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高等部2年生

アリアとカリーナ 転生者同士の話し合い(前編)

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「私の知っている全てをお話します」


オーンと同じブロンドヘア。
気品漂う美しさを持った女性だ。

心の中で“カリーナ元王妃”と呼んではいたけど、本当にカリーナ元王妃だとは思わなかった。


……いやいや、話を鵜吞うのみにしちゃいけないよね。
だって、カリーナ元王妃は亡くなっている。

もし仮に……仮にだよ? 仮に亡くなっていなかったとしても……若すぎる。
どう見ても20代後半~30代前半に見える。

それに……気のせいかな?
カリーナと名乗った女性が、じーっと私を見ている。

「貴方が、“アリア”ですよね?」

わ、私!?

「は……」
「──なぜ、彼女の事を知りたいのですか?」

険しい表情をしたミネルが、間髪入れずに尋ねた。

あ、危ない、危ない。
ミネルが遮ってくれなければ、正直に答えていた。

叱るような顔で、チラッとミネルが私を見てくる。
『ごめん』と目で謝っておこう。

「私の知っている全て……操られている間に起きた事を、この女性にだけ話そうと思い、お聞きしました」

へっ? なんで私にだけ!?

「どうか、二人だけでお話させて頂けませんか?」

カリーナ元王妃が私に向かって尋ねてくる。

「無理です」

私を背に庇うように立ったカウイが、真っ先に拒否を示す。

「まだ素性もハッキリとしていない方と2人きりにはできません」
「そうですね。“カリーナ”と元王妃の名前を名乗った事も信用していません」

カリーナ元王妃の前で膝をついたままのオーンも、厳しい口調でカウイに同意している。

「……まずは、こちらの質問に答えてもらいたい」

先ほどと変わらず冷たい表情をしたミネルが、淡々と話を続ける。

「カリーナ元王妃は、何十年も前に病で亡くなっている。貴方が本当にカリーナ元王妃だと言うなら、それを証明できるものはありますか?」
「証明……できるもの」

戸惑った表情をしたカリーナ元王妃が、何かを考えている。

「──ああ、あります」

何かを思い出したのか、ポケットからハンカチを取り出すと、目の前で丁寧に広げている。
ハンカチの中にはペンダントが包まれていた。

「王妃になった時に作られる特別なペンダントです。王家に精通している人間に見せれば、本物かどうか分かるはずです」

差し出されたペンダントを手に取ると、オーンが静かに立ち上がった。
指先で細工に触れながら、じっくりとペンダントを確認している。

「……本物だ」
「本当か? レプリカではないのか?」

オーンがミネルを見て頷いた。

「ああ、王家の人間だけが分かる印が刻まれている」

オーンが驚愕したような、何とも言えないような表情を浮かべている。
その姿を見たカリーナ元王妃が、ふいに涙を流し始めた。

「貴方は王家の人間なの? 王……にしては若い。という事は、サール国王の……どうりで面影があるはずだわ」
「──悪いが、時間がない。このまま話を続けさせてもらう」

カリーナ元王妃の涙など無かったように、ミネルが平常運転で話を進めていく。

もし本物のカリーナ元王妃だとしたら、初めて自分のひ孫と会う感動の場面なはずだけど……。
容赦ないな、ミネル。

「完全に信じたわけではないですが、貴方が本物のカリーナ元王妃だと仮定した場合、亡くなった後に蘇ったのでしょうか。それとも元々亡くなっていなかったのでしょうか。どちらですか?」
「私は死んでなどいませんし、そもそも病気にすらなっていません」

カリーナ元王妃の発言に、この場にいる全員が驚きのあまり目を見開いた。

「ええ! 病で亡くなった話は!?」

動揺したエウロが、敬語も忘れてカリーナ元王妃に尋ねている。

「私を亡くなった事にした方が都合のいい人間が流した嘘です」
「……なるほど。“普通の人間”は、王妃が亡くなった事にできるはずがない。そうなると、自ずと犯人は絞られてくるな」

ミネルはすでに、誰がカリーナ元王妃を亡くなった事にしたのか気づいているらしい。

予想だにしていなかった展開が続いたせいか、次第にみんなの口数も減っていく。
すると、ミネルがそっと私やオーン達の方へと顔を向けた。

「一度、5人で話をしよう」

ミネルの提案に、みんなで頷き合う。
他の人たちに聞こえないよう、5人で部屋の隅へ移動すると小声で話をする。

「時刻的にはもう夕方だが、僕としてはこのまま話を進めたいと思ってる」
「私も同じ考えだよ」

オーンがミネルの話に同意している。

「ただ、話を続けるには外野が多すぎる。僕達5人はいいとして、警護の人間と操られていた4名……特に操られていた4名だ。今話した事もそうだが、これから話す事を口外される可能性がある」

