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ー第4章ー
68/異世界ジャンケン
しおりを挟む共闘だと!?
何を考えている?
「何をどうやって協力するつもりなんだ?」
俺はミノタウロスに向かって疑問を投げかけた。
こうしている今も、全身に凄まじい重力がのしかかる。
すでに今までのダメージ、疲労の蓄積で満身創痍だ。
だが、それは奴とて同じ……。
「好敵手よ。この重力に逆らいながら、あの壁をどうやって超えるつもりだ? お互いにキツイものがあるだろう?」
涼しい表情とは裏腹にミノタウロスの太ももはガタガタと震えている。
今にも崩れ落ちそうだ。
無論、自分の足もそれと同等、いや、それ以上に効いている。
お互いすでに限界を向かえているのはわかりきっていた。
「──壁ね」
呟きながら壁に視線を向ける。
確かに、この重力を一身に受けながらあの壁をよじ登るは困難を極めている。
2メートルの高さ、そして足のつま先を引っ掛ける部位がない上に、掴める様な部分も見当たらない。
ボルダリングのように登る事は不可能だ。
しかも、この高重力だ。
ジャンプで乗り越える事も今の体力ではまず無理だ。
色んな角度から思案を巡らせみる。
打開策が見えてこない。
確かに、厳しいな……。
だが、それはアイツも同じ事。
「君の考えを聞こうか?」
俺の言葉にミノタウロスは、ニヤリと口元を吊り上げた。
「吾輩の名案はこうだ。片方が肩車で背負い登らせ、登り切った方がもう1人を引っ張り上げる──、これでどうだ?」
名案──というよりは誰でも思いつく範囲。
それには大きな問題がある。
問題は……。
「なるほど──、確かに協力すれば現実的な考えだね、だけど──」
だが……、ついさっき騙し討ちをされたばかりだ。
そう易々と何度も引っかかる脳筋の俺ではない。
俺は、どちらかというと頭のキレる脳筋だと自負している。
だから信じたりはしない。
できれば同じ事をやり返してやりたいくらいだ。
「──さっきの不意打ちの件もあるからね。僕は君を信用に値しないと思っている」
例え不意打ちに失敗して、相打ちだったとしてもだ。
「フハハハハッ! まだ根にもっているのか? では謝ろう。この肉体にかけて誓う。吾輩が先ほどのように好敵手を出し抜く事は今後はないと誓うおう。約束しよう」
肉体に賭けてか……。
しかし、そんなん口先だけでは信じられない。
それに、どちらが背負うのかにもよる。
ミノタウロスのあの筋骨隆々の大きな体。
俺の見立てでは200キロはあるだろう。
あれを背負って耐えるのもこのグラビガの中では、厳しい。
「ちなみに下になる方は、どうやって決めるのつもりなんだ?」
「そこはシンプルだ」
ミノタウロスは人差し指を立て、言葉を続けた。
「ジョブマスで決めようではないか!」
ジョブマス。
ジョブマスターズ・ウォーの略。
この世界のジャケンだ。
広く世界に名の知れた子供から大人まで幅広く行われる遊びの1つ。
ただしジャンケンとはルールが少しだけ違う。
「先行、後攻ジョブザウォー!」の掛け声でジャンケンをする。
一本指をチョキのように出せば──ソード。
親指、人差し指、小指の三本指を立ててグワシの様に出せば──アーチャー。
ジャンケンのぐーの様出せば──、ファイター。
ソードはアーチャーに強く。
アーチャーはファイターに強い。
そしてファイターは、ソードに強い。
このジャンケンの様な3すくみで勝てば、次の城攻めモードに移行する。
城攻めモードは、ジャンケン勝者が今度はキャスターとなり──、ファイヤ、アクア、サンダーのどれかを口にする。
あっち向いてほいのような感覚で、受けては
ファイヤの場合は、十字に腕をクロス
アクアは、両腕を立てピッタリとくっつける。
サンダーは、しゃがむ。
と言う防御方法をとる。
それにドンピシャに当てはまらない場合は敗戦となる。
ジャンケンから少し変わったあっち向いてホイのような遊びだ。
「よし、わかった! 受けよう」
信用はしていないけど、今はこの案にのっかるしかない……。
それにジョブマスには自信がある。
やってやる!
「「先行後攻ジョブザウォー!」」
俺はソードを出す。
ミノタウロスもソードを出した。
あいこか……。
「「撤退しない、させない、ジョブザウォー!」」
あいこの時の掛け声と共に再びジョブを出し合う。
俺はアーチャー。
ミノタウロスもアーチャー。
「「撤退しない、させない、ジョブザウォー!」」
三度目の正直。
俺は再びソードを出した。
ミノタウロス──、アーチャーだった。
よしッ!
城攻めモードだ!
「ファイヤッ!」
と俺は叫ぶ。
ミノタウロスはクロスさせ防いだ。
「「先行、後攻ジョブザウォー!」」
俺はファイターを出す。
ミノタウロスはアーチャーを出した。
もういっちょ城攻めだ!
