一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

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高等部 1年生

高等部1年生終了、そして、集結(後編)

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──週末、サール国王が待つ王宮へエレと一緒に向かう。
王宮前に着くと、エレが私を見てにっこり笑った。

「アリアが僕も一緒にって言ってくれて嬉しかった」
「うん。1人で不安っていうのもあったし、前にエレと一緒に魔法を調べたからね」

王宮前にはたくさんの警護の人たち……。
事前に私たちの事を知っていたのか、身元を話せばすんなりと通してくれた。

初めて入る王宮の内部。天井にまで行き渡る細かい装飾もスゴいけど、回廊がとにかく広い!
……こういうのって、誰の趣味なんだろう?

王宮に仕える方の案内で、奥へ奥へと進んで行く。

……遠すぎる。すでにもう帰り道が分からない。
戸惑いながらも歩いていると、とある部屋の前で止まった。

「この部屋に国王陛下がいらっしゃいます。私はこちらで控えておりますので、どうぞお2人でお進みください」
「ありがとうございます」

案内をしてくれた方がゆっくりと扉を開ける。
エレと2人で一礼してから部屋へ入ると、サール国王が1冊の本を持って立っていた。

「わざわざ来てもらって、すまないね」

あっ。
“サール国王”として会うから、お茶会の時と違うのかな? って思ってたけど、私たちの知っているサール国王だ。

サール国王へ促されるまま、エレと隣合って椅子に座る。

「こちらから声を掛けたのに申し訳ない。時間がないんだ。さっそく、本題へ入らせてもらうよ」
「はい」
「事前にリオーンからの報告を受けた件について、アリアには話しておこうと思ってね」

サール国王が手に持っていた本を開く。
年代物の、随分と分厚い本だ。


「これは先々代の国王と王妃が残した書物──物語だ」

先々代の国王って確か……“格差をなくそう”という取り組みを始めた方だ!

「その中に“魔法を封じ込める魔法”──《せいの魔法》について記載されている」

《聖の魔法》? 初めて聞く魔法だ。

「実はこの魔法、今まで使う人間が現れた事がなくてね。その為、先々代の国王の書いた想像の物語だと思って公表していなかった」

サール国王が書物へと目を向ける。

「へたに公表して、混乱を招くのを避けたかった。何より……先々代の国王、王妃2人だけで作った物語だとしたら、外には出してほしくないだろうと思ってね」

話しながら、サール国王が私の方へと視線を動かす。

「だが、書物に書かれている内容は2人の作った物語ではなかったらしい。おそらく、アリアは《聖の魔法》に目覚めたのだろう」

……ど、どうしよう。急な話に頭がついていかなくなってきた。

予備知識がゼロすぎて、何から質問したらいいんだろう……?
そ、そうだ!

「《聖の魔法》には、他にどんな力があるのですか?」
「魔法を封じ込めるのはもちろん事、封じ込めた魔法を元に戻す事もできるようだ」

なるほど。
だとすると、私は現状、ジュリアの魔法を封じ込めたまま……なのかな?

「オーンに“人間の奥底で眠っている力を引き出す魔法”を試してもらったそうだね」
「は、はい」

……弾かれたけど。

「仮に、アリアが《水の魔法》だけを使えたとしたなら、弾かれる事なく、オーンが魔法を使った時点で《水の魔法》を使えるようになっていただろう」

そうなんだ。

「順番として《聖の魔法》が先に目覚めたと聞いている」
「はい、そうです」

そして、いつの間にか《水の魔法》が使えるようになってた。

「 アリアの《水の魔法》 は《聖の魔法》の中に隠れていた為、《光の魔法》を使った際、その手前にある《聖の魔法》によって弾かれたのだろう。本来、“魔法を封じ込める魔法”と“眠っている力を引き出す魔法”は相反するものだからね」

なるほど……って、そういえば……あれ? 私って、2つも魔法が使えるの??
ずっと黙っていたエレも気になったのか、そっと口を開いた。

「今の話からすると、アリアは2種類の魔法を使えるという事になります。《聖の魔法》の話も初めて聞きますが、2種類も魔法を使えるという話も初めて聞きました。アリアの身体に害はないのですか?」

エレの質問にサール国王が神妙な面持ちで答える。

「書物を読む限り、どちらの魔法も害はないと考えていいだろう。ただし、2種類の魔法を同時に使えた人物は今まで現れた事がない。そして、書物にも書かれていない」

サール国王が少し困ったように眉をしかめる。

「1つの魔法だけを使用する事は問題ないと思うが……魔法祭の時のように、同時に2つの魔法を使うのは身体への負担が大きいかもしれない」

そういえば、ジュリアと対決した後、だるさ、倦怠感は数日経たないと消えなかった。

初めて魔法を使ったからかな? と思ってたけど、もしかしたら違うのかもしれない。
今まで2つ魔法を使えた人がいないのなら、あくまで想像にはなってしまうけど。

「これから私が話す事は命令ではない。友人の子供を心配する、ただのオジさんからの話だと思ってくれ」

サール国王が優しい表情になった。

「アリアの《聖の魔法》は、危険がない限り使わない方がいい。それに家族──信頼できる人間以外には話さない方がいい。外部にバレると、アリアを利用しようとする人間が必ず現れるだろう」

