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高等部2年生

ミネルの告白(表)後編

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うわぁー!!

前に行った“エルスターレ”は、下町っぽい明るさと賑やかさがある街だった。
今いる“ヴェッツノ”は、賑やかさの中にも華やかさがある。

初めて見る街並みに感動していると、ミネルが私に声を掛けてきた。

「アリアの興味がある店があれば入ろう」
「ありがとう」

早速、目に留まったお店に入る事にした。
このお店では布や生地などを取り扱っているらしい。

「ここはオーダーメイドで好きな服を作ってくれるぞ」
「へぇ~、そうなんだ」

ミネルも初めてくる街のはずなのに、随分と詳しいんだなぁ。

お店の中に入り生地を眺めていると、店員さんらしき人が近づいてきた。
生地の説明を聞いているとミネルが口を開いた。

「好きなのを買ってやる。選べ」

すると、ミネルの言葉を聞いた店員さんのテンションが突如上がった。

「素敵な旦那様ですねぇ」

……だ、旦那様!?
店員さんの言葉に驚いていると、ミネルが生地を手に持ちながら答えた。

「ああ、いずれそうなる予定です」

ミネルがにこっと微笑む。
その笑顔に店員さんが顔を赤らめると、申し訳なさそうに頭を下げた。

「申し訳ございません。まだご結婚はされていなかったのですね。でも、素敵な婚約者様ですねぇ」

ミネルの『いずれそうなる』発言を聞いて、今度は婚約者と思ってしまったらしい。
……どうしよう。訂正しにくくなってしまった。

戸惑いつつミネルの隣へ移動すると、店員さんに聞こえないよう小さい声で話し掛ける。

「もし気に入ったのがあれば、自分で買うから大丈夫だよ」
「……権利を忘れたか?」

うっ。それを言われてしまうと……。

エレの言った通りだった。
気軽に約束するんじゃなかった。

「安心しろ。僕が稼いだお金だ」

ニヤッと得意げにミネルが笑う。
そうは言われても……と悩んでいると、ミネルが軽く肩をすくめてみせた。

「本当にアリアが気に入った物を選んでくれ」

今度は安心させるように、優しく微笑んでみせる。

これ以上遠慮し過ぎるのも、ミネルに対して失礼な気がしてしまう。
結局はミネルからの申し出に甘える事に決め、生地を真剣に選び始めた。


──悩む事30分

迷いに迷った結果、今日の口紅と同じ色の生地を選んだ。
店員さんが私を採寸しつつ、服のデザインについても質問してくる。

「お好きなデザインのドレスを作れます。どのようなドレスになさいますか?」

好きに作れると言われると、逆にどうすればいいのか分からなくなるよね。

困る私に気づいた店員さんが、参考用に何冊か本を持ってきてくれた。
本の中には様々な種類のドレスが載っている。

よかった。見本があった。
ミネルには『何着でも構わない』と言われたけど、それはさすがに抵抗がある。

見本の中から、ドレスを組み合わせて作ってもらう事に決めた。

全て自分で選んだのは初めてだから、出来上がりが楽しみだな。

ミネルにお礼を伝え、店を出る。
……1軒目で長居をしてしまった。

「次は……お昼でも食べるか。この近くに美味しいお店があるみたいだ」

んん? ミネルも初めて来る街って言ってたよね??
私の聞き間違い??

疑問に思いながらもミネルの選んだお店でお昼を食べると、再び買い物を続けた。
もちろん、当初の目的であるセレスとルナ、マイヤにもプレゼントを買った。

実は4人お揃いのハンカチを買っちゃったんだよね。
お揃いの物を1つも持ってなかったから、嬉しいな。
……喜んでくれるといいなぁ。

その後も街を歩いていると、突然、知らない男性がミネルへ声を掛けた。

「すまない。少し待っててくれ」

ミネルが1メートルほど離れた距離へ移動し、男性と何やら小声で話している。
普通に会話しているって事は、ミネルの知り合いだったんだ。

……大丈夫かな?
険しい表情だけど、何かあったのかな?

少し不安に思っていると、話し終えたミネルが足早に戻ってきた。

「場所を変える。“ヴェント”に乗って移動しよう」

ええ! どうしたの!?
ミネルに急かされつつ、“ヴェント”を駐車してある場所まで戻る。

“ヴェント”に乗り込むと、ミネルがすぐに運転手へ指示を出した。

「……そうだな。とりあえず、走らせてくれ」
「畏まりました」

やっぱり! 何かあったんだ!!

