149 / 261
高等部 1年生
今は誰の手もとらない(前編)
しおりを挟む
「幼なじみ対決は、なんと本館側の逆転勝利ーー!!!」
~~っ! 勝ったぁ!!
ジャンプして思いきり喜びたいけど……初めて魔法を使ったからかな?
身体がものすごく重い。ふらふらと足元もおぼつかない。
「……選手の皆さんはお疲れだと思いますので、これで終了となります! ご来場いただいた皆様、ありがとうございましたぁ!」
メロウさんが早々と観客の人たちに帰るよう指示をしている。
終わった後も何かあるのかと思ってたけど、案外早く終わるんだな。
……まずい。貧血になった時の状態に近いかも。
その場にふらっと倒れそうになったところを、誰かが正面から抱え込むように支えてくれる。
「お疲れ、アリア」
この声は──エウロだ。
「ごめ……」
「無理して話さなくていい。今、マイヤ……みんなもこっちに向かってるから」
……そっか。
試合が終わったから、みんな来てくれてるんだ。
「試合中に魔法が使えるようになるなんて……驚いた。ずっとアリアが頑張ってきたからだな」
私を抱えながら、エウロが優しい声で話している。
ずっと気を張ってたからかな? 安心する。
暫くすると、周りから賑やかな声が聞こえてきた。
「アリアっ! 大丈夫なの!?」
焦っているセレスの声が聞こえる。
「こんな時に《風の魔法》は便利だな」
「エウロ、私が代わるよ?」
「……オーン」
ミネルとオーン、カウイの声もする。
「マイヤ、貴方の役に立つ唯一の場面がきたわよ! 」
「早く、早く」
マイヤを急かすセレスとルナの声がする。
「唯一の場面て……。アリアちゃん、すぐに治すね。ゆっくりでいいから座って」
エウロに支えられながら、ゆっくりとその場に座る。
すぐにマイヤが《癒やしの魔法》で治療を開始した。
……思ったんだけど、実はマイヤってすごい治癒力(魔力)を持っているのでは?
自分も試合に出て、その上みんなの治療までしてるもんね。
マイヤのお陰で、だいぶ身体が楽になってきた。
治療を受けながら、少し離れた場所で倒れているジュリアへと目を向ける。
試合関係者の人が《癒やしの魔法》でジュリアを治しているのが見えた。
──あれ? 別館の人たちは?
視線を移動させると、ジュリア以外の人たちが思っていたよりもずっと近い場所にいるのが分かった。
ゆっくりと私たちがいる舞台へ近づいてきてるけど……その表情はかなり険しい。
負けたから、不機嫌なのかな?
でも不機嫌というより、深刻そうな表情にも見える。
「アリアちゃん、体調はどう?」
心配そうにマイヤが私の顔を覗き込む。
少しだけ、身体のだるさは残ってるかな?
それに魔法を使えるようになってから、ずっと身体がぽかぽかと温かい。
でも……。
「うん、大丈夫! マイヤのお陰で回復したかも!!」
「……そう」
マイヤが安堵の表情を見せる。
ゆっくり立ち上がると、別館の人たちはジュリアに見向きもせずに私たちの元へやって来た。
オーンと対戦したユーテルさんが戸惑いつつ口を開く。
「ソフィーから話を聞きました。事情を知らなかったとはいえ、なんと言えばいいのか……」
……ユーテルさんって、余計な動きをせずに話す事もできたんだ。
おっと。今はそんな事、どうでもいいか。
私を助けてくれたソフィーさんの方をチラリと見る。
ユーテルさん達に全て話したんだ。
ふと、治療を終えたジュリアが立ち上がる姿が目に入った。
すっかり元気になったのか、怒りを露わに、こちらに向かってつかつかと歩いてくる。
「ユーテル! 私が怪我を負わされたのよ? なぜ私の元へ来ないの!?」
ユーテルさん達がジュリアを見る。
「……何よ、その眼は!!」
「ジュリア、私たちが勝てないと思って今回の事を仕組んだのかい? ……いや、それ以前に今回はやり過ぎだ」
ユーテルさんがジュリアに厳しい目を向けている。
「うるさいわね! 実際に勝てなかったじゃない! 私にそんな事を言うなんて。貴方達もただじゃ済まさないわよ!!」
別館の人たちがジュリアを見つめたまま、黙っている。
ジュリアに呆れているような、見放したような何とも言えない表情。
それに気づいたジュリアが叫ぶように非難の声を上げる。
「私をそんな眼で見るなんて!」
キッと睨みつけた後、背を向けたジュリアが別な方へと歩き出す。
舞台上に集まってきたメロウさんや試合関係者たちの所へ向かったようだ。
「アリアさんは、不正を行ったわ! 私の魔法を使えなくしたの!!」
んー、またその話……全く身に覚えがない。
本当に何の事を言ってるのだろう?
