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ー第4章ー

67/ライバル

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 そそり立つ巨人を超えて、目の前に出現したのは見た事のないスペース。
 100メートル四方のフロアにローブを纏った魔導士らしき魔物が10人ずらっと囲んでいた。

 魔導士
【212,000/12,000】

 魔導士? なんだここは?
 ただのフロアスペースのようだけど……。
 天下一武道館みたいだ。
 まさか戦えと?

 俺は、フロアへ一歩踏み出した。

「ここは、グラビガゾーン……」
 魔導士の1人がそう言った。
「え?」
 
 真っ黒のローブの中身は、まるで見えない。
 どんな人物なのか、またはどんな魔物なのか、ローブの中は暗黒で、ただそこにローブと杖が浮いてるようにも見える。
 魔導士は、杖を次々ドミノのように掲げていく。
 
「グラビガ」
「グラビガ」
「グラビガ」
 次々と上位重力魔法のグラビガを唱えていく。
「グラビガ」

「「「グラビガッ!」」」
 魔導士全員が、グラビガを唱えた。

 体に10人分ものグラビガの重力がのしかかった。
 即座に首はもたれ、そのまま大きな巨人に押し潰されたかのようにフロアに倒れ込む。

「ぐはッ!」

 全身が、フロアにめり込んでいく。
 肺や内臓まで、凄まじい圧力で圧迫される。
 骨が軋み、地面が受けてなければそのまま、縦にペシャンコだったかもしれない。

 く、苦しい……。
 か、身体が動かない。
 地上の一部にでもなったようだ。
 落ちつけ……。
 
 前方に視線を向ける。
 このエリアの向こう側は100メートル程。
 この重力に耐えて、ほふく前進で乗り越えて行く。
 が、問題は100メートル先はドン突き……壁がある。
 つまりこの高重力を浴びながらあと2メートルの壁を乗り越えなきゃならないのか……。
 目を閉じる……。

 領域展開 無脳筋処
 
 説明しよう。
 領域展開 無脳増筋とは自分が見えている視界すべての情報をシャットアウトし、筋肉を動かす事のみに超集中する──、ただの脳筋モードだ。

 集中しろッ、これは力士10人が上に乗ったほふく前進だ。
 実態が見えないから大きく感じる……。
 実態を掴めッ!
 
 あけ〇のが1人──、白〇が2人──、武蔵〇が3人──、日馬富〇が4人──、若乃〇が5人──、貴乃〇が6人──、北勝〇が7人──、千代の〇が8人──、琴〇が9人──、照ノ富〇が10人──ッ乗った!
 横綱が10人背中に乗ったぞ。

 ぜ、全然軽くなってないが、モチベがアップだ!
 レジェンドが10人も背中に乗っている。
 これでモチベが上がらないわけないだろぉぉ──!
 
「うおぉぉぉぉ──ッ」
 全力で叫ぶ。
 
 俺は気合いで這いつくばり前進した。
 1歩、2歩、どんどん歩を進めていく。
 体にかかった重力の負荷のせいで臓器そのものを地面に擦り付けているかのようだ……。

「ぬぉぉぉぉ──なんじゃ、こりやぁぁぁぁ──」
 ミノタウロスの悲鳴が聞こえた。

 お前が作ったんだろがいッ!

 心の中で思わず突っ込む。
 首を後ろに傾ける余力はない。
 気配だけで悟る。
 多分、あいつも地面に這いつくばっているだろう……。

「ハァハァ……ハァハァ……」
 
 あと1歩──、壁に手を伸ばす。

 触ったッ!
 し、しかしここからどうする?
 立ち上がったところで、どうやってあの壁を越える?

「フハハハハ──、ハァハァハァ、や、やっと追いついたぞ……ぬぅん」

 もう追いついてきやがった!

 横を向く余力はない。
 声のみで反応する。

「ぬぉぉぉぉ──!」
 ミノタウロスの踏ん張りを感じる。

 やばい、抜かれる……。
 しかし登れるのか!?
 負ける訳にはいかない、よし、俺もッ!

「うぉぉぉ──!」
 俺もみなぎらせる。

 か、関節が壊れそうだ。
 首も、もげそう……。

「フハフハフハハ──ハァハァァハァ、ここまでよく闘い抜いたぞ。好敵手よ、ゼハァー、お前でなければここまで楽しめなかったはずだ──握手をしようではないか」

 確かにこの闘いはアスリートにとって最高の闘いだった。
 お互い健闘を讃えたい。
 もちろん握手に応えよう。

 俺はミノタウロスに向き直って右手を差し出す。
 ミノタウロスの右手と俺の右手が交わった。
 その刹那──、ニタァ~と意地の悪い表情を見せた。
「貴様なら我輩の握手に応えてくれると思ったぞ」

 し、しまった……罠か!?