まぁ『カリーナ元王妃、生きてたってよ!』って、人に言いたくなる話だよね。
私もセレス達には話したいし。

「警護の人たちに頼んで、憲兵の所まで連れて行ってもらうか?」
「それも考えたが、これから聞く話の内容次第では、残っていてもらった方が都合がいい」

エウロの提案にミネルが答える。

「都合がいい?」

エウロが不思議そうな表情をしている。
それを見たオーンが、クスッと笑った。

「ミネルは……もう次の事を考えているのかな?」
「ああ、そうだ。とりあえず、話を戻すぞ。この家には少なくとも部屋が3つある」

ミネルに言われ、家の中を見渡す。
確かに……今いる部屋とは別に扉が2つある。

「1つの部屋に操られていた4名と……念の為、見張りをしてもらう警護の人間も一緒にいてもらおう」

ミネルの提案に黙って頷く。

「それと、警護の中の誰かに、僕たちが今日は帰らない事を伝えに行ってもらおう」

エウロがミネルに問い掛ける。

「んん? さすがに話を聞くだけなら、夜には終わるんじゃないか?」
「オーンが『次の事を考えているのか』と言っただろう? その話も“今いる内”にしなければいけない。詳しくはあとで話す」

いつの間に? とこちらが驚くくらい、ミネルは色々な事を同時に考えている。
視野が広いって、こういう事を言うんだろうなぁ。

「最後……ここからは相談だ。カリーナ元王妃の内容次第にはなるが、アリアと2人きりで話をさせるべきか否かだ」

腕を組みながら、ミネルがわずかに首を傾げている。
どうするか決め兼ねているようだ。

「アリアだけに話したいという真意は知りたいけど、賛成はしかねるね」
「2人きりは……不安だよな」

オーンとエウロは、2人きりで話す事に反対のようだ。

「先ほどの亡くなっていないという話が本当だとすると、あの容姿については説明がつかない。恐らく、若さを保つ為に禁断の魔法を使っていると思う。そんな人とアリアを2人きりにはしたくない」

カウイには珍しく、ハッキリと、強い口調で話している。

「……だけど、アリアはどうしたい?」

言いながら、カウイが私の顔を見る。
先ほどとは打って変わって、随分と優しい口調だ。

うーーーん。
魔法を封じたとはいえ、多少の不安は確かにある。

「例えば、警護のララさんと3人でもダメかな? ララさんは口外するような人じゃないから」
「いいんじゃないか。それでも2人で話したいと言われた時は……また考えよう」

私の案にミネルが頷く。
他のみんなの了承も得られたので、さっそく操られていた4人を別な部屋へと移動させた。

その間に、ミネルが警護の1人へ伝言を頼んでいる。

「オーン、アリアの順に行ってください。その他はお任せします。それと、この街の誰にも見られないよう移動してください」

ミネルからの依頼に一瞬戸惑ったような表情はしたけれど、すぐに了承してくれた。
警護の人が去った後、再び、カリーナ元王妃へと声を掛ける。

「お待たせしました。先ほどの続きからお話しましょう。貴方は『操られている間に起きた事を話したい』と言いました。けれど、今まで《闇の魔法》で操られた者は全員、操られている間の記憶を失っている。貴方はなぜ、“操られている間の出来事”を話せるのですか?」

ミネルが鋭い眼差しでカリーナ元王妃を見ている。

「……別室に移動した4名もそうですが、《闇の魔法》で操られる人間のほとんどは操られるという認識のないまま、いつの間にか操られています」

まぁ、それはそうだよね。

「私は前触れなく操られたわけではなく、捕らえられた際、これから自分が操られる事を知らされていました。だからこそ、必死に自我を保とうと意識する事ができたのです」

うーん。
でも、結局は操られてしまったわけだから、成功はしなかったって事だよね。

「とはいえ、《闇の魔法》から完全に逃れる事は難しく、自分の意思に反した発言、行動をしてしまいました。けれど、私の奥底の心は“私のまま”でした。このわずかに残った自我のお陰で、操られていた期間も記憶に残す事ができたのです」

……なんだろう?
要は操られた時、自分の心が完全に眠りについているか、眠りについていないかの違いなのかな?

そう簡単にできる事でもないような気がするけど……カリーナ元王妃の気持ちが、それだけ強かったって事でいいんだろうか。

もしくは、《闇の魔法》に対する何かしらの対抗策を知っていた可能性もあるよね。

色々と考えを巡らせる私に対し、ミネルは納得したような表情を浮かべている。
過去に似たような事例を見た事があるのかもしれない。

「……では、最後の質問です。なぜこの女性と2人きりで話がしたいのですか?」

ミネルが手で私を示す。
その問いに視線を動かすと、カリーナ元王妃が真剣な表情で私を見た。

「恐らく、この子だけが使える魔法があります。だからこそ、お話ししたいのです」


──《聖の魔法》の事は一部の人しか知らない。

逆を言えば、《聖の魔法》を知っているという事実が、“カリーナ”であるという事を証明している。
……この人は本当にカリーナ元王妃なんだ。
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