「大丈夫? ミネル?」
「あっ? んっ? 何がだ?」

あれ? 
何かあったと思ったんだけど、ミネルの表情を見る限り違うみたい??

……さっきの焦った表情はなんだったんだろう??

不思議に思っていると、ミネルがふいに運転手へ声を掛けた。

「今通った庭園で止めてくれ。アリア、歩き疲れてるかもしれないが、庭園でも大丈夫か?」

“権利”、“権利”って言ってたのに。
いざとなると、私の事を気遣ってくれるんだよなぁ、ミネルは。

「大丈夫だよ。私も少し歩きたい」

“ヴェント”を降り、キレイに咲いている花を見ながら2人で庭園を歩く。

結局、私が楽しい1日になっちゃったな。
今日の事を色々と思い出しながら、ミネルにお礼を伝える。

「私がミネルに何かしてあげる日だったのに、私が楽しい1日だったよ。ありがとう」
「別に構わない。これから何かして貰う予定だからな」

まさかの……これで終わりじゃなかったの!?

「アリアは“バカ”がつくくらい正直だ」

ん? バカって言った??

「それに、いつも躊躇ためらわずに行動して周りを巻き込む」

はい、否定はできません。

「それだけならまだしも、自分自身が危険な目に遭うかもしれない事をいつも仕出かす」

おっしゃる通りです。
……まさかの説教タイム!??

「──ただそれは、いつも自分の為ではなく誰かの為なんだ」

ミネルが足を止めた。

「誰かの為に行動する事に対して打算的な考えがないから、みんながアリアを助けようとする」

私も歩みを止め、ミネルの方を向く。

「僕に欠けている所を全て持っているアリアを愛おしくもあり──尊敬している」

そんな風に想ってくれてたんだ。
ミネルに『尊敬している』と言われた事が嬉しい。
なぜか『アリアは間違ってないよ』と言われたみたいで……涙が出そうになる。

「それにアリアになら、振り回されるのも悪くない」

ミネルがふっと笑った。

「私は……」

ミネルに何と伝えるべきか迷っていると、急にミネルが私を強く抱きしめた。

「聞かない」
「えっ」

ミネルの言葉に驚き、思わず声が出ちゃった。

「僕の中で“大嫌い”だったアリアが“大好き”にまでなったんだ。アリアだって僕を好きになる」

“大嫌い”だったアリア……か。
確かに、最初の頃は私もミネルにいい印象はなかったな。
抱きしめられながら、口元が緩む。

ミネルが私の耳元でささやいた。

「『ミネルを好き』という言葉以外の返事は聞かないつもりだ」

そして──私の耳元にキスをした。

う、うわぁぁぁあ!!!
キスされた右耳を両手で触り、慌ててミネルを見る。

「な、な、なんてことを……!」

抱きしめられていたはずが、いつの間にかミネルから身体が離れている。
ビックリし過ぎて、どうやって離れたかも覚えていない。

動揺する私の姿を見ながら、ミネルはニヤニヤと笑っている。

「『ミネルを愛してる』でも構わないぞ」

どう返していいのか分からず、口だけがパクパクと動いててしまう。
先ほどと変わらず、ミネルは楽しげに笑っている。

「口よりはいいだろう? ファーストキスは取っておいてやった。僕なりの優しさだ」

口よりは……って!!
ファーストキスは……ん? あれ??

私、エウロとキスした事あるよね? 

……いや、エウロとはお互いに『ノーカウントにしよう』となったから、ファーストキスではない。
うん、あれは事故だったし。

うん、違う。違う。
私が頭の中でエウロとの事を考えていると、知らない間にミネルの表情が険しくなっている。

「相手は誰だ?」

す、するどい! 

「あ、相手? な、何が??」

あれは事故だから、キスではない!
だから、嘘はついていない!!

チラッとミネルを見る。
怖い……。ミネルの目がすわっている。


その後もミネルとの攻防は続いた。

「誰だ?」
「何が?」

惚けるしかない!

「言え」
「言わない」

大丈夫だよ、エウロ!
エウロの名誉の為にも口を滑らしたりはしないからね!!

「『言わない』は、誰かとキスをしたと言っている事と同じだ」

……痛い所をついてきた。

「……してない」
「嘘をつくな」


──こうして、少しの波乱を残したまま、ミネルとのデートは幕を閉じた。
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