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ー第3章ー
40/鬼の襲来
しおりを挟む「肩の関節と肘の関節が、よくポキポキなって肩の筋トレは不安にゃ」リリィは、ダンベルショルダープレスをしながらボソボソと呟く。すっかりリリィも筋トレにハマり初めている。
──ダンベル・ショルダープレス──
ダンベルショルダープレスは肩の代表的トレーニング。効果のある三角筋は、上腕最上部に位置する筋肉で腕を上方に押し出す作用があり大胸筋と共動する。
ベンチに腰掛けたら、両手に持ったダンベルを左右の太腿に置く。ベンチは垂直から一段階後ろに倒した状態にセット。
左右のダンベルを肩の上まで引き上げます。肘が曲がった状態が基本姿勢。
基本姿勢から、左右のダンベルを同時に真上に押し上げて、肘が伸びきったら、ゆっくりと基本姿勢に戻す。
視線を前に固定したまま、15回程度ダンベルを上げ下げする運動が1セットとして、合計で3セットを目指そう。
ディズルの森に調査に入ってから早くも4日、俺達はなんだかんだ任務そっちのけで寛いでしまっている。──しかし、ただ寛いでいるわけではない。これも観察の1つだ。過ごしていてわかった事もある。ここの魔物達はまず人間を襲わない。人間に対してとても友好的である。そして、おどろくべきは筋トレのおかげなのか独自の進化をしている個体もいる。このディズルの森の住人であるゴブリン、オークは、基本的には誰もが筋トレをしていた。そして冒険者とのコミニュケーションの高さもまたすごいところで。──しっかりと情報収集もしつつ冒険者からの信用を勝ち得ていた。
「──リリィ様、そんなときはアーノルドプレスがおすすめだゴブ」
「──ゴブザエモン」
この独自な進化をとげたゴブリンのジムトレーナーのゴブザエモンは、今までどこでも発見された事のないクラスに世界で初じめて進化した。──クラス名は【ゴブリンマッスラー】らしい……。全身の筋肉量の大きさは勿論のことながら特化しているのは広背筋、背中の筋肉が鬼の顔を描いてるいのだ。──かっこいい──その一言に尽きる。かつてこんなカッコいいゴブリンが、いただろうか?
いずれにしても未知の進化だ。そして凄く丁寧に筋トレを教えてくれる。
「──アーノルド・プレスなら関節の負担も少なく三角筋の中部と後部を鍛えられて丸みのある肩になるゴブ」
「にゃるほど、さっそくどうやるか教えてにゃん」リリィは猫耳ポーズをとり片足をあげて可愛く言った。
(へーこんな可愛く見える事もあるんだな……)
「アーノルドプレスは────」
──アーノルド・プレス──
ダンベルショルダープレスにひねりを加えたトレーニングで、高い効果を発揮してくれるメニュー。その名の通りアーノルドシュワルツェネガーが考案した筋トレなのだ。
ベンチシートを45度にセットして座る。
肘を曲げた状態で、親指が体に向くようにダンベルを体の前で構える(※セットポジション)
ダンベルを持ち上げると同時に親指が内側を向くように腕をひねる。腕をひねりながらダンベルを押し上げるように持ち上げていき、しっかりと上まで持ち上げたタイミングで手が体と同じ向きになるようにする。
上げきった状態で2秒間止める。停止させた後は、先程とは逆回転にひねりながら、ゆっくり下ろしてセットポジションまで戻す。
腕が上がるよりも先にひねりきってしまったり、腕を先に上げきってしまうのではなく、腕を上げると同時にひねることを意識しましょう。
「──にゃん、にゃん、にゃん──はぁ──はぁ──10!!」リリィはセットを終えてダンベルを床に置いた。「にゃるほどねー。これはいいにゃんね!」満足そうな笑顔を見せた。
『────大変だぁぁぁぁ!!』ジムのドアを力強くドンッと開けてゴブリンが息を切らして入ってきた。
「何事かゴブ!?」すかさずゴブザエモンが反応した。ジム内もただならぬ気配を察してざわつく。
『──はぁ、はぁ、お、オーガが攻めてきたゴブ!! しかも大勢のオーガゴブ!! 青オーガと赤いオーガもいるゴブ!!』
「赤と青……、赤鬼と青鬼か!?」突然、デュラハンが叫んだ。
「赤鬼と青鬼だって!?」
「あの残虐非道な魔王幹部の赤と青か!?」
「ひぃぃぃぃぃ──!!」
ジム内は一変しみんな大慌てで焦り出した。ダンベルを床に落とすもの、バーベルにぶつかるモノ、大混乱だ。
「──お、落ち着いて! みんな落ち着いて!」
「にゃー達、聖騎士が出るにゃ、みんな落ち着くにゃ」
俺とリリィはみんなに落ち着くように宥めたが、まったく動揺は変わらなかった。
