55 / 224
アルフラーデ王国連合と異世界勇者
現状確認する話 その1
しおりを挟む
部屋に戻った俺たちは、ソファに腰掛ける。
昨夜の情事で汚れた床やソファは、
チェーレの水魔法と俺の風魔法でキレイに掃除済みだ。
そのチェーレはお茶の用意をしてくれる。
「さて、どこから説明しましょうか?」
「いや、まずは自己紹介をさせてくれ。
クサム殿にも、俺の家来を紹介したい。」
俺はクサムを遮り、この国が召喚した勇者の少女、
[ガトフ]に向かって自己紹介を始める。
「さっき少し話したが…俺の名前はハヤト。
隣のオスル王国で日本から召喚された勇者だ。
貴女を鍛えるのようこの国に要請されて来た。
そして…。」
「ボクはカシネwハヤト様の領地で警備を担当しています。
クサムさん、ガトフさん、よろしくお願いしますねw」
立ち上がってペコリと頭を下げる。
「そして…。」
「ハヤト様の家臣、チェーレと申します。
よろしくお願いいたします。」
お茶の入れる手を止め、深々と頭を下げる。
「では…。」
コホン、と咳払いしクサムが立ち上がり、
「改めまして、私クサムと申します。
この国の外務副大臣を務めております。
そしてこちらが、我が国が召喚し、
異世界よりお越しいただいた[ガトフ殿]です。」
お越しいただいた…この一言が出るだけで、
この男への評価が上がる。
そうだ、俺も、このガトフも、好きで来たわけじゃない。
有無を言わさず連れてこられたんだから。
「さ、ガトフ様。」
「は、はい。」
クサムに促され、ガトフが立ち上がる。
「わ、私は、一月前にマーラスから召喚されました、ガトフです。
み、皆さん、よろしくお願いします。」
「ちなみにガトフ様、こちらのハヤト様はオスル王から公爵の爵位を。」
「爵位をっ?!」
「あぁ、公爵として領地を経営し、家臣団も持っている。
異世界人でも、戦果を上げればちゃんと評価される世界だよ。
だから、安心して強くなろう、な?」
驚くガトフに、俺は優しく語りかける。
「は、はい!お願いします!」
今までで一番大きな声が聞けて、俺は少し安心する。
「いくつか聞きたいんだが、いいか?」
「はい。」
「君は『マーラスから召喚された』と言ったが、
俺はマーラスなんて国は知らないんだが、どこにある国だ?
もしくは、どこかの都市なのか?」
俺はガトフがどこから召喚されたのか気になっていた。
ガトフ、という名前もあまり馴染みがない。
もしかして…。
「マーラスはクスタ大陸にある国なんですが、
小さく貧しい国なのでご存知ないのかも…。」
「うん、クスタ大陸も知らないな。
はい、俺の世界以外からの召喚でした~。」
「え?ハヤト様の世界からじゃないんですかっ?!」
「ああ。俺の世界にクスタ大陸なんて大陸は無い。
もしかしたらと思っていたが、やはり他にも世界があるんだな。
並行宇宙で派生した世界線とかなのか?
すごいな、パラレルワールドは本当にあったのか…。」
俺がブツブツと独り言を言いながら考え込んでいると、
「あの、ハヤト様。ご思案中の所すいませんが、
王国内の説明をさせていただいても?」
申し訳なさそうに断るクサムに、俺は我に返る。
「あ、ああ!悪い!よろしく頼むよ。」
「では。」
クサムは部屋の壁に掛けられたアルフラーデ王国連合の地図の前に立ち、
説明を始める。
「ハヤト様の一番の疑問かと思います、
モータル王様の事ですが…。
これはオスル王国へは報告無用でお願いします。」
クサムの声のトーンが低くなり、深刻そうな顔になる。
少し圧倒された俺たちの間にしばらくの沈黙が流れ…、
「…ああ、わかった。」
俺の返事を聞いてから、クサムは声を潜めて話し出す。
「実は、モータル王様は現在療養中です。」
「!あの頑丈そうな男が療養中?!」
「はい。しかも原因が不明でして。
医師も神官の回復、治癒魔法も効果がなく…。」
「俺が診て…。」
「世界有数の魔法使いでもある、
ハヤト様に診ていただけるのはありがたいのですが、
伝染性の病の可能性もありますので…。
病を恐れて家臣でもあまり病床へは近づきません。」
「そうか…。」
「アルフラーデ王国連合で我が国が盟主足り得るのは、
経済力だけでなく、モータル王のカリスマ性に依る所が大きいのです。」
「…国王が療養中と知れると、どこかの国が動き出す…のか?」
「はい、恐らくは。そのため、この事を知っているのは宮殿内の者のみ、
宮殿への出入りも最小限にしております。」
随分ときな臭い話だ。
西のフーレ王国が復権を狙って動き出す、という事だろうか。
「秘密を守るため、今は王宮への訪問は全ての国から断っております。
そのため、ハヤト様を国賓としてお迎えできませんでした。申し訳ありません。」
そう言うと、クサムは深々と頭を下げる。
「いやいや、頭を上げてくれ。
俺はてっきり、市民に嫌われているからかと…。」
「我らがそんな、薄情な人間に見えますか?
