上 下
48 / 77
ー第3章ー

48/ザ・マッスルアカデミック

しおりを挟む



「はぁ、はぁ、はぁ……」ベットに横たわるユージンが苦しそうにうなされてい。

「やっぱりユージンの体には無理なんだ。だから言ったんだ」ダッチがユージンの額に冷やしタオルを置いた。

「かけた事もない負荷を体にかけたのだから体調を崩すのは当然ですよ。別に体が丈夫であっても熱を出したりはしますよ。人間はそうやって慣れて行くものです」

「じゃぁ、何かい? あんたはユージンがこうなる事を知っていてやらせたと言うのかい!?」

「えぇ、僕は予想していました」

「なんだと!?」

 昨夜、ユージンは、膝立て伏せ、ディップス、リバースプッシュアップをして上腕二頭筋、三頭金、大胸筋を鍛えた。今まで掛けた事のない負荷に体がびっくりしてしまい、疲労が熱となってユージンを苦しめている。そして経験した事のない筋肉痛が体に激痛を与えているに違いない。

「──まぁ……ダッチ待てよ。これは不思議な事に俺も筋トレをした次の日は熱をだして寝込んだんだ。不思議な事でもない。体が弱いからとかそう言う問題でもないはずだ」サイモンが冷静に割って入り、ダッチを宥める。

「サイモンさんの場合は、連日激務の疲労による免疫低下に加えて、はじめて経験するような負荷が体に掛かりましたからね。体調崩しても当然だったんです。今はどうです? 同じ負荷をかけても体調崩さなくなったでしょ?」

「あぁ、確かに……兄弟の言う通りだ。筋肉痛? って奴が酷いが寝込んだりしなくなったよ」サイモンが、頷く。

「──フン──お頭が、どうだって俺は反対だ」そう言ってダッチは部屋を出て行く。

「熱そうだね。僕が、もう少し冷やしてあげよう──フゥ──」ジンがユージンの額にのったタオルに冷気をまとった息を吹きかけるとタオルが凍った。

「オカマは、どこ行ったアル? 朝から見てないネ」

「ゲイ将軍さんは、天気を予測するのに朝早く調査に出かけて行ったよ」シャルロットが、メイメイの質問に答えた。

「ふーん」

「ウッ──、ハァハァ──やっぱり──僕には無理だったんだ」ユージンが目を覚まし、俯いた。

「目が冷めたかい?」俺はユージンの側に椅子を近づけベットの横に座った。

「僕なんかが、十字軍なんかに……ましてや、エレインさんみたいに慣れるわけなかったんだ」

「──どうしてそう思うんだい?」

 ユージンのカロリーとタンパク質は【60000/2500】常人のカロリーが平均14万前後であり、その半分もカロリーが足りていない。そしてタンパク質はたったの2500……。常人であれば最低でも1万はないと普通の生活ですら困難だ。

「だって、ほら! 僕が、何かを少し始めたらすぐこんなことになってしまう! これはきっと神様がこんな事を夢見るなって言ってんるんだ! お前には無理だ! 諦めろって!」ユージンの目が潤む。

「神様……ね」

 ──神? あの転生時や夢の中に出てきた白い空間の声の事かな? なんだかよくわからない奴だったし、結局どうしたいのかもよくわからない。何もしてもらった覚えはないしな…………。〝刹那の獅子〟だって俺の愛すべき俺と俺の筋肉が二人三脚で勝ち取ったのだし。

「ユージンくん、神様はきっといるとは思うけど、よく分からないし、何かしてくれるわけでもないし、この際、放っておこう。気にしないでいいと思うよ」

「エレインさんは神様の意向を気にしないと!?」

「そうか……ダッチは確か精霊信仰ではなく一神信仰者だったな」サイモンが思い出したようにボソっていう。

「神なんかいないアル」

「ま、僕なんかその神扱いされてる精霊の1人だけどね」ジンは偉そうに腕を組んで胸をはる。青い幼女が腕を組んでいるようにしか思えなくて、とても可愛くみえる。「それにリヴァイ──いや、メイメイ、君もそうだからね」

「ユージンくん、僕もね。虚弱体質で君くらい時に病気(喘息)をよく患っていた」

「エレインさん15ですよね? 僕と2つしか変わりませんよ」

 ──ッ!? 
 
