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第四章 アクサナの里帰り

その14

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余りにも残酷な遊戯が何度繰り返されただろう。
「あ…あぁ…。」
セレーテは恐怖で動けず、ただレインズがいたぶられるのを見ていた。
もう地面を跳ねるレインズは、声を発することもない。

「…飽きましたね。」
ラウルは反応のなくなったレインズを見下ろす。
花の顔と吟遊詩人に謳われ、王国中の女性達を虜にしたその美貌は、
鼻も頬も砕かれ、浮腫み、血にまみれ…見る影も無い。

「下等で下衆で下賤で下卑た人族に似合いの姿になりましたねぇw
…さて、これでも姫様はオマエを伴侶にしておくのだろうか?」
原型を留めないレインズの顔面を、ラウルはニヤニヤと笑いながら見つめる。

「あ、当たり前だっ!」
突然、ラウルの背後から大声が。
さっきまで地面にうずくまっていたセレーテが叫んだのだ。

「ん?なんだ、犬っころですか。」
「あ、アクサナが顔が変わった位でレインズと離れるワケが…っ!」
「アクサナだぁっ!!」
「ひぃっ!」
ラウルは魔力を放ち、セレーテに叩き付ける。

「お優しいのは姫様らしいが、姫様は甘すぎる、躾がなっていないっ。
まったく…この人間もそうだが、こんな犬っころにまでお慈悲をお掛けになって…。
そうだ、次はお前を躾けるとしましょうか、駄犬w」
「きゃっ!」
ラウルに睨まれ、セレーテは小さく悲鳴を上げ、尻もちをつく。

良い事を想い付いた、ラウルはレインズを投げ捨てると、
笑顔でセレーテに近づく。
「く、来るなっ!」
「ははは、大丈夫。私、躾には定評があるんですよw」
尻もちをついたまま後ろにずって行くセレーテを、
ラウルは楽し気な足取りでゆっくりと追う。

ーガシ…ッー
「……。」
足首を掴まれたラウルが視線を地面に落とす。
そこには地面に這いつくばりながらも、ラウルの足首にしがみ付くレインズがー。

「……。」
ラウルはレインズがしがみ付いた右脚を持ち上げる。

ーずるぅ…ー
釣り上げられた魚のように、持ち上げた足にしがみ付くレインズ。

ーブンッ、ブンッー
ラウルは雨に濡れた靴を振るように、無造作に脚を振る。
だが、しがみ付いたレインズは離れない。

「靴底にこびり付いたクソのようですね、アナタ。」
ーグリッ、グッ、グリッー
言葉通り、靴底の汚れを取るように、
ラウルはレインズを地面に踏みつけ、思い切りにじる。

それでも離さないレインズに辟易した様子のラウル。
「はぁ…。」
溜息をつくと、
ーぶんっ!ー
右回し蹴りで空を蹴り抜く。

ーびりびりっ!ー
ラウルの裾が破れ、レインズは裾を掴んだまま引きはがされ、
ードゴンッ!!ー
壁まで吹き飛ばされ、叩き付けられる。

「レインズっ!!」
セレーテの叫びも虚しく、レインズから返事はない。

「まったく…。下等種族はしつこくて困りますね。」
ラウルはレインズがいなくなって軽くなった右脚に目をやる。

「え…?裾…破れて…?え、これ、魔王様からいただいた大切な…。」
ラウルの発する魔力の霧が更に濃くなり、激しく渦巻きだす。
「き、キサっんがっ?!」
ーゴンっ!ー
壁に吹き飛んだレインズの方へ振り向いたラウルの顔面に、石礫が直撃する。

「こ、こんな石つブゴッ?!」
ーゴンっ!ゴン!ゴン!ゴンッ!ー
続けざまにいくつもの石礫がラウルの顔面を襲う。

「くぉっ?!」
ダメージ自体はさほどでもないが、続けざまに直撃したためラウルは体制を崩し、たたらを踏む。

「っく、この虫けらがっ!」
体勢を立て直したラウルは、レインズがへばりついているハズの壁に視線を向ける。
が、そこにレインズの姿はない。

「な、どこにっ?!」
「ここw」
首を左右に振りレインズを探すラウルを嘲笑うように、
レインズはラウルのすぐ足元にしゃがみ込んでいた。
「な、いつの間に…っ?!」

「ぅうおおおぉぉぉぉぉっっ!!!」
レインズの咆哮がダンジョンに響き、大気を震わせる。
しゃがみ込んだレインズの左拳の周りに、いくつもの拳大の石礫がまとわりつき、
それが其々ドリルの様に回転しながら、レインズの拳を中心に高速で回転しだす。
まるで自転する惑星が恒星を中心に公転するように、
レインズの左拳に石礫のドリルが現れた。

「ぅらぁぁぁぁぁっっっっ!!!」
「こ、小癪なぁぁぁっっ!!」
アッパーを予測したラウルは上体を少し後ろにスウェーさせる。
「んな…っ?!」
が、レインズの拳はまったく違う軌道を描く。

レインズの振りかぶった左拳は、肩口からオーバースローのモーションで振り抜かれ、
立ち上がる力もプラスされ、そのまま力一杯ラウルの顔面目がけて撃ち込まれた。

ーゴガグゴギャギャゴゴゴリグゴギャギャグゴッッ!!!!ー
とても人(魔族だが)が殴られた音とは思えない音がして、

「ぶぎゃごぐげぎゃ……っっ!!!」
とても人(魔族なんだが)が殴られたとは思えない声を発し、
石のドリルでその端正なマスクを掘削され、鮮血をまき散らしながら、

「ひっ!」
ーッドゴンッッ!!!ー
セレーテの足元の地面に叩き付けられた。

つづく
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