上 下
94 / 94
第五章 聖龍王国の御姫様

その15 アクサナ憤慨す その2

しおりを挟む
「…余裕がないのは、事実じゃ」
しばらくの沈黙の後、抱き合ったままのアクサナが口を開いた。
「なんで?」
レインズは静かに問いかける。

「ワシらはその…赤子がな、出来にくいじゃろ?」
「そうだな、そう言われてるな」
事実、他種族間では子供は出来にくい、むしろ出来ないとさえ言われている。
現実的には、そもそも他種族間での婚姻自体が珍しいのだが、他種族間での婚姻で子を為した話はさらに聞かない。
だが、その事を逆手に取って、他種族(主に獣人族)を性奴隷にする人族の話はよく聞く。

「人族の主様と魔族のワシではただでさえ赤子が出来にくいと言うのに、
レイシィのヤツときたら、毎晩毎晩主様の寝室で夜中まで長話しおって!
ワシは早ぉ主様との間に赤子が欲しいと思うておるのに…!」
「アクサナ…そんなに子供が欲しいのか?」
「当たり前じゃ!赤子はワシと主様を繋ぐ愛の証じゃ!」
「そんな事はないよ…子供の有無で、俺のアクサナへの愛が変わるワケじゃない」
子供を見て母性本能が刺激されたのか、それともの子供が魔族のアクサナを刺激し、
人族同士であれば早々に子供が出来るだろう事に、彼女は焦ったのだろうか?

「そんなにレイシィが嫌いなら、今からでも帝国に戻って港町にでも預ければ…」
「出来ぬ!」
レインズの意地悪な言葉に、アクサナが食い気味に彼の言葉を遮る。

「なんで?」
「…お姉ちゃんじゃもの…捨てられるわけがないじゃろ…」
レインズの胸に顔をうずめ、アクサナは涙目で訴える。

「わかっとるんじゃ、自分が聞き分けのない幼子のような癇癪を起しとるのは…」
「癇癪だなんて思ってないよ」
「本当か?」
「ああ、むしろ可愛いと思ってるよ」
「ふふふ」
レインズはアクサナの頭を優しく抱きしめ、彼女はレインズのそのぬくもりに自然と微笑む。

「もぉいいんじゃないかなー?」
「かなー?」
抱き合う二人に背後から声が掛けられ、レインズとアクサナは声の方へ顔を向ける。
そこには、腕を組んで仁王立ちのセレーテとレイシィが立っていた。

「たまの二人っきりを邪魔しちゃ悪いと思ってガマンしてたが…真昼間からちょっと長くないか?」
「アクサナちゃん、お兄ちゃんの独り占めはダメだよ!」
「ひ、独り占めなど、そんな…っ」
二人の詰問にアクサナは狼狽える。

「ワタシもお兄ちゃんとくっつくっ!」
レイシィが勢いよく、レインズに飛び付く。
「うわっ?!」
その拍子にハンモックにアクサナ共々倒れ込み、レインズが両脇にアクサナとレイシィを抱えてハンモックに揺られる形になる。

「両脇に美幼女と美少女とは…いいご身分だな御前様」
それを見たセレーテが冷たく笑う。
「いやいや、そんなんじゃないのは見てただろ!」
「どれ、オレも乗せてもらおうか」
そう言うと、セレーテがレインズの腹に腰を下ろそうとー。

「島だ!島が見えるぞ!」
ハンモックでイチャイチャしていたレインズ達の耳に、前方甲板のけたたましい大声が届いたー。

つづく
しおりを挟む
感想 6

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(6件)

綾瀬海斗
2023.03.07 綾瀬海斗

内容は面白いんだけど、本文とつづくの文が近くて余韻に浸れないのが残念。

改行3個分くらいは、個人的に離してほしいかな…

HY
2023.03.10 HY

ご感想ありがとうございます!
空けると行数稼ぎと思われるかと思ってましたが、次からは空けることにします。
余韻なんて言っていただけるとは…ありがとうございました!

解除
o94
2022.07.22 o94

「アクサナの里帰り」ですよね?

HY
2022.07.23 HY

ご指摘ありがとうございます!
恥ずかしすぎるミスだ…。連載開始すぐにも指摘いただいてたのと同じミスだ、情けない。

解除
いまだき かんき

今のところ嫁、全員押し掛け女房な件。しかも、戦闘力も臣民も有り。しかも簒奪に都合良く惚れてくれてる王女(戦闘力、あれば嬉しいなぁ)有り。
このまま増えていくのか…………嫁……
溜まってそうだし、成人なアレクシィをさっさと嫁にして、幼妻達に成熟を促せ。献身と忠義と愛には、誠実に答えて欲しいと切実に思う。

HY
2022.07.23 HY

感想ありがとうございます!返信が遅くなり申し訳ありません。
タイトル通り、一応9人分の嫁設定も考えてます。アレクシィ嫁ルートもあるかもしれません。
お付き合いいただけると有り難いです!

解除

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-

ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。 困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。 はい、ご注文は? 調味料、それとも武器ですか? カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。 村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。 いずれは世界へ通じる道を繋げるために。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。