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私を水の都へ連れてって

旅行は向かってる時が一番楽しい その8(ちょっと修羅場編

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「それでは、ワタクシは食材を採りに…。」
そう言うとエイクは馬に架けていた細身の剣を腰に差すと、
森の中へ入って行く。
「一人で大丈夫か?
俺も行こうか?」
ココへ来るまで、強いモンスターに会うことはなかったが、
心配になった俺はエイクを追おうとする。

「ご心配いただき、ありがとうございます!
でも、大丈夫ですよ。ここらはワタクシの庭みたいなものですから。
でも…。」
エイクは立ち止まると俺の方に振返り、
「人気のない森で二人きり…、
というのも、悪くありませんね。」
エイクがニヤッと微笑む。

「ちょっ、エイクさんっ?!」
「おまっ!いい加減にっ!」
「凛ちゃん、ダメッ!」
イタズラっぽく笑うエイクに、神前が掴みかかろうとし、
道祖がそれを止める。

「おお怖いっ!
では、ハヤト様、楽しみにお待ちください。」
エイクは大げさに怖がるフリをして、
スタスタと森に入って行き、その姿はすぐに見えなくなった。

「まったく、なんてヤツだっ!」
神前が根菜をボキボキ折りながら憤慨している。
「隼人君、あの人と長い間、ダンジョンで一緒だったの?」
道祖が何やら心配そうに聞いてくる。
なるほど、エイクと俺の間にナニかあったのではないか、
そう気になるワケだな?

「安心しろ、お前が気にするようなコトは何もなかったよ。」
俺は道祖の頭をポンポン撫でようと、そっと手を伸ばすが、
「なんでそんな上から目線なんだ、お前は。」
神前がその手を振り払い、俺を睨みつける。

「お前があの女にハッキリ帰れと言わないから、
こんな面倒になってるんだからな?」
神前は随分イライラしているようだ。
ボキボキに折った根菜を、今度はグシャグシャと握りつぶし、
葉物野菜をブチブチと引き裂いていく。

「…お前、包丁かナイフとかあるだろ…。」
俺は見るも無残な姿の野菜を見て呆れる。
「ふん、無知なヤツめ。」
「なにをっ?!」
神前が俺をバカにするように鼻で笑う。

「こうやって手でちぎった方が、
断面が潰れて味が染み込みやすいんだ。」
ドヤ顔の神前。
「おお、ちょっと本当っぽいな。
確かにこんにゃくをちぎるってのは聞いた事があるし…。」

「ただちょっと…見た目が減点ですねぇ~。
根菜はほぼ形が無いですし…。20点ですぅ~。」
「なんとっ?!」
俺の後ろから様子を見ていたスエンが顔を出し、
神前の下ごしらえを採点しだす。

「いつの間にか採点制になっていた…。」
「お料理勝負なのかと思いましてぇ~。」
神前は点数の低さに愕然としている。

「さて、サイト様はぁ~。」
スエンの視線は道祖に向けられる。
俺もまだブツブツ文句を言っている神前から道祖へ視線を移すと、
そこには数日前の手際の悪い道祖の姿はなかった。
作る料理の出来上がりの順、行程を逆算し、
テキパキと作業を進めていく。

「あらぁ、こちらはさすがぁ~。」
自分の料理する様を観察していたのを知っているのだろう。
まるで弟子の成長を喜ぶ師匠のような目で道祖を見ている。
「今の所ぉ、80点ってとこですかねぇ~。」

「そういえば、エイク様のお料理の腕前はどうなんです?」
手持無沙汰なのだろうか、カシネが葉っぱで船を作って流している。
「お、楽しそうな事してるな!
よし、俺も作るから競争しようぜ!」
俺は早速草船作りを始める。

「実際エイク様のお料理ってぇ、どうなんですかぁ~?」
スエンが俺が草船作りを見ながら聞いてくる。
「う~ん、どうもこうも…。
ダンジョンで作ってくれたのは携帯食を湯で戻したヤツとか、
干し肉を茹でたとか、簡易な料理だったからなぁ…。
よし、出来たっ!」
「料理の腕の判断は出来ないですねぇ~。」
「そうだなぁ…。よし、カシネ!
1.2の3でスタートなっ!」
「負けませんよっ!」
「ほんと、仲いいなぁ…。」
カシネとはしゃぐ俺を見て、
スエンがポツリと呟いた。

「1.2の3っ!」
二人の草船は水面を滑り、少しづつ岸を離れながら、
川下へ流れていく。
「おっ!俺の方が速いなっ!」
「ちょっとフライングじゃなかったですかっ?!」
「そ、そんな事ないよっ!」

ーヒュンッー
突然俺の耳の側を何かが横切り、
水面を何度か跳ねた後、俺の草船に当る。
「ああっ!水切り石っ?!」
水切り石が直撃した俺の草船は、あっけなく沈没する。

「よし、撃沈っ!」
振り向くと、神前がガッツポーズをしている。
「お前っ!何すんだよっ!」
「ふん、お嬢様風情の料理なんて、高が知れている。
どうせ砂糖と塩を間違えるとか、焦げ焦げとか、
そんな所だろうっ!」
神前は俺の抗議など気にも留めない。
エイクへの悪態をつき続ける。
「大体なんなんだ、突然現れて昼食を作るとかっ!
私と飛鳥が準備してるって言ってるだろうがっ!
あれか?お嬢様は人の話が聞こえない魔法とかかかってるのかっ!?」

俺は神前や道祖も大切だが、
一緒にダンジョンをクリアし、
俺を師匠と慕ってくれるエイクも大切だ。
どちらを、とは言えないが、
一方的に悪口を言うのは聞き逃せない。
「神前、お前いい加減にー…。」

「影口は本人の居ない所でするモノですよ?」
「?!」
驚いて声のする方を振り向くと、
森の入り口からエイクが出てくるところだった。

つづく
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