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第三章 獣隷王国と二人目の嫁
閑話休題 その5(その頃のアクサナ達
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ここはアクサナ達が潜む革命軍の砦。
レインズを見送った後、アレクシィは部屋の隅の粗末なベッドを指さし、
「…爺さん、そこのベッドを借りてもよろしい…ですか?」
「うん?ああ、構わんよ。」
アレクシィは爺の返答に少し頭を下げる。
「アクサナ様、ここでお休みになっては?」
「そうじゃな、そうさせてもらおうかの。
爺殿、お借りするぞ。」
アクサナがベッドに横たわるのを甲斐甲斐しく世話するアレクシィ。
余程疲れていたのだろう、ほどなくしてアクサナは可愛らしい寝息を立て始める。
「おやすみなさいませ、アクサナ様。
御疲れ様でした。」
アレクシィは微笑みながら、アクサナのサラサラの緋色の髪を撫でる。
二人の様子を見ていた爺が、目を丸くする。
「あのレインズという方も不思議な方じゃったが、
アンタらも不思議な関係じゃのぉ…。」
「…不思議?」
「アンタは人族でそっちのお嬢さんは…魔族じゃろ?
人族と魔族が仲睦まじく…不思議と言わずして何と言う?」
爺は肩をすくめる。
「私とアクサナ様は、同じ一人の御方を慕う者同士。
そこに人族も魔族もないわ。」
「その御方とは…。」
「もちろん、レインズ様ですよっ。」
アレクシィは鼻息荒く答える。
「レインズ様は素晴らしい御方、御仕え出来て本当に光栄。
そして、それに気づかれたアクサナ様もまた、御仕えするにふさわしい御方だわ。
それに…この方は命の恩人でもあるから。」
「…人族が魔族にそこまで心酔するとはのぉ。」
「少し違わ。私が心酔しているのは、レインズ様だけよ。
そのレインズ様に心酔された奥方だから、私はお仕えするのよ。」
「はは…まるでレインズ様を崇める宗教のようじゃな。」
「…獣人風情が知った風な口を…。」
「こ、これはすまなんだっ!年寄りの失言じゃ、許してくれぃっ。」
アレクシィに睨まれ、爺は慌てて謝罪する。
「ふんっ。」
アレクシィは爺にソッポを向け、アクサナの寝顔に視線を戻す。
気まずい空気のまま、しばらく時間が経った。
再び口を開いたのは、爺だった。
「なあ、お嬢さん。」
アレクシィからの返事はないが、爺は話し続ける。
「獣人族も人族と…お嬢さん達の様に、その…友諠は結べると思うかのぉ?」
爺はチラリとアレクシィを見るが、彼女はソッポを向けたままだ。
「レインズ様はセレーテ様と友諠を結ばれ、助力を請われたから助けに来たと…。
そんな事があり得るのかのぉ?儂には未だに信じられん…。
いや、レインズ様が信用ならんという意味ではなくー…っ!」
また彼女を怒らせてしまったか?爺は慌てるが、
「…アナタの言う事はもっともよ。
人族が獣人と友諠を結び、あまつさえ助けに行くなんて…。」
「儂らがレインズ様との同盟を王国に訴える可能性を考え助けに行く、
それなら助けに来たのも納得じゃが…。」
「勘違いするな。
レインズ様は本当に、お前達を助けようとしたの。
王家に、婚約者に裏切られたレインズ様は…、
誰より約束を重んじられるのよ。」
アレクシィはきっぱりと言い切った。
その雰囲気に爺は気圧される。
「な、なぜじゃっ!人族は儂ら獣人を蔑んでー…っ!」
「…レインズ様は覚えてらっしゃらないみたいだけど、
子供の頃に助けられてるのよ、お前達獣人に。
それも、お前と同じ狼人族だったな。」
「儂らの同族に…。」
「まだ幼かったレインズ様を連れ、レインズ様のお姉様と散歩していた時、
見世物小屋から逃げた魔物に襲われたの。
足がすくんで動けなくなった私達の前に、同じ見世物だった獣人が現れて、
私達を助けてくれた…。
その時の事が、記憶のどこかにあるんでしょうね。
それで獣人への忌避感情が薄いんでしょう…。
まあ、そんなワケだから、
レインズ様は獣人族との約束だから反故にしていい、とはならないわ。」
「そんな事が…。」
遠い目をするアレクシィを爺は呆然と見つめる。
「そうだ、最初の質問に答えてなかったわね。」
「なんじゃったかな…?」
「獣人族と人族が手を取り合えるか、よ。」
「ああ、そうじゃったなっ。さっきの話に驚きすぎて忘れとった!」
「答えは“出来る”よ。レインズ様に心酔する獣人であれば、私は手を取れるわ。」
「…随分限定的な答えじゃなぁ。」
「そこから始まるものじゃないの?
まずお互いの共通点を見つけ、相違点を理解していく。
そうすれば、お前の欲しい答えに辿りつけるじゃない?」
「儂の欲しい答え…。」
どんな答えがほしかったのか…。
爺は年と共に衰えた目で、その答えを信じていた遠い昔を見つめていたー。
つづく
レインズを見送った後、アレクシィは部屋の隅の粗末なベッドを指さし、
「…爺さん、そこのベッドを借りてもよろしい…ですか?」
「うん?ああ、構わんよ。」
アレクシィは爺の返答に少し頭を下げる。
「アクサナ様、ここでお休みになっては?」
「そうじゃな、そうさせてもらおうかの。
爺殿、お借りするぞ。」
アクサナがベッドに横たわるのを甲斐甲斐しく世話するアレクシィ。
余程疲れていたのだろう、ほどなくしてアクサナは可愛らしい寝息を立て始める。
「おやすみなさいませ、アクサナ様。
御疲れ様でした。」
アレクシィは微笑みながら、アクサナのサラサラの緋色の髪を撫でる。
二人の様子を見ていた爺が、目を丸くする。
「あのレインズという方も不思議な方じゃったが、
アンタらも不思議な関係じゃのぉ…。」
「…不思議?」
「アンタは人族でそっちのお嬢さんは…魔族じゃろ?
人族と魔族が仲睦まじく…不思議と言わずして何と言う?」
爺は肩をすくめる。
「私とアクサナ様は、同じ一人の御方を慕う者同士。
そこに人族も魔族もないわ。」
「その御方とは…。」
「もちろん、レインズ様ですよっ。」
アレクシィは鼻息荒く答える。
「レインズ様は素晴らしい御方、御仕え出来て本当に光栄。
そして、それに気づかれたアクサナ様もまた、御仕えするにふさわしい御方だわ。
それに…この方は命の恩人でもあるから。」
「…人族が魔族にそこまで心酔するとはのぉ。」
「少し違わ。私が心酔しているのは、レインズ様だけよ。
そのレインズ様に心酔された奥方だから、私はお仕えするのよ。」
「はは…まるでレインズ様を崇める宗教のようじゃな。」
「…獣人風情が知った風な口を…。」
「こ、これはすまなんだっ!年寄りの失言じゃ、許してくれぃっ。」
アレクシィに睨まれ、爺は慌てて謝罪する。
「ふんっ。」
アレクシィは爺にソッポを向け、アクサナの寝顔に視線を戻す。
気まずい空気のまま、しばらく時間が経った。
再び口を開いたのは、爺だった。
「なあ、お嬢さん。」
アレクシィからの返事はないが、爺は話し続ける。
「獣人族も人族と…お嬢さん達の様に、その…友諠は結べると思うかのぉ?」
爺はチラリとアレクシィを見るが、彼女はソッポを向けたままだ。
「レインズ様はセレーテ様と友諠を結ばれ、助力を請われたから助けに来たと…。
そんな事があり得るのかのぉ?儂には未だに信じられん…。
いや、レインズ様が信用ならんという意味ではなくー…っ!」
また彼女を怒らせてしまったか?爺は慌てるが、
「…アナタの言う事はもっともよ。
人族が獣人と友諠を結び、あまつさえ助けに行くなんて…。」
「儂らがレインズ様との同盟を王国に訴える可能性を考え助けに行く、
それなら助けに来たのも納得じゃが…。」
「勘違いするな。
レインズ様は本当に、お前達を助けようとしたの。
王家に、婚約者に裏切られたレインズ様は…、
誰より約束を重んじられるのよ。」
アレクシィはきっぱりと言い切った。
その雰囲気に爺は気圧される。
「な、なぜじゃっ!人族は儂ら獣人を蔑んでー…っ!」
「…レインズ様は覚えてらっしゃらないみたいだけど、
子供の頃に助けられてるのよ、お前達獣人に。
それも、お前と同じ狼人族だったな。」
「儂らの同族に…。」
「まだ幼かったレインズ様を連れ、レインズ様のお姉様と散歩していた時、
見世物小屋から逃げた魔物に襲われたの。
足がすくんで動けなくなった私達の前に、同じ見世物だった獣人が現れて、
私達を助けてくれた…。
その時の事が、記憶のどこかにあるんでしょうね。
それで獣人への忌避感情が薄いんでしょう…。
まあ、そんなワケだから、
レインズ様は獣人族との約束だから反故にしていい、とはならないわ。」
「そんな事が…。」
遠い目をするアレクシィを爺は呆然と見つめる。
「そうだ、最初の質問に答えてなかったわね。」
「なんじゃったかな…?」
「獣人族と人族が手を取り合えるか、よ。」
「ああ、そうじゃったなっ。さっきの話に驚きすぎて忘れとった!」
「答えは“出来る”よ。レインズ様に心酔する獣人であれば、私は手を取れるわ。」
「…随分限定的な答えじゃなぁ。」
「そこから始まるものじゃないの?
まずお互いの共通点を見つけ、相違点を理解していく。
そうすれば、お前の欲しい答えに辿りつけるじゃない?」
「儂の欲しい答え…。」
どんな答えがほしかったのか…。
爺は年と共に衰えた目で、その答えを信じていた遠い昔を見つめていたー。
つづく
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