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高等部3年生

アリアの好きな人 4/4

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せ、聖なる存在……? 私が!?
ケリーの人生を変えた覚えなんて1ミリもないけど……。

「あの、私が人生を変えた、というのは?」

段々と落ち着いてきたのか、興奮した様子が薄れていく。
そっと息を吐き出すと、ケリーが静かに話し始めた。

「……私、高等部に上がるまで友人ができた事が一度もなかったんです」

へぇー、って……えっ! 友人の多いケリーが!?

「元々、大人しくて目立たない子でした。自分から話し掛ける事ができず、話し掛けられても上手に話せない……そんな子でした」

今のケリーとはかけ離れた性格だ。

そういえば、以前にミネルが『大人しいというか、落ち着いた顔立ちをしている』と話していたけど、間違いじゃなかったのね。

「高等部に入学してすぐにアリアさんの存在を知りました。最初はセレスさん達と仲のいい姿を見て……その、すみません。不思議に思っていました」

昔、よく言われたセリフだな。

「でも、遠くからみなさんの事を見ている内に、なぜだかアリアさんに興味が湧いてきたんです。中等部や高等部での活躍も知り、いつしかアリアさんは憧れの存在になって……日に日に目で追うようになりました」

冷静になってから、ケリーはずっと下を向きながら話している。
私と目が合わせづらくなったのかな?

「偶然にも、私はアリアさんと同じ髪の色だったので……少しでも近づきたいと思い、衝動的に髪を切ったのが始まりでした」

淡々と感情を抑えながら、ケリーが話を続ける。

「髪を切って登校した日、たまたま私のクラスにエレさんが来ていて……話し掛けてくれたんです。『素敵な髪だね』と褒めてくれたんです!」

なるほど。エレは褒め上手だからなぁ。
いつも私の事も褒めてくれるし。

「それを見ていたクラスメイトが私に話し掛けてくれて……その時は……上手に返す事ができず、すぐに会話が終わってしまいました」

ケリーが悲しげな表情を浮かべる。
本人としては、もっといろんな話をしたかったんだろうな。

「その日をきっかけに、もっとアリアさんに近づきたいと思うようになったんです。髪型の次は、アリアさんの服装を真似しました。化粧もして、地味な顔も明るく見せるようにしました。急に服装を変えた事で、またクラスメイトが話し掛けてくれました。その時『アリアさんならきっとこう言う』という事を考えながら話したら『ケリーって面白かったんだね』と言われて……。アリアさんのお陰で初めて友人ができたんです」

……そうだったんだ。
でも、それは私のお陰ではなく、ケリーが勇気を出して話したからだと思うけど。

「そこからアリアさんを注意深く見るようになって……仕草や話し方、行動を真似するようにしていたら、次第に友人も増えていきました。違う自分になれた気分でした」

うーん。私の真似って言うけど、やっぱりケリーが頑張った結果としか思えない。

ただ、1つだけ疑問がある。

「なんで、私の事を知らなかったって言ったの?」
「……『アリアさんに似ている』と友人に言われた時、咄嗟に『アリアさんって誰?』と言ってしまったんです」

嘘をつく予定じゃなかったけど、思わずついちゃったって事かな?
自分なりに解釈をしていると、俯きながらケリーが首を横に振った。

「……いえ、すみません。真似をしていると話してしまえば、私の本当の性格がバレて、友人が離れていくと思って……それで隠そうと思いました」

ああ、なるほど!

「アリアさんになり切れば……友人も離れていかないし、もしかしたら私の事を好きになってくれる人もできると思いました。それで……より近づくために、アリアさんに思い切って話し掛けたんです」

なんか……少しずつ、ケリーが分かってきた。

きっと、他の人と同じように『誰かと仲良くしたい』とか『誰かに好かれたい』という気持ちが強かったんだろうな。

「私を変えてくれたアリアさんは、こんな私にも優しく接してくれて理想通りの人だと思いました。思ったんですが……」

理想とは違った部分が見えたのが……お昼の出来事に繋がるのかな?

「……そっかぁ。ようやく、ケリーの目的が分かって良かった」

私が安堵の表情を見せると、さっきまで緊迫した空気がなくなった。

「……良かった? ですか?」
「うん。なんで真似するのか分からなかったから、不安というか……どうしていいか分からなかったんだよね」

息を吐きながら「話してくれて良かった」と伝えると、ケリーが目を大きく見開く。

ケリーの目的が分かった今、私の言う事はただ1つ!!

「そういう事なら、思う存分真似していいよ!」
「い、嫌じゃないんですか?」

ケリーが驚いて私に尋ねる。

「自分でいうのもなんだけど、憧れの芸能人の真似をするのと同じなのかなぁ……と思って」
「げ、芸能人?」

あっ、例えを間違えた!!