『──大丈夫ですよ! 筋肉を信じなさい!』ヨーゼフさんが大きな声で一喝した。すると──
「そ、そうだよな……俺達には筋肉があるじゃないか!」
「そ、そうだゴブ!! 筋肉もあるゴブ、ゴブタもゴブザエモンもヨーゼフさんや十兵衛達だっているゴブ!!」
「そうだ! そうだ! 向かえうてー! オーガがなんだってんだぁぁぁぁ!」
ヨーゼフさんの一喝により、皆が自信をとりもどした。脳筋でしかないが、冷静さを取り戻してくれて良かったと思った。
そして俺たちは表に出た。外に出るとゴブリンキングのゴブタくんがオーガと交渉中だった。数はざっと100は下らない。先頭にいるゴブタくんと向かい合う赤いオーガと青いオーガが、魔王軍幹部の赤鬼と青鬼で間違いないだろう。容姿や風貌が他のオーガと全然違う。俺たちのような人型の体型で赤い方がパーマのかかった赤い髪で一本角、青い方は青い長髪で2本角、普通のオーガより一回りもふた回りも体は小さくなっているが間違いなく強い。あの禍々しい黒いオーラが物語っている。
「──交渉決裂だぁぁぁぁ、なぁぁぁ青鬼ぃぃ?」
「クハハハハ、もともと交渉なんかする気なかっただろう赤鬼?」
「──落ち着けゴブ! 穏やかに行こうゴブ」
「はぁぁぁん? おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ! おいッ! おいッ! おいッ! 聞いたかぁぁぁぁー青鬼ぃぃぃ?」
「聞こえた聞こえた聞こえた聞こえた聞こえた聞こえた聞こえだぞぉぉぉぉー赤鬼ぃぃ?」
「こいつ、ゴブリンのくせに俺たちオーガに口答えしてるぞぉぉぉ青鬼ぃぃ?」
「クハハハハッ──み・な・ご・ろ・しだぁぁぁ! こいよぉぉぉ黒鬼ぃぃー!!」
オーガの群れからこれまた人型の黒いオーガが現れた。どうやらオーガ軍の主力メンバーの1人らしい。
「ゴブタくん!!」俺たちはゴブタくんのところまで駆けつけた。
「ゴブザエモン、ヨーゼフさん、聖騎士の旦那」
「手を貸すよ。俺もこの里を守る」
「はぁぁぁぁーん? ゴミがゴミを集めて対抗してるぞぉぉ青鬼ぃぃぃ」
「ゴミはゴミらしくしてろよなぁぁぁぁぁクッハハハハ」
「──まったく、これだからオーガは好きになれませんね……」黒いバーベルを担いでヨーゼフさんが現れた。
「──はぁん? おい、オーガ共!! 引くなら今のうちだぞぉ? 昔のよしみだ俺様からは忠告だけしといてやるよぉ!」
「──おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいッ!! 見えたか見えたか青鬼ぃーあの黒い鉄塊はデュラハンじゃねーか?」
「クハハハハ──デュラハンデュラハンデュラハンデュラハンデュラ……クハハハハッ! なんて様だぁー」
「チッ、聞く耳もたねぇーか……」
「デュラハン殿、気にするなゴブ。オーガ如きがこの里を潰せると思ってるゴブか?」ゴブザエモンが凄みを見せた。
『くろおにぃぃぃ──!!』赤鬼が絶叫した。
「──はっ!」返事をしたと思った瞬間、黒鬼のもつ棍棒がゴブザエモンの顔面をとらえた──。そしてゴブザエモンは吹っ飛んだ。
「ゴブザエモンさん!!」
「油断しましたね……ゴブザエモンさん」そう言ってヨーゼフさんはバーベルを置いた。
その瞬間、黒鬼が今度はヨーゼフさんに襲いかかった──────。棍棒が宙に舞った。
「──おまえの相手は俺がするぜ」
「十兵衛くん!!」
オークドラングーンの十兵衛くんがどこからともなく駆けつけ、黒鬼の棍棒を吹っ飛ばした。黒鬼はそのまますかさず無言で十兵衛くんに殴りかかった。十兵衛くんはそれをうけては返し、受けては返し、激しい攻防が始まった──。
「──さて、我々もはじめましょうか」ヨーゼフさんが切り出す。
「助太刀します」俺は剣を構えてヨーゼフさんの横に立った。
「──いえ、スヴェンくんとリリィくんは、後ろの大勢のオーガを頼みます。赤いのと青いのは私がやりましょう」
「はぁん?」赤鬼はイラついたのか俊足でヨーゼフさんの目の前まで移動し蹴りを入れていた。
(──は、早い!)
「おやおや、短気はいけませんねぇ……もっと紳士でいなければ」
(き、効いていない!? あんなにもろに蹴りが入っていたのに?)
腹に入った蹴り足を軽く払いのけて──。
「それじゃー行きますよッ!」とヨーゼフさんは言って──ラリアットが炸裂、赤鬼を吹っ飛んで行った──。
「──ふぅ、だから言ったでしょ? 2人同時にかかってきなさいって」
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