一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部3年生

告白の返事(後編)

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──迎えた週末。


落ち着かない気持ちでオーンを待つ。
というか、あまりにも落ち着かなかったせいで時間を見ずに家を出てしまい、思っていた以上に早く着いてしまった。

待ち合わせ場所はオーンが指定した庭園だ。
初めて来たけど……花も木も、隅々まで手入れが行き届いていて素敵な場所だな。

『オーン様とミネル様は直接アリア様から会う約束を取りつけても大丈夫だと思います。(アリア様の表情を見て)期待とかそういった誤解はしないと思います』

あの日、サラから受けたアドバイス通り、オーンとミネルには直接会えないかと伝えた。

実のところ、サラから「手紙でお伝えするのは?」という提案もあった。
正直、その提案に逃げてしまいたい気持ちも少なからずあったんだけど……でも!

恋愛の好きではなかったけど、大切な人たちである事に変わりはない。
自分の大切な人に対して、そんな失礼な事はできない。

そう決めて今日ここに来たんだけど……いざとなると、どう話すべきなのか悩んでしまう。
一人で悶々と考え込んではみるものの、なかなか結論が出てくれない。

しばらくすると、遠くからこちらに向かって歩いてくるオーンの姿が見えてきた。
数分も掛からずに近くまでやって来たオーンが、手を上げて挨拶をする。

「急な誘いで……ごめんね」
「……アリアから誘われて、乗り気がしなかったのは初めてだよ」

読めない表情で、オーンが微笑んでいる。
オーンは……私が何を言おうとしてるか、きっと気がついてるんだ。

すぅーっと息を吸ってから、ゆっくりと口を開く。

「今までずっと返事を待ってもらって……待たせてごめんなさい。遅くなってしまったけど、自分の気持ちに気がついたの。私は……カウイが好きです。オーンの気持ちには応えられません」

オーンに深々と頭を下げる。
申し訳ない気持ちや、好きになってくれた事への感謝……様々な想いが一気に溢れ出す。

「……僕に恋愛感情がない事は分かっていたけど、好きな人もまだいないと思って安心していたよ。まさかその相手がカウイだとはね。気がつかなかったな」

どこか呟くような声に頭を上げ、再びオーンと顔を合わせる。
内心までは分からないけれど、表情は先ほどと変わらず微笑んだままだ。

何か言葉を発しないと……と戸惑っていると、オーンが私を優しく抱き寄せた。

「振り向かせる自信はあったんだけどね……。伝えてくれて、ありがとう」

オーンの優しい言葉に涙が溢れそうになるのをグッと堪える。

「私の方が……私の方が……ありがとう。オーンに言われるまで、ずっと自分に恋愛は無関係だと思って過ごしてきたの。オーンのお陰で……女性として扱ってくれて……自分に自信が持てた。オーンの気持ち……本当に嬉しかった」

涙を堪えつつ、オーンに感謝を伝える。

「僕にとってアリアは、ずっと愛しくて可愛い女性だよ」


──絶対に泣かない。
返事を伝える前に決めてた事だから。

もし私が泣いてしまったら、優しい言葉をかけざるを得なくなる。
だから、絶対に泣かないと決めていた。

「僕はアリアのお陰で生きやすくなった。これからも“自分の思ったまま”過ごしていくよ」
「……うん」

泣いてしまわないよう、必要最低限の返事だけを伝える。

オーンには、ずっと作られた顔ではなく、自然な顔で笑ったり、怒ったり、困ったりしてほしい。
私はそんなオーンを見るのが好きだから。

オーンがゆっくりと身体を離し、私を見つめた。
表情は……いつもと変わらない穏やかな表情に見える。

「ミネルとエウロには……これから?」
「う、うん。実はこれからミネルの家に行くんだ」

エウロは日が合わなくて、まだいつ会うか決めていない。

「──アリア」

別れ際、オーンが私を呼び止めた。

「???」
「アリアの事だから、自分から話し掛けるのは……って思ってる?」

うっ。バレてる。

「気にせずに話し掛けてくれた方が嬉しい。僕も今まで通り接するから」

にっこりと、オーンが微笑んでいる。


……オーン。
最後まで優しい。


オーンと別れた後、なぜか分からないけど再び泣きたい気持ちになった。

泣きたいけど……これからミネルに会いに行かなくてはならない。
気持ちを無理やりにでも切り替えないと。


待たせていた“ヴェント”乗り込むと、そのままミネルの家へと向かった──



“ヴェント”を走らせること約1時間。
ミネルの家に到着した。

オーンと会った庭園からミネルの家までは少し距離が離れていたので、多少気持ちを落ち着かせる事ができた。

「──あれ?……あーちゃん!?」
「ウィズちゃん……」

たまたま庭に出ていたウィズちゃんが私に気がつき、声を掛ける。

「今日来るって、兄さまから聞いてなかったよ?」

声を弾ませながら、とことこと嬉しそうに歩いてくる。

「兄さまに会いに来たの?」
「……うん、そうなんだ」

視線を合わせ、笑顔で答える。
すると、ウィズちゃんが私の手をギュッと握った。

「あーちゃん! 兄さまの部屋まで一緒に行こう」
「う、うん」

ウィズちゃんが私の顔を見て、にっこりと笑っている。

……大丈夫だったかな?
強張った笑顔になっていないかな?

不安になりつつ、家の中へとお邪魔する。
ミネルの部屋の前まで来ると、ウィズちゃんがコンコンと扉をノックした。

「兄さまー! あーちゃんが来ましたよー!」

扉に向かって、ウィズちゃんが大きな声で叫ぶ。
すぐに、部屋の中からミネルの「入っていいぞ」という返事が聞こえてきた。

改めて覚悟を決め、軽く息を吐き出す。
いざ中へ入ろうとしたところで、ウィズちゃんが急に繋いでいた手をパッと離した。

「……あーちゃん。ウィズは兄さまの事が大好きだけど、あーちゃんの事も大好きだから」
「ウィズちゃん……」
「またね!」

ひらひらと手を振り、ウィズちゃんが笑顔で去って行く。

どこまで気がついているのか分からないけど、嬉しい言葉をありがとう。
私は大大大好きだよ!! ウィズちゃん!!!


ドアを開け、ミネルの部屋へと足を踏み入れる。

「──ああ、思ったより早く来たな」

私の顔を見るなり、ミネルがいつも通りの口調で話し掛けてきた。

「うん……今日は急にごめんね」
「構わないが……いいのか?」

いきなりミネルが尋ねてくる。

『いいのか?』……とは??
考えてはみるものの、何の事かさっぱり分からない。

首を傾げつつ悩んでいると、ミネルが再び私に向かって問い掛けてくる。

「これから先、僕ほどの男は現れないだろうから、きっと後悔するぞ?」

……ミネル、 気づいてたんだ……。

「……うん、そうかもしれない。ミネルと話すといつもワクワクするし、自分が成長しているのを感じるから。たまにケンカもするけど、何でも言い合えるし……何より一緒にいて楽しいもん」


それだけじゃない。

いつの間にか、ミネルは私が困った時や悩んだ時、真っ先に相談する相手になっていた。
私にとってミネルは、安心して頼る事ができるくらい大切な存在だ。

「だけど……ごめんなさい。私、カウイが好きだって気がついたの。ごめんなさい」

告白の返事をすると同時に頭を下げる。
申し訳ない気持ちでなかなか頭を上げられずにいると、ミネルが小さく息を漏らした。

「別に謝る必要はない。それより……アリアも同じことを思ってくれていた事の方が意外だったな」

……? 同じ事??
不思議に思いながらも、予想外の展開についつい頭を上げてしまう。

「僕にしておけばいいのものを……」

ミネルが腕を組み、少し呆れたような表情を浮かべている。

「……まぁ、いい。ひとまず、アリアの気持ちは分かった」

そう言って頷いた後、ミネルは何事もなかったかのように普段の調子で話し掛けてきた。

多少戸惑いつつも会話を続けていると、ミネルがふいに考えるような素振りを見せる。

「ウィズが寂しがるから、変わらず……と言いたいところだが、セレスだとうるさいしな。マイヤもセレスほどではないがうるさい」

ん? どうしたのかな?
珍しい。ミネルが頭を悩ませている。

「ルナは生理的に受け付けないから……仕方ない。エレを連れてまた家に来い。もちろん、アリア一人でも構わないが?」

からかうように、ミネルがニヤリと笑う。

いつもと何一つ変わらぬ表情に、ミネルなりの優しさが見えて泣きそうになる。
相変わらず、分かりづらい優しさだけど。

「うん……ありがとう」



それからすぐにミネルとは別れ、“ヴェント”で家へと向かった。

座席にもたれながら、オーンやミネルとのやり取りを思い出す。
2人とも最後まで優しかったな。


……なんか疲れて何も考えられない。

軽く頭を振り、何度か深呼吸を繰り返す。
すると、家に近づいてきたところで、見知った“ヴェント”が停まっているのが目に入った。


あの“ヴェント”は──!!

「ここでっ! ここで止めてください!!」

運転手の方にお願いして“ヴェント”を止めてもらい、急いで降りる。
私が駆け出すと同時に、セレスが停車している“ヴェント”から優雅に現れた。


今回、セレスにだけは事前にオーンと会って断る事を伝えていた。

セレスは元々オーンの事が好きで、婚約者でもあった。
それなのに、私がオーンに告白されて悩んでいた時、私が気を遣わなくて済むよう言ってくれたんだ。

『私はオーンの事を本当になんっとも思っていないわ! だ、か、ら、私の事は気にせずに考えなさい!!』

って。

だから、セレスにだけは『カウイが好きだと気がついたからオーンには断る』事を伝えた。
走ってやって来た私に、セレスが穏やかな表情で微笑みかけてくる。

「あら? これから幸せになる女性の顔じゃなくってよ?」

セレスにしては珍しく静かで柔らかな口調だ。

「伝えてきた?」

こくんと頷く。

「そう。アリアにしては、よく頑張ったじゃない」

そう言って、私を抱き寄せる。

「っ!……セっ、セ、セレスー! わ、私っ、ちゃんと言ってきたぁ」
「ええ、知ってるわよ。大親友ですもの」

セレスに抱き締められた瞬間、涙が次から次へと溢れてくる。

「きちんと誠意をもって伝えた事も、アリアが頑張ってきた事も、私がいなかったら泣けなかった事も、当然知っているわ。それでこそ、私の大好きなアリアよ」

私の頭を撫でながら、ゆっくりと語り掛けてくる。
セレスの優しさに涙が止まらない。

「大丈夫よ。オーン……ミネルにも会ったのよね?」

返事の代わりに、泣きながらも必死に頷く。

「あの2人にもアリアの気持ちは十分伝わってるわ。それに……2人とも弱い人間じゃないから、すぐに立ち直るわ」

セレスのどこか確信めいた言い方が、少しだけ気持ちを軽くしてくれた。


──果たして、どのくらい泣いていたのだろう?
徐々に落ち着いてきた私は、セレスの胸からやっと顔を上げる事ができた。

「ふふ。目が腫れてるわよ」

セレスが笑いながら、ハンカチを差し出してくる。
厚意に甘えて受け取ると、そっと自分の目元を拭った。

「ごめん……セレスのキレイなドレスが濡れちゃった」
「安物だから、全く気にする必要はないわ」

……嘘つきだなぁ。
安物なんか着ないくせに。

「2人の事を思うなら、よく寝て、少しでも早く “いつもの元気なアリア”に戻りなさい」

セレスの優しさに再び涙が溢れそうになりながらも、こくんと頷いた。
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