119 / 224
私を水の都へ連れてって
旅行は向かってる時が一番楽しい その8(ちょっと修羅場編
しおりを挟む
「それでは、ワタクシは食材を採りに…。」
そう言うとエイクは馬に架けていた細身の剣を腰に差すと、
森の中へ入って行く。
「一人で大丈夫か?
俺も行こうか?」
ココへ来るまで、強いモンスターに会うことはなかったが、
心配になった俺はエイクを追おうとする。
「ご心配いただき、ありがとうございます!
でも、大丈夫ですよ。ここらはワタクシの庭みたいなものですから。
でも…。」
エイクは立ち止まると俺の方に振返り、
「人気のない森で二人きり…、
というのも、悪くありませんね。」
エイクがニヤッと微笑む。
「ちょっ、エイクさんっ?!」
「おまっ!いい加減にっ!」
「凛ちゃん、ダメッ!」
イタズラっぽく笑うエイクに、神前が掴みかかろうとし、
道祖がそれを止める。
「おお怖いっ!
では、ハヤト様、楽しみにお待ちください。」
エイクは大げさに怖がるフリをして、
スタスタと森に入って行き、その姿はすぐに見えなくなった。
「まったく、なんてヤツだっ!」
神前が根菜をボキボキ折りながら憤慨している。
「隼人君、あの人と長い間、ダンジョンで一緒だったの?」
道祖が何やら心配そうに聞いてくる。
なるほど、エイクと俺の間にナニかあったのではないか、
そう気になるワケだな?
「安心しろ、お前が気にするようなコトは何もなかったよ。」
俺は道祖の頭をポンポン撫でようと、そっと手を伸ばすが、
「なんでそんな上から目線なんだ、お前は。」
神前がその手を振り払い、俺を睨みつける。
「お前があの女にハッキリ帰れと言わないから、
こんな面倒になってるんだからな?」
神前は随分イライラしているようだ。
ボキボキに折った根菜を、今度はグシャグシャと握りつぶし、
葉物野菜をブチブチと引き裂いていく。
「…お前、包丁かナイフとかあるだろ…。」
俺は見るも無残な姿の野菜を見て呆れる。
「ふん、無知なヤツめ。」
「なにをっ?!」
神前が俺をバカにするように鼻で笑う。
「こうやって手でちぎった方が、
断面が潰れて味が染み込みやすいんだ。」
ドヤ顔の神前。
「おお、ちょっと本当っぽいな。
確かにこんにゃくをちぎるってのは聞いた事があるし…。」
「ただちょっと…見た目が減点ですねぇ~。
根菜はほぼ形が無いですし…。20点ですぅ~。」
「なんとっ?!」
俺の後ろから様子を見ていたスエンが顔を出し、
神前の下ごしらえを採点しだす。
「いつの間にか採点制になっていた…。」
「お料理勝負なのかと思いましてぇ~。」
神前は点数の低さに愕然としている。
「さて、サイト様はぁ~。」
スエンの視線は道祖に向けられる。
俺もまだブツブツ文句を言っている神前から道祖へ視線を移すと、
そこには数日前の手際の悪い道祖の姿はなかった。
作る料理の出来上がりの順、行程を逆算し、
テキパキと作業を進めていく。
「あらぁ、こちらはさすがぁ~。」
自分の料理する様を観察していたのを知っているのだろう。
まるで弟子の成長を喜ぶ師匠のような目で道祖を見ている。
「今の所ぉ、80点ってとこですかねぇ~。」
「そういえば、エイク様のお料理の腕前はどうなんです?」
手持無沙汰なのだろうか、カシネが葉っぱで船を作って流している。
「お、楽しそうな事してるな!
