一番モテないヒロインに転生しましたが、なぜかモテてます

Teko

文字の大きさ
上 下
154 / 261
高等部 1年生

マイヤの後悔と悩み(後編)

しおりを挟む
言われるまで忘れていた事に焦ってしまい、思わず声に力がこもってしまう。
……あれ? セレスちゃんの顔が歪んでいる?

「……まずは話を聞きましょう。なぜ、そういう考えに至ったのかしら?」
「だ、誰よりもアリアちゃんに優しくしたいのに……アリアちゃんにだけ、なぜか素直に……優しくできないの!」

セレスちゃんの顔がさらに歪んだ。

「好きな人の前では素直になれないなんて。貴方……拗らせてるわね」

歪んでいたセレスちゃんの顔が、今度は呆れたような表情へと変わっていく。

「貴方、精神年齢が中等部……10歳くらいかしら? 急に子供に戻ったわね」

子供に戻った……?

「アリアにだけ甘えている──甘えられるのでしょう? ……その後、お母様とはどうなの?」

セレスちゃんの言葉に、ふと夏季休暇中の出来事を思い出す。


私は夏季休暇中、アリアちゃんのお家にお世話になっていた。

お母様がアリアちゃんの家に来て、アリアちゃんと話をした日。
初めてお父様とお母様が私について話し合ったと……後にお父様から聞いた。

『ケイア(マイヤの母)と初めてマイヤについて話したんだ。人に言われて初めてきちんと娘の事を話するなんて……つくづく駄目な父親だったと反省したよ』

お父様が申し訳なさそうに私に説明をしてくれた。

以前、アリアちゃんに『お互いの気持ちを手紙で言い合えたから、少しずつだけど分かりあえてる』と伝えた事があった。
手紙をやり取りする事で、ゆっくりではあるけれど、お母様と気持ちを通わせる事ができるようになった気がする。

ただ、それ以上にお母様へ影響を与えたのはお父様なのかもしれない。

『ケイアのする事にずっと“そうだね”としか言ってこなかった。それは話し合いじゃなかった』と、お父様は言っていた。
お父様とお母様はきちんと向き合って話をするようになった。
そして、今もお父様は私とお母様の間に入ってくれている。


「良い方向に変わってはいるけど……ただ話す時は、まだ少し緊張するかな」

そこでハッと気がついた。
お父様にもお母様にも上手に甘えられない私は、アリアちゃんにだけ甘えてしまっているんだ。
セレスちゃんの言う通りだ。

「大丈夫よ」

私が黙って考え込んでいると、セレスちゃんが口を開いた。

「アリアは鈍いし、抜けてる所が大いにあるけれど、マイヤが甘えている事くらい気がついてると思うわよ?」

驚いていると、セレスちゃんが「そろそろ出ましょう」と声を掛けてきた。
お昼休みも終わりに近づき、2人並んで教室へと向かう。

「私の優しさから(敵に)アドバイスを送ってしまったけれど、アリアの唯一無二の大親友は私だけですから! それだけは忘れないように」

キリっとした目で、セレスちゃんが念を押すように告げる。
その言葉に、くすっと笑みがこぼれてしまった。

それぞれの教室へと戻る為、 セレスちゃんと途中で別れる。
どこかスッキリとした気持ちのまま、自分の席へと腰を下ろした。

……あれ? でも結局、私はどうすればいいんだっけ??
ええと、あれ? どうやったら、優しくできるのか聞いてなかった!


ルナちゃん……。
そう! ルナちゃんに聞いてみよう。

放課後、席を立つとすぐにルナちゃんのクラスへと向かう。
ルナちゃんは……いた!!

教室から出てきたルナちゃんに急いで声を掛ける。

「ルナちゃん!」

振り向いたルナちゃんが私を見た。

「これから少し時間ある? 聞きたい事があって」

……この沈黙は何?
無表情すぎて、何を考えているか分からない。

「アリアは来るの?」

ああ、アリアちゃん。

「ううん、来ないの。ルナちゃんと2人で話したくて」
「なら、行かない」

そ、即答!?

