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ー第4章ー
51/漆黒の迷宮城
しおりを挟むカンカンに照りつける太陽。砂漠に漂う蜃気楼。したたる汗。その砂漠の大地に神々しい彫刻のような石像と誤解されてしまう程の美しい悠然たる肉体の持ち主は誰でしょうか?
「そう……、僕です」
俺達はミノタウロスが君臨すると言う、この灼熱砂漠に突如として現れた〝迷宮城〟にたどり着いた。自信の表れか、城なのに防壁は設備されていなく、大きな門が入って来いと言わんばかりに向き出しだ。
その出立は、迷宮と言われる由縁がさっぱりわからない普通のサイズの城で、外観が黒い以外に何の変哲もない。むしろソロモン王の宮殿アルスター城の半分にも満たないサイズなのだ。
「黒くて太くて固そうで素敵なお城ね」
ゲイ将軍は、城を見上げて眺めている。
「これ本当に迷宮なんですか? 小さい気が……」
「侮ってはダメよ。この城の本願は地下にあるわ」
「前回調査した十字軍の報告によると地下には謎の迷路みたいなものがあるんだとさ」
サイモン将軍が、いつになく真剣な面持ちで迷宮城を睨む。
「で、どうします?」
「少し様子を見よう。まずは、張り込みだ」
「そうね。相手は魔王軍の四天王よ。迂闊に飛び込むの危険よ」
皆が息を呑む横でメイメイがサイモン将軍に鼻くそをなじった。
「うぉッ……や、やめてくれよメイちゃん」
「──はぁ……めんどくさいアル」
「ちょ、ちょっとメイちゃん!?」
メイメイは、皆の静止を他所に歩き出した。
「リヴァイアサンにじっと待てだなんて無理な話だよ」
ジンが当然と言わんばかりに腕を組んで頷いていた。メイメイは、そそくさと門まで歩いて行ってしまった。そして、近所のお金持ちの友達の家に遊びに来たかのように門を叩いた。それも──何度も。
「たのも──!!」
ドンドンと激しく叩く。
「お、おい! メイちゃんヤバいって!」
サイモン将軍が慌てふためき、忍足なのかガニ股なのかよくわからない変な歩き方でメイメイを静止しようとした。その変な歩き方からもテンパリ具合がよくわかる。
一方、ゲイ将軍はというと……。えッ!? 俺の真横で真っ白になって固まっていた……。
「あッ!」
シャルロットが、驚いた方角に目を向けると次の瞬間には、サイモン将軍がメイメイに裏拳で吹っ飛ばされていた。そのまま拳の戻り側に勢いを付けて城門にパンチをぶちかました。
「まじか……」
皆、フリーズしていた。
凄まじい破壊音と共に門が粉々に吹き飛んだ。このカンフー娘は、本当に加減と言う言葉を知らない……。 時々、この子の強さは、もしかして聖騎士や十字軍の遥か上なのじゃないかと思う事が度々ある。
度胸も戦闘力もタンパク質量も化け物じみている。
「開いたアル。エレちゃん、シャルちゃん、オカマも行くぞ!」
そうハナくそをほじくりながら堂々と先に入って行ってしまった。
「こうなっては仕方ない。行きましょう」
「そ、そうね……」
ジンが大爆笑している。ゲイ将軍は深いため息を漏らしてトボトボと歩き出した。シャルロットと俺は、その後を追い城の中に突入した。さて、どんな奴が待っているんだろう?
城の中は、薄暗くとても不気味だ。不思議な事にほとんど日差しが入って来ない。外観の性なのか?
その薄暗いエントランスの両サイドにはローソクの火がユラユラと揺らめている。それが、また不気味さを一層倍増させている。
エントランスのど真ん中に真っ赤なカーペットが引かれていてその先には、階段が右と左の分岐になっていて上の階に伸びていた。
「あれ? サイモンさん。さっき地下がどうのって言ってませんでした?」
「あぁ……、そうなんだが……」
「地下への道が、見当たらないわね」
ゲイ将軍が、一歩進んだ瞬間──、『ガチャ』と何かが、開いた音がした。
「ガチャ?」
「ガチャ?」
「嫌な予感がする……」
「あッ……」
ゲイ将軍が自分の足元に目線を向けると床が開いて足元が抜けていた。そのまま真っ暗な穴に悲鳴を上げなら落ちていった。
「ゲ、ゲイ将軍ッ!?」
すかさずサイモン将軍が後を追うように穴に飛び込んだ。
「俺達の事はいい──! そのまま進んでくれ──!」
「「うぁぁぁぁ────ッ!?」」
床穴からサイモン将軍の声が響いて聞こえた。
「サイモンさん! ゲイさん!」
「エレインくん落ち着いて、彼らも軍人で戦士さ。きっと、なんとかするよ」
ジンは、床穴を覗き込みながらそう言った。
「キャッ!」
ん? シャルロット?
