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ー第3章ー
36/シャルロット奮闘記 筋トレ教えちゃいます!編
しおりを挟む──私には何もできない、幼い時からずっとそう思って生きてきました。だって、エルフなのに魔法が使えないんですよ? 前代未聞の魔力なしのエルフ──、もう絶望的でしたね。どうして産まれてきたのかわからないくらいでした。
学校でイジメられる度に何もできない自分自身がとても惨めでした。そんな日々の中、クラスに私以外にも孤立していた子がいる事に気付きました。その子は男の子で──他の誰とも関わる事もなく、剣も魔法も放棄して、当時は全く意味もわからなかった腕立て伏せをしたり、腹筋をしたり、スクワットをしたり、鏡の前でポージングをとったりしていてとても変な子でした。そう──エレインです。
彼は剣も魔法もできないのに、いつも堂々としていて自分のやりたい事だけを真っ直ぐやってのける、そしていつも自分を磨き上げる努力を怠らないとても心の強い人でした。「弱い者イジメは許さない!」口癖のように私がイジメられるとその場に駆けつけてくれたのです──いつのまにか私の憧れの存在になりました。
何もできなかった私に筋トレを通して「何もできないからといて挑戦しないって事にはならない」「魔法使いになれなくたって何者かになれればいいんだよ!」
「大切な事はコツコツと続ける事」「自分を信じる事」「ダメでも挑戦する事」「ダメだって思っちゃいけない事」を教えてくれました。今も何もできないのですけど……、でも、いつかきっとできるように──いえ、やってみればどんな形であれ形になるって事を教えてもらいました。
私は今、私のために、エレインのために、そしてアルスター王国のために、今できる事を精一杯やろうと思います!
「だから──筋トレ教えちゃいます!」
「うふふん、そのいきよ! シャルちゃん!」
「姉さん、お持ちしました」サイモンさんが服をもって私とソロモン様の前に現れました。
「待ってたわよ! シャルちゃんこれはアルスター伝統の稽古着よ、これに着替えて城外のフィットネスジムに来てちょうだい」
そう言われるがままに私は渡された服に着替えてみました……。
「シャルちゃん、めっちゃ、やべーアルな! その服、変態ネ」メイちゃんは私の着替えた姿を見て衝撃的なセリフを言いました。
「だ、だよね……、すごい恥ずかしい……」
──ボディーラインが全てあらわになったピチピチに体に張り付いた上半身長袖だけど、股関節周りが際どいハイレグで緑色レオタード、背中は大きく空いていて胸に十字軍のロゴが入っています。とてつもなく恥ずかしい服でございます。私は少し後悔しています。そんなとてつもなく恥ずかしい格好で私はジムに向いました。どうしてでしょう? ただ渡された服をきて短い距離を歩いて行くだけなのにまるで死地に向かう境地でした──。
◇◇エレインフィットネスジム2号店 アルスター城おかま支部◇◇
「──ブフォッ」
会場に着くやいなやサイモン様が、鼻血を出して倒れてしまいました。
「やだ! サイモンちゃん、どうしたの? すっごい鼻血よー!」倒れたサイモン様にゲイ様が駆けつけてきました。みなさん私と同じレオタードを着用していました──サイモン様もレザード様もすごいハイレグです。正直、目も当てられません……。そして何より本当に伝統の稽古着というのが衝撃です。皆さん鎧の下は常にレオタードだったのですね。サイモン様も……。
「こいつ、シャルちゃんのエロい姿見て興奮して鼻血ぶちまけたアル……」メイちゃんもちゃっかりレオタードを着せられています。メイちゃんくらいだととても可愛いんですが──、意外と肩の筋肉が発達していて、レオタードから腹筋が浮き出ています。やっぱりメイちゃん只者ではないと思っていましたが凄いですね。レオタードから広背筋も浮き出ています。
「大丈夫ですか!? サイモンさん! このままでは出血多量で死んでしまう!? 治療をしなくては!?」治療に駆けつけたレザードさんも鼻血を垂らしています……。
「す、すまねぇレザード、周りにはオカマしかいないものだから、初めてこんな美しいレオタード姿を見て興奮してしまった……面目ない」
「いえ、わかりますよ! その気持ち! ヒール! 今日はなんて素晴らしい日なのだろう」
「おい、この変態2人追い出していいアルか?」
「みなさ~ん」パンと手を叩きソロモン様が登場しました。もちろんレオタード姿です。
フィットネスジムなのに何故か高いステージがあります。変わってます。そのステージの上に私も連れられソロモン様と上がりました。