よし、俺も作るから競争しようぜ!」
俺は早速草船作りを始める。
「実際エイク様のお料理ってぇ、どうなんですかぁ~?」
スエンが俺が草船作りを見ながら聞いてくる。
「う~ん、どうもこうも…。
ダンジョンで作ってくれたのは携帯食を湯で戻したヤツとか、
干し肉を茹でたとか、簡易な料理だったからなぁ…。
よし、出来たっ!」
「料理の腕の判断は出来ないですねぇ~。」
「そうだなぁ…。よし、カシネ!
1.2の3でスタートなっ!」
「負けませんよっ!」
「ほんと、仲いいなぁ…。」
カシネとはしゃぐ俺を見て、
スエンがポツリと呟いた。
「1.2の3っ!」
二人の草船は水面を滑り、少しづつ岸を離れながら、
川下へ流れていく。
「おっ!俺の方が速いなっ!」
「ちょっとフライングじゃなかったですかっ?!」
「そ、そんな事ないよっ!」
ーヒュンッー
突然俺の耳の側を何かが横切り、
水面を何度か跳ねた後、俺の草船に当る。
「ああっ!水切り石っ?!」
水切り石が直撃した俺の草船は、あっけなく沈没する。
「よし、撃沈っ!」
振り向くと、神前がガッツポーズをしている。
「お前っ!何すんだよっ!」
「ふん、お嬢様風情の料理なんて、高が知れている。
どうせ砂糖と塩を間違えるとか、焦げ焦げとか、
そんな所だろうっ!」
神前は俺の抗議など気にも留めない。
エイクへの悪態をつき続ける。
「大体なんなんだ、突然現れて昼食を作るとかっ!
私と飛鳥が準備してるって言ってるだろうがっ!
あれか?お嬢様は人の話が聞こえない魔法とかかかってるのかっ!?」
俺は神前や道祖も大切だが、
一緒にダンジョンをクリアし、
俺を師匠と慕ってくれるエイクも大切だ。
どちらを、とは言えないが、
一方的に悪口を言うのは聞き逃せない。
「神前、お前いい加減にー…。」
「影口は本人の居ない所でするモノですよ?」
「?!」
驚いて声のする方を振り向くと、
森の入り口からエイクが出てくるところだった。
つづく
そう言うとエイクは馬に架けていた細身の剣を腰に差すと、
森の中へ入って行く。
「一人で大丈夫か?
俺も行こうか?」
ココへ来るまで、強いモンスターに会うことはなかったが、
心配になった俺はエイクを追おうとする。
「ご心配いただき、ありがとうございます!
でも、大丈夫ですよ。ここらはワタクシの庭みたいなものですから。
でも…。」
エイクは立ち止まると俺の方に振返り、
「人気のない森で二人きり…、
というのも、悪くありませんね。」
エイクがニヤッと微笑む。
「ちょっ、エイクさんっ?!」
「おまっ!いい加減にっ!」
「凛ちゃん、ダメッ!」
イタズラっぽく笑うエイクに、神前が掴みかかろうとし、
道祖がそれを止める。
「おお怖いっ!
では、ハヤト様、楽しみにお待ちください。」
エイクは大げさに怖がるフリをして、
スタスタと森に入って行き、その姿はすぐに見えなくなった。
「まったく、なんてヤツだっ!」
神前が根菜をボキボキ折りながら憤慨している。
「隼人君、あの人と長い間、ダンジョンで一緒だったの?」
道祖が何やら心配そうに聞いてくる。
なるほど、エイクと俺の間にナニかあったのではないか、
そう気になるワケだな?