珍しい事に、いつもニコニコ笑っているメロウさんが真剣な表情を浮かべている。
「魔法を使えなく? そんな事よりも今回のジュリアさんの行った事についてお聞きしましたよ」
……そっか!
観客の人たちを早く帰したのは、この為なんだ。
「楽しい魔法祭のメインイベントになると思っていたのに……本当に残念です。私たち生徒では罰則の判断ができませんので、今回の件は先生方へ報告をさせていただきました」
「……何よ。みんなで寄ってたかって、私ばかりを責めて!!」
いや、そりゃそうでしょう。
自分のした事を微塵も悪いと思っていないようだ。
「こんな屈辱的な思いをしたのは初めてよ! 今日の事は、お父様に必ず報告しますから!!」
ジュリアが怒りながら「ノレイ! ノレイ!!」と誰かを呼んでいる。
すると、執事のような人がジュリアの元までやって来た。
「お家に……お父様の元へ帰るわ!」
「畏まりました」
ジュリアの執事? らしきノレイさんはジュリアの手を取ると、誘導するように歩き始めた。
鋭い目つきをした黒髪長髪の男性。年齢は私たちより少し上ぐらいかな?
……ん? こちらをチラッと見た気がするけど、気のせいかな?
ノレイさんはともかく、ジュリアがこの場から立ち去ろうとしている。
このまま黙って帰してもいいんだろうか。
「納得できない気持ちもあると思うが、今は止めずにそのまま行かせろ」
~~っ! 勝ったぁ!!
ジャンプして思いきり喜びたいけど……初めて魔法を使ったからかな?
身体がものすごく重い。ふらふらと足元もおぼつかない。
「……選手の皆さんはお疲れだと思いますので、これで終了となります! ご来場いただいた皆様、ありがとうございましたぁ!」
メロウさんが早々と観客の人たちに帰るよう指示をしている。
終わった後も何かあるのかと思ってたけど、案外早く終わるんだな。
……まずい。貧血になった時の状態に近いかも。
その場にふらっと倒れそうになったところを、誰かが正面から抱え込むように支えてくれる。
「お疲れ、アリア」
この声は──エウロだ。
「ごめ……」
「無理して話さなくていい。今、マイヤ……みんなもこっちに向かってるから」
……そっか。
試合が終わったから、みんな来てくれてるんだ。
「試合中に魔法が使えるようになるなんて……驚いた。ずっとアリアが頑張ってきたからだな」
私を抱えながら、エウロが優しい声で話している。
ずっと気を張ってたからかな? 安心する。
暫くすると、周りから賑やかな声が聞こえてきた。
「アリアっ! 大丈夫なの!?」
焦っているセレスの声が聞こえる。
「こんな時に《風の魔法》は便利だな」
「エウロ、私が代わるよ?」
「……オーン」
ミネルとオーン、カウイの声もする。
「マイヤ、貴方の役に立つ唯一の場面がきたわよ! 」
「早く、早く」
マイヤを急かすセレスとルナの声がする。
「唯一の場面て……。アリアちゃん、すぐに治すね。ゆっくりでいいから座って」
エウロに支えられながら、ゆっくりとその場に座る。
すぐにマイヤが《癒やしの魔法》で治療を開始した。
……思ったんだけど、実はマイヤってすごい治癒力(魔力)を持っているのでは?
自分も試合に出て、その上みんなの治療までしてるもんね。
マイヤのお陰で、だいぶ身体が楽になってきた。
治療を受けながら、少し離れた場所で倒れているジュリアへと目を向ける。
試合関係者の人が《癒やしの魔法》でジュリアを治しているのが見えた。
──あれ? 別館の人たちは?
視線を移動させると、ジュリア以外の人たちが思っていたよりもずっと近い場所にいるのが分かった。
ゆっくりと私たちがいる舞台へ近づいてきてるけど……その表情はかなり険しい。
負けたから、不機嫌なのかな?
でも不機嫌というより、深刻そうな表情にも見える。
「アリアちゃん、体調はどう?」
心配そうにマイヤが私の顔を覗き込む。
少しだけ、身体のだるさは残ってるかな?
それに魔法を使えるようになってから、ずっと身体がぽかぽかと温かい。
でも……。
「うん、大丈夫! マイヤのお陰で回復したかも!!」
「……そう」
マイヤが安堵の表情を見せる。
ゆっくり立ち上がると、別館の人たちはジュリアに見向きもせずに私たちの元へやって来た。
オーンと対戦したユーテルさんが戸惑いつつ口を開く。
「ソフィーから話を聞きました。事情を知らなかったとはいえ、なんと言えばいいのか……」
……ユーテルさんって、余計な動きをせずに話す事もできたんだ。
おっと。今はそんな事、どうでもいいか。
私を助けてくれたソフィーさんの方をチラリと見る。
ユーテルさん達に全て話したんだ。
ふと、治療を終えたジュリアが立ち上がる姿が目に入った。
すっかり元気になったのか、怒りを露わに、こちらに向かってつかつかと歩いてくる。
「ユーテル! 私が怪我を負わされたのよ? なぜ私の元へ来ないの!?」
ユーテルさん達がジュリアを見る。
「……何よ、その眼は!!」
「ジュリア、私たちが勝てないと思って今回の事を仕組んだのかい? ……いや、それ以前に今回はやり過ぎだ」
ユーテルさんがジュリアに厳しい目を向けている。
「うるさいわね! 実際に勝てなかったじゃない! 私にそんな事を言うなんて。貴方達もただじゃ済まさないわよ!!」
別館の人たちがジュリアを見つめたまま、黙っている。
ジュリアに呆れているような、見放したような何とも言えない表情。
それに気づいたジュリアが叫ぶように非難の声を上げる。
「私をそんな眼で見るなんて!」
キッと睨みつけた後、背を向けたジュリアが別な方へと歩き出す。
舞台上に集まってきたメロウさんや試合関係者たちの所へ向かったようだ。
「アリアさんは、不正を行ったわ! 私の魔法を使えなくしたの!!」
んー、またその話……全く身に覚えがない。
本当に何の事を言ってるのだろう?
珍しい事に、いつもニコニコ笑っているメロウさんが真剣な表情を浮かべている。
「魔法を使えなく? そんな事よりも今回のジュリアさんの行った事についてお聞きしましたよ」
……そっか!
観客の人たちを早く帰したのは、この為なんだ。
「楽しい魔法祭のメインイベントになると思っていたのに……本当に残念です。私たち生徒では罰則の判断ができませんので、今回の件は先生方へ報告をさせていただきました」
「……何よ。みんなで寄ってたかって、私ばかりを責めて!!」
いや、そりゃそうでしょう。
自分のした事を微塵も悪いと思っていないようだ。
「こんな屈辱的な思いをしたのは初めてよ! 今日の事は、お父様に必ず報告しますから!!」
ジュリアが怒りながら「ノレイ! ノレイ!!」と誰かを呼んでいる。
すると、執事のような人がジュリアの元までやって来た。
「お家に……お父様の元へ帰るわ!」
「畏まりました」
ジュリアの執事? らしきノレイさんはジュリアの手を取ると、誘導するように歩き始めた。
鋭い目つきをした黒髪長髪の男性。年齢は私たちより少し上ぐらいかな?
……ん? こちらをチラッと見た気がするけど、気のせいかな?
ノレイさんはともかく、ジュリアがこの場から立ち去ろうとしている。
このまま黙って帰してもいいんだろうか。
「納得できない気持ちもあると思うが、今は止めずにそのまま行かせろ」
10
お気に入りに追加
4,955
あなたにおすすめの小説
深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~
白金ひよこ
恋愛
熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!
しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!
物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない
たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。
何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる