一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部2年生

幼なじみの恋が始まる日

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「……ア……リア……ちゃん」

ん? どこからか私の名前を呼ぶ声が聞こえたような……?
周りを注視しながら、微かに声が聞こえた方へと振り向く。

「──アリアちゃん!」

今度はきちんと聞こえた!!
ジッと目を凝らせば、遠くでマイヤが手を振っている。

良かった! 無事だったんだ!!
そして、マイヤの隣にいるのは……え? あれってもしかして、エウロのお兄さんのサウロさん!?

2人が一緒にこちらへ歩いてくる。
混乱しつつも走ってマイヤの元へと駆け寄り、思わず抱きついた。

「マイヤ! 良かった!!」
「……アリアちゃん」

無事だった事にひと安心すると、そのまま一緒にリーセさん達が待っている場所へと向かった。

「何があったの? それにサウロさんも……」

サウロさんをチラッと見ると「久しぶりだな」と声を掛けてくれた。
声の感じは明るいけれど、2人からただならぬ緊張感が漂っている。

「リーセさん達の所へ戻った後、説明するね」

サウロさんがいる理由は分からないけど、やっぱり何かあったんだ。
リーセさん達の元へ戻ると、マイヤが2人に近づいた。

「リーセさん、ライリーさん。ご心配をお掛けしました」

マイヤが2人に頭を下げている。

「サウロさんがいる理由は後ほど聞くとして、まずは無事で良かったよ。怪我とかはない?」

心配そうにリーセさんがマイヤに声を掛ける。

「大丈夫です」
「マイヤさんが無事で良かった」

ライリーさんも安堵の表情を見せている。
マイヤが私たちの顔を見渡した。

「私がどうしてサウロさんと一緒に戻ってきたのかをご説明します」
「……どこかに入ろうか」

リーセさんの提案で近くのカフェテリアに5人で入る。
席に着き注文を終えると、ゆっくりとマイヤが口を開いた。

「……ライリーさんを待っていた時に1人の女性に話し掛けられたんです」

女性?

「深くフードを被っていたので、顔はよく見えませんでしたが声が女性でした。その女性に『先ほど歌われていた歌をどこで知りましたか?』と聞かれました」

マイヤが私の顔を見た。

「以前、アリアちゃんに教えてもらった歌があったじゃない?」

歌? ……歌??

──あっ!

マイヤが過呼吸を起こした時に落ち着ついて眠ってもらう為に歌った子守唄。
私の家に滞在していた最初、『聞いた事のない歌だったけど、もう一度聞きたい』と言われて教えた事があったんだ。

「ライリーくんとの会話で、少しだけ歌ったの。たまたまその歌を聞いて、話し掛けてきたんだと思うの」

えっと……なんで“前の世界”の歌が気になったの?

聞いた事のない歌だったから?
それとも“前の世界”の歌を知ってる人物だったから??

もしかして、フードの人物はジュリア!?
 ……だったら、さすがのマイヤも声で分かるよね?

「顔も良く見えない上に知らない人に質問をされた事が怖くて……『何のことですか?』と、知らない振りをしたんです」

……まぁ、確かに怖いよね。

「その時は『そうですか』とだけ言われて、その女性は去って行きました」

その女性に何かされたのかと思いきや、関係ないんだ。

「その後、6歳、7歳くらいの子供が私の所へやって来ました。『お母さんが倒れたから助けて』と、手を引っ張られました」

静かにマイヤが話を続けている。

「急を要する事だったし、まずは様子を見に行こうと思ってついて行きました」

マイヤが申し訳なさそうな表情をしている。

「怪我なら《癒しの魔法》で治せると思いました。それに医療の勉強もしているので、力になれると思って行動してしまいました。今思うと、軽率な行動でした」

再び、マイヤが頭を下げている。
他の人から見れば軽率な行動に見えるかもしれないけど、もし同じ場面に遭遇したら、私も同じ事をしてしまいそうだ。

「子供に連れて行かれた道へ入ると、さっきのフードの女性と2人の男性がいました」

その時の事を思い出したのか、マイヤが少し怯えた表情になった。

「いつの間にか子供もいなくなっていて……騙されたと気がついた時には遅くて。私の前にはフードの女性と2人の男性、後ろにも男性が2人ほど立っていて、逃げられない状況になってました」