確かに侵攻戦直後はオスル王国やハヤト様への批判や怨嗟の声もありましたが、
モータル王が貴殿を労われた頃から、そのような声は聞こえなくなりましたよ。
今では貴殿は、我が国を救った英雄です。」
「そうか…。」
本当に、モータル王には頭が上がらない。
あの戦いの後、壊れかけた俺の心を救ってくれただけじゃなかったのか…。
俺はこの恩に、あの人に報いたい!
「このような重要機密が他国に漏れる可能性もあるのに、
それでも俺を呼んだのは…現れたという魔王のせいだな?」
そう、俺はこのモータル王国に現れたと言う魔王の調査も、
女王から依頼されている。
「はい。秘密を守るため他国に兵を要請することも出来ませんので、
自国の軍の強化が急務です。
そのため、勇者ガトフ殿にも強くなっていただこう、と。」
「で、俺に鍛えて欲しい、と。」
俺はガトフを見る。
華奢な体躯に過剰な期待、少しかわいそうになる。
ガトフも自分への期待の大きさを再認識させられ、
小さな体をさらに小さくしている。
俯いた少女の膝は、震えて見える。
「如何でしょうか、ハヤト様。
我らにご助力いただけ…。」
「もちろんだ!」
食い気味に応えた俺に、クサムがたじろぐ。
「モータル王は俺の恩人!
その恩人の国がピンチなんだ、当然だろうっ!!」
俺は立ち上がり、拳を振り上げ叫ぶ。
あ、俺、なんか熱血主人公みたい。
急に恥ずかしくなった俺に、
ーパチパチパチー
「さすがハヤト様っw」
「素敵です♡」
カシネとチェーリが拍手する。
やめて、恥ずかしいっ///
つづく
昨夜の情事で汚れた床やソファは、
チェーレの水魔法と俺の風魔法でキレイに掃除済みだ。
そのチェーレはお茶の用意をしてくれる。
「さて、どこから説明しましょうか?」
「いや、まずは自己紹介をさせてくれ。
クサム殿にも、俺の家来を紹介したい。」
俺はクサムを遮り、この国が召喚した勇者の少女、
[ガトフ]に向かって自己紹介を始める。
「さっき少し話したが…俺の名前はハヤト。
隣のオスル王国で日本から召喚された勇者だ。
貴女を鍛えるのようこの国に要請されて来た。
そして…。」
「ボクはカシネwハヤト様の領地で警備を担当しています。
クサムさん、ガトフさん、よろしくお願いしますねw」
立ち上がってペコリと頭を下げる。
「そして…。」
「ハヤト様の家臣、チェーレと申します。
よろしくお願いいたします。」
お茶の入れる手を止め、深々と頭を下げる。
「では…。」
コホン、と咳払いしクサムが立ち上がり、
「改めまして、私クサムと申します。
この国の外務副大臣を務めております。
そしてこちらが、我が国が召喚し、
異世界よりお越しいただいた[ガトフ殿]です。」
お越しいただいた…この一言が出るだけで、
この男への評価が上がる。
そうだ、俺も、このガトフも、好きで来たわけじゃない。
有無を言わさず連れてこられたんだから。
「さ、ガトフ様。」
「は、はい。」
クサムに促され、ガトフが立ち上がる。
「わ、私は、一月前にマーラスから召喚されました、ガトフです。
み、皆さん、よろしくお願いします。」
「ちなみにガトフ様、こちらのハヤト様はオスル王から公爵の爵位を。」
「爵位をっ?!」
「あぁ、公爵として領地を経営し、家臣団も持っている。
異世界人でも、戦果を上げればちゃんと評価される世界だよ。
だから、安心して強くなろう、な?」
驚くガトフに、俺は優しく語りかける。
「は、はい!お願いします!」
今までで一番大きな声が聞けて、俺は少し安心する。
「いくつか聞きたいんだが、いいか?」
「はい。」
「君は『マーラスから召喚された』と言ったが、
俺はマーラスなんて国は知らないんだが、どこにある国だ?
もしくは、どこかの都市なのか?」
俺はガトフがどこから召喚されたのか気になっていた。
ガトフ、という名前もあまり馴染みがない。
もしかして…。
「マーラスはクスタ大陸にある国なんですが、
小さく貧しい国なのでご存知ないのかも…。」
「うん、クスタ大陸も知らないな。
はい、俺の世界以外からの召喚でした~。」
「え?ハヤト様の世界からじゃないんですかっ?!」
「ああ。俺の世界にクスタ大陸なんて大陸は無い。
もしかしたらと思っていたが、やはり他にも世界があるんだな。
並行宇宙で派生した世界線とかなのか?
