転封貴族と9人の嫁〜辺境に封じられた伯爵子息は、辺境から王都を狙う〜

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第四章 アクサナの里帰り

その12

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「セレーテ、大丈夫か?」
「レインズ…はぁ…も、もっと…奥…まで。」
「もうダメ、限界だっ。」
「ま、待って…レインズっ!もうちょっと…もうちょっとでオレもっ!」

「ダメだっ!これ以上アクサナを待たせらない、戻るぞ。」
「あと少し奥まで行こう、な?もうちょっとでオレも強くなれるハズなんだよ。」
「何回目だよ、それ…。」

レインズとセレーテは魔力上昇のためダンジョンに入っていたが、
アクサナからの連絡、船の改修が終わったとの報せを受け、
ダンジョンを引き返す事にした。
だが、セレーテがもう少しもう少しとせがむので、奥へ奥へと進んでいた。
この時点でアクサナの連絡から、すでに丸1日以上奥に進んでいた。

「…あんまりアクサナを待たせると、怖いぞぉ?」
「そんなせっかちなタイプには見えないが…。」
「…お前と二人きりだからな。」
「あ~…それは怖いな…。
あの人、ヤキモチ焼きだからなぁ。」
セレーテは瞳を爛々と輝かせるアクサナを思い出し、首をすくめる。

「ず、随分御前様を独り占めしたからな、
そろそろ第一夫人様にお返しするとしようか。」
「はは、よし!それじゃあ戻ろうか。」

帰りは来た時より楽に帰れた。
ダンジョンに入った頃は倒すのに2人掛かりだったミノタウルスも、
今ではセレーテ1人で十分、なんなら2~3体の群でも安心して任せられる。
セレーテだけでなくレインズもまた、かなりのレベルアップを果たしていた。
人族が単独で倒すのが不可能と言われるゴーレムも、まとめて数体倒せるまでになっていた。

そして、進むのに10日を有した距離を、わずか3日で戻ることが出来た。
「休み休み進まないと、こうも速いんだな…。たった3日で戻って来れたぞ?
まぁ、それだけ大して進んでなかったってコトでもあるんだろうけど…。」
「そうだな…そう考えると複雑だな。」
「10日かかった道のりを3日で戻った…。
オレ達、3倍強くなったってコトかなっ?」
セレーテが太い尻尾をフリフリ、嬉しそうに尋ねてくる。

『残念ながら、そんな単純計算じゃないんだろ。』
そう言おうとして、レインズは言葉を飲み込む。
期待に満ちたセレーテの無垢な瞳を見ては、そんな薄情なコトはとても言えない。

「…そ、そうだな、きっと3倍、いや、3.3倍は強くなってるハズだ。」
「そうだよなっ!」
満足のいく回答だったようで、セレーテは上機嫌だ。
話を合わせて良かった…レインズはほっと胸を撫で下ろす。
「よし、あと少しで入口だ。」
「オレの成長した魔力をアクサナに見せるのが楽しみだっ。」

「おや、もうお戻りですか?」
「きゃっ?!」
不意に声を掛けられ、セレーテは悲鳴を上げる。

「だ、誰だっ?!」
レインズは声のした方、ダンジョンの暗闇に向け叫びながら、相手の魔力を伺うが、
『魔力が見えない?魔力がない人族?いや、魔力を抑えてるのか…?』

ーパチ…パチ…パチ…ー
暗闇の中から拍手が聞こえる。
それは段々と大きくなり、ついには拍手の主の姿が見えた。
「ガサツな獣人とは思えない、可愛らしい悲鳴でした。
実に素晴らしいっ。」

「ラウル…。どうしてお前がココに?」
「ココは魔王国で、私は魔族で、魔王様の信頼も篤い。ココにいても問題ないでしょう。
それよりも、薄汚い獣人と、数だけ多くて魔力も持たないクズの人族がいる方が問題ですよ。」
「…魔王様の許可を、と言うより魔王様の勧めでこのダンジョンに入ったのは、
お前もしってるだろう。」
「そ、そおだぞっ!へ、変な言い掛かりはー…っ!」
「言い掛かり?」