「これは勝負だ。汚いとは言うまいなッ!」
 と、言って俺の手を思いっきり下に引っ張った。 体制がくの字を描き、重力に逆らう事なく沈んでいく。

 くそ──、やられた──。

 ミノタウロスの腕力に重なり、横綱10人分の重力が俺の体に降り注ぐ。
 息つく間もなく俺の体は、ミノタウロスの策略の餌食となった。
 岩が砕ける大きな音を立て、再び地面に顔面からめり込んで行った。
 離れていく意識の中、自分の不甲斐なさに苛立ち手をグッと握り込んだ。

 やられた、やられた、やられた、やられた。
 くそ、くそ、くそ、くそ、くそ、くそ!
 
 大きな後悔と共に、激しく揺さぶらる脳。
 眼前が揺れ、目の前が真っ白になった──。

 消えていく意識の中、もう一つドコォーンと岩が砕ける音が聞こえた。



 ◇◇◇◇◇◇



「──ッ」
 
 目を覚ますと全身に痛みが走った。
 数々の激戦と奮闘によるダメージ。
 全身くまなくある打撲。
 剥がれきった指先やつま先の爪。
 
 すさまじい筋肉運動による未だかつて経験のない筋肉痛。
 何度も頭部を打ち付けた事による激しい頭痛。
 腹部や内臓にも鋭い痛みが走る。
 まるで全身バラバラになったかのような激痛だった。

 あー、俺はよくやったよな……。
 ミノタウロスは強かった。
 どれくらい意識がなかった?
 もうあいつは、きっとゴールに着いたか、その近くだろうか?
 これからどうなるんだろうか?
 俺の事はどうでもいいが、せめてシャルロット やメイメイだけでも助けなくちゃならない。
 命に変えても──。

「エレイン──ッ!」
「エレちゃん起きろぉー!」
「兄弟ッ!」
「エレインさん!」
 みんなの俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

 みんな──ごめんな──。
 
 そう言おうと起き上がろうとしたが、起き上がれない。まるで何かに押し潰されたみたいに……。

 まだグラビガが、かかっている!?
 どう言う事だ? 
 終わっていないのか!?

 顔を無理矢理起こし、状況を確認しようとする。
 額が上に上がると、誰かの背中が横たわるのが見えた。

 ん? ミノタウロスッ!?
 なぜ、ぶっ倒れているぞ!

 状況が把握できない。何が起きたか必死に思いだす。
 確かに俺は騙されて奴にハメられたはず……。
 もしかして、倒される瞬間、手を握り込んで一緒にこいつも巻き込まれた!?

 だとしたら、棚ボタだ。
 今のうちにリードしなくちゃ……。

 瞬時に敗北から気分を切り替える。
 このスィッチは、挑戦者魂には絶対的必要な心得だ。
 いつまでも過ぎた事にこだわらず、自分自身その経験の活かし方にこだわる。
 過去という泥の産物から一筋の光を抽出するように……。

 ぬおおお──ッ!

 再び、全力前回で立ち上がろうと奮闘する。
 ガクガクする関節。
 足裏が、ちょっとめり込んでいく。
 なんとかやっとの事で立ち上がった。
 立ち上がる事に、全集中していて気付かなかったが、上がり切った景色の眼前にはミノタウロスが立っていた。

 ほぼ、同時に目を覚まし──。
 同時に立ち上がったのか……。
 ここまでの激闘を振り返ると、ほぼ互角。
 認めよう、こいつはライバルだ。

 お互い向き合いニッと笑った。

「好敵手よ、我輩も貴様もボロボロであろう」
 ミノタウロスが声をかけてきた。
「そうだね。僕も君も、まるでボロ雑巾のようだ」
 俺は答えた。
「このグラビガの壁……どう超えるつもりだ?」
「さぁ──、しかし超えなきゃ進めない。わからないけど超えるだけさ」
 再びミノタウロスはニヤリとして──。

「ここは共闘といこうじゃないか好敵手よ。互いの力で協力して乗り越えようじゃないか」

 今度は、何を考えている?
 また罠か?
 
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