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高等部3年生
ルナのつぶやき 高等部編(後編)
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それから数日が経ったある日、久しぶりにアリアとセレス、マイヤと4人で食事をする事になった。
私が『話していいよ』と言ったので、アリアが兄様との出来事を2人に話している。
「リーセさんなら、結婚しててもおかしくない年齢だものね」
食事をしながら、マイヤが私を見てくる。
「ルナちゃんは、男性で好みの人はいないの? リーセさん以外で」
「なんで?」
兄様が真っ先に除外された。
意味が分からない。
「だって、 男性の好みがリーセさんだなんて、 ルナちゃんにアプローチしたいと思ってる人からすれば、なかなかハードルが高いもの」
……そういうものなのかな?
そういえば、前に兄様の存在を気にせずに告白してきた人がいた。
元別館のナルシストで……ユーテルという人だ。
挫けずアプローチしてくる姿や、無言の私にも怯む事なく話し掛けてくる姿が印象的だった。
面白い人だなぁ、とは思った。
けれど、全く好きにはなれなかった。
今でもたまに話し掛けてくるけど、特別な感情は芽生えない。
……私は、何か欠けているのかな?
思い出すと以前、ミネルが偉そうなことを言ってたな。
『お前は極端なんだ。好きな奴を増やせばいいだけだろ?』
『好きな人も友人も全然いないミネルに言われたくない』
言い返したら、『僕はいいんだ』なんて自分勝手な事も言ってた。
ミネルに何を言われようと少しも気にならないけど、そんな事を言われるくらいには、私って変なのかな?
自分ではよく分からない。
ふいに、私とマイヤの話を聞いていたセレスが口を開く。
「そうね。好みがお兄様というのは変じゃないと思うけど」
そう前置きしつつ、じっと私を見つめてくる。
「好きな人が増えるのは、悪い事じゃないとは思うわよ?」
「でも……私の手は2つしかないから」
ボソッと呟いた私に向かって、セレスが呆れたように息を吐き出す。
「当たり前じゃない。でもまぁ、そうね。でも3つ、4つ…… いえ! 例え100あったとしても、私なら使いこなせるわ!」
「……違う」
さらに小さな声で否定すると、今度はアリアが声を掛けてきた。
「ああ、そっか。手を繋げるのは2人までだもんね。ルナは自分の手を繋ぐ……自分の手を埋める人は“この人”って決めてるんだね。後悔がないよう、好きな人を思う存分大切にしたいっていうルナの気持ちは素敵だと思うよ。もちろん、セレスが言うように大切な人が増えていくっていう考え方も素敵だよね」
アリアは私の言いたい事をちゃんと分かってくれた。
大好きな人が私の事を『素敵』だと褒めてくれてるんだから、変でも何でもいいのかも。
「だから、アリアが好き。そしてセレスは抜けてる回答だった」
「なんですってー!! 凡人には到底思いつかない名回答よ!!!」
「名回答ではないけど……でも、面白い発想だった」
セレスが複雑な顔……というか、面白い顔をしている。
マイヤに至っては、色々と諦めたような表情をしている。
「ルナちゃんは、もうそのままでいいのかもね」
「マイヤは少し性格が良くなった方がいいと思う」
すぐに切り返すと、マイヤがいつもより大きく声を上げた。
「愛想の欠片もないルナちゃんよりはマシよ!」
その後もセレスやマイヤとの言い合いは続き、少し疲れた。
アリアはといえば、私たちのやり取りを見て楽しそうに笑っている。
昔は間に入って止めてたけど、いつからか『言い合えるという事は、それはそれで仲がいい証拠だしね』と言い出し、仲裁する事を止めた。
……というか、諦めたらしい。
アリアの言う通り、私の手は2つしかないから、いざとなった時に助ける人を迷いたくない。
……けど、セレスとマイヤの事は、兄様とアリアを助けた後で助けてあげようかな、と最近は思う。
──兄様とモレさんの様子を見に行ってから初めて迎えた週末。
今日はどこにも出かけず、自宅でゆっくり、兄様と2人だけで過ごす予定だ。
ソファに並んで腰を下ろしていると、兄様が優しく、私に話し掛けてきた。
「ルナの誤解は、解けたかな?」
やっぱり、私がいた事に兄様は気がついていたんだ。
「うん。お母様が、兄様がモレさんを気に入ったって話してたけど」
「私が? ……言った覚えはないけど?」
……お母様。
「もしかしたら、私が紹介された女性と2回会うのが初めてだから、勝手に気に入ったと思ったんじゃないかな」
確かに、お母様の性格ならあり得るかもしれない。
「なぜ、2回も会ったの?」
「ああ。初めてお会いした時、モレさんが体調を崩されてね。すぐに帰ったんだ。その事もあってか、後日『できれば、もう一度お会いしたい』という連絡を頂いてね」
私の質問に答えながら、兄様は少しだけ困ったように微笑んでいる。
「お母様も何度もお願いされて困っていたようだし、顔も立てておかないとね」
やっぱり、兄様は優しい上に完璧だ。
改めて兄様の素晴らしさに感激していると、兄様が私の顔を覗き込みつつ、そっと尋ねてきた。
「ルナは……今回の事で気がついたんじゃないかい?」
「何に?」
兄様が静かに口元を緩める。
「私が結婚するかもしれないという話を聞いて、アリアは動揺していたかい?」
「…………」
……あの日、私が気がついてしまった事に、兄様も気づいていたらしい。
なんと答えればいいのかも分からず、黙って首を横に振る。
「それが答えだと思うよ。……少し寂しいけどね」
兄様とアリアと私で暮らすという夢があるけど……これからは最悪、別なもう1人と──4人で暮らす事も視野に入れないといけないのか。
予定外の事態に落ち込んでいる私に、兄様が優しく話し掛けてくる。
「ルナ、学生生活はあと2年もある」
「……うん?」
兄様、どうしたのかな?
「恋愛というのは、2回目の方が上手くいくらしいよ?」
そう言って、兄様が不敵に笑った。
それって──
うん、私も諦めない!
兄様が勝負に負けるところなんて、今まで見た事ないし!!
私が『話していいよ』と言ったので、アリアが兄様との出来事を2人に話している。
「リーセさんなら、結婚しててもおかしくない年齢だものね」
食事をしながら、マイヤが私を見てくる。
「ルナちゃんは、男性で好みの人はいないの? リーセさん以外で」
「なんで?」
兄様が真っ先に除外された。
意味が分からない。
「だって、 男性の好みがリーセさんだなんて、 ルナちゃんにアプローチしたいと思ってる人からすれば、なかなかハードルが高いもの」
……そういうものなのかな?
そういえば、前に兄様の存在を気にせずに告白してきた人がいた。
元別館のナルシストで……ユーテルという人だ。
挫けずアプローチしてくる姿や、無言の私にも怯む事なく話し掛けてくる姿が印象的だった。
面白い人だなぁ、とは思った。
けれど、全く好きにはなれなかった。
今でもたまに話し掛けてくるけど、特別な感情は芽生えない。
……私は、何か欠けているのかな?
思い出すと以前、ミネルが偉そうなことを言ってたな。
『お前は極端なんだ。好きな奴を増やせばいいだけだろ?』
『好きな人も友人も全然いないミネルに言われたくない』
言い返したら、『僕はいいんだ』なんて自分勝手な事も言ってた。
ミネルに何を言われようと少しも気にならないけど、そんな事を言われるくらいには、私って変なのかな?
自分ではよく分からない。
ふいに、私とマイヤの話を聞いていたセレスが口を開く。
「そうね。好みがお兄様というのは変じゃないと思うけど」
そう前置きしつつ、じっと私を見つめてくる。
「好きな人が増えるのは、悪い事じゃないとは思うわよ?」
「でも……私の手は2つしかないから」
ボソッと呟いた私に向かって、セレスが呆れたように息を吐き出す。
「当たり前じゃない。でもまぁ、そうね。でも3つ、4つ…… いえ! 例え100あったとしても、私なら使いこなせるわ!」
「……違う」
さらに小さな声で否定すると、今度はアリアが声を掛けてきた。
「ああ、そっか。手を繋げるのは2人までだもんね。ルナは自分の手を繋ぐ……自分の手を埋める人は“この人”って決めてるんだね。後悔がないよう、好きな人を思う存分大切にしたいっていうルナの気持ちは素敵だと思うよ。もちろん、セレスが言うように大切な人が増えていくっていう考え方も素敵だよね」
アリアは私の言いたい事をちゃんと分かってくれた。
大好きな人が私の事を『素敵』だと褒めてくれてるんだから、変でも何でもいいのかも。
「だから、アリアが好き。そしてセレスは抜けてる回答だった」
「なんですってー!! 凡人には到底思いつかない名回答よ!!!」
「名回答ではないけど……でも、面白い発想だった」
セレスが複雑な顔……というか、面白い顔をしている。
マイヤに至っては、色々と諦めたような表情をしている。
「ルナちゃんは、もうそのままでいいのかもね」
「マイヤは少し性格が良くなった方がいいと思う」
すぐに切り返すと、マイヤがいつもより大きく声を上げた。
「愛想の欠片もないルナちゃんよりはマシよ!」
その後もセレスやマイヤとの言い合いは続き、少し疲れた。
アリアはといえば、私たちのやり取りを見て楽しそうに笑っている。
昔は間に入って止めてたけど、いつからか『言い合えるという事は、それはそれで仲がいい証拠だしね』と言い出し、仲裁する事を止めた。
……というか、諦めたらしい。
アリアの言う通り、私の手は2つしかないから、いざとなった時に助ける人を迷いたくない。
……けど、セレスとマイヤの事は、兄様とアリアを助けた後で助けてあげようかな、と最近は思う。
──兄様とモレさんの様子を見に行ってから初めて迎えた週末。
今日はどこにも出かけず、自宅でゆっくり、兄様と2人だけで過ごす予定だ。
ソファに並んで腰を下ろしていると、兄様が優しく、私に話し掛けてきた。
「ルナの誤解は、解けたかな?」
やっぱり、私がいた事に兄様は気がついていたんだ。
「うん。お母様が、兄様がモレさんを気に入ったって話してたけど」
「私が? ……言った覚えはないけど?」
……お母様。
「もしかしたら、私が紹介された女性と2回会うのが初めてだから、勝手に気に入ったと思ったんじゃないかな」
確かに、お母様の性格ならあり得るかもしれない。
「なぜ、2回も会ったの?」
「ああ。初めてお会いした時、モレさんが体調を崩されてね。すぐに帰ったんだ。その事もあってか、後日『できれば、もう一度お会いしたい』という連絡を頂いてね」
私の質問に答えながら、兄様は少しだけ困ったように微笑んでいる。
「お母様も何度もお願いされて困っていたようだし、顔も立てておかないとね」
やっぱり、兄様は優しい上に完璧だ。
改めて兄様の素晴らしさに感激していると、兄様が私の顔を覗き込みつつ、そっと尋ねてきた。
「ルナは……今回の事で気がついたんじゃないかい?」
「何に?」
兄様が静かに口元を緩める。
「私が結婚するかもしれないという話を聞いて、アリアは動揺していたかい?」
「…………」
……あの日、私が気がついてしまった事に、兄様も気づいていたらしい。
なんと答えればいいのかも分からず、黙って首を横に振る。
「それが答えだと思うよ。……少し寂しいけどね」
兄様とアリアと私で暮らすという夢があるけど……これからは最悪、別なもう1人と──4人で暮らす事も視野に入れないといけないのか。
予定外の事態に落ち込んでいる私に、兄様が優しく話し掛けてくる。
「ルナ、学生生活はあと2年もある」
「……うん?」
兄様、どうしたのかな?
「恋愛というのは、2回目の方が上手くいくらしいよ?」
そう言って、兄様が不敵に笑った。
それって──
うん、私も諦めない!
兄様が勝負に負けるところなんて、今まで見た事ないし!!
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