一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部2年生

アリアとカリーナ 転生者同士の話し合い(後編)

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みんなもその事に気がついたのか、声ではなく目配せで確認し合っている。
軽く息を吐くと、今度は私がカリーナ元王妃に話し掛けた。

「2人きりでお話しするほどの信頼関係はありませんので……警護の方にも同席してもらい、3人でお話しするという事でもいいですか?」
「……それでも構いません」

カリーナ元王妃がゆっくりと頷く。
無事に了承してもらえたので、私とカリーナ元王妃、警護のララさんで、もう1つの部屋へと移動した。

誰かの部屋として使っていたのかな?

入った部屋はきちんと整理整頓がされており、ベッドとテーブル、椅子が置かれている。
テーブルを挟み、カリーナ元王妃と向かい合わせで椅子へと腰を掛けた。

ララさんは私の斜め後ろに立ち、無言でカリーナ元王妃の様子をうかがっている。
しばらくすると、カリーナ元王妃がおもむろに話し始めた。

「ここでの話を他の方へするのか、貴方の心に留めておくかはお任せします」
「は、はい」

落ち着いた口調で語りながら、まっすぐな目でカリーナ元王妃が私を見ている。

「私は転生者です。そして、貴方も転生者ですね?」

──なんで!?
私が転生者だって知ってるの!?
もしかして、ジュリアから聞いたのかな??

……それにしても、私の予想は当たっていた。

外れてばかりの私の予想が当たる事もあるんだ!! なんて、ついつい呑気な事を思ってしまった。
隠す理由はない。正直に答えよう。

「はい、そうです」
「やはり、そうでしたか。……どうやら私の願いは通じたようですね」

願い? ……って、なんだろう??

「貴方に私が転生した時の……ループした話も含めて、全てお話しします」

……ん? ループ??

──それから、カリーナ元王妃は前の世界の事、自分が転生した時の事を話し始めた。
今もなお続くループの話も含めて。

「──以上が私の過ごしてきた過去の話です。そして、これからお伝えするのが、4度目のループにあたる“今”の話です」

……転生者って、ループするの?
カリーナ元王妃だけ? それとも……私も??

情報量の多さに頭がついていかない。
かなり混乱しているけど、まずは最後まで話を聞こう。

その後もカリーナ元王妃は淡々と語り続けた。
これまでと違い、4度目のループはカリーナ元王妃に多くの変化を起こしたらしい。

完全に理解できたわけではないけど、随所に重要な情報が集約されている事だけは分かる。

全ての話を聞き終えた後、部屋の中は沈黙に包まれた。

思わぬ形で、ジメス上院議長の目的を知る事ができた。
この国を乗っ取ろうとしていたんだ。

そして、ジメス上院議長が同じ保守派の人間であっても信用していない理由も分かった気がする。

自分……正確には自分の親が、その当時の上院トップを裏切ったんだ。
そりゃ、同じように裏切られる可能性があると思うのが自然だよね。

一緒に話を聞いていたララさんに、チラッと目を向ける。

表情には出していないけど、常識離れした話が多かったから、ついていけてないだろうなぁ。

沈黙を破るように、カリーナ元王妃が私に問い掛ける。

「貴方は《聖の魔法》が使えますね?」
「はい」

一瞬迷ったけど、正直に答える事にした。
バレてるのは一目瞭然だしね。

「良かった……。《聖の魔法》であればきっと、このループを止められるはずです。私をループから解き放ち、消滅させられるのは貴方しかいません。……頼めますか?」

カリーナ元王妃が、神妙な面持ちで私に尋ねる。


「えっ、イヤです」


迷う事なく、即座に返答する。
……あれ? 速攻で返事しすぎたかな?

カリーナ元王妃の表情が固まっている。
“なぜ断られたのか分からない”といった表情をしている。

貴方の後悔を思うと、いたたまれない気持ちでいっぱいです。
私でよければ、お手伝い(消滅)します。

……とでも言うと思ったのだろうか。
初めて会った人間に、この人はなんてことを言い出すんだ! という気持ちなんだけど。

「死にたいなら、自分で死んでください」
「えっ、死ねない……いえ、ループを止めたいから頼んでいるのです」

私の答えに対し、今度は困惑したような表情を浮かべている。
もしかして、“断られるはずがない”と思っていたんだろうか。

「貴方は自分が楽になりたいから頼んでいるのかもしれませんが、他人である私に罪を押しつけないでください」

今度は私が真っ直ぐな目でカリーナ元王妃を見つめる。

「簡単に“消滅”とか言ってますけど、私には“人を消滅させる”覚悟なんてありません」

カリーナ元王妃の話を聞き終えた時、彼女の人生に対して同情する気持ちは確かにあった。
でも、それと同時に腹立たしくもなった。

「……私、カリーナ元王妃が呼び寄せたもう一人の転生者“ジュリア”とも話した事があるんです」

そこで一旦息をつき、軽く休む。

再びカリーナ元王妃と目を合わせると、ジュリアについて話を続けた。

「カリーナ元王妃が『私が作った世界』と話したように、ジュリアも『私の世界よ』とかバ……じゃなかった、似たような事を言ってました。私からすれば、転生しただけで、そう思える事が全く理解できません」