すごいな、パラレルワールドは本当にあったのか…。」
俺がブツブツと独り言を言いながら考え込んでいると、
「あの、ハヤト様。ご思案中の所すいませんが、
王国内の説明をさせていただいても?」
申し訳なさそうに断るクサムに、俺は我に返る。
「あ、ああ!悪い!よろしく頼むよ。」
「では。」
クサムは部屋の壁に掛けられたアルフラーデ王国連合の地図の前に立ち、
説明を始める。
「ハヤト様の一番の疑問かと思います、
モータル王様の事ですが…。
これはオスル王国へは報告無用でお願いします。」
クサムの声のトーンが低くなり、深刻そうな顔になる。
少し圧倒された俺たちの間にしばらくの沈黙が流れ…、
「…ああ、わかった。」
俺の返事を聞いてから、クサムは声を潜めて話し出す。
「実は、モータル王様は現在療養中です。」
「!あの頑丈そうな男が療養中?!」
「はい。しかも原因が不明でして。
医師も神官の回復、治癒魔法も効果がなく…。」
「俺が診て…。」
「世界有数の魔法使いでもある、
ハヤト様に診ていただけるのはありがたいのですが、
伝染性の病の可能性もありますので…。
病を恐れて家臣でもあまり病床へは近づきません。」
「そうか…。」
「アルフラーデ王国連合で我が国が盟主足り得るのは、
経済力だけでなく、モータル王のカリスマ性に依る所が大きいのです。」
「…国王が療養中と知れると、どこかの国が動き出す…のか?」
「はい、恐らくは。そのため、この事を知っているのは宮殿内の者のみ、
宮殿への出入りも最小限にしております。」
随分ときな臭い話だ。
西のフーレ王国が復権を狙って動き出す、という事だろうか。
「秘密を守るため、今は王宮への訪問は全ての国から断っております。
そのため、ハヤト様を国賓としてお迎えできませんでした。申し訳ありません。」
そう言うと、クサムは深々と頭を下げる。
「いやいや、頭を上げてくれ。
俺はてっきり、市民に嫌われているからかと…。」
「我らがそんな、薄情な人間に見えますか?
確かに侵攻戦直後はオスル王国やハヤト様への批判や怨嗟の声もありましたが、
モータル王が貴殿を労われた頃から、そのような声は聞こえなくなりましたよ。
今では貴殿は、我が国を救った英雄です。」
「そうか…。」
本当に、モータル王には頭が上がらない。
あの戦いの後、壊れかけた俺の心を救ってくれただけじゃなかったのか…。
俺はこの恩に、あの人に報いたい!
「このような重要機密が他国に漏れる可能性もあるのに、
それでも俺を呼んだのは…現れたという魔王のせいだな?」
そう、俺はこのモータル王国に現れたと言う魔王の調査も、
女王から依頼されている。
「はい。秘密を守るため他国に兵を要請することも出来ませんので、
自国の軍の強化が急務です。
そのため、勇者ガトフ殿にも強くなっていただこう、と。」
「で、俺に鍛えて欲しい、と。」
俺はガトフを見る。
華奢な体躯に過剰な期待、少しかわいそうになる。
ガトフも自分への期待の大きさを再認識させられ、
小さな体をさらに小さくしている。
俯いた少女の膝は、震えて見える。
「如何でしょうか、ハヤト様。
我らにご助力いただけ…。」
「もちろんだ!」
食い気味に応えた俺に、クサムがたじろぐ。
「モータル王は俺の恩人!
その恩人の国がピンチなんだ、当然だろうっ!!」
俺は立ち上がり、拳を振り上げ叫ぶ。
あ、俺、なんか熱血主人公みたい。
急に恥ずかしくなった俺に、
ーパチパチパチー
「さすがハヤト様っw」
「素敵です♡」
カシネとチェーリが拍手する。
やめて、恥ずかしいっ///
つづく
0
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
大好きな彼女を学校一のイケメンに寝取られた。そしたら陰キャの僕が突然モテ始めた件について
ねんごろ
恋愛
僕の大好きな彼女が寝取られた。学校一のイケメンに……
しかし、それはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
NTRは始まりでしか、なかったのだ……
男女比の狂った世界で愛を振りまく
キョウキョウ
恋愛
男女比が1:10という、男性の数が少ない世界に転生した主人公の七沢直人(ななさわなおと)。
その世界の男性は無気力な人が多くて、異性その恋愛にも消極的。逆に、女性たちは恋愛に飢え続けていた。どうにかして男性と仲良くなりたい。イチャイチャしたい。
直人は他の男性たちと違って、欲求を強く感じていた。女性とイチャイチャしたいし、楽しく過ごしたい。
生まれた瞬間から愛され続けてきた七沢直人は、その愛を周りの女性に返そうと思った。
デートしたり、手料理を振る舞ったり、一緒に趣味を楽しんだりする。その他にも、色々と。
本作品は、男女比の異なる世界の女性たちと積極的に触れ合っていく様子を描く物語です。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる