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第4話

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「昨日ミローナを襲ったのはお前だな、天狗女。」
俺は山伏装束の偉丈夫を睨みつける。
「セイレーンが眠らせ、お前が財布を盗む。なんとも安っぽい二人組だな。」
「ふん、なんとでも言うがいいっ!」
天狗女が返す。
「我々魔族がこの世界で生きていくには、必要なのだ。」
「知ってるよ。だが、精気が必要なのはわかるが、財布は要らんだろ。」
「………プ…パ…ー………。」
天狗女が俯きながら、消え入りそうな声で呟く。
「?なんだって?」
俺は難聴性主人公よろしく聞き返す。

「プロパイダー代じゃっ!!」

天狗女がキレ気味に叫ぶ。
「精気はセイレーンがネットで歌をアップしたおかげで手に入るがっ!
そのネット代を払うには現金が必要じゃっ!」
天狗女が指を丸くし、金のジェスチャーをする様は中々にシュールだ。

「そ…それは世知辛いな…。」
俺はそう返すので精一杯だった。
「分かったらさっさと居ねっ!!」
言うが早いか、どこから出したのか天狗自身より長い錫杖で俺に襲いかかってくる!

だが、俺は難なくその錫杖を掴む。
「「なっ?!」」
セイレーンと天狗女の顔に驚愕の色が浮かぶ。
「なんだ?たかが人間、楽勝だと思ったか?」
錫杖を二人で引っ張り合う力比べになる。
ピクリとも動かない錫杖のせいで互いの膂力が拮抗しているように見えるが、
よく見ると天狗女は両手、俺は片手。しかも天狗は必死の表情だが、俺は涼しいモンだ。

「くっ!こ、こ奴!」
「ミローナ、コイツから鬼の臭いはするか?」
「ええ、かなり薄いけど。」
ミローナが鼻を鳴らしながら答える。

「そうか…。」
俺は片手で天狗女の相手をしながら、ポケットからスマホを取り出し、
「お前、コイツを知ってるな?」
俺は師匠の仇の画像を見せる。
「!………知らん。」
天狗女がわざとらしく顔を背ける。
いや、お前絶対知ってるじゃん。嘘下手すぎじゃん!

ーグイッ!ー
俺は錫杖を強く引き、天狗女を引き寄せる。
長っ鼻の天狗女と額を付き合わせ、
「アイツの眷属だってのにこの膂力。お前…やり捨てされたんだろ?」
「ぐっ///」
「アイツとヤった奴は能力が大幅にアップする。ヤればヤるほどだ。」
図星を突かれたのか、天狗女は俺の話を止めようと必死で蹴ってくる。
しかし、俺には全く効かない。

「この弱さじゃ、1回抱かれただけだろ?可哀想になっ!」
「に、人間風情が知った風な口をっ!」
今まで以上の力で錫杖を引いてきたので、俺は手を離す。
「わっ!?」
突然錫杖を離された天狗女は揉んどり打って転がり、屋上の転落防止柵で止まる。
「急に離す奴が…っ!!」

ーガンッ!ー
天狗女を柵ドンで追い詰める。
「アイツはどこだ?」
「さっきの画像のかっ?!知らんっ!知ってても教えるものかっ!」
「そうか。」
俺はそう答えると、天狗の長い鼻を握り、
「お、おい!なにをっ!?」

ーべきっー

上に90度折り曲げる。
「ギェーーーーーーーっっっっっっ!!!」
天狗女が悲鳴を上げ、鼻を押させて床を転がる。
「おい。」
足元で転がる天狗女に俺は声をかける。
「もう90度鼻曲げて、眉間に鼻先ぶっ刺すか?」
「ひっ?!」
俺は今までよりも低い声色で凄むと、
天狗女は短い悲鳴を上げる。
天狗女の血の気が引く音が聞こえるようだ。

「しっ、知ってる!鬼の真祖と聞いて近づいたんじゃっ!名前は知らんっ!」
「今はどこにいる?」
「知らんっ!お前っ、いや貴方様の言う通り、一回だけっ!やり捨てされましたっ!」
「チッ!やっぱりか。」
今回も空振り、これで何度目だ。
随分お盛んにヤり散らかしているようで、
ヤツを知っている魔物や、つながりの薄い眷属には出会えるが、
ヤツの居場所には辿り着けない。
今回も期待はしてなかったが、やはり落ち込んでしまう。

「悪かったな、レディにそんな話をさせて。」
ーべきっー
「ひぎぃ…?」
ヤリ捨てされた天狗女が急に哀れに見えて来て、
90度上に折れ曲がっていた鼻を治してやる。

「テン子っ!」
セイレーンが天狗女に駆け寄る。
天狗女、そんな名前だったのか。まんまだな。
「どこか怪我はっ?!鼻、大丈夫なの?!」
「うむ、少し痛いが大丈夫じゃ。」
「お前等の盗んだ財布の中に、ばあちゃんの写真入ったのあったろ。」
二人に依頼のあった写真のことを尋ねる。

「は、はい、ありました。」
天狗女を介抱しながらセイレーンが答える。
「あれな、探してる人がいるんだ。返せ。」
「あ、あれなら…。」
「まさか、捨ててないわよね?」
ミローナがセイレーンを睨む。
「ひっ!だ、大丈夫です!なんか、大事な写真みたいだったんで、捨てられなくって……。」
セイレーンは随分ミローナにビビってるようだ。
ま、あれだけ魔力の差を見せつけられれば、仕方ないか。

それより……。
「お前等、そうゆうの、わかんのか?」
「え?」
「あれな、探してる人がめちゃくちゃ大事にしてた写真なんだよ。
そうゆう、物に宿った人の気持ちってゆーか、
想いみたいなのがわかるんだなって思ってな。」
天狗女とセイレーンは照れているのか、下を向いてしまう。
言っててこっちも恥ずかしくなって来た。

「し、しかしお強いですなっ!」
この雰囲気に耐えられなくなったのか、天狗女が声を上げる。
ちょっと上ずってるぞ、お前。
「まぁな。」
「こちらのお嬢さんもっ!こんなに強いサキュバス、初めて見ましたわいw」
おじいちゃんが孫の頭をなでるように、ミローナの頭をなでる。

「「あ。」」

俺とセイレーンの声が揃う。
二人の視線はミローナに向かい…。
あ、ダメだこれ。

「誰がサキュバスかぁっ!!!」

逆鱗に触れられたミローナが魔力を放出する。
溢れ出た桁外れの魔力が、
再度ミローナの背後にコウモリの羽の形に具現化する。

「ひぃっ!す、すいませんっ!コイツちょっとバカなんですっ!」
セイレーンが土下座で謝る。が、
「じゃ、じゃあっ!その淫紋はなんなんじゃっ!?
淫紋と言えばサキュバスじゃろっ!?」
「アンタもう黙っててぇっ!!」
「ぎゃあっ!」
さらにぶっ込む天狗女の鼻を、セイレーンが蹴飛ばす。

「?!」
俺は天狗女を無言で肩車で持ち上げる。
「えっ?!なっ?!なんじゃっ?!!」
「…………。」
「いやいやっ!なんか言ってくれぃっ!!」
無言のまま肩車する俺を泣きながら批難する。
「…悪いな、諦めろ。」
「え?!ええっ?!」
俺の肩の上で混乱する天狗女に、ミローナが近づく。

そして、
「教えてあげる……。」
ミローナの背後に吹き上がる魔力の渦が、
巨大な腕を形作り、
「これはぁ!趣味よっ!!」
「なんじゃそっっぇぶっっっ」
ードッー
天狗女の非難のツッコミは遮られる。
振り抜かれた巨大な腕が天狗女の首を刈り、
ーッゴンッッッ!!!ー
哀れ、天狗女はコンクリの床へ叩きつけられた。
「テン子ぉぉぉぉぉぉ!!!」
セイレーンの悲痛な声が、夜の街に響いた。



「二度と私をサキュバスなんかと間違うんじゃないわよっ!」
「「ほんと、すいませんでしたっ!」」
ミローナに土下座で謝る二人。

「ち…ちなみに……。」
「ん?」
「どっちの趣味なんじゃ……その格好は…?」
瀕死の天狗女が問いかける。

俺とミローナは夜空を見上げ、
「「秘密。」」
月明かりにミローナの淫紋が怪しく照らされている。


つづくっ!



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両方18禁ですが、
お読みいただけると幸いです!
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