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高等部2年生

同じ地点

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腕からチラッと、エウロの照れた眼元が見える。
確認しているようにも見えるし、私の照れている様子をうかがっているようにも見える。

「そ……」
「そんなの……駄目に決まってる!!」


あれ? 今発したのは私じゃない。
……となると、声のした方へぱっと顔を向ける。


そこには息を切らしたオーンが立っていた。

「はぁ、良かったよ。2人が……見つかって」

オーンが私たちに近づいてくる。

「あれ? オーン、テスタコーポは……」

驚きながらも、咄嗟に気になった事をオーンに尋ねる。
多分、もう始まっているよね?

「まだ……第1ステージだからね。私1人、いや、何人かが……欠けても大丈夫だよ」

息を整えながら、オーンが話している。

「はぁ……“ある意味”間に合って良かったよ」

私から視線を逸らしたオーンが、エウロと黙ったまま見つめ合っている。
なんだろう? この雰囲気……。

「……見つけた」
「すでにオーンが来ていたか」


──カウイとミネルまで!
2人も私たちを探しに来てくれたの?

「エウロらしからぬ“演出”だったな」

据わった目のミネルが、私たちの元へと歩いてくる。
カウイもミネルの後を追うように近づいてきた。

「えっと……大会は大丈夫そうか?」

きまりが悪そうにエウロが3人に聞いている。

「2人がいなくなった後の余韻はあったが、滞りなく進んでいる」
「みんな“演出”だと信じてるからね」

ミネルとカウイが淡々と話す。
カウイの言葉を聞く限り、エウロが本気で告白してくれた事を3人は気づいているらしい。

そこで、私もある事に気がついた。
私は“この4人”に告白されたんだった(エウロには言われたばかりだけど)。


……私、よほど前世でいい事をしたんだな。

どこかの国の偉い人を庇って死んだのかもしれない。
もしくは大飢饉だいききんを救ったとか。

ともかく、どこかの国の英雄だったに違いない。

現実逃避でもするように、私が自分の前世について考えている合間も、4人だけで会話が進んでいく。

「まさかエウロが大勢の場で“あのような行動”をするとは思わなかったよ」

オーンがにこやかに笑っている。
あっ、外向けの笑顔だ。

「自分の気持ちに気がついたからな。オーン達は大切な幼なじみだけど、後悔はしたくないと思っている」

真剣な表情で、エウロが話している。

「以前みんなに『今までと変わらず仲良くしたい』と言った気持ちに変わりはない。──けど、“それが難しくなる”という覚悟もできてるから」

不穏な空気は感じるけど、段々と何の話をしているのか分からなくなってきた。

「“演出”になってるとはいえ、これからエウロとアリアが噂されるのは面白くないね。きっと“演出”だと思わない生徒もいるはすだしね」

ずっとオーンは静かにほほ笑んでいる。

「人なんて単純だ。もっと大きな噂が立てばすぐに消える」

ミネルがニヤッと笑っている。

「なんにせよ、これで4人が同じ地点に立ったわけだ」

オーンが3人の顔を交互に見ている。
最近、幼なじみ達には見せていなかった外向けの笑顔のままだ。

「同じ地点だろうがなんだろうが関係ない。今は“目的”があって協力し合っているが、本来は違うはずだからな」

腕を組みながら、ミネルが話している。

「…………」

カウイが静かに微笑みながら話を聞いている。

「なんだ? カウイ」
「ううん、そうは言ってもミネルは優しいよ」

ミネルが呆れた表情で、カウイを見る。

「……お前と話すと、調子がくるう」


……なんだろう。
いつも一緒にいる時とは違う表情、男性陣の独特な空気感。

下手に口出しする事もできずに黙っていると、遠くから足音が聞こえてきた。


「──いた!」