「今から寝込んでいる、エレインちゃんに変わってこのシャルロットちゃんが筋トレを教えてくれますわよ!!」
「「「ワ──!!」」」会場は大盛り上がりです。
ステージから見下ろすととてつもない広さなのがわかります。アルスター十字軍72の悪魔の将軍と呼ばれた将軍達とその兵士達が海の様に広がっています。こうなると凄すぎて恥ずかしさなんて吹っ飛んでしまいますね。逆に圧巻して、さらに人が多すぎて私なんか見えないんじゃないかと思って緊張もなくなりました。
「声が私達の姉妹達にも届くようにボイスの魔法を使うわねぇん──ボイスッ!!」超音波みたいに声が隅々まで行き渡りました。なんでもできてしまうソロモン様は本当に凄いの一言です。
「シャルロットです! 皆さんよろしくお願いします! 今からエレインに変わって私が筋トレのコーチングをしますのでよかったら皆様も一緒に覚えて行ってください」
「「「ワ──ッ!!」」」
「えーと、皆様どこの部位から鍛えますか? 大きくしたいとかスリムになりたい部位はありますか?」
「「「おしり──!!」」」満場一致でおしりを鍛えたい様です。
「わかりました。それではまず──器具を使わず【ヒップリスト】をやりましょう!!」
◇◇◇ヒップリスト◇◇◇
ヒップリフトは、インナーマッスルを中心に、全身の筋肉を鍛えることができるトレーニングです。特に、大臀筋への刺激が強いため、ヒップアップにも効果的です。
まず仰向けに寝て両ひざを立て、腕は手のひらを床に向けて体の横に置きます。──息を吐きながら、両手、両足で床を押してゆっくりとお尻を持ち上げます。── ひざからお尻、鎖骨までが一直線になったら、息を吸いながらゆっくりと元の姿勢へ戻りましょう。腰を反らせないことと、かかとを地面につけたままにすることに注意してください。ここまでを1回として、15回3セットを目安に繰り返しましょう!
◇◇◇◇◇◇
「──ブフォッ!!」
「サ、サイモンさん!? ──ブフォッ!」
ヒップリストの説明のため実演をしていたらサイモン様とレザード様2人とも鼻血を噴水のように噴射して気絶をしてしまいました──。た、確かにこの姿勢は刺激が過激かもしれません。そう思うと凄く恥ずかしくなりました。
「うっふ~ん」「あっはん」「む~ん」皆さんとても変わった掛け声を響かせてヒップリストを実演しています。
「まさに悪魔アルな……、地獄絵図とはこの事アル……」メイちゃん冷たい視線で会場を眺めていました──。
「え──と、実はですね。お尻の筋肉の中でも、特に大きい「大臀筋」を鍛えることでお尻が引き締まり、きれいなお尻なラインになります。お尻が引き締まると、後ろから見たときに脚が長く見えるなんて素敵な効果もあります、ぜひ皆さん続けて下さいね!」
「「「はーい!」」」
「それでは続いて【ファイヤーハイドランド】をやりますね!」
──ファイヤーハイドランド──
まず四つん這いになります。ひざは腰の真下、手は肩の真下に置いて、骨盤が傾かないよう、膝を横に上げていって下さい。そしてゆっくり降ろします。注意点として膝を上げすぎないようにしましょう。反動を使わず、ゆっくり上げてゆっくり下ろす事を意識して下さい。膝はお尻の真横に上げる意識で行なって下さい。重心が傾かないようにフォームを崩さないでやりましょう。左右10回3セット行って下さい。
「は~ん」
「うふん」
「感じるわ~ん」
「ビンビンお尻に刺激がくるわ~ん」
(形はどうあれ、私なりに何かできたかな? 頑張れたよね? エレイン──)
こうしてジムトレーナー初日を私は無事終えました。なんか少し誇らしいかもしれません。──明日も頑張ります。
「明日はウェストのメニューにしようかな……」
ちょっと楽しくなってきました。
◇◇オディナ大陸 大草原◇◇
「──、ゃ────お────!」
「────にゃ────き──!」
薄っらした意識の中、何やら俺を呼ぶ声がする。
「──起きるにゃ! ──いつまで寝てるにゃ!」
「なんだよリリィ──もうちょっとだけ……寝かせて」
「起きるにゃスヴェン! 任務はどうしたにゃ!! 乱れ引っ掻きにゃ!! シャー!!」
「──痛ッ!? ──いってぇぇぇぇぇ──!!」
リリィは獣人の持つその鋭利な爪で俺の顔をズタズタに引っ掻きまわした。たまらず俺は飛び起きた。
「痛──顔が熱い!!」
「ざまぁ見ろにゃ──ほら、にゃー達は聖騎士の任務に行くにゃ!」
「──あぁ、わかったよ、行くよ」気持ちよく寝ていた大草原に風が吹いた。
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