそうだが…。
道祖の、好きな娘の悲しむ顔なんて見たくないっ!
しかも俺のせいなんて、そんなの絶対イヤだっ!
「精霊帝様っ!どうか道祖達との契約はー…っ」
俺は腰が折れる程頭を下げ、ウンディーヌに再度懇願する。
「…わかった。
貴様の真剣さに免じ、そこな者達との契約を結ぼう。精霊帝に二言などあるものか。」
「よ…良かっ!ありがとうございますっ!」
俺はウンディーヌの言葉に安堵し、その場にへたり込んでしまった。
「大丈夫っ?!高御座君っ!」
「ハヤト様っ!御気を確かにっ!」
「ハヤト様ぁっ!」
皆が俺の側に駆け寄り、助け起こしてくれる。
「はは…。マジで焦ったぁ~…。
俺のせいで皆が契約出来ないかもと思ったら…。」
「お前が悪ふざけなんかするからっ!」
「ホント、面目ない。
ごめんな、みんな。俺のせいで…。」
「もおいいよ、ウンディーヌ様も許してくださったんだしっ!」
良かった…本当に良かった。
これで道祖の悲しむ顔も見ないですむ。
「おい、貴さ……ハ…ハヤト…。」
「?!はいっ!何ですかっ?!」
ウンディーヌが俺の名前をっ?!
俺だけではなく、皆も驚いている。
「…精霊帝に二言ナシと言うたであろう。
…貴様とも契約してやる。」
「え?お、俺ともですかっ?!」
信じられない俺に、ウンディーヌは黙ってうなずく。
「う~~~~~っ!
やったぁっ!ウンディーヌ様、ありがとうございますっ!」
「き、貴様は我が名を呼ぶなっ!水の精霊帝様と呼べっ!」
「えー、照れちゃってぇ。」
「きっ、貴様ぁぁぁぁっっっっっっ!!!!」
水の大神殿に、ウンディーヌの怒号が響いたー。
つづく
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