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アルフラーデ王国連合と異世界勇者

閑話休題ーその頃の公爵邸 その2ー

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ここはオスル王国の北の要所、[アルレンス地方]。
領主の豪華な邸宅は、現在主人あるじ不在につき、まさに女の園。
そんな屋敷は穏やかな午後の光に包まれ、今日も今日とて姦しい。
いや、寒々しい。

「どうしても、無理なのかい?」
屋敷の一室から声がする。
声の主はツェーカ。
この屋敷の主人の魔法の師匠で王国を代表する魔法使い、
二つ名を[光球のツェーカ]。
魔法が杖から放たれる様から付いた二つ名かと言えば、然に非ず。
そのあまりにも控えめな胸部は平らかな大地に例えられ、
その平野はまさに永遠に続く…とのことから[恒久]転じて[光球のツェーカ]と呼ばれる。
本人はこの[光球]の二つ名を気に入っているが、本当の意味は知らない。

ツェーカが声をかけるも、部屋の主から返事はない。
ツェーカの対面の椅子に座り、頷いたままだ。
この部屋は屋敷の主人と一緒に召喚された異世界人[道祖 飛鳥]の部屋。
同じように召喚された神前とは違い、
こちらはダール平原での戦い以来、部屋に閉じこもり気味だ。

「頭では…理解してるつもりなんです…。」
「うんうん。」
「領民の皆さんを守るため、相手を倒す…。仕方なかったと思います。」
「うんうん。」
訥々と話す道祖の言葉を、ツェーカは相槌を打ちながら静かに聞く。
「でも…あそこまでやる必要があったんですか?…しかも…楽しそうに見えました…。」
「う~ん……。」
言葉に詰まった飛鳥に、ツェーカは天を仰ぐ。

「優しい子…。私は貴女の考え方が好きよ。」
「え?」
不意にツェーカとは違う声が聞こえる。驚いて顔を上げると、そこには身長40cm程の青っぽい小人が立っていた。
「精霊さん?」
「おや、アンタこの子が見えるのかい?」
「は、はい。」
「こりゃ驚いたっ!この子は水の精霊でも高位の水王だよ?それが見えるとは、水魔法の素質大だねっ!」
「私に水魔法の素質が…。」
元の世界でもファンタジー小説を読んでいた道祖は精霊と自身の魔法の素質に顔がほころぶ。
そして、ツェーカはそれを見逃さない。

「お嬢さん、魔法に興味がおありかい?」
ツェーカは道祖に水を向ける。
「は、はい!元の世界で魔法とか精霊とかの小説をよく読んでました!」
「ほぉ~。」
「自分でも魔法が使ったり、精霊とお友達になったり、一緒に冒険したり!空想してたら何時間も経ってて!」
「ほおほお。」
「自分でも小説を書いたりっ…!あっ。」
水を得た魚のように滔々と興奮気味に語る自分に気づき、道祖は顔を赤くして再び俯く。

『耳まで真っ赤にして可愛いもんだねぇ。』
ニヤニヤしながら道祖を眺めていたツェーカはいいことを思いつく。
「お嬢さん。」
「あ、アスカでいいです。」
「そうかい。じゃあアスカ。どうだい?王宮へ行かないかい?」
「王宮?」
「そうさ。アスカ達が召喚されたあのお城さね。」
「…なんで…ですか?」
「あそこにはね、今高位の精霊が集まってるんだよ。ハヤトに付いてってた奴らが。」

道祖は少し考え込んだ後、
「行きます!連れてってくださいっ!」
「よし、決まりだ。そうと決まれば早速行こうかね。」
さっさと立ち上がるツェーカに合わせて、道祖も立ち上がる。
「ところでアスカ。」
「はい?」
「来た時に使った魔法陣でお城へ行くかー。」
少し間を空け、
「ホウキに乗って行くのと、どっちがいい?」
「ホウキでお願いしますっ!」
ツェーカの提案に、道祖は満面の笑みで答えた。

つづく


読了ありがとうございます。
『異世界運送~転生した異世界で俺専用の時空魔法で旅行気分で気ままに運送業!のつもりが、ぶっ壊れ性能のせいでまさかの人類最強?!~』という小説を新たに書き始めました。
よろしければ、そちらもどうぞ!
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