「……転生した“だけ”?」
「はい」

動揺するカリーナ元王妃に向かってコクリと頷く。
彼女からすると、私の話は思いも寄らない事だったらしい。

「転生……と言えば確かにそうです。でも、考え方次第では、ただ“前世の記憶”が残っているだけなのかもしれないとも思うんです。それなのに『私の世界』とか簡単に言えてしまう理由が私には分からないです」

言いながら、ふと別なことが頭をよぎる。
あれ? そういえば……。

「すいません。少し話が逸れますが、操られている時にジュリアと会っていますよね?」

ジュリアがこの街に身を潜めている事を話していたから、きっと会っているはず。

「会っているわ」
「でも、先ほどの話からすると、転生者と会ったのは私が初めてみたいな雰囲気を感じたんですが……」
「実は、先ほどの貴方の話を聞いて驚いていたんだけど……ジュリアも転生者なの?」

戸惑いながら、カリーナ元王妃が尋ねる。

「はい、そうです」
「そうだったの……会うには会ったけれど、まさかあの子が転生者だとは思わなかった。しかも、ジメスの娘として転生しているなんて……」

えっ! そうなの?
私には気がついたのに??


──あっ!
もしかすると、私がジュリアの魔法を封じ込めたせいで、気がつかなかったのかもしれない。

まぁ、ジメス上院議長の娘として転生しなくても、あの性格なら……何も期待はできないよなぁ。
『詠唱せずに魔法が使える』と自慢げに話ながら、私を殺そうとしたんだから。

嫌な思い出に耽っていると、突然、カリーナ元王妃がぽろぽろと涙を流し始めた。

「……もしもこのまま死んでしまったら、私はまたループをして、同じ苦しみを味わなければいけないの!?」

……いや、知らんがな。
話を聞いていて思ったけど、カリーナ元王妃って──

「なんか悲劇のヒロインを気取っているような気がして……正直、少し引いてます」

若干引き気味の私を見て、カリーナ元王妃の目がカッと見開いた。

「私のどこが、悲劇のヒロインを気取っているというの!? 心が張り裂けそうなほど、人を愛したことがない貴方には、私の苦しみなんて分からないわ!!」
「分からなくて当然です。私が経験した人生ではないのですから」

むしろ『分かる』と断言する方がおかしい。

いくら想像力を働かせたところで、私が理解できる範囲なんて限られてる。

とはいえ、心身ともに疲れているカリーナ元王妃に対して、適切な言葉ではなかったな……と少し反省。

怒らせた私が思うのもなんだけど、いったん落ち着かせよう。

「ええと……今回のループ前の話をお聞きして思う所もありますが……過去の事なので、とやかく言いません」

“過去の事”という表現が正しいのか分からないけど、ひとまず伝える事が大切だ。

「それに、貴方が自分の過ちや罪を後悔している事は伝わりました。ただ……なんというか」

うーん。言葉選びが難しい。

「息子さんに対し、貴方が本当に悪い事をしたと思っていたのなら、その時点で計画を止め、息子さん──先代の王の所に戻っていたのではないでしょうか?」
「…………」

「それだけじゃありません。もし、貴方が本当に自分のした事を後悔しているのなら、真っ先にやるべき事はジメス上院議長の計画を潰す事ではないでしょうか? 少なくとも、今日初めて会った私にループを止めるよう頼む……なんて事ではないと思います」

『自分本位な考えが多いです』という言葉も浮かんだけど、言うのは止めておいた。
怒らすだけだし、今言った言葉だけで伝わってほしいと思ったから。

「“消滅”を望む事で、自分の犯した罪から逃げないでください」

私にしては珍しく、感情のまま伝えずに言葉を選んで話したつもりだけど……大丈夫だろうか。

無言のまま反応を待っていると、カリーナ元王妃が両手で顔を覆い、再び「うわぁっ」と声を上げて泣き始めた。


思えば、わりと偉そうな事を言ってしまった。

自分の素直な気持ちを伝えはしたけれど、もし仮に私がカリーナ元王妃の立場だったら、逃げずに立ち向かえたかな?

想像したところで、今の私が理解する事はきっと難しいに違いない。


カリーナ元王妃の泣いている姿をただ静かに眺めていると、ララさんが私の背中にポンと優しく触れた。

何も言葉は発していないけれど、『大丈夫ですよ』と言ってくれた気がした。
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