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高等部2年生

賽は投げられた 1/4

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「なっ! カ、リーナ……様? これはどういう……」

予想とは違う状況に違和感を覚えたのか、ジメス上院議長が周りにいる住民たちの様子をうかがっている。

向けられる視線はどれも冷たく、ジメス上院議長が動揺したように声を上げた。

「ノレイ! ノレイはどこだ!?」
「ノレイさんは、ここにいますよ」

手や口のかせから解放された私が、ジメス上院議長の前まで歩いていく。
私の隣には、冷静な表情をしたノレイさんが立っている。


……そう。
これはジメス上院議長を出し抜く為に考えた作戦だ。



──話は、1週間前にさかのぼる。

「よし! こうなったら、街の人たちに協力してもらおう!!」
「どうやって協力してもらうのよ?」

間髪入れず、セレスが私に尋ねてくる。

首を勢いよく動かすと、『よくぞ聞いてくれました!』とばかりにセレスの顔をジッと見つめた。
驚いたのか、セレスが少しだけ動揺している。

「ど、どうしたのよ」
「ジュリアが救世主として崇められているのって、カリーナ元王妃が現れたからだと思うの」
「だろうな」

さも当然のように、セレスではなくミネルが答える。

「何の根拠もなしに、いきなり現れた人物を救世主だなんて思うわけがない。僕なら疑って調べるぞ」

ま、まずい。

「……まぁ、僕からすれば、自ら救世主を名乗るような人物なんて怪しんで然るべきだけどな。単純な思考回路の人間があまりにも多すぎる」

ミネルの不満が別な方に向いている。
気持ちは分からなくもないんだけど、今は他の事を考えなくちゃいけない。

「気にしてほしいのはそこではなく……」
「大丈夫だ。分かっている」

うかがうように声を掛けると、ミネルが落ち着いた様子でこちらを見てくる。
なら、良かった。

「ええと……だから、街の人たちの誤解を解く為には、“ジュリアは救世主ではない”、“ジメス上院議長に騙されている”という事をカリーナ元王妃から伝えてもらうのが一番じゃないかと思って」

私の提案に、ゆっくりとオーンが頷いている。

「そうだね。多分、もう他の人が何を言っても信じないだろうから」
「待って!」

セレスが叫んだ。

「仮にカリーナ様から真実を伝える事で、街の方たちの協力を得られるとするわよ?」

相槌しながら、セレスの話を聞く。

「計画を潰す事はできるかもしれないけど、ジメス上院議長がやっていた事、やろうとしていた事については証拠がないと、結局は『救世主の話は嘘だった』程度で終わってしまうわよ?」

セレスの話を近くで聞いていたエレが、途端に呆れたような表情を浮かべてみせた。

「そんな事にはならないよ。もっとよく考えてみたら?」
「な、何よ?」

セレスが不可解そうに、エレと顔を合わせる。

「『身を隠している間にジュリアがジメスの計画を知った』とカリーナ様が話していたという事は、『ジメスが反乱を起こし、国を乗っ取ろうとしている』という事をこの街の人間は知っているんだ」

セレスがハッとした表情を見せる。
何を言おうとしているのか気がついたようだ。

「まぁ、一部の人達だけかもしれないけどね。それでも、ジメス上院議長が部下を使わず、“初めて”自ら動いているんだ。証言次第では、国の反逆罪にできる可能性がある」

エレの話を聞いたセレスが突然、「ふふふ」と不敵に笑い出した。

「勝利は確定したようなものじゃない!」
「本当だな」

「あまい!! お前たちのような人間が、すぐに救世主だなんだと信じるんだ!」

喜んでいるセレスとエウロを、ミネルが間髪入れずに一蹴する。

「今の今まで罪に問われる事なく、まんまと逃げおおせてきた人間だぞ。それだけで足りるわけがないだろう」

……ミネルの言う通りだ。

街の人たちが揃って証言したところで、ジメス上院議長の手に掛かれば何かしらの方法で揉み消される可能性だってある。

セレスが言い返そうと口を開いた瞬間、カタンと音がした。

私も含め、みんな音が聞こえた方へと顔を向ける。
そこには眠っていたはずのカリーナ元王妃が立っていた。

「その点については大丈夫です。私も証言します」

カリーナ元王妃が!?

「ジメスが誘拐事件や魔法更生院を襲わせた首謀者だった事、そして、グモード王の暗殺にも関わっていた事を……証言します」

なんだろう?
さっきとは打って変わって、凛とした表情をしているような……?

寝ている間に心境の変化でもあった……?

「私が死んだと世間に公表したのはジーノ──ジメスの父親です。当時のジーノの行動について調べて頂ければ、グモード王の暗殺だけではなく、私が命を狙われていたという証拠にもなります」
「せっかくの提案だが、父親の方を調べたからといって証拠が出てくるとは思えない」

カリーナ元王妃の発言を、ミネルがキッパリと否定する。

うーん。ジメス上院議長の父親だからなぁ。
息子と同じで、自分が関わった証拠は残さないよう徹底してそうな気もする……。

「心配ありません。確かにジーノは慎重な男でしたが、それ故に自分の力を過信している面もありました。そもそも、彼が権力を持つ事が出来たのは私がそう望んだからです。当時の彼は今のジメスよりもずっと若く、本来であればそのような地位に就ける人間ではありませんでした」

えーっと……それはつまり……どういう事なんだろう?
首を傾げつつ悩んでいると、何かを察したのか、ミネルが独り言のように呟いた。

「……そうか。保守派の人間は基本的に頭が固い。自分より年齢も、経験も下の人間に従う事を良しとしない連中が一定数いるはずだ」

「その通りです。近しい人間であれば《闇の魔法》で操る事が出来たかもしれませんが、全ての人間となるとさすがに無理です。さらに、グモード王の死によって国内はまだ不安定な状態でした。多忙な日々を送っていたジーノが何かしら取りこぼしていたとしてもおかしくはありません。何より──」

カリーナ元王妃が目を細めた。

「亡くなったはずの私がいるのですから、これ以上ない証拠だと思います。私が王妃だと証明できる物もありますし……ね」

そう言って、カリーナ元王妃がペンダントを見せた。
さっき見せてもらった特別なペンダント!

でも、亡くなっていなかった話をするという事は……カリーナ元王妃が禁断の魔法を使用していた事も話さなければいけないのでは?

「……いいんですか?」

探るようにカリーナ元王妃に尋ねる。

「ええ。今度こそ……今度こそは逃げずに戦おうと思います」

しっかりとした口調で、私をまっすぐに見つめてくる。
やっぱり。凛とした表情は気のせいじゃなかったんだ。

「そうなると一度で……できれば……1週間以内に決着をつけたい」

告げながら、オーンがゆっくりと立ち上がった。
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