「いや、憧れの有名人? 憧れの人??」

……で、伝わるかな?
自分の事を“憧れの有名人”って例えるのは、少し調子に乗っている気もするけど。

「ただ私に接触して何もかも真似たとしても、100%似せるのは無理だと思う。それに、ケリーの中には“理想の私”がいるよね?」

黙って私の話を聞いていたケリーが、困惑しつつも小さく頷く。

「その理想とは違う部分が出てきたら、今回のように戸惑うし不満に感じると思うよ。だからさ、ここからは私の真似よりもケリーの中の“理想の私”を真似てみたら? “理想の私”が、ケリーにとっての“なりたい自分”だと思うから、それを目指すのはどうかな?」

にっこりとケリーに笑い掛ける。

「それにさっきの話を聞いて思ったけど……私はきっかけを与えたに過ぎないよ。勇気をふり絞って話し掛けたのもケリーだし、そんなケリーだからこそ『友人になりたい』って、みんな思ってくれたんだと思うよ」

ケリーが私の顔を見つめたまま、両手をギュッと握り締めた。
少しだけ泣きそうな顔をしてはいるけど、口元には微かな笑みを浮かべている。

「……アリアさんは、やはり憧れの人です。本当に素敵な人です」
「そうかな?」

ストレートに言われると、照れるな。

「はい。……先ほどは、ご友人の事を悪く言ってしまい、申し訳ありませんでした」

私に向かって、ケリーが深々と頭を下げる。
そもそもケリーがあそこまで怒ったのは、マイヤに図星を指されたからだろうな。

そしてマイヤは……敢えて悪役を買って出てくれたような気がする。
マイヤは嫌がるけど、後で思う存分、抱きついてお礼を言おう!

……あれ? マイヤはともかくとして……カウイは?
そんなに怒る事を言ったようには、やっぱり思えないけど。

理由について考えていると、頭を上げたケリーが私にそっと尋ねてきた。

「あの……たまにでいいので……また私と話してくれますか?」
「うん、いつでも! ……というか、ケリーを見かけたら私からも普通に声を掛けるよ?」

仲違いしたわけでもないんだし。

「っ、ありがとうございます! ……本当に嬉しいです」
「ううん。こちらこそ、これからもよろしくね」

お礼を言った後、ケリーが安心したように肩の力を抜く。

そして、笑った。
“本当のケリー”は、穏やかに笑う子なんだ。

やっぱり、いい子なんだよなぁ。
無事に解決し、晴れ晴れとした気持ちでいると、突然ケリーが深刻そうな表情で私を見た。

「……アリアさん、最後にお伝えしたい事があります」

えっ! まだ何か話す事があるの!?

「私……先ほどカウイさんに話し掛けたって言いましたが、話し掛けた事があるのは一度だけなんです」
「えっ? そうだったの?」
「はい。……ある日を境にカウイさんが苦手になってしまい、話し掛けられなくなったんです」

やっぱり、カウイの事が苦手だったんだ!

「……なぜだか分かりますか?」
「ごめん、分からない」

カウイは物静かなタイプだけど……話し掛ければ応えてくれるし、よほどの事がない限りは相手を無視したりもしない。

私が不思議そうにしていると、ケリーがクスッと笑った。

「実は、アリアさんが原因なんです」
「……へっ? 私??」
「ごく稀にですが、アリアさんはカウイさんにだけ違う目を向ける事があって……カウイさんにアリアさんを取られると思ってしまいました」



──!!?

ケリーの言葉に、思わず全身が硬直する。

「その様子からすると、やっぱりアリアさん自身も気づいていなかったんですね。私は……誰よりもアリアさんを見てきたので、本人よりも早く気がついちゃいました」

あまりの衝撃に何も言葉が出てこない。
ケリーの声も、どこか遠くから聞こえてくる。


……思い返せば、ふとした瞬間、無意識にカウイを探す自分には気づいていた。
だけど、たまたまカウイの事を考えていたからかな? 程度にしか思っていなかった。

カウイが私に微笑む時はいつも、なぜか告白されたような気分になってしまう。
そのたびにずっとドキドキしていたけれど、他の人にもドキッとする事はあったから……それと同じだと思ってた。

……もしかしたら、そこには私の願望も入っていたのかな。

いつも私の事を大切に想ってくれるカウイ。
いつも全身で私の事が好きと伝えてくれるカウイ。

……そうか、なんで気づかなかったんだろう。
私は、そんなカウイの事が──


好きなんだ。
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