「サンダー!」
「しまった!」と言いながら、ミノタウロスはまたもや腕をクロスさせた。
「よっし! 僕の勝ちだな」
俺はガッツポーズを見せた。
「よかろう、負けは負けだ」
ミノタウロスは、不気味な笑みを含ませ言った。
そのまま壁伝いにしゃがみ込み。
俺の顔を見て、クイッと顎で乗れと指示をする。
やけにあっさりだな……。
何か企んでるな?
俺は深呼吸をし、そのまま重い体を動かす。
「ふんッ」と唸り、肩に跨った。
この高重力のせいで足を上げて跨るという行動も半端ない負荷だ。
やっとの事で足を乗せた。
「いくぞ。ぬぉぉぉぉ──!」
ミノタウロスがうめき声を発し、壁伝いで中腰の体制になる。
当たり前だが、俺よりもこっちの方がキツい。
俺の体を乗せて、このグラビガの嵐を立ち上がらなければならないのだから。
なんか変な感じだ……。
争っている相手の肩に跨る事になるなんて思ってもいなかった。
全身はガタガタに震わせながら壁を這う様に伝っていく。
体から沸々と闘気が沸き起こるのがわかる。
す、すげー。
体を伝ってオーラというか覇気みたいなものを感じる。
じわりじわりと壁のてっぺんに近づく。
手が届きそうだ……そう思って鉛の様に重い腕を気合いで持ち上げる。
指の関節1つ分ギリギリ届かない。
「もうちょっとだ!」
ミノタウロスに向かって言う。
「うむ──、おおおぉぉぉ──!」
気合いが轟く。
あと、すこし……、あと……。
届いた!
関節1つ分、壁のてっぺんにかけられた。
「「うおおぉぉぉぉぉ──!」」
二人で怒涛の気力を振り絞る。
徐々に体が浮いていく。
足がついていないからか、重力の負荷が更に倍増したかのように感じる。
くッ──
ゆ、指が千切れそうだ……。
歯をくしばり、指先に全精神力を集中する。
「わ、吾輩の頭を踏み台にしろッ!」
「な、なんだって!?」
「気にするなッ! 吾輩の頭を越えていけ──ッ!」
「すまない!」
俺はミノタウロスの後頭部に足をかけた。
そして、思いっきり踏み越え、壁伝いに這い上がった。
壁を越えられた。
「のぼれた!」
あとはミノタウロスを引きあげるだけ──
いや、待てよ?
やられた分をやり返すなら今だよな?
騙された分はここで仕返してもいい。
敵なんだし、置いて行っても問題ないよな……。
一瞬、頭をそんな思いが横切る。
いや、ダメだ!
地面に四つん這いになり、思いっきり頭を叩きつけた。
なんて事を考えているんだ俺は……。
やつは、プライドまで差し出し、頭まで踏ませたんだ。
ここで俺が奴を見捨ててしまったら、俺の誇りと大胸筋をもう張って生きていけない。
約束通り、俺はアイツを引きあげる。
「つかまれ──!」
グラビガゾーンに手を差し出す。
「うぉ!?」
肘から下のみにグラビガが、かかり一瞬落ちそうになる。
右手の右肘より、下のみ異様に重くなり、体自体は体重分しかないため非常にアンバランスな状態になる。
さらにここで、ミノタウロスの体重とグラビガがのしかかるとなると──、腕がひきちげれそう気がする。
ミノタウロスは差し出された手をにぎり掴む。
「うおッ!?」
グンッと下に思いっきり負荷がかかり転げ落ちそうになる。
左手で死ぬ気でツッパリなんとか持ち堪える。
「気合い入れろー、ミノタウロスッ!」
「頼むぞ好敵手よッ!」
「「うおぉぉぉぉ──!」」
◇◇◇◇◇◇
「はぁ──はぁ──、はぁ」
グラビガゾーンの壁の向こう。
なんとか登り切った。
俺とミノタウロスは死んだように転がっていた。
お互いに体力は枯れ果てていた。
「あと、1つ……」
目の前の最後の種目に目をやり俺はつぶやいた。
2本のロープが垂れ下がっている。
500メートルくらいの高さ……。
どうやら最後はこのロープをシンプルに早く登りきったら勝ちのようだ。
動けるか?
いや、動け、動け俺!
「吾輩も貴様も体力はどうに枯れ果てたな」
ミノタウロスが大の字になり、天井を仰ぎながら言った。
「それな」
「フハハハハッ! 実に愉快」
「何が?」
「好敵手よ。切り札とは最後に取っておくものだ」
「なんだと?」
まさか──、まだ切り札があるのか?
ミノタウロスは立ち上がる。
「吾輩には、ユニークスキル病み上がりがあるのだ」
「な、なんだって?」
「体力を使い切った後、1.25倍のバフがかかり心身共に強化されるのだ──もちろん、体力もな! フハハハハッ!」
ま、まじか……。
今そんなんやられたらもれなく負ける。
ミノタウロスは唸りながら体がどんどん大きくなっていく。
全体的に1回り大きくなっていた。
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ミノタウロス
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