女性1人が4人の男性に取り囲まれる。
怖かっただろうな。

「1人の男性が私の手を取った時にフードを被った女性が『待ちなさい』と、その手を止めたんです。そして、私に向かって『貴方は転生者なの?』と聞いてきました。質問の意味はよく分からなかったのですが……一瞬の隙をついて、逃げる為に《癒しの魔法》を使いました」

──転生者!?

その事を知っていて、さらには“前の世界”の歌を知ってる人物? 
またはジュリアから転生者の話を聞いている人物??

それにしても、逃げる為に《癒しの魔法》を使うって……あっ!
そういえば、《癒しの魔法》は怪我をしていないのに使おうとすると、治癒力が働き過ぎて逆に怪我を負わせる事ができると習った事がある。

「魔法を使った事で、私の手を掴んでいた男性の手が離れました。そのまま走って逃げようとしたら、フードの女性が周りの男性達に『《癒しの魔法》が使えるのね。──捕らえなさい』と命令したんです。その命令を聞いた男性達が、魔法を使って攻撃をしてきて……」

マイヤの身体が少し震えている。
少しでも安心できるよう、隣に座っているマイヤの手をギュッと握る。
しばらく握ったままでいると、手の震えが少しずつ落ち着いてきた。

「魔法で攻撃され、その場に倒れ込んだところで、突然サウロさんが現れたんです」
「攻撃!?」

誘拐されかけただけでなく、攻撃までされたの!?
慌ててマイヤの状態を見直したけれど、怪我をしているようには……見えない。

「そんなに大きな怪我ではなかったから、大丈夫。自分で治せる範囲だったから」

そっか。大怪我じゃなくて良かった。
マイヤの言葉を聞き、次にサウロさんが口を開いた。

「俺は行方不明者を“エルスターレ”で見たという情報を聞いて、仲間と来ていたんだ」

行方不明者!!
……という事は、魔法更生院の脱走を手伝った人たち──カウイの従兄弟“オリュン”も近くにいたかもしれない!?

「仲間の一人から行方不明者に似た人物を見かけたと連絡を受けて見に行ったら、マイヤがいた、というわけだ」

ん? マイヤの手が少し熱くなったような……?

「サウロさんが……私を助けてくれたの」

気のせいかな?
いつも以上に柔らかいというか、可愛らしい話し方になっている。

「久しぶりに本気で魔法を使ったよ」

サウロさんが苦笑している。

「すごく強くて素敵でした」
「……ああ。 ありがとう」

マイヤに褒められて、サウロさんが少し照れている。

……マイヤが可愛い。
いや、いつも可愛いんだけど、素直に可愛いと思える可愛さだ。

「無事に4人の男は捕らえる事ができたんだけど、俺が駆けつけた時にはフードを被った女はいなかった」

そうか……。
マイヤに『転生者』と告げた女性は逃げたんだ。

「4人は行方不明者だったよ。今は仲間たちが連行しているんだが、多分操られていたんだろう。俺はマイヤが心配だったから、送り届ける事にしたんだ」

チラッと横に座っているマイヤに目を向ける。
……少し照れたように微笑んでいる。

私の今まで当たった事のない勘が働き始める。
まさかマイヤは……サウロさんを!?

「さて、無事にアリア達にも合流できたから戻るか」
「そ、そうなんですか?」

少し寂しそうにマイヤが、サウロさんに声を掛けている。

「今度、助けて頂いたお礼をさせてください」
「気にしなくていい。怖い思いはしただろうけど、大した怪我じゃなくて良かった」

サウロさんがマイヤの頭にポンと手を置いた。

エウロも頭にポンと手を置く癖があるよね。
こういう所って、やっぱり兄弟だなぁ。

再び、チラッとマイヤに目を向けると、ほんのりと頬を染めながら嬉しそうな表情をしている。
やっぱり、マイヤはサウロさんを!!?

「それじゃあ……リーセ、きちんと仕事しろよ」
「失礼ですね。きちんとしてますよ」

リーセさんが微笑みながら返事をすると、サウロさんも笑いながら去って行った。


考えなきゃいけない事は色々とあるけど、まずはマイヤが無事で本当に良かった。
ホッとひと息つきながら、落ち着いたタイミングでこの後について話し合う。

ひとまずはカフェテリアを出る事になった為、4人揃って外へと出た。

このままデートを続けるのはおかしいよね?
ライリーさんとマイヤの顔を交互にチラチラ見る。

「ライリーさん、今日はごめんなさい」
「いえ、私の事は気にしないでください。今日はお疲れだと思いますので、このまま帰りましょう」

おお、ジェントルマンなライリーさんに戻った!

「お気遣いありがとうございます。それと……今後、ライリーさんとこのように2人だけでお出掛けをする事はないと思います」

こ、これは……!
マイヤが『ライリーさんを好きになる事はない』と、暗に示したような。

私とリーセさんは、この場にいていいのかな?
少し気まずい気持ちを抱えながら、2人の会話を聞く。

「分かりました」

えっ? ライリーさん、案外あっさりしているなぁ。

……ああ、そっか。お母様に雰囲気が似てるから、マイヤに声を掛けたんだっけ?
だから、あっさりしてるのかな?

一人納得していると、マイヤと話し終えたライリーさんが突然、私の前に立った。

「アリアさんの怒り方は、お母様そのものでした」

へっ? 突然どうしたの??

「お母様のように私を叱る人がいたなんて……!」

……あまりにも『お母様、お母様』って言うから、甘やかすタイプのお母様かと思っていたけど違うんだ。

ライリーさんが両手でギュッと私の手を握った。
その様子を見ていたリーセさんが、スッと私の隣に立つ。

「ライリーくん? アリアは先約がいるからダメだよ?」

リーセさんが優しい口調でライリーさんを諭す。
……先約? 何の話??

言われたライリーさんはといえば、ぽかんとした表情でこちら見ている。

「ああ、アリアさんには婚約者がいるんですね」

何かを悟ったように頷きながら、笑顔でライリーさんが答える。

「アリアさんにお母様の面影を感じ、慕うべき存在かもしれないと思っただけの事です。恋愛感情は全くありません」

きっぱり、はっきりとライリーさんが言い放つ。
……慕うべき存在と言われたのに素直に喜べないのはなぜだろう。

ライリーさんの言葉を聞き、リーセさんが後ろから私を包み込むように抱き締めた。

「そうか、考えすぎだったようだね。アリアの良さは分かっている人だけが、分かればいいから。ねっ?」

私の耳元で優しく話し掛けてくる。
ち、近いし、抱き締められてるし……。

「ああ。リーセさん、安心してください。ただ恋愛感情は全くありませんが、今度ゆっくりアリアさんとお話がしたいです。普段お母様に会えない分、学校でお母様のような方とお話しできるなんて夢のようです」

この抱き締められている光景を見ながら、冷静に話すライリーさん。
ライリーさんの焦りポイントが分からない!!

私の困っている姿を見たマイヤが、笑顔で2人に話し掛ける。

「リーセさん、ライリーさん帰りましょうか」
「そうだね」

私を抱き締めていたリーセさんの手がゆっくりと離れていく。
良かった! ありがとう、マイヤ!!

助けられた事に感謝していると、マイヤが私のすぐ隣へとやって来た。
話したい事でもあるのか、内緒話でもするように口元を手で隠しながら、そっとささやいてくる。

「今、私に助けられたよね? 今度は私の話を聞いて、協力してほしいの」


セリフ的にいつものほくそ笑んだ表情をしていると思いきや……どこか恥ずかしそうに、可愛らしく微笑むマイヤの姿があった。
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