ーブワァっっ!!ー
「きゃっ!」
「ぐぅっ?!」
突然ラウルから魔力の黒い霧が噴き出し、その圧に絶え切れずセレーテは尻もちをつく。
レインズも今回は彼女を支えられず、彼自身ラウルの魔力に立っているのがやっとだった。

「おや…。壁まで吹き飛ばすつもりでしたが、耐えましたか。」
ラウルは意外とでも言いたげだ。

「10日間の鍛錬は伊達じゃないよ…。」
「足、震えてますけど?」
「…歩き疲れただけだよ。」
レインズは強がるが、足が震えているのも事実だ。

「とは言え、強くなったのは本当のようですね。」
「はは、ありがとうよ。」
「ちっ。そちらの獣人も、確かに強くなっているようですね。」
ラウルは舌打ちすると、忌々しそうにセレーテを一瞥する。
「ひっ。」
その視線にセレーテは小さく悲鳴を上げる。

「なあ、お前が何しにココへ来たかは知らないが、俺達は急いでるんだ。
お前とおしゃべりしてる暇はない、さっさと帰らせてもらうぞ?
アクサナが待ってるんだ。」
「アク…サナ?」
アクサナの名にラウルの顔色が変わり、その丹精な面差しはみるみる醜く歪んでゆく。

「アクサナ…。アクサナ…っ。
アクサナアクサナアクサナアクサナっ!!
ァアクサナァァァァァァっっっ!!!!」
ラウルの体から黒い魔力の霧が溢れ出し、嵐の海のように暴れ狂う。

「あのメスガキぃっ!私という者がありながらぁっ!
ゴミクズのような人族と番うなどぉっ!!
わからせてやるッ!わからせてやるゾォォォッッ!!!」
ラウルの獣のような咆哮はダンジョンを揺るがす。
セレーテは恐怖のあまり、地面に座り込み震えている。

ひとしきり叫んだ事で落ち着いたのか、魔力の渦が徐々に弱まり、消えていった。
「…御見苦しい所をお見せしましたね、失礼。」
「あ、ああ、気にするな?」
レインズは返事に困る。

「そうそう、もうダンジョンから出られるんですか?」
「ああ、その…アク…アレクシィから連絡があったんでな。」
レインズは恐る恐る、ラウルがキレないよう気を使いながら答える。

「それはもったいないッ!
ココは魔力濃度が特殊な、修練向けの特別ダンジョン、
しかも、再奥にはレベルアップの泉が…。」
「あー、すまん。本当に急いでるんでな。
さ、セレーテ行くぞ?」
「あ、ああ…。」
レインズはセレーテに手を貸すと、ラウルの脇を抜けてダンジョン入口へ向かう。

が、脇をすり抜けようと並んだ瞬間、ラウルが足を伸ばして通せんぼする。
「…長い足が邪魔なんだが?」
「ダンジョンを出る前に、私と最終試験なんてどうです、人間?」
「…魔王様やアクサナは知ってるのか?」
「なんと、お二人の知らぬ所で私と戦うのは恐ろしいと?
はは、とんだ腰抜けだっ。やはり貴様などが姫様の伴侶など…っ!」
「違う。」
「うん?」
「お前が後で二人に叱られないか、心配してやってるんだよ。」
レインズの瞳に赤い炎が揺らめき、体に黒い霧がまとわりつく。

レインズの挑発に、ラウルの顔色が変わる。
「…少しいたぶる程度のつもりだったが気が変わった。
今の軽口、少々高くつくぞ?」
ラウルの瞳には蒼い炎が宿り、レインズ同様、体には黒い霧がまとわりつく。

「お前は一度、ぶっ飛ばそうと思ってたんだよ、前からなっ。」
「それはこちらのセリフだ、人間風情がっ。」

つづく
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