「用件はそれだけなら……じゃあ」

えっ? えっ? えー!!
本当に帰って行こうとするルナちゃんをまたしても引き止める。

「じゃ、じゃあ、寮に帰るまでの間だけでも。い、一緒に帰らない?」

……無表情すぎて、やっぱり何を考えているか分からない。
だけど、黙って頷いてくれた。


帰り道、セレスちゃんに伝えた話をルナちゃんにも話してみる。

「アリアちゃんにだけ、なぜか優しくできないの。本当は誰よりも優しくしたいのに……それで素直に優しくなれる方法を教えてほしくて」

ルナちゃんが私をチラッと見た。

「分からない」

分からない……ルナちゃんなら、そう言ってもおかしくない。
焦りすぎて、アドバイスを聞く相手を間違えていた事に今更だけど気がついちゃった。

私、なんでルナちゃんにアドバイスを求めてしまったのかな?
動揺のあまり、冷静さに欠けてたみたい。

「それに私、マイヤを許してないから」


…………ルナちゃん。
それは、そうだよね。

私もアリアちゃんが別館の人たちに嫌味を言われた時、怒りがふつふつと湧いてきた。
アリアちゃんは気にしていないみたいだけど、私は許していないもの。
それと同じだよね。

「マイヤだけ夏季休暇中、ずーっとアリアと一緒に過ごしたこと。まだ許してないから」

……えっ? そこ!?

「そ、そこ?」

思わず声に出ちゃった。

「私だって、一緒に過ごしたかった。さらにアリアはマイヤを選んだし」

私を選んだ……? あっ、アリアちゃんに言う事を聞いてもらう権利の事かな?

「私の方がアリアに褒められてるし」

普段は無表情なルナちゃんだけど、少し悔しそうに見える。

「前に『もし家族だったら、私はどういう存在?』って聞いたら『妹かな』って言ってたし。マイヤなら、きっと従姉妹の従姉妹の従姉妹くらいだし」

……ものすごくショックだったのね。
従姉妹の従姉妹の従姉妹って……それは、もはや他人よ。

「本当の義妹になる日も近い」

ルナちゃんが手をぐっと握り、無表情のまま頷いている。

本当の義妹? って……えっ? リーセさん!?
それはチェックしていなかった! ……そうなの??

あれ? でも……そんな事になっていたら、オーンくん達が黙っていないはず。
きっとルナちゃんがそう思ってるだけね。


そのまま寮に着き、ルナちゃんはスタスタと自分の部屋へ帰って行った。

マイペース過ぎるわ! ルナちゃん!!
結局、ルナちゃんの決意表明を聞いただけで、少しもアドバイスを得られなかった。


従姉妹の従姉妹の従姉妹か……。今度、私もアリアちゃんに聞いてみよう。



それから数日ほど経ったある日、呆れた顔をしたセレスちゃんが私に声を掛けてきた。

「アリアとマイヤの話をしたら『マイヤのちょっと照れて素直じゃない所が可愛いんだよね~』とのん気に話していて、ただ何も考えていないだけだったわ!」

セレスちゃんは怒っているような、いないような……何とも言えない表情をしている。

私はといえば、その話を聞いて自然と顔がにやけてしまった。
そう思ってたんだ、アリアちゃん。

「本当にあの子は! 私がちゃんと見ていないと……」

得意気な顔をしながら、セレスちゃんがブツブツと文句を言っている。
セレスちゃん……表情とセリフが全然合っていない。

一通り文句を言い終わった後、セレスちゃんが私を見た。

「まぁ、どちらにしても気にする必要はなさそうよ」

私の為に聞いてくれた? のかな?

「ありがとう、セレスちゃん」

セレスちゃんに向かって、にっこりと笑う。

「うふふ。それなら……セレスちゃん、ルナちゃんよりも仲良くなる日は近いかな?」
「……いい性格しているじゃない」

セレスちゃんの顔が引きつっている。

「うふ。いい性格……褒め言葉として受け取っておくね」

これも私だから。
自分の事も理解した上で変わっていかなきゃ。


……それまで、もう少しだけ、もうちょっとだけ、アリアちゃんの優しさに甘えさせてもらってもいいかな。
そっちの方が、アリアちゃんはほっとけないと思うし、ね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!

神桜
ファンタジー
小学生の子を事故から救った華倉愛里。本当は死ぬ予定じゃなかった華倉愛里を神が転生させて、愛し子にし家族や精霊、神に愛されて楽しく過ごす話! 『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!』の番外編を『私公爵令嬢としてこの世界を楽しみます!番外編』においています!良かったら見てください! 投稿は1日おきか、毎日更新です。不規則です!宜しくお願いします!

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...