「っ、うわぁ! ルナ!?」

現れた瞬間、勢いよくルナが抱きついてくる。

「い、い、いたわーー!!」

必死の形相をしたセレスが、ルナより少し遅れて到着する。
セレスのかなり後ろの方にはマイヤの姿も見えた。

走ってきた2人とは違い、マイヤはこちらに向かってゆっくりと歩いている。

「ルナが自信満々に『こっち』と言うから信じてあげたのに、全然違ったじゃない!」

着いた早々、セレスがルナに怒っている。

「結果的に着いたから問題ない」

ルナが私に抱きつきながら、セレスに無表情で話している。

「ルナちゃんって、方向音痴だったのね」

ようやく到着したマイヤが、のんびりと話している。

「違うし。さぁ、アリア戻ろう」

私の手をぐいぐいと引っ張りながら、なぜかルナが戻ろうと躍起になっている。
その様子を、ミネルとオーンが何とも言えない表情で眺めている。

「一旦、話は中断するしかないな」
「……そうだね」

そう言葉を交わすと、2人揃って軽く息を吐きだした。

……良かった。
私が知っている、幼なじみ達のいつもの空気感に戻った。

「──ちょうど良かった」

ふと、ミネルが口を開くと同時に周囲を見渡す。
その姿に、先ほどまでとは違う雰囲気を感じ、私も周りへと視線を動かした。

うん。“魔法の色”は見えない。
という事は、大事な話をしても大丈夫だ。

ミネルと目を合わせ、静かに頷く。

「近々、王や上院が参加する夜会が開催される。本来であればパートナー以外の参加は難しいが、今回は家族も参加できるようにした。当然、僕たちも参加するからな」

家族も参加できるようにした?
細かい話を聞いてる時間はないけど、オーンがにっこりと頷いている。

何かしたのかな?

「そこで、だ。ソフィー達──元別館の幼なじみ連中にも声を掛け、参加させろ」

あまりにも唐突な話に、セレスが不思議そうな顔をしている。

「なぜ? ソフィー以外の幼なじみは私たちのやろうとしている事を知らないわ。協力してくれるかも分からないのに……」

セレスの問いに、ミネルが驚きの提案をした。

「“偶然”みんなが揃う場だ。そこで協力を仰ごうと思っている」

へっ!? パーティーの最中に話すの!?

「ソフィー以外、まだ協力してくれるか分からない。協力してくれない場合、僕たちが何か行おうとしている事を親に報告するだろう」

……そうだよね。さすがにバレたらまずいよね?

「とはいえ、事情を伝えない事には話も進まないからな。そこで、僕たちが何かを計画している事は漏れてもいいと思う事にした。まぁ、本当は全員が協力してくれた方がありがたいがな」

オーンが口元に笑みを浮かべる。

「4人で話し合って、計画を考えてみたんだ」

4人って、オーンとミネル、カウイ、エウロの事だよね?
2人の会話を聞いたセレスが、得意げに微笑んだ。

「ふふっ、ついに動き出すのね。双子には私が声を掛けておくわ」

セレスって、本当に肝が据わってるなぁ。

……正直、どうなるかは分からない。

でも、ミネルの言う通り、確かにやってみる価値はありそうだよね。
全員で顔を見合わせると、同意を示すようにこくりと頷いた。

「……話の途中だけど、そろそろ戻らないとまずいかもね」

カウイが時間を気にしている。

「そうだな。詳しくは後日、話す」

ミネルが頷き、不敵に笑った。

「──では、元本館メンバーたち。元別館メンバーが一堂に会する、夜会でお会いしよう」

仕事もある為、長居する事なく解散する。
私も自分の持ち場へ戻ろうと歩き出したところで、ふいにミネルが声を掛けてきた。

「きちんとマナーやダンスは練習しておけよ」

……今まで学んできたけど、得意じゃないんだよなぁ。
別な課題が出来てしまった……。


──その後、2日間にわたって開催されたテスタコーポは無事終了した。
目指すはパーティー……の前に、エウロとのデート日が近づいてきた。
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