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高等部 1年生

アリア覚醒(後編)

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水の壁が消えた!
すぐさま無数の氷の飛礫つぶてが隙間なく飛んでくる。


──その瞬間、時の流れがスローモーションのように感じた。


頭の中では避けようと思ってはいる。
でも身体が動かない。

なぜだろう? 恐怖で身体が動かない?

いや、なぜか全く怖くない。
心は妙に落ち着いていて、今まで体験したことのないような温かさを感じる。
ふと自分の両手に目を落とすと、手の平が淡く光っているのが見えた。

な、なんで!?

状況が理解できないまま、ジュリアの攻撃に向かって咄嗟に両手を突き出す。

「はっ。そんなんじゃ、攻撃を受けるだけよ」

確かにジュリアの言う通りだ。

その間にも手の平の光は徐々に強くなっていく。
光は手から腕へ、そして身体全体へと広がっていった。

「アリア選手の身体が光ってるー? 何が……急に魔法が使えるようにでもなったのかー!!?」


…………魔法?


そういえば、前にエレが言ってたな。
魔法って、制御できる、できないはあるけど、なんとなく使い方が分かるって。
 
今なら、その言葉の意味が分かる気がする。


《ジュリアの魔法、全て消えて!!》


願うように手の平へと力を込める。
気づけば──氷の飛礫つぶてが全て、跡形もなく消えていた。

「おーっと、ジュリア選手! 大チャンスだったにもかかわらず、魔法での攻撃をやめたのかー!?」

メロウさんの どこか困惑したような声が会場に響く。

「……えっ?」

ジュリアが驚いた顔で固まっている。
なぜかは分からないけど、ジュリアからの魔法の攻撃は一切受けていない。

「何が……起きたの?」

明らかにジュリアが動揺している。

「いえ、もう一度!」

ジュリアが再び、魔法を唱え始めた。

まずい! また攻撃がくる!!
……と構えたが、一向に攻撃してくる気配がない。

「……出ない」

何度も何度もジュリアが魔法を唱えている。

「魔法が……出ない」

魔力……切れ?
いや、ジュリアの様子を見ると、そうではなさそうだ。

「貴方……何をやったの!?」

混乱状態のジュリアが叫ぶように質問してくる。

「何もしていないつもりだけど……あえていうなら、魔法が消えるように祈ったら消えた」

なぜかは分からないけど。

「まさか……魔法を封じ込めれるの?」

今度は自分に問い掛けるかのように、ジュリアがぶつぶつと独り言を呟いている。

「いえ、違うわ! “魔法を封じ込める”のは、本の話で……ゲームの設定にはないはずだもの!!」

……なんの話をしているのだろう?
よく分からないけど、ジュリアが現時点で魔法を使えないのも事実!!

形勢逆転!!!

身体が温かいからかな? 少しだけ頭がボーっとする。
気持ちを整えるように目をつぶり、大きく深呼吸をする。
そして、ぱっと目を開いた。

《水の魔法》が……使える気がする。

ジュリアが使っていた氷の飛礫つぶては、止められていないからルール内のはず。
試しに氷の飛礫つぶてを作り出す魔法を唱え始める。

「えっ? な、何!?」

私が魔法を唱えると思っていなかったジュリアが声を上げた。
出来た! 目の前に氷の飛礫つぶてが作り出された。

なぜだろう?
初めて使う魔法なんだけど、簡単に使える。
それに魔法を制御できる自信もある。

「貴方……《水の魔法》も使え……るの?」

ジュリアが不思議な事を言っている。
私の両親は《水の魔法》を使うから、私がもし魔法を使えるとしたら《水の魔法》だけなのに。

そんな中、やや興奮した様子のメロウさんの声が聞こえてきた。

「魔法を使えないはずのアリア選手が魔法をー!? まさか、この試合中に使えるようになったのでしょうかー!? ……だとすると、すごい光景を目にしています!!」

うん、私もそう思う。

どうして急に魔法が使えるようになったのかな?
オーンが試した《光の魔法》で、私の魔法は目覚めなかった。
それどころか弾かれてしまったのに。

「ええと、……どうやらアリア選手は《水の魔法》での試合ルールを知らないようです。実況がてら説明させていただきますねー」


──きっとエウロだ!
私が魔法を使えるようになったのを見て、メロウさんの所まで行ってくれたんだ!!

