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第二章 巨大スライム討伐と一人目の嫁

その9

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「坊ちゃんを返せっ!返してよっ!」
怒声を上げ、アレクシィは両の拳を握り、レインズの足を殴りつける。
彼女の必死の懇願を、レインズは呆然と聞いていた。

『な、なんだ、この力は?』
急に見えるようになった左目、信じられない威力の魔法、そしてこの膂力…。
「俺の体に…何が起こってるんだ…?」
自分自身に恐怖し、レインズは眩暈を覚える。

ーやはり主様の中にあるかー
レインズはアクサナの言葉を思い出す。
「こ、この力は君の、魔族のモノかっ?!」
レインズはアクサナに詰め寄る。

「その力の御蔭で、そこな娘を救えたのであろう、重畳であろうよ?」
「た、たしかにあの魔法には助かったが…っ!」
だからと言って、人間をやめる話は違うだろうっ!

「ま、その力は我ら魔族のモノではないが、な。」
「え?違うのか?」
アクサナのあまりにあっさりした態度に、レインズは拍子抜けする。

「今、主様の内にあるは邪神様、我ら魔族の始祖様の力じゃ。」
「邪神…始祖…?」
「そうじゃ。主様も寝物語に御母堂から聞いた事があろう?
神代の時代、この世界で神と始祖様が争うた事を。」
「神代戦争の事か?だが、それは君の言う通り寝物語の類…。」
「いや、あれは事実じゃ。勿論、尾ヒレ腹ビレが付いた物語ではあるが、
神と始祖様が争うたのは事実じゃ。」

ー神代戦争ー
今より遥か昔、まだ地上に神が住み、人族や龍族達と共存していた神代の時代、
神と邪神の2柱の間で争いが起こった。
人族、エルフ族にドワーフ族、精霊族に龍族、地上に生ける全ての者達が神か邪神に与し、世界を2分する戦いとなった。
戦いは邪神の敗北で幕を閉じ、この戦いの後、神は地上を去り、天上へと引きこもった。
戦いの最後、邪神の体が堕ちたのが[大魔森林]と伝えられている。

また、この戦いで邪神に与し、邪神との間に為された人族が魔族、邪神配下の魔物との間に生まれた子らは獣人族となり、今も人族から嫌悪と迫害を受けている。
特に獣人族の多くは他種族に隷属する奴隷となっている。
そしてこの戦いの際、人族と精霊の間に生まれた魔法を使える子らが、戦後に貴族となり人族世界を支配するようになったとされているー。

「主様の左目に宿りしは、この地に堕ちた始祖様の魂の欠片じゃ。
強い魔力を有し、宿した者の能力を飛躍的に上昇させるのじゃ。」
「だから、それを吸収したスライムがあんなに巨大に…。」
「左様。主様の左目が見えるのも、魔力や膂力が上がっておるのも、全部その欠片のせいじゃ。
今なら、その左腕も治せるハズじゃ。どうじゃ、試してみるか?」
「部位欠損を治す?」
そんな高位の神職者でも不可能な回復魔法…。

「そもそも、俺は回復魔法なんて…。」
そう言いながらも物は試しと右手を左腕の欠損部にかざし、欠損部位の再生を願うと、
「え?何だ、これっ?!頭に直接…っ!」
「落ち着け、主様。頭に呪文が直接浮かんだであろう?それを唱えるのじゃ。」
「あ、ああ…。」
アクサナはレインズの背後に回り込む。
そして、その背を包み込むように覆いかぶさると、レインズの腕に手を添える
アクサナの体のぬくもりと、柔らかさ…。
彼女のほんのり、申し訳程度に膨らんだ胸が背中に当たる。

「ふふ、あの小さかった主様の背が、今ではワシでは包めぬほどに大きく…。」
「アクサナはその…小さいままなんだな。あ、い、いやっ!変な意味じゃなくっー…。」
「…主様はやはり、そこな娘の様な下品な大きさがお好みか?」
「い、いや、決して大きさはって、下品はヒドイなっ!」
「ほれ、魔法に集中せい。間違って腕に乳房が生えても知らんぞ?」
レインズは自分の左腕に揺れる乳房を想像してゾッとする。

「完全治癒。」
レインズは頭に浮かんだ呪文を唱える。
すると、右手から発せられた青白い光が、左腕を優しく包む。
「おっ?!おおっつ?!ちょっ、えぇっ?!」
徐々に肘から先が再生されていく。
まず骨が。その周りに神経と筋肉、血管が、最後に皮膚が再生された腕を包む。

「す…すごい…。」
再生された左腕を太陽にかざすと、掌の中を走る血管が見える。
掌を閉じたり開いたり…。
「戻った…。俺、俺の左腕がっ!!」
レインズの頬を涙が伝ったー。

つづく
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