一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

文字の大きさ
上 下
198 / 261
高等部2年生

行動開始の合図

しおりを挟む
ナイトたち……!?

チラッと後ろを向くと、幼なじみ達がジメス上院議長を牽制するかのように並んで立っていた。

少しだけ距離を取ってはいるものの、会話は聞こえるくらいの位置で構えている。
このままケンカが勃発してもおかしくないような雰囲気だ。

「では、“また”お会いしましょう」

軽く会釈すると、ジメス上院議長とノレイさんは他の出席者の所へと挨拶に向かって行った。

多少なりとも表情の変化はあったけど、ジメス上院議長は最後まで余裕があると言うか、落ち着いて対応をしていた。

きっと自分が負けるなんて、微塵も思ってないんだろう。
それに比べてノレイさんは……かなり怒ってたなぁ。

でも、実はノレイさんが怒る姿を見て、少し安心したんだよね。
無感情な人間かもしれないと思ってたから、人の為に怒れる人で良かった。

……まぁ、それが私にとって良い事なのか、悪い事なのかまでは分からないけど。



「──焦ったわよ、アリア!」

ジメス上院議長が去ったのを見届け、セレスが私に声を掛けてきた。

「(ノレイさんもいたし)隠してもしょうがないと思ったから……それに皆の品位を下げるような事を言われたのも許せなかった」

私の言葉を聞き、セレスがまんざらでもない表情をしている。

「全くしょうがないわ──」
「アリア、私の為にありがとう」

セレスの言葉にかぶせつつ感謝を告げると、ルナが私の手を握った。

うん、ルナ。
今の発言を黙っていない人がいる事を知っていて、わざと言ってるよね?

「心の友である“私の為”が9割よ! 他の方は、残り1割を分け合いなさい!」

いつの間にかセレスの中で、私は“大親友”から“心の友”に昇進? したようだ。

「うふっ。そんな低レベルな会話をしているなんて、アリアちゃんに思われている自信がない証拠よ?」

マイヤが可愛らしく、ルナとセレスに微笑んでいる。
……1人増えた。

「あっ、サウロさん」
「えっ! うふふっ。……って、いないじゃない! ルナちゃん!!」

ルナに騙され、マイヤが不満げに怒っている。
でも、そのお蔭でみんなの空気が和み、賑やかな雰囲気へと戻った。良かった。

すると、場の空気を壊さない為か、お父様がこそっと私にささやいた。

「終わったら話をしよう」
「分かりました」

んー、何を聞かれることやら。

「今は、夜会を楽しみなさい」
「ありがとうございます」

そのまま他の上院の方たちに話し掛けられ、お父様たちは別な場所へと移動して行った。

うーん。楽しめるか分からないけど、セレス達のいつものやり取りを見ていると安心するな。
そんな事を考えながら、しばらく仲の良いやり取りを傍観していると、ふいに綺麗な音色が聞こえてきた。


──あっ!

行動開始の合図でもあるダンスが始まったんだ!

……とはいっても、ダンスが苦手な事を考慮してくれたのかな?

私は誰とも踊らなくていいらしい。
本当に助かった。

ホッと胸を撫で下ろしていると、ソフィーの幼なじみ──リイさんの所へ向かうはずのカウイがやって来た。

私の前に立ち、目を合わせながらそっと私の右手を取る。

「後でダンスを申し込むから、一緒に踊ってくれたら嬉しいな」

そう言って静かに微笑むと、指を絡ませ手のひらを合わせた。

「それじゃあ、名残惜しいけど……行ってくるね」
「う、うん」

ゆっくりと手を離したカウイが、リイさんを探す為に去って行く。
……こういう時、ドキドキして頭が回らなくなるんだよなぁ。

一人で動揺していると、近くにいたエレが突然、さっきカウイの触れた右手をギュッと握った。

「アリア、僕と踊ろう」
「ええっ?」

練習はしたけど、上手く踊れるか不安。

「今しか踊るチャンスがないかもしれないし、最初に踊るのはアリアがいいんだけど……だめかな?」

可愛い瞳でエレが、私を見つめる。

全然ダメじゃないです!
むしろ、こちらから土下座してお願いしたいくらいです!!

「上手に踊れないと思うけど……踊ろう!」

エレの手を取り、広間の中央まで歩く。

エレにエスコートされるのは初めてかもしれない。
ちょっと気恥ずかしい。

優雅に踊る人たちの中に入ると、早速、エレにリードされながら踊り始める。
さすがエレ! 私のぎこちなさを上手にカバーしながら踊ってくれている。

「今回の為にドレスを作ったの?」

踊りながら、エレが私に尋ねる。

「ドレス? ああ、ミネルがプレゼントしてくれたの」
「へぇーー、通りで。ミネルさんが余裕な表情をしていると思った」

ん? 余裕な表情とは??

「ミネルさんが選んだドレス?」
「ううん。ドレスというか、デザインは私が選んだんだ。どうかな?」

私からの質問に、エレが微笑した。

「アリアが選んだデザインなら、許せるかな? もちろん、アリアによく似合ってる」

許せる? という若干気になるワードはあったけど、素直にお礼を伝える。

「今後は着る機会も多くなると思うし、今度、僕からもプレゼントさせて?」
「それなら、私もエレにプレゼントしたいよ!」

エレなら何でも着こなしそう!

「いいね、それ。じゃあ、お互いにプレゼントし合おうか」
「うん」

曲が変わり、切りよくダンスを終えようとした瞬間、エレがふんわりと私を抱きしめた。

「さて、たっぷり充電もできたし、僕の仕事をしてくるかな?」

にこっと笑い、エレがミネルの元へ歩き出した。
ありがとう! 私もエレに元気をもらったよ!


よし……私もそろそろ動きだそうかな?
うーん、どこから行くべきか……。


「──案内が必要じゃないかい?」

伏せていた顔を上げると、そこにはリーセさんが立っていた。
私に向かって、スッと手を差し出してくる。

「ルナから今日の話は聞いてるよ。よければ、私にエスコートさせて頂けますか?」

手を伸ばしたまま、リーセさんは優しく笑みを浮かべている。
とりあえず、歩き回ろう! と短絡的に思っていた私には、リーセさんの申し出は助かる!

「助かります!」
「なら、良かった」

リーセさんの手を取り、2人並んで会場内を歩く。

「1人で歩くより、誰かと歩いた方が変な目で見られないはずだよ」

……確かにそうかもしれない。

「そういえば、ルナはユーテルさんにダンスを申し込まれたみたいで、今一緒に踊っているよ」

元別館メンバーで無駄な動きの多いユーテルさん!
ルナをダンスに誘ったんだ!!

「ルナ、踊る事にしたんですね」
「う、うん。『どうしてもと言うなら、踊ってあげてもいい』と言ってたけど……」

ルナらしい。塩対応!
私にはものすごく優しいし、甘えてきて可愛いのに、な。

「ユーテルさんは変わってるね。それを聞いて喜んでいたよ」

リーセさんが、苦笑している。

ユーテルさんは、鋼の心を持っているのかもしれない。
もしくは、冷たくされるのが嬉しいタイプなのか。

ルナの影響でいい方向? また別な扉を開いた??
どちらにせよ、ユーテルさんは変わったのかもな。

「ルナがユーテルさんに話してみると言っていたよ。他の子たちも動き出してるみたいだね」
「はい、そうみたいです」

会話しながらも、私とリーセさんで不自然にならない程度に周りを見渡す。

「もし“見える人”がいたら、合図をして。私もアリアと一緒に覚えて、その人の情報を集めておくよ」
「合図ですか?」

リーセさんが「そうだね……」と呟きつつ、合図の方法を考えている。

「今繋いでる手を強く握るのを合図にしよう」

要するに……私から手を強く握るって事だよね?
少し恥ずかしいけど、そんな事を言える状況じゃない。

「分かりました」
「分かりやすいね、アリアは……」

リーセさんがクスッと笑った。
恥ずかしいという気持ちが顔に出てましたか。

「それがアリアの可愛くて魅力的な所だから、そのままでいてね?」

少しだけ身体を斜めに傾け、リーセさんが私の顔を覗き込んでくる。
顔が近いという事もあり、ついついドキッとしてしまう。


パーティーに来てから、ドキドキしっぱなしだ。
……私の心臓持つかな。


「──さて、始めようか」

リーセさんにエスコートされながら、私も強く頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍
ファンタジー
 "私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。  動けない、何もできない、そもそも身体がない。  自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。 ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。  それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

皇帝の番~2度目の人生謳歌します!~

saku
恋愛
竜人族が治める国で、生まれたルミエールは前世の記憶を持っていた。 前世では、一国の姫として生まれた。両親に愛されずに育った。 国が戦で負けた後、敵だった竜人に自分の番だと言われ。遠く離れたこの国へと連れてこられ、婚約したのだ……。 自分に優しく接してくれる婚約者を、直ぐに大好きになった。その婚約者は、竜人族が治めている帝国の皇帝だった。 幸せな日々が続くと思っていたある日、婚約者である皇帝と一人の令嬢との密会を噂で知ってしまい、裏切られた悲しさでどんどんと痩せ細り死んでしまった……。 自分が死んでしまった後、婚約者である皇帝は何十年もの間深い眠りについていると知った。 前世の記憶を持っているルミエールが、皇帝が眠っている王都に足を踏み入れた時、止まっていた歯車が動き出す……。 ※小説家になろう様でも公開しています

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

処理中です...