「細かいルールは省いて説明しますねー! 攻撃魔法は、氷の飛礫つぶてや水の球を放つ“水球”、水を射出する“水弾”は大丈夫です! 水や氷の壁などの防御魔法についても全て使用可能です!」

ふむ。細かいルールを考えると、他にも使える魔法がありそうだな。
うん、でもメロウさんが説明してくれた魔法以外は使わないようにしよう。

再び、魔法を唱え始める。
取り乱しているジュリアが私に向かって叫んだ。

「魔法を使えない私に攻撃しようとするなんて……!」

……さっき私に魔法で攻撃した人が何を言ってるのだろう。

「ここからは魔法対決が見られそうですねー」

……いや。違うよ、メロウさん。
なぜか分からないけど、ジュリアは魔法が使えないようだよ。

「私の魔法を返しなさいよ!」
「さっきから何を言ってるの? 魔法が使えないなら、その方がありがたい。どうせ悪い事にしか使わないと思うから」

悪い事にしか使わない……あれ?
もしかして──

「魔法を使える人の誘拐事件、“魔法更生院”の脱走の手引きって、まさかジュリア……さんが?」

私が聞くと、ジュリアが不愉快そうな顔をしている。

「何のことよ?」

あっ、違ったのか。それは失礼。
関係しているのかと思ってしまった。

「……貴方が勝てば、必ず私のお父様が動くわ。貴方どうなるか分からないわよ? いいの?」

私の幼なじみ達を脅しただけではなく、私まで脅しにきたか。

「構わないよ。どうせ私が負けたって、私をどうにかしようと思ってるでしょ?」

図星だったんだろうな。
キッと私を睨みながら、ジュリアがさらに甲高く声を上げる。

「貴方の幼なじみ、家族……貴方の知り合い全員、ただじゃ済まさないわよ! いいの? 私にはその力があるのよ!!」

ジュリアが、少しずつ後退あとずさり始める。

「魔法を使えない今の貴方に力はないよ」
「お父様に頼めば、誰だってすぐに消す事ができるわ!」

後退あとずさるジュリアを、少しずつ追い詰めるように近づいていく。

「……そう。あとの事は、みんなで一緒に考えるよ。頼りになる幼なじみ達だからね。きっとどうにかなる!」

他力本願だけど、ね。
追い詰められたジュリアが、再び必死になって魔法を唱えている。
私も再び、氷の飛礫つぶてを作り出す魔法を唱え始める。

私がすぐに氷の飛礫つぶてを作り出したのに対し、ジュリアは何もできていない。
一時的なものかもしれないけど、本当に魔法が使えなくなったんだ。


私の魔法を見たジュリアが、引きつった顔で笑い掛けてくる。

「分かったわ! “childhood friends”の“アリア”のイベントを教えてあげるわ。そうしたら、貴方の事を好きになってくれる人が1人はできるわよ!」

……必死だな。

「あっ、そういうの間に合ってます」

即座に断り、氷の飛礫つぶてで攻撃を仕掛ける。

どうせなら、水球も。
氷の飛礫つぶての後、無数の水球も放ち、ジュリアの逃げ場をなくす。

避けきれない数の氷の飛礫つぶてと水球を目の前にジュリアが一心不乱に逃げ惑う。
……とはいえ、魔法の使えないジュリアが避けきれるはずもない。
思っていた通り、無数の攻撃を全身に浴びたジュリアがその場に倒れこんだ。

……やりすぎたかな?
でも弱めの魔法だし、大丈夫なはず。


審判員が倒れているジュリアに近づき、上着の色を確認している。
実況のメロウさんに向かって顔を横に振った後、両腕でバツ印を作った。


「……最終試合!!  勝者はアリア選手ーー!!!」
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