一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部2年生

グモード王とカリーナ王妃(後編)

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ミネルがオーンを見る。

「ああ、そうだね。《聖の魔法》も《光の魔法》と同様に、浄化できるようなんだけど……」

私の様子をうかがうようにオーンが言葉を濁している。

「私に気を遣ってくれているのなら、気にしなくていいよ。話してくれる事で、誤った魔法の使い方をしないよう気をつける事も出来るから」

オーンが「分かった」と告げる代わりに、話を続けていく。

「《光の魔法》は《闇の魔法》で操られた人を浄化できる。《聖の魔法》はもっと幅広いようなんだ」

幅広い??

「“不浄な人物”を浄化する事もできるし、消滅させる事もできる。これもまた、曖昧な表現だけどね」

……消滅。

「それって、私が選べるという事なのかな?」

オーンが苦笑している。

「それが……浄化できない場合もある、とだけ記されていた。そう考えると、浄化できない場合は消滅に繋がるのかもしれない。あくまで私の予測だけどね」

お、恐ろしい。

浄化か消滅か、自分では判断がつかないんだ。
極力、その魔法は使わないようにしよう。

それにしても、話を聞いて気がついた事がある。

カリーナ王妃の記憶を元に書かれているわりには、曖昧な基準や表現が多い。
これはカリーナ王妃が覚えていないからなのか、または本を書いた時にそこまで具体的に書かなかっただけなのか。

「《聖の魔法》については、以上だ」

オーンが本の内容を話し終える。
……と同時に、何かを思い出したらしい。

「そういえば……気になった記述があった。グモード王は改革に反発する人間によって、30代の内に殺害された。王は亡くなる前に手記を残していて、その中でこう記しているんだ」

気になった記述か。なんだろう?

「『結婚してから、カリーナが何かに焦っているような気がする。いつも「今度は大丈夫」と呟いている』……と」

今度は大丈夫……? 
過去に何か不安に思う事があったのかな?

「カリーナ王妃が何に焦っていたのか、『今度は大丈夫』の真意は記されていない。預言者かもしれないカリーナ王妃が話していた事だったから、グモード王も気になったのかもしれない」

エウロも不思議そうな表情をしている。

「想像力が豊かな王妃だったのか、ミネルやオーンが言うように預言の力を持っていたのか……。どちらかは分からないけど、《聖の魔法》についてはアリアがいるんだ。信じるしかないよな」

私がジュリアの魔法を封じ込めた事を、セレス達も含め、みんなは自分たちの目で見て確認したわけではない。

みんなは私の話を聞いただけだ。
それなのに疑う事もなく、私を信じれてくれている。

「そういえば、本の内容はどこで終わっているの?」

私がオーンに尋ねる。

「王と王妃の結婚で話は終わっているよ」

そっか。
ハッピーエンドで終わる。まぁ、物語の基本だよね。

「カリーナ王妃は何の魔法が使えたの?」

続けて、オーンに質問をする。

「確か……アリアと同じ《水の魔法》だよ」

《水の魔法》……実はカリーナ王妃も《聖の魔法》が使えたりしないのかな?

「そうだ。《聖の魔法》には関係ないけど、魔法を唱えなくても使える人物がいるとも書かれていた。そんな人物がいるのか分からないけど」

んん? あれ??
オーンが言った事って……。

「──ジュリアだ!!」

私が思い出したように声に発する。
みんなが「えっ!」という表情で驚いている。

んん? あれ??
みんなに話してなかったっけ?

「魔法祭で私とジュリアが試合をした時、ジュリアが詠唱せずに魔法を使ったの!」

遅い報告になってしまったけど、試合の時の状況を詳しく伝える。
ふと顔を上げれば、ミネルがとっても呆れた表情で私を見つめている。

「アリア……」
「はい?」
「なんでお前は肝心な事を言い忘れるんだ」

その通り過ぎて、何も言えない。

「まぁ、今思い出せて良かったよ」

エウロがミネルをなだめるように話している。
いつもフォローありがとう。

本の事やこれからの事をあれこれ考えつつ、何気なく時計へと目を向ける。


ああー!!
お互いの報告やグモード王とカリーナ王妃の話で、あっという間に1時間が経っている!!
これ以上は警護の人に迷惑が掛かる!