エレが心配するような目つきになった。

「使える人が誰もいないからこそ、危険なんですね」
「その通りだ。アリアの魔法について、情報管理局には報告するが……トップの信頼できる人間以外には伝えないつもりだ」

何となくだけど……サール国王はジメス上院議長の耳には入らないようにする気がする。
その言葉にこくりと頷いていると、突然、扉をノックする音が聞こえてきた。

「……すまない。もう時間が来てしまったようだ。この本を外に出す事はできないが、気になる事があれば……私の都合のつく時であればいつでも見せよう」

そっか、時間か。国王ともなると、きっと忙しいんだろうなぁ。

サール国王にジメス上院議長をどう思ってるのか聞きたかったけど……話す時間はなさそう。

「どうしたんだい? アリア?」
「あっ、えっと。サール国王にお聞きしたい事があったのですが……」

サール国王が扉の方をちらりと見た。

「……こちらから扉を開けない限り、勝手に開けられる事はない」

少しなら時間がとれると言ってくれてるのかな?

ジメス上院議長の事を聞こうと思ったけど、時間もないし、別な機会にしようかな。

国王という立場上、一学生でしかない私に答えてくれるかどうかすらも分からないし。

「サール国王は、先々代の国王が始めた“格差をなくす”改革について、どう思われますか?」

私が聞きたかった事を予想していたのかもしれない。

驚いた顔一つせず、サール国王が話し始める。

「先々代の国王は、ある種の“独裁者”だった。むしろ、そう呼ばれる覚悟で、格差をなくす為の改革を進めた。だがしかし、急な改革は混乱を生み、時として暴動を生む。……結果的に先々代の国王は、反対派に属する人間によって殺害されてしまった。王妃は……夫の後を追うように、先々代が殺害された1年後に病で亡くなっている」

国の歴史を調べた際、先々代の国王が殺害されたという事までは学んでいたけど、王妃までは調べていなかったな。

「先代の国王は、自分の親が殺害された姿を見たからだろう。改革に対しては消極的で、先々代の意志を継ぐ事はできなかった。私自身は……上院の理解を得ながら、より良い方向に変えていきたいと思っている」

要するに、改革には賛成だけど、できるなら上院と一緒に変えていきたい……というのがサール国王の意向なのかな?
私がサール国王の真意について悩んでいる間にも、再度、扉をノックする音が聞こえる。

「オーンは少し……先々代の国王に似ている気がするよ」

サール国王が微笑みながら呟く。
一瞬だけ、子供を心配する父親の顔になったような気がした。


サール国王と別れた後、エレと一緒に“ヴェント”へ乗り、家へと向かう。

今後は《水の魔法》なら使っても問題ないって事だよね?
それは嬉しいな。

こっそり喜んでいると、エレが私の手をギュッと握った。

「もうすぐ僕も高等部に入るから、近くでアリアを守れるよ」

にこっとエレが笑う。

そっか。ついにエレも高等部&寮に入学かぁ。
あっという間の1年だったな。

「アリアに会いたくて……1番長く感じた1年だったよ。いつまでも“アリアの弟”でいたいとは思っているけど……ね?」

エレが少し大人びた表情を見せる。……なんか成長を感じてしまった。

……って、あれ?
弟でいたいとは思っているけど、って言った?

ええ!? 
気になるけど……聞いちゃいけない雰囲気が漂っている。

そのまま家に帰り、お父様とお母様にだけは今日の事を報告をした。
幼なじみに伝えるかどうかは、私の判断に任された。
ただし、伝える時は学校ではない、例えば私の家など安全な場所で話す事になった。

いつとは決めてないけど、どこかのタイミングで、みんなには伝える事になるんだろうな。



──それから、高等部1年も終わりに近づいたある日。

同じクラスのユラちゃん、サイネちゃんと会話をしながら移動していると、1人の男性とすれ違った。
ユラちゃんが「あれ? 今の人って……」と興奮している。

今の人? 会話に夢中で見ていなかった。

「久しぶり。アリア」

通り過ぎたはずの後ろから、名前を呼ぶ声が聞こえる。

ん? アリアって言った?
振り向くとそこに立っていたのは──

「リ、リーセさん!? なんで? どうしたんですか??」

あ、もしかして学校に用事でもあったのかな?
驚く私の元へ、リーセさんが近づいてくる。

「これから3年間、この学校──“エンタ・ヴェリーノ”の記録を取るために異動になったんだ」

そう告げた後、リーセさんが少しだけ腰をかがめる。

私の耳元へと顔を寄せると、内緒話でもするかのようにささやいた。

「それに……このままだと私は不利だからね。アリアにアプローチする為にも、自分から異動を申し出たんだ」

……へっ!?
焦りつつリーセさんへ顔を向けるも、本気なのか冗談なのか判断の難しい笑みを浮かべている。

「本当はもっとゆっくり話をしたいんだけど、これから学校関係者の方たちとの話があるから失礼するよ」

片手で軽く手を振りながら、リーセさんは爽やかに去って行った。


──これから迎える高等部2年生。
アリアに想いを寄せる男性陣が、一同に集結する事となった。
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