「安心しろ、お前が気にするようなコトは何もなかったよ。」
俺は道祖の頭をポンポン撫でようと、そっと手を伸ばすが、
「なんでそんな上から目線なんだ、お前は。」
神前がその手を振り払い、俺を睨みつける。
「お前があの女にハッキリ帰れと言わないから、
こんな面倒になってるんだからな?」
神前は随分イライラしているようだ。
ボキボキに折った根菜を、今度はグシャグシャと握りつぶし、
葉物野菜をブチブチと引き裂いていく。
「…お前、包丁かナイフとかあるだろ…。」
俺は見るも無残な姿の野菜を見て呆れる。
「ふん、無知なヤツめ。」
「なにをっ?!」
神前が俺をバカにするように鼻で笑う。
「こうやって手でちぎった方が、
断面が潰れて味が染み込みやすいんだ。」
ドヤ顔の神前。
「おお、ちょっと本当っぽいな。
確かにこんにゃくをちぎるってのは聞いた事があるし…。」
「ただちょっと…見た目が減点ですねぇ~。
根菜はほぼ形が無いですし…。20点ですぅ~。」
「なんとっ?!」
俺の後ろから様子を見ていたスエンが顔を出し、
神前の下ごしらえを採点しだす。
「いつの間にか採点制になっていた…。」
「お料理勝負なのかと思いましてぇ~。」
神前は点数の低さに愕然としている。
「さて、サイト様はぁ~。」
スエンの視線は道祖に向けられる。
俺もまだブツブツ文句を言っている神前から道祖へ視線を移すと、
そこには数日前の手際の悪い道祖の姿はなかった。
作る料理の出来上がりの順、行程を逆算し、
テキパキと作業を進めていく。
「あらぁ、こちらはさすがぁ~。」
自分の料理する様を観察していたのを知っているのだろう。
まるで弟子の成長を喜ぶ師匠のような目で道祖を見ている。
「今の所ぉ、80点ってとこですかねぇ~。」
「そういえば、エイク様のお料理の腕前はどうなんです?」
手持無沙汰なのだろうか、カシネが葉っぱで船を作って流している。
「お、楽しそうな事してるな!
よし、俺も作るから競争しようぜ!」
俺は早速草船作りを始める。
「実際エイク様のお料理ってぇ、どうなんですかぁ~?」
スエンが俺が草船作りを見ながら聞いてくる。
「う~ん、どうもこうも…。
ダンジョンで作ってくれたのは携帯食を湯で戻したヤツとか、
干し肉を茹でたとか、簡易な料理だったからなぁ…。
よし、出来たっ!」
「料理の腕の判断は出来ないですねぇ~。」
「そうだなぁ…。よし、カシネ!
1.2の3でスタートなっ!」
「負けませんよっ!」
「ほんと、仲いいなぁ…。」
カシネとはしゃぐ俺を見て、
スエンがポツリと呟いた。
「1.2の3っ!」
二人の草船は水面を滑り、少しづつ岸を離れながら、
川下へ流れていく。
「おっ!俺の方が速いなっ!」
「ちょっとフライングじゃなかったですかっ?!」
「そ、そんな事ないよっ!」
ーヒュンッー
突然俺の耳の側を何かが横切り、
水面を何度か跳ねた後、俺の草船に当る。
「ああっ!水切り石っ?!」
水切り石が直撃した俺の草船は、あっけなく沈没する。
「よし、撃沈っ!」
振り向くと、神前がガッツポーズをしている。
「お前っ!何すんだよっ!」
「ふん、お嬢様風情の料理なんて、高が知れている。
どうせ砂糖と塩を間違えるとか、焦げ焦げとか、
そんな所だろうっ!」
神前は俺の抗議など気にも留めない。
エイクへの悪態をつき続ける。
「大体なんなんだ、突然現れて昼食を作るとかっ!
私と飛鳥が準備してるって言ってるだろうがっ!
あれか?お嬢様は人の話が聞こえない魔法とかかかってるのかっ!?」
俺は神前や道祖も大切だが、
一緒にダンジョンをクリアし、
俺を師匠と慕ってくれるエイクも大切だ。
どちらを、とは言えないが、
一方的に悪口を言うのは聞き逃せない。
「神前、お前いい加減にー…。」
「影口は本人の居ない所でするモノですよ?」
「?!」
驚いて声のする方を振り向くと、
森の入り口からエイクが出てくるところだった。
つづく
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる