5 / 94
第一章 隻眼隻腕の伯爵子息 レインズ・ウィンパルト
その4
しおりを挟む
『ねぇ、退屈だからあっちに行ってみない?』
少女が自分の手を引き、走り出す。
談笑する大人たちの間を擦り抜け、
煌びやかなパーティー会場を抜け出し、
子供2人で夜の王城を探検したー。
引かれて走る自分の手の小ささに、記憶がよみがえる。
これは幼かったあの日の夢だー。
幼い頃からずっと、忘れた頃に見る、不思議な夢。
よほど忘れてはいけないのか、それとも忘れたくないのか…。
あの日はたしか、魔王国との協定が結ばれた日の祝賀パーティー。
国中から貴族が集められ、ウィンパルト家の嫡男だった自分も、両親と姉の4人で参加した。
一通りの挨拶も終わり、パーティーに退屈していると、
同じように壁の花になっていた女の子に話しかけられた。
赤と黒のドレスがよく似合う、可愛い娘だった。
話の内容は忘れてしまったが、彼女との会話は楽しかった。
自分の知らない話を聞き、彼女の知らない話をたくさんした…と思う。
そして、彼女に手を引かれ、王城の庭園、バラの咲き誇るよく手入れされた庭園を探検した。
その庭園の中央、噴水の前で、何か約束を…。
『大きくなったら、結婚しようねっ!』
幼子の戯れ、幼稚な約束ー。
そうだ、幼かったあの日、自分はあの少女と結婚の約束をしたんだ。
自分を連れ出し、結婚の約束をした、あの少女の顔を思い出そうとするが、
顔はいつも思い出せない。
あれは一体誰だったのか…。
幼い日の元婚約者、ナルコシアだったのか…?
ーチチ、チチチ、チチー
小鳥のさえずりで目が覚める。
木漏れ日が差し込む大きな窓。
その窓辺には愛用のロッキングチェアが、
少し開いた窓から入る風でわずかに揺れている。
いつもののどかな、優しく温かい風景。
「また、あの夢か…。」
天井に向かい、レインズは呟く。
そう言えば、彼女の夢を見る前にも、夢を見た気がする。
あの懐かしく幸せな夢とは違う、まるで正反対の悪夢ー。
『あれ?ここは…どこだ?』
天井がいつもの見慣れた天井じゃないことに気付く。
寝起きのせいか視界も何だかおかしいし、
随分、長く寝ていた気がするし…。
レインズは急に不安に襲われる。
「んんっ。」
うなされたのか、ひどく喉が渇いている。
いつも枕元には水差しが置かれている。
メイドのアレクシィが用意してくれるのだ。
『とりあえず、水を飲んで落ち着こう。』
水差しを取るためにベッドに左手を突き、起き上がろうとー。
瞬間、体が半回転してベッドに転がる。
「あれ?」
不思議に思い、体を支えられなかった左手に視線を向ける。
「っ!」
レインズは思わず息をのむ。
そこには、あるはずの左手が、肘から先がなかった。
「あれは…夢じゃなかったのかー…。」
レインズは呆然と、失った左腕を眺めていたー。
つづく
明日22時に更新します。お付き合いください!
少女が自分の手を引き、走り出す。
談笑する大人たちの間を擦り抜け、
煌びやかなパーティー会場を抜け出し、
子供2人で夜の王城を探検したー。
引かれて走る自分の手の小ささに、記憶がよみがえる。
これは幼かったあの日の夢だー。
幼い頃からずっと、忘れた頃に見る、不思議な夢。
よほど忘れてはいけないのか、それとも忘れたくないのか…。
あの日はたしか、魔王国との協定が結ばれた日の祝賀パーティー。
国中から貴族が集められ、ウィンパルト家の嫡男だった自分も、両親と姉の4人で参加した。
一通りの挨拶も終わり、パーティーに退屈していると、
同じように壁の花になっていた女の子に話しかけられた。
赤と黒のドレスがよく似合う、可愛い娘だった。
話の内容は忘れてしまったが、彼女との会話は楽しかった。
自分の知らない話を聞き、彼女の知らない話をたくさんした…と思う。
そして、彼女に手を引かれ、王城の庭園、バラの咲き誇るよく手入れされた庭園を探検した。
その庭園の中央、噴水の前で、何か約束を…。
『大きくなったら、結婚しようねっ!』
幼子の戯れ、幼稚な約束ー。
そうだ、幼かったあの日、自分はあの少女と結婚の約束をしたんだ。
自分を連れ出し、結婚の約束をした、あの少女の顔を思い出そうとするが、
顔はいつも思い出せない。
あれは一体誰だったのか…。
幼い日の元婚約者、ナルコシアだったのか…?
ーチチ、チチチ、チチー
小鳥のさえずりで目が覚める。
木漏れ日が差し込む大きな窓。
その窓辺には愛用のロッキングチェアが、
少し開いた窓から入る風でわずかに揺れている。
いつもののどかな、優しく温かい風景。
「また、あの夢か…。」
天井に向かい、レインズは呟く。
そう言えば、彼女の夢を見る前にも、夢を見た気がする。
あの懐かしく幸せな夢とは違う、まるで正反対の悪夢ー。
『あれ?ここは…どこだ?』
天井がいつもの見慣れた天井じゃないことに気付く。
寝起きのせいか視界も何だかおかしいし、
随分、長く寝ていた気がするし…。
レインズは急に不安に襲われる。
「んんっ。」
うなされたのか、ひどく喉が渇いている。
いつも枕元には水差しが置かれている。
メイドのアレクシィが用意してくれるのだ。
『とりあえず、水を飲んで落ち着こう。』
水差しを取るためにベッドに左手を突き、起き上がろうとー。
瞬間、体が半回転してベッドに転がる。
「あれ?」
不思議に思い、体を支えられなかった左手に視線を向ける。
「っ!」
レインズは思わず息をのむ。
そこには、あるはずの左手が、肘から先がなかった。
「あれは…夢じゃなかったのかー…。」
レインズは呆然と、失った左腕を眺めていたー。
つづく
明日22時に更新します。お付き合いください!
1
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
報酬を踏み倒されたので、この国に用はありません。
白水緑
ファンタジー
魔王を倒して報酬をもらって冒険者を引退しようとしたところ、支払いを踏み倒されたリラたち。
国に見切りを付けて、当てつけのように今度は魔族の味方につくことにする。
そこで出会った魔王の右腕、シルヴェストロと交友を深めて、互いの価値観を知っていくうちに、惹かれ合っていく。
そんな中、追っ手が迫り、本当に魔族の味方につくのかの判断を迫られる。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

雑魚キャラ転生 おっさんの冒険
明かりの元
ファンタジー
どこにでも居るような冴えないおっさん、山田 太郎(独身)は、かつてやり込んでいたファンタジーシミュレーションRPGの世界に転生する運びとなった。しかし、ゲーム序盤で倒される山賊の下っ端キャラだった。女神様から貰ったスキルと、かつてやり込んでいたゲーム知識を使って、生き延びようと決心するおっさん。はたして、モンスター蔓延る異世界で生き延びられるだろうか?ザコキャラ奮闘ファンタジーここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる