一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

文字の大きさ
上 下
240 / 261
高等部3年生

強気なミネル

しおりを挟む
「そろそろ、僕の事を好きになったか?」

隣に立つミネルが、ふいに尋ねてくる。

「えっ!!?」

予想もしていなかったミネルの言葉に、頭が追いついてこない。

「えっ、と」
「その様子だと、まだのようだな」

動揺する私の姿に、ミネルが不満げな表情を見せる。


明日はマイヤとサウロさんの婚約パーティーだ。

ウィズちゃんに『準備した会場(ミネルの家)を見に来て』と言われたから来たんだけど……。
まさか速攻で、こんな話題になるとは。

「そ、そういえば……マイヤとセレスが、後ろ姿が私に似ている人を見たって話してたんだ。ミネルは何か知ってる?」

一旦話題を変えようと、2人から聞いた話をミネルにする。
それに《知恵の魔法》を使うミネルなら、生徒の情報をすべて管理してそうだ。

「話題をそらしたな」

うっ、バレてる。

「まぁ、いい。……アリアに似ている?」

ミネルが顎に手を当て、思案している。

「後ろ姿か……あえて言うなら、1人だけ思い当たる人がいる」
「──そうなんだ!」

やっぱりミネルは知っていたんだ。

「1つ下の学年にいる“ケリー”という女性だ。アリアと同じ髪型で、身長も同じくらいだったはずだ」

なるほど。
2人が話していたのは……その人の事かな?

「ただ、顔は似ていないぞ。アリアより年下だが、大人しいというか、落ち着いた顔立ちをしている」
「…………」

幼なじみの説明は、いつも一言多いような……。

「それでも僕はアリアの方がいいぞ」

私を見て、ミネルが片方だけ口角を上げた。

「それは……誠にありがとうございます」
「ああ、構わない」

反応に困りつつもお礼を伝えると、ミネルが笑みを浮かべたまま返してくる。
『構わない』って……それはそれで反応に困ってしまう。

「ルナにも聞いたけど、『見た事ない』って言ってた」
「それはそうだろう」

すぐにミネルが答える。

「ルナは“アリアか、アリア以外”、“リーセさんか、リーセさん以外”でしか見ていない。気づくはずもない」

そっか。
ミネルの言う通り、元々ルナは人の顔をきちんと見ていなかった。

「なるほど」

私が妙に納得していると、ミネルが怪訝そうに私を見た。

「そこは納得するんだな。ルナの気持ちは重くないのか? あれは重症だぞ?」
「全然! 私、見かけによらず力持ちだから!!」

ルナを可愛いとは思っても、“重い”なんて考えた事もなかった。

「力持ち……そういう事じゃないが。なら、良かった」

……んん? 良かった?? 何が???
私が首を傾げていると、ミネルがニヤッと笑ってみせる。

「僕の愛は、アリアが想像している何十倍も重いからな」
「っ!?」
「力持ちなら余裕で受け止められるな」

見るからに、さっきよりも楽しそうだ。

「……ミネルは、そういう事を言う人じゃないと思ってた」
「残念だったな。アリアの面白い顔を見たいという気持ちの方が勝つんだ」

くくっと声を立てて笑うと、ミネルが私に向かって手を伸ばしてきた。

私の右頬に触れると同時に表情が真剣なものへと変わる。
そして、ゆっくりと顔を近づけてきた。


えっ!? この流れって、まさか──


……と、咄嗟に顔を横に向けようとしたところ、ミネルが突然、私の頬を軽くつねった。

「……へっ!!?」

驚きのあまり目を見開いたまま、ミネルを見上げる。

「はっ! ははっ。その顔……」

ミネルが前かがみになり、お腹を抱えて笑っている。

「だ、だって!!」
「キスでもされると思ったか?」


……くっ、くっ、悔しいーーーー! !
ええ、ええ! 思いましたともっ!! 

だって、真面目な顔をしてたし、顔を近づけてくるし!
図星なだけに余計に悔しいーーー!!!

私が悔しがっていると、ミネルの手が再び私の右頬に触れた。
自然な動きに、ついつい反応が遅れてしまう。

「では、お望み通りに」

そう告げると、ミネルが私にキスをした。


──えっ!!

ほんの一瞬触れただけの唇を離すと、ミネルが私に背を向けた。
耳が赤い気もするけど、何事もなかったかのように会場を見渡している。

「さて、本題に入るか」
「…………」

……あれ? いまいち思考が追いついてないけど……私、ミネルとキスしたよね?

キスした? と疑問に思うほど、ミネルが普通に話してるんだけど……。

「どうだ? 明日の会場はこんな感じでいいか?」
「…………」

……あれ? やっぱり夢でも見てた!? 
いつも自分の世界に入ってしまう私なら、あり得る話だ。

確かめるように、そっと唇に触れる。

……って、いや! 間違いなく感触が残ってる!! 夢じゃない!!!

「ミネル……今、キスしたでしょー!!!」
「大きい声で言うな」

大きい声にもなるよ!

キスしたんだよ!? 
急にキスされたら、誰だって驚きすぎて大声にもなっちゃうよ!!

「こういうのは……合意じゃないと良くないと思います!」
「なんだ? その口調は……まぁ、いい」

こっちは怒ろうしてるのに『まぁ、いい?』って、 何がいいの!?
キッと睨みつけていると、ミネルが軽く息を吐いた。

「お前……アリアはバカか?」
「な、なんで“バカ”呼ばわりされないといけないの!?」

悪いのはミネルなのに、納得できない!!
あまりの言いように憤る私を、ミネルが真面目な表情で見つめてくる。

「よく考えてみろ。僕がアリアを好きな事はすでに伝えてある。そうだろう?」
「う、うん」
「何もしないと思っている方がおかしい」

えっ!? そ、そうなの?
でも……そう言われてしまうと、そうかもしれない。

「アリアは他人との距離感が近い。隙が多すぎる」
「う、うん」
「他の男性だって同じだぞ? もう少し注意深くなるべきだ」
「う、うん」

……ミネルの言う事はもっともだ。

それに、ミネルや他の幼なじみ関しては小さい頃から一緒という事もあり、どうにも気が緩んでしまう。

「分かったなら、僕以外の男性と2人きりで会わない方がいい」
「う、うん」


…………ん? 

思わず『うん』と言ってしまったけど、今のは『うん』で正解だった?
さらに別な方向に話がいったような??

「この話は、これで終わりだ。話を戻すぞ。明日の会場はこんな感じでいいか?」

……んん? 終わらせていいんだっけ?
なんかミネルの話術にはまっているような……。

「明日だからな。時間もない」

確かに時間はない!!
若干……いや、かなり納得はいかないものの、時間がないのは事実だ。


んー……とりあえず優先すべきは会場!! 
一旦頭を切り替えて、ミネルが準備してくれた会場を見渡す。

「可愛い! まさにマイヤのイメージ!! この装飾を考えてくれたのって……メーテさん(ミネル母)?」
「よく分かったな」

ミネルが感心した表情で私を見た。

うん、分かるよ。
ミネルもウィズちゃんも、選びそうにない物ばかりだし。

細かい部分をチェックしながら、明日の料理についてもミネルと話す。

「今更だけど、ミネルの家のシェフやメイドさん、大変だよね? 大丈夫??」
「ああ、それは問題ない。久しぶりのパーティーで張り切っている」

この後、私がプレゼントの時計を受け取りに行き、花束は明日届けてもらう手配になっている。
サウロさんに渡すお酒はオーンが持ってきてくれるはずだ。

ケーキもルナとエレが探して頼んでくれたし……。

「そうだ。ドレスは? セレスが『本気を出してしまったわ。マイヤには勿体ないくらい素敵なドレスよ』と言ってたけど……」
「ああ。夕方にエウロが持ってくると言っていた」

前日に仕上がったのか……。そう聞くと、本当にギリギリだったな。
間に合って良かったぁ。

「わかった! じゃあ、そろそろ時計を取りに行くね……って、その前に!」

話を戻さないと!!
でも……話を戻すにしても、何から言えば……。

私が迷っていると、コンコンと扉をノックする音が聞こえてきた。
開いた扉の前にはウィズちゃんが立っている。

「ウィズちゃーん!」
「あーちゃーん!」

数年ぶりに再会したかのように、ひしっと抱き合う。

「あーちゃん。明日はウィズも参加していい?」
「もちろんだよ! マイヤも喜ぶと思う」
「……そうですね、あーちゃん」

あぁ、ウィズちゃんは本当に可愛いなぁ。
できれば、もう少し一緒にいておしゃべりしたいけど……。

別れを惜しみながらもウィズちゃんから離れ、立ち上がる。

「ごめんね。今日は時間がないから帰るね」
「なんだ、帰るのか? 僕に言いたい事があるんじゃないのか?」

少し離れた位置に立つミネルが、腕を組みながら私に尋ねてくる。
傍にいるウィズちゃんにチラッと視線を送った後、悩みつつも質問に答える。

「もう……ああいう事はやめてよね、ミネル」

……としか、ウィズちゃんの前では言えないよ。
しかも時間が経ってしまったせいで、怒りのピークが過ぎてしまった。

それにしても ……言えないという事を分かってて聞いてきたな、ミネル!

帰り際、外まで見送ってくれたミネルが、私に向かって満足げに笑いかけて来た。


「先ほどの返事だ。約束はしない。では、明日」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

処理中です...