「私、戻るね!」
「本当だ。もうこんな時間だね」

カウイも時計を眺めている。

「アリア、外を出る時は言葉を発するなよ」

焦っている私が何かやらかすと思ったのか、ミネルが前もって私に注意する。

「ありがとう。言われなかったら、大声出してたかも」

危ない、危ない。

「じゃあ、行くか」

エウロが席を立ちあがり、ベランダに向かって歩いていく。
私もエウロの後について歩いていると、オーンが話し掛けてきた。

「1つ言い忘れてた。サール国王から聞いた話だと、グモード王はカリーナ王妃の助言で“格差をなくす”取り組みを始めたそうだよ」

そうなの?

「その話を聞いた時……それにカリーナ王妃の本を読んだ時、アリアのように常識にとらわれない思想をカリーナ王妃は持っていたんだなと思ったんだ」

私を見て、オーンが柔らかく微笑む。
……やっぱり、カリーナ王妃が転生者だったという私の考えは当たっている気がする。

カリーナ王妃は預言者ではない。
きっと“前の世界”の本の内容を“今の世界”の本に書いただけだ。

本当に預言者なら、カリーナ王妃はグモード王が殺される事を回避できたはずだしね。

「リーセさんからジメス上院議長のスケジュールを聞く事が出来たら、今後の行動を考えていこう」

ミネルの提案に私が「うん」と返事をする。
そのまま、エウロと2人でベランダへ出た。

ミネルはこちらに向かって腕を組みながら立っている。
オーンとカウイは、笑顔で手を振っている。

私も手を振り返すと、エウロがひょいっと私を持ち上げた。

改めて見送っている3人を見ると、ミネルが少し不機嫌に見える。
カウイは優しく微笑んでいて、オーンは笑顔だけど……固まってる??

「行くか」
「う、うん」

小さい声でエウロに返事をする。

よく考えたら、警護の人に頼んで降ろしてもらえた気がするな。
まぁ、今更いっても……ね。

エウロに抱き抱えながら下へ降りると、バレる事なく無事に女子寮へと戻った。



後日、セレス達には男子寮で話し合った内容を全て伝えた。
セレスは私からの報告よりも、男子寮潜入に反応していた。

「バレなかったから良かったものの、停学になる所だったわよ!!」

久しぶりにセレスに叱られてしまった。

そうか、バレたら停学だったんだ。
……危なかった。王子が停学なんて聞いた事ないもんね。

「ミネルやオーンは知っていたはずよ! 今度会ったら、叱らないといけないわ!」

セレスの怒りが私から、ミネル達へと移っている。
……ごめん。みんな、潔く叱られてね。

ルナにはユーテルさんの事と、リーセさんへジメス上院議長のスケジュールの事を頼めるか聞いてみる。

「兄様に頼む件は大丈夫だよ。兄様は頼りになるから」

自信たっぷりに言い切ると、ルナがジッと私を見つめてくる。

「うん、頼りになるよね!」

そう答えた途端、今度は満足げに微笑んでみせた。

「それと、ユーテルさん……だっけ?」

人を覚えるのが得意じゃないから、名前もあまり覚えていないのかな?

「分かった。私から話し掛けてみる」

おお! 意外な返答!!
ルナの成長が感じられて、ちょっと嬉しい。

そんな中、マイヤがよそよそと私に近づいてきた。

「……この前の話だけど、エウロくんに聞いた?」
「そうそう、マイヤに確認しようと思ってたんだ。エウロにマイヤの気持ちを話してもいい?」

マイヤが当たり前とでもいうような表情をしている。

「もちろん。できれば、エウロくんにも協力してほしいもの!(そうしたら、私はエウロくんの味方よ!!)」

良かった。
それなら話がスムーズに……いくかな??



──この後、予想に反して忙しい日々が続き、エウロとゆっくり話す時間を作る事ができなかった。

そしてあっという間に時間は過ぎ、“マイヤはサウロさんの事が好き”という重要な事を伝え忘れたまま、テスタコーポ大会が始まってしまった。

結果として、これがあらぬ誤解を生んでしまうのだけど……その時の私は何も知らずにいたのだった。
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