後ろにいたはずのシャルロットがいなくなっている。周りを見渡したがいない。
「シャルロットッ!! シャルロットッ!!」
「シャルロットくん!?」
「気配がなかったアル」
ジンが目を閉じて何かを察知しているようだ。
「いた!」
シャルロットの居場所を察知したようだ。
「急ごう!」
「ダメだ。君達と行く程、のんびりしてはいられない。シャルロットくんは、僕にまかせてくれたまえ」
そう言うとジンは姿を消した。
「消えた! シャルロットのところに向かったのかな?」
ジンは仮にも大精霊だ。任せておいても心配ない、むしろ心強いと思う。それにしても、気付いたらメイメイと2人になってしまった。完全に敵の揺動に掛かってしまっているようだ……。
気を引き締めよう。俺は絶対に罠には掛からないぞ!
「何やら仕掛けが沢山あるようだ。気を付けて、メイメイ!」
「はいな!」
俺とメイメイは背中合わせになり、周囲を観察した。右奥のあれは何だ? いや、ただの花瓶のようだ。階段前にあからさまに設置されているあの石像には何か仕掛けがあるに違いない。触れてはなるまい。
ん? 天井に何かあるな……。あれは……、ぶら下がり棒のような鉄棒がある。チンニング(懸垂)ができそうだ。
「エレちゃん、黙ってどしたネ?」
「いや、なんでもない」
そう言えば神殿を出てから、ろくに背中のトレーニングをしていなかったな。砂漠には、ぶら下がれそうな場所なんかなかったし、懸垂か……、久しぶりにやりたいな~。
いや、きっとあれも罠に違いない。明らかに構造として変だ。普通に考えて天井から鉄棒が生えているなんてどう考えてもおかしい。
「くッ!」
「どしたネ!? なんかあったアルか!?」
「いや、大丈夫」
罠だ、罠だよな……。意識すればする程に広背筋の疼きが止まらない……。
け、け、懸垂……、さ、さ、3セットだけなら……、い、いや、せ、せめて、じゅ……、10回だけなら良いよね? ね?
「とぅッ!」
俺は天井にジャンプをして、鉄棒にぶら下がった。
ガチャンと音がして何かのスイッチが入ってしまい機械音が作動した。
「あッ」
「あッ………」
ゆっくりとぶら下がったまま振り返りメイメイを見た。凄い顔をしている……、性格を抜きにすれば120パーセント美少女だ。そのメイメイが、瞳孔をかっぴらき血眼になって、鼻の穴を全開に膨らました凄い顔をしている。
メイメイの気持ちはわかる。あれ程、気を付けてと言っていたもんな。なのにその言っている本人が、このあり様だ。俺のバカ野郎、でも広背筋は悪くない。
「……メイメイ……ご、ごめん……」
「エレちゃんのアホンダラ────ッ!!」
メイメイの罵声と共に俺は暗闇の地下に落ちて行った。
あぁ……、懸垂万歳……。
◇◇◇◇◇◇
「はぁ──、アホすぎるネ……」
エレちゃんのアホ、マヌケ、おたんこなす!
どうするネ。メイメイ1人になっちまったアル。
シャルちゃんの所は、詐欺精霊が向かってるアルから問題ないネ。エレちゃんは、ほっておいても自力でどうにかするアル。だとしたらまず、あのオカマ軍団を探してハナクソを付ける事が優先アルな。
──ッ!? 気配がするアル。
「誰アルか!」
足音が、聞こえるアル。階段の方?
「クックックッ──。どんな獲物かと思えば懐かしい顔じゃね~か」
暗くて顔がよく見えないネ。
「メイメイを知っているって事は…………」
「クククッ」
「変態ロリコンストーカーあるなッ!」
『違ぇ──よッ! おいッ!』
近づいてきた、間違いない変態アル!
「相変わらず口の聞き方がなってねぇクソだな。てめぇーは」
「ん? お、お前は!?」
メイメイと同じ秦国の赤いカンフー着、灰色の髪と目ん玉、ちょっと粋ってしまったのか顔に変な模様と髪の毛をツンツンに逆立ててしまっているけど……、間違いないネ、こいつは、メイメイの探し人の──。
「ゲリムッ!」
「ゲシムだッ! 8年も一緒にいた奴の名前を間違えるなッ!」
相変わらず暑苦しい声でうるさいネ。
「その変な顔の模様と髪はどうしたネ? カッコイイと思ってるアルか? くそだせーゾ」
「──たくッてめぇーは、相変わらずムカつく野郎だぜ」
──ッ前蹴り!? まぁ当たらないけどなー。
メイメイは、簡単に避けるのでアル。
「ムカつくぜ、なぁ……拳聖メイメイ……」
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