 おっと、いかんいかん、中村になっていた。俺はエレインだ。喘息なんかもっていなかった! 誤魔化さなきゃ……。

「あぁ……えっと、そっかホラ、ユージンくん凄く若くみえたから──はははは」
 
 誤魔化せていない、くッ……苦しい……ユージンくんの痛い視線が突き刺さる。

「──ぼ、僕が知っている異国の話なんだけどね。アスリートと呼ばれる戦士達がいる。それこそ僕なんかより、よっぽど凄いレジェンド達も存在していて僕は彼らに憧れにずっと身体を鍛えてきて励みにしてきた。僕にも弱い時がもちろんあった」

「エレインの……弱い時?」シャルロットは後ろでクビを思いっきり横に傾げた。

「エレちゃんより化け物がたくさんいる異国とか一国だけで世界支配できそうアルネ」
 
 ハナクソをほじりながらメイメイがつぶやく。その横で深くジンが考え込んでいる。

「その異国のレジェンド達の中にも多く虚弱体質と向き合って闘い続けているアスリートがいる。その中に僕の尊敬してやまない怪力法の著者、若木 武丸さんがいる──」

 若木 竹丸「怪力法並に肉体改造・体力増進法」の著者として、また比類ない怪力と逞しい肉体所有者として全国に鳴り響いたのが戦前であった。

 当時の力技の世界記録をことごとく打ち破ったその肉体は、なんと身長160センチ程で体重も65キロほどしかなかった。その体格でロシアのライオンと謳われたジョージ・ハッケンシュミットやアーサー・サクソンらの巨人と互格の記録を打ちたてたのである。

 この身長からの記録では世界的にみても彼に並ぶ者は現代に置いてもいない。あの伝説の極真空手の大山 倍達を師事した日本ボディビル界の先駆者である。その若木氏ですら少年時代は虚弱体質であり、いじめられていたと言う。

「その僕が尊敬してやまない若木さんは、伝説の武道家にこう言った「おい! 今世界中のどこかで、お前と同じような奴がお前と同じようなトレーニングをやっているかもしれない。それでいいのか!」と──。わかるかな? ユージンくん……この世界は広い。この広い世界に君の様に苦しんでる子は、きっとどこかにいるかもしれない。そして君の様に苦しみながらも努力をしている人がいるかもしれない。彼はこうも言った「肉体の限界とは、想念の遥か上にある」と──、君が思うより、君にはずっと可能性がある。限界を決めつけているのは君の思念かもしれない。これは生きていく上で全てに通ずる事だと僕は思う。ゆえに筋トレは、全てに通ずる。筋トレは哲学でもある。僕にとっては学びしかない学問さ! トレーニーは学者でもある。マッスルアカデミック!!」

「…………」

「体が弱い事と、心が弱い事を一緒にしてはいけないよ。体が弱い事は君の心の弱さとは関係ない。逆に言うと体が弱いなら尚更、心を強くもたなきゃならいね。さぁ、今日はゆっくり休んで、回復してからゆっくり考えればいい。僕たちはフロントに戻るよ。ゆっくり寝てね」

 そう言って俺達は、ユージンの寝ている部屋を出た。フロントに出ると隙間風が、吹き抜けた。宿屋がカタカタと風に泣かされている。

「そろそろサンドストームが来そうだな。サンドストームが来たら、だいたい3日は止まないだろう。外は砂嵐で5メートル先ですら何も見えず目も開けらない程だぜ。しかしダッチ──ここの宿屋、本当に大丈夫か?」

「サンドストームはこの店を始めてから1度もなかったから知らねぇよ!」そう言ってダッチは隙間をトントンと金槌と釘と板を使い埋めていく。

「「「──え?」」」

 一同の顔が青ざめた。おいおい、まじかよ……。
 宿屋の扉が開きゲイ将軍が帰ってきた。将軍は羽織っていたローブのフードとり、長いツインテールを左右に揺らした。本当にこうやって見るとただのツインテール美少女だ。……が、繰り返すが彼は男である。

「ふぅ──。風が強かったわ。来るのは今夜ね。結構な大規模なサンドストームになりそうよ。3日から5日は籠るようね」

「5日か!?」

 ……だ、大丈夫かな?


 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

Sランク冒険者の受付嬢

おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。 だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。 そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。 「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」 その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。 これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。 ※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。 ※前のやつの改訂版です ※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...